網膜脈絡膜・視神経萎縮症に関する調査研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900567A
報告書区分
総括
研究課題名
網膜脈絡膜・視神経萎縮症に関する調査研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
玉井 信(東北大学)
研究分担者(所属機関)
  • 小口芳久(慶應大学)
  • 小椋祐一郎(名古屋市立大学)
  • 石橋達朗(九州大学)
  • 中沢満(弘前大学)
  • 湯沢美都子(日本大学駿河台)
  • 吉村長久(信州大学)
  • 阿部俊明(東北大学)
  • 若倉雅登(北里大学)
  • 堀田喜裕(順天堂大学)
  • 高橋寛二(関西医科大学)
  • 大黒浩(札幌医科大学)
  • 辻一郎(東北大学)
  • 堀勝義(東北大学)
  • 出沢真理(千葉大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
31,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1.網膜色素変性症の病態解明と治療法の開発
基礎実験と臨床症例におけるさらなる研究の促進と、遺伝子治療の本症への応用の可能性を探ることを目的とする。さらにその前段階として遺伝子操作を加えた自己色素上皮細胞の網膜下移植による治療法の臨床応用の可能性も追及する。
2.加齢黄斑変性症の病態解明と治療法の開発
特に視力予後の悪く日本人に多い浸出型における血管新生発生原因の実験モデルにおける解明と薬物による抑制効果の検討。すでに一部では臨床治験が始まっているものもあるがその臨床応用と効果を検討し外科的な治療法に伴い必然的に除去される網膜色素上皮細胞の移植による治療効果の判定を行う。
3.原因不明の視神経疾患の病態解明と治療法の開発
Leber病や多発硬化症などの難治性疾患の病態解明を行う。さらに、網膜神経節細胞死のメカニズムを解明し、その再生を目指す。
4.加齢黄斑変性に対する低線量放射線照射、黄斑ドルーゼンに対するレーザー光照射療法の効果判定に関する研究。これらの治療法は海外で少数、retrospectiveに行われ、又日本においても京都大学、弘前大学等で行われていた。我々は班員全員参加の上で特定疾患疫学班辻一郎助教授(東北大学)のご協力のもと封筒法による二重盲検試験の形で治験を行った。その結果、効果を正確に判定するため特定疾患重点研究に採用され、その部分は平成10年度より正式な多施設無作為臨床試験として発足した。
5.極低視力のグレード分類のための新しい機器の開発。
網脈絡膜萎縮、視神経萎縮では病気の進行と共に完全な失明状態となる。我々の班の目的である薬物治療、その他の新しい治療法の開発ではこのような低視力でも治療効果の有無を判定するためにその測定機器の開発を試みることにした。
研究方法
1. 分子遺伝学的手法による網脈絡膜萎縮、遺伝子治療法の可能性の検討。
網膜色素変性および類縁疾患の患者から得られたゲノムDNAを用いて、網膜に特異的に発現している遺伝子を候補遺伝子とし遺伝子異常の有無を検討する。サブトラクションによる網膜特異的遺伝子の解明、解析、および視細胞死のメカニズムの解明を行う。
2.加齢黄斑変性症の病態を明らかにするため実験動物モデルを作成し、そのモデルに対して形態的、生化学的、薬理学的、及び、分子生物学的検索を行う。また、手術時に採取された増殖膜の解析により、疾患特異的因子の解析を行う。
3.視神経萎縮におけるの病態解明と治療法の開発。抗アレスチン抗体と視神経萎縮に対する関連を明らかにする。視神経萎縮の病態解明のために、ミトコンドリア遺伝子のみでなく、網膜神経節に特異的に発現する遺伝子の異常の有無の解明を行う。副腎皮質ステロイド薬を中心とした薬物療法の有効性の評価を行う。視神経萎縮に対しSchwann細胞の移植による視神経の再生、すなわち神経節細胞の軸索再生に対する効果を検討する。。
4.加齢黄斑変性に対する低線量放射線照射、黄斑ドルーゼンに対するレーザー光照射療法の効果判定に関する研究。
軟性ドルーゼンに対する光凝固療法及び、脈絡膜新生血管に対する放射線療法の効果を、無作為、前向き対照試験により検討する。
5.低視力者の視力変化の評価法の開発。我々はこの極低視力のグレード分類のための機器を改良し、今後の我々の班が対象にする3疾患の治療法の開発とその有効性の評価を行う。
結果と考察
1.網膜色素変性症及びその類縁疾患の病態解明と治療法の開発
網膜色素変性の原因遺伝子解明の研究として、常染色体優性遺伝型の原因遺伝子であるrhodopsin,peripherin/RDS,ROM1遺伝子の解析、常染色体劣性網膜色素変性における原因遺伝子としてarrestin,cGMP phosphodiesterase alpha,beta subunit,X染色体劣性に対しては、RP2遺伝子、若年性網膜分離症に対してはXLRS1遺伝子、choroideremiaについてREP-1遺伝子異常の解析をを行い、多くの遺伝子異常及びそれが引き起こす臨床像を検討することが出来た。また網膜特異的新規遺伝子のcloningを行い現在知られていない疾患との関連を探った。
2. 加齢黄斑変性症の病態解明と治療法の開発
血管内皮細胞と血管新生関連物質の遺伝子発現、RPEにおける細胞増殖因子、増殖抑制因子との関連を明らかにすることが出来た。さらにアメリカで報告された加齢黄斑変性症の原因遺伝子が日本人にもその異常が見つかるか否かについても検索し、これはかなり欧米、すなわち白人に特徴的な遺伝子異常であることが明らかにされた。血管内皮細胞と血管新生関連物質の遺伝子発現、加齢に伴って生じる網膜色素上皮(RPE)の細胞増殖因子、増殖抑制因子分泌能の変化と血管新生との関連、実験的脈絡膜新生血管モデルの作成、それに対する放射線療法の有効性の評価も新たに明らかになった。網膜色素上皮は視細胞を維持するために特に重要で、網脈絡膜萎縮、加齢黄斑変性の治療には最も有効である可能性を秘めている。そこでこの色素細胞またはそれに代わりうる虹彩色素上皮細胞の移植の可能性を目指して研究を行った。塩基性線維芽細胞成長因子のcDNAを組み込んだIPE移植ではその効果が更に高まった。研究2年目霊長類での安全性の実験後、3年目には東北大学倫理委員会の承認を得て、実際に患者本人の色素上皮を採取、培養し患者に戻すという世界で初めての試みを行い、現在効果を経過観察中である。
3.原因不明の視神経疾患の病態解明と治療法の開発.
視神経萎縮に対しmitochondria遺伝子を中心に解析を行った。さらにこの疾患に対する薬物療法を試みた。現在、視神経萎縮後の視神経再建を目的に視神経再生の為の末梢神経移植、培養Schwann細胞移植の可能性を追求している。実験的には、かならずしも末梢神経そのものを用いなくても、培養シュワン細胞を利用して、人工チューブを用いても、その中を神経節細胞の軸索が延びることが明らかにされた。
4.加齢黄斑変性に対する低線量放射線照射、黄斑ドルーゼンに対するレーザー光照射療法の効果判定に関する研究。
治療法として議論の多いレ-ザ-光凝固療法、黄斑下新生血管膜除去、放射線照射療法の視力予後に対する効果を判定し治療法として何れがもっとも効果的かを判定した。患者の選別、治療費の面からみて限られたものであったが、一部有効の判定が得られた。この治療法についてはその後も海外で議論が多く、どこでも正式な無作為臨床試験はなされていない。幸いこの課題は平成10年度重点研究に取り上げられたため、その項で述べるとうり、出来る限り完全な形でのプロトコールが完成し、正式な無作為抽出法で正式に臨床試験研究を行っている。
5. Low Vision Evaluator(LoVE)の開発
我々の扱っている疾患は現在有効な治療法がない。日本においてもヘレニエンをはじめとして、何種類かの薬物が網膜変性疾患患者に投薬されているが、その有効性は明らかではない。その理由の一つにこれらの特定疾患の患者の視力が末期には数字では表すことが出来ないような低視力のレベルであるためであった。すなわち"指数弁、手動弁、光覚弁"そして"無光覚:失明"である。しかし、このような概略的な表現では治療法の有効性の有無、視力の経過を正確に評価することは困難であることが世界的に問題になっていた。そこで極低視力のグレード分類のための新しい機器Low Vision Evaluator(LoVE)と名つけてた新しい機器を開発した。これは白色光、赤、緑、青の3色光で刺激することが出来る。そのため白色光による桿体機能評価のみでなく、黄斑機能を反映する錐体機能評価も可能で、この機器をさらに改良し、今後の我々の班が対象にする3疾患の治療法の開発だけでなく、現在有効であると考えられている治療薬有効性の評価に役立てたいと考えている。
結論
網膜変性あるいはその類縁疾患の原因遺伝子のいくつかを解明その遺伝子の網膜内での局在も確認した。また、網膜特異的遺伝子の検討をおこなうことで、視細胞以外の、その他の細胞に特異的に発現する遺伝子も見つかり、さまざまな網膜疾患にまで広げられた。網膜色素上皮に発現している遺伝子の異常による網膜色素変性の発見は、虹彩色素上皮をはじめとする色素上皮移植の可能性を更に現実にちかずけるものとなった。遺伝性網膜変性疾患の遺伝子異常の頻度は、かなり人種差があり日本人に高頻度におこる遺伝子異常を発見した事は、遺伝子治療を行う上で重要な役割をしめる。加齢黄斑症の手術時に得られる、増殖膜の検討より終末糖化産物(AGE)がドルーゼンに沈着していたり、さまざまなサイトカインが発現していることを発見し、病態解明の1つになった。新生血管を示す動物モデルの作成においては、光凝固による作成や、種々の血管新生因子を網膜下に投与することで作成に成功してきた。網膜細胞移植による治療の試みでは、異種の細胞移植による移植部位へのさまざまなサイトカイン遺伝子の発現を確認するとともに、虹彩色素上皮細胞も網膜色素上皮細胞と同様な移植効果を示すことが判明した。臨床面では、脈絡膜新生血管に対して、光凝固療法と、放射線療法の多施設による検討を発展させ重点研究に移して遂行中である。これらの結果は国内外の学会ならびに雑誌に報告してきた。また遺伝性網膜変性疾患、加齢黄斑変性、視神経萎縮に対する治療法の開発とその有効性の評価を行なうために、Low Vision Evaluatorという新しい機器を開発中でありこの器械を用いて今後治療の有効性、および薬物治療の有効性を判定していく予定である。

公開日・更新日

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