肝内結石症調査研究班

文献情報

文献番号
199900576A
報告書区分
総括
研究課題名
肝内結石症調査研究班
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
二村 雄次(名古屋大学第一外科)
研究分担者(所属機関)
  • 馬場園明(九州大学)
  • 古川正人(国立長崎中央病院)
  • 田中直見(筑波大学)
  • 本田和男(愛媛大学)
  • 佐々木睦夫(弘前大学)
  • 瀬戸口敏明(宮崎医科大学)
  • 杉山政則(杏林大学)
  • 中沼安二(金沢大学)
  • 味岡洋一(新潟大学)
  • 田中雅夫(九州大学)
  • 安藤久實(名古屋大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
17,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
肝内結石症の疫学像を明らかにしつつ成因を解明し、その結果と現在までに集積された治療成績をもとに、肝内結石の成因別にみた治療体系を確立することを目的とする。
研究方法
①疫学的検討:患者数や臨床疫学特性を把握する目的で全国調査を行った。これに関連して、昨年作成した重症度基準(案)を臨床経過の明らかな症例に適用し、どのような問題が生じるか検討した。
②発症モデル:ビリルビン石灰石を生成する動物実験モデルとコレステロール石を生成する動物実験モデルを作成し成因を解析した。先天性胆道拡張症術後に発生する肝内結石は臨床的に大きな問題であるが、このグループでは発症前の胆管像や臨床経過があきらかであり、一種の発症モデルと考えられる。結石の成因を検討する目的で先天性胆道拡張症症例を臨床病理学的に検討した。
③寄生虫や細菌の感染:多発地区の患者を対象に、回虫感染との関連を特異的IgE抗体を用いて検討した。また細菌の菌体成分刺激により肝内胆管上皮(マウス肝内胆管培養細胞)でのムチン産生能が変化するか、免疫組織学的および分子生物学的に検討した。
④分子生物学的手法による成因へのアプローチ:differential display法を用いて、結石が存在する区域の肝組織に発現する遺伝子を解析した。胆嚢結石の成因にはコレステロールの合成と異化の律速酵素(HMG-CoA reductase,cholesterol 7α-hydroxylase)の調節異常が関与するとされているため、肝内結石症の肝組織を用いてmRNAレベルでこれらの酵素を検討した。また、肝内結石症では異常肝胆汁が生成されていることが明らかにされているが、これにビリルビンおよび胆汁酸輸送にかかわる輸送蛋白(MDR3,MRP2,MRP3,BSEP,iBAT,PCTP)の異常が関与するかどうか検討を行った。さらに肝内結石症の胆管上皮の細胞形質の解析を行うとともに、γtubulinとpericentrinの抗体を用いて中心体過剰複製について検討を行った。
結果と考察
①疫学的検討:1998年に受療した肝内結石症の患者数は5,900(95%信頼区間は4,200~7,600)と推定された。1993年の調査では患者数は7,300と推計されており、減少傾向を認めた。臨床疫学特性の把握を目的とした二次調査では、473例を検討できた。対象症例の現在の状況を見ると、治癒37%、改善23%、不変33%、悪化2%、死亡5%であった。不変、悪化、死亡が40%を占め、依然として治療困難例が多いことが判明した。重症度基準(案)の検討では、治療を行うと無症状であってもGrade3と判定され、有症状で経過不良であった症例と判別不能となるという問題点があきらかになった。この要因である「胆道系治療の既往」の項目は削除することとした。
②発症モデル:動物実験モデルでは、胆汁うっ滞に細菌感染を加えることでビリルビンカルシウム石が生成された。このモデルではムチン型糖タンパク質の増加が特徴的であった。コレステロール結石の生成を目的としたモデルでは、高コレステロール食飼育と胆管結紮で結石が発生した。胆汁組成の変化と胆管結紮による胆管上皮からの粘液産生が、コレステロール結石生成の重要な要素と考えられた。先天性胆道拡張症の術後には、小児で6%、成人で10%の頻度で肝内結石症の発生が確認された。手術から肝内結石診断までの期間は、小児で平均10年、成人では8年であった。胆管像の検討から、肝門部の胆管狭窄や肝内胆管の拡張が結石成因に関与すると考えられた。
③寄生虫や細菌の感染と結石:肝内結石症患者では、回虫の特異的IgE抗体陽性率が有意に高いという結果であった。胆管上皮のムチン産生能の検討においても、各種菌体成分(LPS,LTS)による刺激で、ムチンコア蛋白(MUC2,3,5ac)のmRNAの発現が亢進した。これは、肝内結石症でみられるムチンプロフィールの変化と類似した変化であった。以上より、回虫や細菌の感染と結石形成の関連が示唆された。
④分子生物学的手法による成因へのアプローチ:differential display法による検討では、guanylate-binding protein 1が結石の存在する区域でより強く発現した。ただし、この蛋白の機能は不明であり、結石生成とどのように関連するか今後の検討が待たれる。コレステロールの合成と異化の律速酵素(HMG-CoA reductase,cholesterol 7α-hydroxylase)の検討では、結石の有無よりも萎縮や線維化の進行程度による影響が大きいという結果であり、結石成因との関連はあきらかにならなかった。輸送蛋白の解析から、肝内結石症では肝コレステロール・胆汁酸生合成の異常に加えて、リン脂質、胆汁酸の肝内輸送ならびに胆汁排泄機構にかかわる輸送蛋白の発現にも異常を生じていることがあきらかとなった。特に、輸送蛋白の発現異常には遺伝子発現量の変化のみならず、輸送蛋白のtranslocationあるいはmiss sortingによる細胞内局在の変化が胆汁排泄機構に影響を及ぼしている可能性が得られたことは重要と思われた。肝内結石症の胆管上皮(非腫瘍性上皮)では、細胞形質が胃型さらに胃および腸型に変化していることがあきらかになり、胆管癌発生と関連する結果と考えられた。また、中心体の過剰複製の多くは癌合併例に観察されたが、癌を伴っていない症例でも認められた。このことから、中心体機能異常にともなって遺伝子不安定性が誘導され、更なる遺伝子異常の蓄積の結果、胆管癌発生へ進展する可能性が考えられた。
結論
肝内結石症は減少傾向にあるものの、治療に難渋する症例は依然として多い。成因や病変の進展に関する検討で多くの結果が得られるようになっており、これらの成果をもとに治療法の開発や発展をすすめたい。

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