呼吸不全に関する調査研究

文献情報

文献番号
199900572A
報告書区分
総括
研究課題名
呼吸不全に関する調査研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
栗山 喬之(千葉大学医学部呼吸器内科)
研究分担者(所属機関)
  • 西村正治(北海道大学医学部第一内科)
  • 飛田渉(東北大学医学部第一内科)
  • 福地義之助(順天堂大学医学部呼吸器内科)
  • 山口佳寿博(慶應義塾大学医学部呼吸循環内科)
  • 永井厚志(東京女子医科大学第一内科)
  • 久保恵嗣(信州大学医学部第一内科)
  • 米田尚弘(奈良県立医科大学第二内科)
  • 白日高歩(福岡大学医学部第二外科)
  • 堀江孝至(日本大学医学部第一内科)
  • 本間生夫(昭和大学医学部第二生理)
  • 宮川哲夫(昭和大学医療短期大学理学療法部)
  • 西村浩一(京都大学大学院医学研究科呼吸器病態学)
  • 三嶋理晃(京都大学医学部附属病院理学療法部)
  • 木村謙太郎(大阪府立羽曳野病院呼吸器科)
  • 岡田泰昌(慶應義塾大学月ヶ瀬リパビリテーションセンター内科)
  • 山谷睦雄(東北大学医学部老人科)
  • 白澤卓二(東京都老人総合研究所分子遺伝学部門)
  • 縣俊彦(東京慈恵会医科大学環境保健医学教室)
  • 福原俊一(東京大学大学院医学研究科国際交流室)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
呼吸不全関連疾患(若年性肺気腫・肥満低換気症候群・肺胞低換気症候群)を対象として、その病因・病態を探求・究明し、同時に新たな治療法を模索・開発することである。また、病因の追求および治療法の開発につながる臨床研究課題、及び原因的治療法を確立するための基礎研究課題をとりあげ、研究を推進することにある。
研究方法
対象疾患に対する、臨床的・疫学的・病理学的・分子生物学的解析を施行し、発症機序の解明・Evidence-based medicineに基づく治療法の確立に関して多方面からのアプローチを行う。
結果と考察
(1) 肺気腫の成因に関する研究
a1-antitrypsin欠損症のデータベース作成を目的として、全国実態調査を施行した結果、非血縁家系に発生した例も同定されており、欠損型遺伝子頻度は予想より高い可能性も考えられた。
肺気腫における喫煙感受性の臨床疫学的検討を施行し、肺気腫の成立には、遺伝的要因よりも環境要因が大きく関与すること、非喫煙者にも肺気腫が発症すること、女性の方が男性よりも、また若年発症群では、老年発症群と比較して喫煙感受性が高い可能性が示唆された。
喫煙感受性のある症例はどのような症例であるのかの研究を継続して施行する必要が認められた。その一つとして、肺気腫発症とヘムオキシゲナーゼ(HO-1)遺伝子多型性との関連が示唆された。また、プロテアーゼ・アンチプロテアーゼ不均衡仮説から、肺胞マクロファージ中のSecretary leukoprotease inhibitor(SLPI)を検討した結果、SLPI蛋白は、肺気腫病変の存在を反映していることが示された。
肺容量減少手術により採取された肺組織の免疫組織学的検討を行った結果、肺気腫病変の成立には、肺組織へのリンパ球浸潤と肺構成細胞のアポトーシスが関与していることが示唆された。
肺気腫において呼吸不全を生ずる原因になりうる、ライノウイルス感染の検出を的確に行うために、RT-PCR法を試みた。
(2) 肺気腫の画像診断と包括的内科治療
喫煙の、肺機能およびHRCTの%LAAを経年的に検討した結果、(1) 加齢による気腔増大は下肺野を中心として発生する、(2) 喫煙は、上肺野の気腫性病変、中・下肺野の末梢気道病変を惹起する、(3) 禁煙は、中・下肺野の末梢気道病変を軽減するが、LAAの増加を阻止しえない。また、長年の喫煙は、加齢による気腔拡大を、禁煙後も持続的に増加させることが明かとなった。また、肺気腫の気流制限は、肺野病変と気道病変の双方が相補的に関与していることが認められた。肺気腫診断のためのHRCTの活用、経年的変化の検討は、画像診断における今後のさらなる問題である。
呼吸リハビリテーション・ステロイド治療を含め、包括的内科療法による肺気腫の治療は有効であることが認められた。特に、好酸球性の気道炎症が関与している患者では、気道閉塞の改善という点においてステロイド治療(経口投与)は有効であることが認められた。今後とも有用性をさらに多方面より検討して、evidenceに基づく有効な方法を確立して普及を図る必要がある。
(3) 肺気腫における肺容量減少手術(LVRS)
LVRSにおいて、肺活量の術前評価は経過観察に有用な指標と考えられた。また、LVRSは、気流制限・肺のガス交換に対する改善効果のみでなく、肺の過膨張に対する軽減効果もあり、胸郭の可動制限を改善させうることがDynamic MRIを用いた研究により明かとなった。さらに、LVRS後、早期に一秒量が200 ml以上改善した群においては、長期の機能維持が期待できることが明かとなった。LVRS術前の呼吸機能評価方法、および長期の機能維持をどのようにしたら保てるかの問題を含めて、さらに検討が必要であることが明かとなった。
(4) 低酸素をめぐる問題と低換気症候群の治療効果
(1) 肥満低換気症候群(OHS)ではOHSに至らない睡眠時無呼吸症候群(SAS)より明らかに予後が悪いこと、(2) SAS全般の予後は、日本人の肥満度は欧米人より軽度であるにもかかわらず欧米と差異がないこと、(3) 心循環系合併症が予後に大きく影響しうること、(4) OHSおよびSASの重症例では、nasal CPAPや耳鼻咽喉科的手術等の適切な治療により、循環器系指標と共に予後が改善しうること、等を明らかにした。しかし、非侵襲的換気療法(NIPPV)の今後の展開に関して、全国的にもその症例数は急増傾向にあり、客観的な効果の検証および導入基準の設定が必要であると考えられた。
(5) 呼吸不全の病因解明と新しい治療法の探求
呼吸不全に伴う低酸素時の中枢性換気調節には、延髄孤束核のグルタミン酸はNOとPositive feedback機構を有していることが示唆された。
呼吸不全における組織低酸素の改善を目標に、右方移動を有する異常ヘモグロビン(酸素親和性の低下を認める)であるbグロビン遺伝子に変異を有するPresbyterian型Hb症の変異マウスを作製した。今後in vivoでの検討が必要になる。
ヒスタミンH1受容体Knock out マウスの検討より、中枢性ヒスタミンH1受容体は、体温上昇時の呼吸数増大に関与していることが明かとなった。
原発性肺胞低換気症候群の新しい薬理学的治療法開発のための基礎的検討より、アセチルコリン(Ach)がCO2受容体細胞から呼吸神経回路網への情報伝達に関与する化学伝達物質である可能性が示唆された。そこで、Ach受容体の刺激は、肺胞低換気の治療につながりうると考えられたため、延髄内ニコチン性Ach受容体(nAchR)刺激による中枢性呼吸調節機構への影響を検討した結果、nAchR刺激は、CO2受容体細胞より下流の中枢化学受容神経回路網を活性化することにより、呼吸出力を増強させることが明かとなった。
(6) 呼吸不全疾患におけるHRQOL評価
呼吸不全症例に対して、治療によるinterventionを加えた時、それが患者自身のHRQOLを改善させたかどうかの評価は、重要である。そのためには、適切なHRQOL評価が必要になる。
慢性呼吸器疾患におけるHRQOLを規定する大きな因子である、呼吸困難に関する研究を行った。呼吸困難感の感覚と臨床的・病態生理学的診断との間に何らかの結びつきがあるのかどうかを検討した結果、COPD・IPF・PH症例は、呼吸が早くて苦しい(Rapid)という呼吸困難感を多かれ少なかれ共通の感覚として持ち、さらに疾患により多種の呼吸困難感を感じていることが示唆された。
若年発症の肺気腫と、老年発症の肺気腫において、肺機能の経年的変化を検討した。
その結果、肺気腫における肺機能の経年変化は、若年の方がより低下が強く起こることが示唆され、予後も悪いかもしれないことが推定された。また、若年発症群および老年発症群でのHRQoLの比較を、SF-36・SGRQを使用して行ったところ、若年群の方が有意にHRQoLが障害されていた。
全般的なHRQOLを評価するGlobal quality of life scale(Hyland scale)を、肺気腫症例を対象に検討した結果、Hyland scaleは、既存の評価尺度とは異なる領域を評価していると考えられた。
肺気腫症例においては、運動能がHRQoL(SGRQ・CRQにて評価)と相関する以外に、栄養状態もHRQoLと相関することが認められた。また、睡眠時無呼吸症候群において、SF-36を使用してのHRQoLを評価した結果、低下しているサブスケールが認められたが、2ヶ月のCPAP治療によりHRQoLの改善が認められた。さらに、慢性血栓塞栓性肺高血圧症の肺血栓内膜摘除術のHRQoLと予後に及ぼす効果を検討し結果、生命予後のみならずHRQoLの点からの改善も認められた。
結論
肺気腫の成因に関して、喫煙感受性の問題を中心にして、さらに解析が必要であることを認めた。肺気腫の画像診断と包括的内科治療・外科的な肺容量減少手術に関して、有用性をさらに多方面より検討して、evidenceに基づく有効な治療法の確立・普及を図ることが必要であると考えられた。低換気症候群の治療に関して、nCPAP・非侵襲的換気療法の効果の検証など、さらにevidenceを積み重ねる必要性を認めた。呼吸不全に対する新しい治療法の探求は、分子生物学的Approachを駆使して、さらに続ける必要がある。呼吸不全に対するHRQoLの評価は、医療のoutcomeとして有用と考えられたので、さらに介入試験が必要と考えられた。

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