特発性心筋症に関する調査研究

文献情報

文献番号
199900570A
報告書区分
総括
研究課題名
特発性心筋症に関する調査研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
篠山 重威(京都大学)
研究分担者(所属機関)
  • 今泉 勉(久留米大学)
  • 永井良三(東京大学)
  • 山口 巌(筑波大学)
  • 北畠 顕(北海道大学)
  • 豊岡照彦(東京大学)
  • 堀 正二(大阪大学)
  • 松崎益徳(山口大学)
  • 松森 昭(京都大学)
  • 横山光宏(神戸大学)
  • 藤原久義(岐阜大学)
  • 和泉 徹(北里大学)
  • 北浦 泰(大阪医科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
45,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
原因不明の心疾患、特発性心筋症には大別して主に左室心筋の異常な肥大を来す肥大型心筋症と心室の拡張と収縮力の低下を特徴とする拡張型心筋症に分けられる。前者の約半数には家族性がみられ、常染色体優生遺伝様式を示しその約20%に心筋β-ミオシン重鎖遺伝子の点突然変異が存在することが明らかにされたが、過半数の症例において遺伝子異常は明らかにされていない。又遺伝子異常がどの様なメカニズムで病態を形成するのかも不明である。一方、発病後5年間に半数が死亡するという予後不良の拡張型心筋症の発症には環境因子、特にウイルス感染の関与が示唆されているが、その病因はほとんど明らかにされていない。又、末期の拡張型心筋症患者に対して左室部分切除術(バティスタ手術)が施行されているが、これら外科的療法の長期予後は未確定である。本研究班では、ウイルス感染から拡張型心筋症への進展における局所液性因子, 免疫学的因子やアポトーシスの役割解明を目指し、更に免疫遺伝学的因子の解析を試みた。又、肥大型及び拡張型心筋症において更に新しい遺伝子変異の検出を試みるとともに、遺伝子異常と病態形成との関連を明らかにすることを目指した。外科的治療法に関して、左室部分切除術に於いては本邦での現状を把握し、又、予後を規定する因子の一つとして切除心筋の形態学的、ウイルス学的検討を行った。心移植に関しては拒絶反応の機序解明を目指した。

研究方法
結果と考察
結論
(1)ウイルス感染と拡張型心筋症との関連
本研究班により拡張型及び肥大型心筋症の心筋からC型肝炎ウイルス遺伝子が高率に見出されることから、同ウイルス感染の重要性が指摘されている。 C型肝炎ウイルス感染細胞による細胞の増殖変化を明らかにする目的で、ウイルスコア蛋白質による増殖促進の分子機構を調べた。その結果、サイトカイン特にEGFのシグナルが入って初めてコアによる活性化が観察されることからコア単独ではこの経路の活性化には関与出来ないことが明らかになった。また、種々の変異蛋白質を発現させて観察したシグナル伝達の強弱の解析から、コアはElk以降のレベルで効果を発揮していると推定された。C型肝炎ウイルス感染により引き起こされる炎症に対して、ウイルス蛋白がそれを質的に変化させている可能性が示唆された。
(2) 肥大型心筋症及び拡張型心筋症における遺伝子異常
これまで、家族性肥大型心筋症において心筋β-ミオシン重鎖などの収縮蛋白の遺伝子異常が発見された。しかし、約8割の症例においてその遺伝子異常は未だ明らかにされていない。原因不明の肥大型心筋症及び拡張型心筋症の病因を候補遺伝子アプローチによって同定することを目的として、Z帯構成要素であるタイチン、テレトニンおよびデスミンの変異を検索した。その結果、タイチン変異は肥大型心筋症および拡張型心筋症双方の原因となることが示された。また、家族性拡張型心筋症症例の一部にテレトニン変異やデスミン変異が見出された。
(3) 拡張型心筋症における遺伝子治療
当研究班では心筋症モデルハムスターではジストロフィン関連塘蛋白複合体(Dystrophin-Associated Glycoprotein Complex)の中のδ-sarcoglycan(SG)の遺伝子が欠損している事を報告した(Sakamoto et al., Proc.Natl.Sci.Acad. USA. 94;13873, 1997)。心筋症に対する遺伝子治療を確立する目的で心筋症モデルハムスターの心筋に正常配列のδ-SG遺伝子を長期間、効率良く発現するといわれているrecombinant Adeno-Associated Virusを用いて導入した結果、全てのSG蛋白が心筋細胞に短期間、局所的に再発現する事が形態的に確認された。δ-SGを導入したハムスターでは中心静脈圧、左室拡張期圧及び左室陰性最小微分値が有意に改善していた。δ-SG遺伝子の補充療法は蛋白レベルの再発現のみならず、心機能も拡張能を中心に改善し、今回の研究で今後の心不全治療に遺伝子補充療法が有用であることが初めて示された。
(4) 拡張型心筋症に対する外科的治療法
左室部分切除術を施行された拡張型心筋症21例の切除心筋標本を用いて、心筋in situでの免疫組織化学的、ウイルス学的解析を行い、拡張型心筋症における活動性炎症の関与を明らかにし、またそれらと手術予後との関連を比較検討した。その結果、一部の拡張型心筋症において、心筋壊死や様々な変性所見が著明な領域でエンテロウイルスゲノムが認められ、病因・病態への関与が示唆された。また、拡張型心筋症における高度の心筋病変やエンテロウイルスゲノムの存在は、左室部分切除術に際して予後不良の因子になる可能性が示唆された。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)