進行性腎障害に関する調査研究

文献情報

文献番号
199900584A
報告書区分
総括
研究課題名
進行性腎障害に関する調査研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
堺 秀人(東海大学)
研究分担者(所属機関)
  • 遠藤正之(東海大学)
  • 小山哲夫(筑波大学)
  • 重松秀一(信州大学)
  • 土肥和紘(奈良県立医科大学)
  • 東原英二(杏林大学)
  • 富野康日己(順天堂大学)
  • 荒川宜親(国立感染症研究所)
  • 川村 孝(京都大学)
  • 長田道夫(筑波大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
32,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成11年度は、前期3年間に続いて今後の研究活動を行う最初の年度であるため、前期でのの研究成果を総括すると共に今後の研究計画への展望を開くことを目的とした。具体的には、前期に引き続いてそれぞれの対象疾患別に全国的な現状調査の結果をふまえて診療指針の作成を行うと共に、患者データベースさらなる充実を目指した。その他、難病特別研究員による腎疾患治療開発へを進めることによって、進行性腎障害の診療における新しい展開をめざした。以下に各対象疾患別の研究目標を記す。
1.IgA腎症:1)全国予後調査による初回腎生検時の臨床指標と予後の相関、2)IgAの国際標準物質を用いた血清IgA正常値の再検討、3)PSL治療法の retrospective 検討、4)腎生検標本における糸球体上皮細胞数と予後の相関。
2.急速進行性腎炎:1)全国調査から得たデータを元に一般医家向けと専門医向けとに区別した診断および重症度判定指針の作成、2)同データに基づく予後判定因子の検討、3)同データに基づく現時点での治療法の解析。
3.難治性ネフローゼ症候群:1)全国調査から得たデータを元に定義、診断および重症度判定の指針提示、2)同データに基づく予後判定因子の検討、3)同データに基づく現時点での治療法の解析。
4.多発性嚢胞腎:アンギオテンシンⅡレセプター拮抗薬の有効性についての全国調査と問題点の解析。
5.ヒト硬化糸球体の再生に関する基礎研究:糸球体上皮細胞の再生をボーマン嚢上皮細胞からの形質変換によってもたらすための基礎研究を行った。
本年度はこれまでの3年間に続いて、「開かれた調査研究」をめざして全国の腎臓専門医各位へ調査と業績発表会への参加を呼びかけ、これまでに多数のご協力を頂いた。また日本腎臓学会総会においてシンポジウム形式の報告も行い、従来からの業績発表会へ参加できなかった日本腎臓学会会員各位へご報告すると共に、今後のご協力への要請を行っている。
研究方法
 1.IgA腎症
1)全国予後調査による初回腎生検時の臨床指標と予後の相関
   1995年から蓄積されている患者データベースを用いて、10年以上
   の予後が判明している2304例を対象として調査した。
2)IgAの国際標準物質を用いた血清IgA正常値の再検討
   国際標準血清を用いて、日本人における血清IgA正常値を測定した。
3)PSL治療法の retrospective 検討
   上記患者データベースを用いて、PSLの效果判定を行った。
4)腎生検標本における糸球体上皮細胞数と予後の相関。
   近年腎疾患の予後指標として注目される上記細胞数を光顕レベルで計測した。
2.急速進行性腎炎
1)全国調査から得たデータを元に一般医家向けと専門医向けとに区別した診
  断および重症度判定指針の作成
   患者データベースを元に、上記2指針の作成を試みた。
2)同データに基づく予後判定因子の検討
   同上
3)同データに基づく現時点での治療法の解析
   同上
3.難治性ネフローゼ症候群
1)全国調査から得たデータを元に定義、診断および重症度判定の指針提示
   患者データベースを元に、上記指針の作成を試みた。
2)同データに基づく予後判定因子の検討
   同上
3)同データに基づく現時点での治療法の解析
   同上
4.多発性嚢胞腎
アンギオテンシンⅡレセプター拮抗薬の有効性についての全国調査と問題点の解析。
   今年度は、予後が判明している80例を対象として調査を行った。
5.ヒト硬化糸球体の再生に関する基礎研究
糸球体上皮細胞の再生をボーマン嚢上皮細胞からの形質変換によってもたらす
ための基礎研究として、プロモーターの解析を行った。
結果と考察
1.IgA腎症
1)全国予後調査による初回腎生検時の臨床指標と予後の相関
   各種臨床指標のうち、初診時腎生検光顕所見が予後を最も良く推定しう
   ることを示した。またこの生検所見による重症度分類が予後判定上有用
   であることを示した。
2)IgAの国際標準物質を用いた血清IgA正常値の再検討
   従来正常値とされてきた350mg/dl ではなく、286 mg/dl が正常値の上限
   と定められた。
3)PSL治療法の retrospective 検討
   従来からの報告と同じく、GRF 70ml/min 以上の症例でPSL が腎機能の
   長期保持效果を有することが示された。
4)腎生検標本における糸球体上皮細胞数と予後の相関。
   予後と有意の相関が示された。
2.急速進行性腎炎
1)全国調査から得たデータを元に一般医家向けと専門医向けとに区別した診
  断および重症度判定指針の作成
   素案を作成して提示した。
2)同データに基づく予後判定因子の検討
   素案を作成して提示した。
3)同データに基づく現時点での治療法の解析
   素案を作成して提示した。
3.難治性ネフローゼ症候群
1)全国調査から得たデータを元に定義、診断および重症度判定の指針提示
   素案を作成して提示した。
2)同データに基づく予後判定因子の検討
   素案を作成して提示した。
3)同データに基づく現時点での治療法の解析
   素案を作成して提示した。
4.多発性嚢胞腎
アンギオテンシンⅡレセプター拮抗薬の有効性についての全国調査と問題点の解析。
   今年度は調査を開始した段階のため、結果の解析には至っていない。
5.ヒト硬化糸球体の再生に関する基礎研究
   プロモーター蛋白の候補としてp27とp57の役割を検討し、とくに
   p27が大きな役割を担っていることが明らかになった。さらにマウス
   におけるハイブリッド・プロモーター活性を検討した。
結論
前期に引き続いて調査研究を行った結果、上記のごとくわが国ではじめての様々な知見を得て、その多くを指針あるいは試案の形にまとめることができた。今後これらの指針や試案の妥当性を今後さらに検証した上で全国に公布する必要があり、それらの作業を今後2年間で行う。また新しい再生工学的研究の知見を得て、今後の硬化糸球体の遺伝子治療へつながる貴重なデータが得られた。

公開日・更新日

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更新日
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