急性高度難聴に関する調査研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900569A
報告書区分
総括
研究課題名
急性高度難聴に関する調査研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
星野 知之(浜松医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 福田諭(北海道大学)
  • 村井和夫(岩手医科大学)
  • 喜多村健(東京医科歯科大学)
  • 神崎仁(慶応大学)
  • 岡本牧人(北里大学)
  • 中島努(名古屋大学)
  • 宇佐美真一(信州大学)
  • 阪上雅史(兵庫医科大学)
  • 福島邦博(岡山大学)
  • 暁清文(愛媛大学)
  • 東野哲也(宮崎医科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
25,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
急性高度難聴をきたす原因不明の疾患、とくに突発性難聴、特発性両側性感音難聴について、その疫学、発症機構、原因、診断、治療について研究を行なう。特に今年度は(A)突発性難聴の単剤治験の取りまとめ(B)突発性難聴との鑑別が問題となる低音障害型感音難聴の診断基準案の作成(C)原因不明の感音難聴者の遺伝子異常検索(D)感音難聴の発症機構の解明の4つの目標をたてた。A,C,Dは継続の研究目標であり、Bは新規の計画である。
研究方法
(A)突発性難聴の単剤治験:発症後数日以内の20歳以上の成人、発症より14日以内、未治療例600例を対象とし、封筒法で6種の薬剤を班員及び旧班員に割り振りその効果を検討する。(B)低音障害型感音難聴の調査:班員の2名が中心となって案を作り、班員間での検討を経て基準の原案を作成する。(C)感音難聴の遺伝子以上の検索:3名の班員の施設で遺伝子解析が可能であり、班員ならびにすでに趣旨を連絡ずみの国内の主な病院から難聴家系の者の血液を採取してそこに送り、解析を行なう。(D)感音難聴発症機構の解明:動物のモデルを利用し突発性難聴の原因と目される蝸牛の血行障害、各種障害と活性酸素、グルタミン酸の変動、蝸牛内電位の変化などを検討する。ヒト難聴患者の側頭骨を検討する。突発性難聴例からのウイルスの検出をすすめるほか、ムンプス難聴の発現について検討を続ける。
結果と考察
単剤治験については、検討の遅れている施設の分担分を他施設に再配分し、検討をすすめているが、脱落例があったりして、まだ最終の結果の集計にまでは至っていない。今期中に結論をだすべく作業を急いでいる。低音障害型感音難聴の診断基準の素案が班員の検討をへて平成11年度の総会で決定した。この案に合致する症例を班員の所属する施設において平成12年度の1年間集めることになった。遺伝子異常と難聴の関連については研究は確実にすすんでいる。非症候群性の難聴でもっとも多い異常はコネキシン26の異常で、日本人では欧米人とは異なり、235delCが多いことが判明した。235delCの異常を迅速かつ簡便に検出する方法の開発が進められた。ミトコンドリア遺伝子1555変異は外来感音難聴の約3%のものにみられること。ミトコンドリア遺伝子3243変異をもつMELAS症例の側頭骨標本の所見が報告されたのも本年の成果である。DFNA16の候補遺伝子の解析、EYA遺伝子、PDS遺伝子の異常例、外来における遺伝子異常のスクリーニングの方式についても発表された。難聴発症機構の解明は種々の面での検討が行われた。突発性難聴の原因として重要と考えられる蝸牛血行障害については、スナネズミの椎骨動脈閉塞による一過性虚血のさいの機能と形態の変化、光増感反応によるモルモットの側壁限局障害への薬物軽減効果が検討された。両者ともグルタミン酸の興奮毒性の結果で変化がおこると考えているが、障害の所見に違いがあり、さらに検討をすすめれば難聴発現に新たな知見を加えるものと期待される。グルタミン酸と耳毒性薬剤との検討もおこなわれた。ウイルス感染については予防接種の任意化の影響がムンプス難聴発症頻度にどの程度影響しているか検討され、ひき続き監視することになった。臨床面では突発性難聴にたいするアミドトリゾアート、高気圧酸素治療が有効であった例の報告があった。
結論
突発性難聴については永年の研究にかかわらず、その原因が突き止められていない。2つの有力な説は内耳循環障害とウイルス感染があげられる
。循環障害については蝸牛に作成した限局障害でみられる蝸牛内電位の変化から臨床病態に近いモデルが作られた。今年度はさらに椎骨動脈の一過性の虚血が検討され、蝸牛全体の短時間の虚血では内耳はどんな変化をきたすかが解明されはじめた。循環障害にはその広がりの違い、さまざまな程度があると考えられるので、病態解明に一歩近ずいたといえる。低音域のみが障害される感音難聴が近年注目され、突発性難聴との関係、鑑別などが問題になっている。本年度は低音障害型感音難聴の診断基準の検討試案を作成し、これから1年この試案にそって、班員内での疫学的調査をおこなう。本研究班のもう1つの疾患に特発性両側性感音難聴がある。この疾患の原因として、遺伝子変異のある率が高いことが明らかになりつつある。かって行った調査例のその後の経過を検討する予定である。遺伝子変異の検討はどの領域でも驚く程の進歩があるが、当研究班でも確実な成果が上がりつつある。欧米とは異なる型の変異が日本では高率であることがわかり、その変異を迅速に見いだす方法の開発も行われた。

公開日・更新日

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