強皮症調査研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900579A
報告書区分
総括
研究課題名
強皮症調査研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
新海 浤(千葉大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 西岡 清(東京医科歯科大学医学部)
  • 片山 一朗(長崎大学医学部)
  • 石川 治(群馬大学医学部)
  • 岩本 逸夫(千葉大学)
  • 桑名 正隆(慶応義塾大学医学部先端医科学研究所)
  • 尹 浩信(東京大学医学部)
  • 稲垣 豊(国立金沢病院)
  • 畑 隆一郎(東京医科歯科大学難治疾患研究所)
  • 前川 嘉洋(国立熊本病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
21,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
強皮症の病因はいまだ不明であるが、強皮症の特徴である硬化病変の形成にはfibrogenic cytokine を介して細胞外マトリックスの遺伝子発現に影響を与えることが次第に明らかとなった。 硬化病変の主体であるコラーゲンはfibrogenic cytokine であるTGF‐ βにより制御されているが、本分子は免疫抑制性サイトカインでもある。強皮症は免疫異常を伴い、全身緒臓器の線維症と捉えられが、肝臓の線維化は認められないのが通常である。臓器の違いによる線維化過程を検討するため、TGF‐ βを介した細胞内のシグナル伝達物質が注目されるようになり、TGF‐ βの細胞内シグナル伝達物質として、Smad と呼ばれる一連のタンパク質の役割が重要との認識から、初代培養皮膚線維芽細胞CF37 とラット線維肝から樹立された星細胞株CFSC‐ 2G に、シグナル伝達型のSmad2 、3 、4 ならびにシグナル抑制型のSmad7 の各発現プラスミドをco‐ transfection し、COL1A2 転写に与える影響について検討した。本症が免疫学的異常をともなうことからT 細胞の活性化を誘導するT 細胞レセプター(TCR)刺激伝導系とTGF‐ β刺激伝導系の相互作用をTGF‐ β伝達分子であるSmad のリン酸化、会合に対する効果について検討した。遺伝的背景をもとに多因子により発症することが考えられ、マトリックス沈着の主体であるコラーゲンは強皮症皮膚線維芽細胞でI 型コラーゲン遺伝子の発現が亢進している。このことからコラーゲン遺伝子のI 型コラーゲンα2 鎖の転写制御領域のマイクロサテライトを強皮症線維芽細胞と各種自己抗体との関連性を検討した。強皮症皮膚線維芽細胞はI 型コラーゲン遺伝子の発現が亢進し、TGF‐ βに対する反応性を示さないことから、I 型コラーゲン遺伝子の転写制御における転写因子を検討し、転写因子Sp1 およびSp3 が重要であることが判明したので、I 型コラーゲン遺伝子の転写制御における転写因子Sp1 およびSp3 の機能およびSp1 結合阻害剤が治療の一助になるかを検討した。本症で検出される自己抗体種と臨床像は相関することが知られているが、自己抗体の検出には種々の制約があり簡単に検査が出来ない。このため各施設で簡単に自己抗体検出方法を検出できる方法の開発が望まれているので、今回、RNA ポリメラーゼ(RNAP)I/III に対する自己抗体をリコンビナント蛋白を用いた簡便な検出法の開発した。 本症では有効な治療法がないので、本研究班でブレオマイシンをマウスの皮下に投与することにより、強皮症類似の硬化病変を作成できることを見いだし、本モデルマウスを用いて、各種治療法の検討を行った。
研究方法
強皮症関連自己抗体の簡易検出法の開発:RNA ポリメラーゼ(RNAP)I/III に対す抗体検出のために特異的プライマーを用いたRT‐ PCR 法によりRNAP サブユニットをコードするcDNA を分離し、リコンビナント蛋白として発現させた。自己抗体と強皮症タイプの頻度:Barnett のタイプと自己抗体(抗DNA 抗体6 例、抗トポイソメラーゼ1 抗体12 例、抗RNP 抗体3 例、抗セントロメア抗体3 例)の相関を見た。TGF‐ βの細胞内シグナル伝達物質としてのsmad の機能:初代培養皮膚線維芽細胞CF37とラット線維肝から樹立された星細胞株CFSC‐ 2G に各発現プラスミドをco‐ transfectionし、COL1A2 転写に与える影響について検討した。 免疫能に与えるsmad の機能を見るために健常人末梢T 細胞およびJurkat 細胞をTGF‐ βあるいはanti
‐ CD3 mAb により刺激し、Smad2 のリン酸化は抗リン酸化Smad2 抗体を用い検出した。Smad2 とSmad4 の会合の検出は抗Smad2 抗体で免疫沈降後、抗Smad4 抗体にて検出した。Smad2 の核内移行は抗Smad2 抗体で細胞を染色、解析した。多因子としての遺伝子背景の検討:患者からインフォームドコンセントのもとに血液を得、遺伝子の解析を行った。I 型コラーゲンを構成するα2 鎖(Col1A2)遺伝子の上流および第一イントロンに存在する2 塩基反復配列およびこれらを含むルシフェラーゼレポーター遺伝子コンストラクトの発現活性は既報の方法で行った。ヒトα2(I)collagen 遺伝子転滋制御における転滋因子Sp1 およびSp3 の機能と発現:各Sp発現するプラスミドをSL2 細胞に導入。 CAT assay により機能解析を行った。Sp1 およびSp3 の発現裏は免疫ブロットおよびnorthern blot 法で測定。結合能の測定はDNA mobility shift assay 法を用いた。
各種治療法の検討:モデルマウスを用いて各種治療薬の解析をした。
結果と考察
強皮症関連自己抗体の簡易検出法の開発:RNAP サブユニットをコードするcDNA から得たリコンビナント蛋白はRNAPIII のサブユニットであるRPC155 とRPC62に対する抗体は100%、93%で検出され、これらサブユニットが抗RNAPI/III 抗体により高頻度に認識される主要なエピトープを含んでいた。抗RNAPI/III 抗体陽性強皮症20 例中16 例(80%)はRPC62 を発現するリコンビナント蛋白と反応し、RPC62 融合蛋白単独では特異性は高いが検出感度が80%と低かった。
自己抗体と強皮症タイプの頻度:病型と抗体の出現頻度の差には有意差がなく、抗scl‐70 抗体とタイプ3 の関連が示唆された。TGF‐β の細胞内シグナル伝達物質としてのsmad の機能:CFSC‐ 2G におけるCOL1A2転写はCF37 の約10 倍に亢進していたが、外来的に投与されたTGF‐β に対する反応性はむしろ低下していた。CF37 にSmad2 、3 および4 をco‐ transfection すると、COL1A2 転写はそれぞれ2.7 倍、30.6 倍、1.4 倍に増強したが、CFSC‐ 2G にSmad3 をco‐ transfectionしても2.4 倍の増加を示すのみであった。また、Smad7 をCF37 にco‐ transfection すると、TGF‐βによる転写促進効果が13.8 倍から3.3 倍に抑制されたのに対して、CFSC‐2G ではこの転写抑制効果はみられなかった。TGF‐ β刺激は末梢血T 細胞 およびJurkat 細胞のSmad2 をリン酸化し、Smad2 とSmad4 の会合を誘導した。一方、TCR 刺激はSmad2 をリン酸化したが、Smad2/4 の会合は誘導しなかった。さらに、TGF‐ βはSmad2 の核内移行を誘導したが、TCR 刺激は誘導しなかった。また、MEK inhibitor はTCR によるSmad2 リン酸化を抑制したが、TGF‐ βによるSmad2 リン酸化には影響を与えなかった。多因子としての遺伝子背景の検討:I 型コラーゲンを構成するα2 鎖(COL1A2 )遺伝子の転写制御領域には転写開始点上流1.4 キロ塩基と下流1.4 キロ塩基(第一イントロン)に2 つの2 塩基反復配列が存在し、これらは個人により多型性(Polymorphism)を示すマイクロサテライトであった。強皮症患者遺伝子には{(13,6,8)‐ 12}の組み合わせをホモに持つ例が存在したが、対照には存在しなかった。この反復配列の組み合わせを含むコンストラクトを線維芽細胞にトランスフェクトすると最大の転写促進活性を示した。ヒトα2(I)collagen 遺伝子転写制御における転写因子Sp1 およびSp3 の機能と発現:ヒトα2(I)コラーゲン遺伝子の3 つのGC‐ box を含むプロモーター領域に結合する核たんぱく質はSp1 およびSp3 であることが判明し、Sp1 およびSp3 の機能はヒトα2(I)コラーゲン遺伝子の転写に活性化因子として関与し、強皮症皮膚線維芽細胞と正常線維芽細胞ではSp1 、Sp3 遺伝子の発現に有意な差はなく、TGF‐β、oncostatin M 刺激にても変化しなかった。 その結合能においても有意差はないが、Sp1 結合阻害剤であるmithramycin に対して強皮症皮膚線維芽細胞はコラーゲン遺伝子の発現が低下した。
結論
強皮症患者のI 型コラーゲンα2 鎖の転写制御領域転写開始点上流1.4 キロ塩基と下流1.4 キロ塩基(第一イントロン)に2 つの2 塩基反復配{(13,6,8)‐ 12}の組み合わせをホモに持つ例があり、この組み合わせは強皮症男性患者で、トポイソメラーゼ抗体を有することが判明し、正常人、女性例には見いだすことが出来なかった。強皮症のリスクファクターとして、この組み合わせが考えられた。コラーゲン転写因子のSp1 結合阻害剤であるmithramycin は強皮症の線維芽細胞のコラーゲン遺伝子発現を抑制することから、治療への応用が示唆された。さらに細胞内シグナル物質であるp38MAPK のシグナル伝達を特異的に抑制する薬剤SB203580 の応用、コラーゲン遺伝子発現抑制サイトカインIFN‐ γの治療への応用も示唆された。

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