免疫性神経疾患に関する研究

文献情報

文献番号
199900564A
報告書区分
総括
研究課題名
免疫性神経疾患に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
納 光弘(鹿児島大学第三内科)
研究分担者(所属機関)
  • 有村公良(鹿児島大学第三内科)
  • 糸山泰人(東北大学神経内科)
  • 吉良潤一(九州大学脳神経病研究施設内科)
  • 斎田孝彦(国立療養所宇多野病院)
  • 田平武(国立精神神経センター神経研究所疾病研究第六部)
  • 出雲周二(鹿児島大学難治性ウイルス疾患研究センター)
  • 大野良三(埼玉医科大学神経内科)
  • 梶龍兒(京都大学神経内科)
  • 菊地誠志(北海道大学神経内科)
  • 楠進(東京大学神経内科)
  • 栗山勝(福井医科大学第二内科)
  • 斎藤豊和(北里大学内科)
  • 酒井宏一郎(金沢医科大学神経内科)
  • 錫村明生(奈良県立医科大学神経内科)
  • 祖父江元(名古屋大学神経内科)
  • 田中恵子(新潟大学神経内科)
  • 中村龍文(長崎大学第一内科)
  • 服部孝道(千葉大学神経内科)
  • 久永欣哉(国立療養所宮城病院)
  • 藤井義敬(名古屋市立大学二外科)
  • 松尾秀徳(国立療養所川棚病院神経内科)
  • 水澤英洋(東京医科歯科大学神経内科)
  • 結城伸泰(獨協医科大学神経内科)
  • 吉川弘明(金沢大学保健管理センター)
  • 吉野英(国立精神神経センター国府台病院神経内科)
  • 高昌星(信州大学第三内科)
  • 山村隆(国立精神神経センター神経研究所疾病研究第六部)
  • 宇宿功市郎(鹿児島大学医療情報管理学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
-
研究費
44,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、本班が研究対象としている多発性硬化症(MS)、重症筋無力症(MG)、HAM、免疫性末梢神経障害(CIDP、ギランバレー症候群など)、Crow-Fukase症候群、癌などに伴う傍腫瘍性神経症候群、多発性筋炎などの炎症性筋肉病ならびにその他の免疫性神経疾患(Isaacs症候群など)について、病因、病態解明、診断基準の設定、治療法の指針と新しい方法の開発、疫学、動物モデルその他の基礎的実験成果の臨床への応用を行い、分子生物学、生物工学、分子免疫学、遺伝子工学の新しい概念と技術を駆使しつつ、班研究としてのグループワークを統合して難病に取り組むことを目標とする。
研究方法
(略)
結果と考察
(略)
結論
本研究班は、新たな構成で平成8年度に発足し、3年単位2期目の初年度で発足後4年目にあたる。その平成11年度の研究では、極めて大きな成果を上げることができた。特に大きな成果として、1)本邦の多発性硬化症をアジア型と西洋型の異なる2つの疾患としてとらえるべきであることが班のプロジェクト研究でさらに明らかとなったこと、2)新しい疾患概念として提唱されたアトピー性脊髄炎がさらにその疾患の本態が明らかにされたこと、3)本研究班で発見されたHAMの病態の解明が大きく前進し、治療への展望がさらに開けてきたこと、4)重症筋無力症ならびにLambert-Eaton筋無力症候群の病態と治療の研究がさらに進展したこと、5)Isaacs症候群と抗K+チャネル抗体の関連が明らかにされたこと、6)Crow-Fukase症候群の病態におけるVEGFの役割がさらに明らかにされたこと、7)Guillain-Barre症候群やCIDPにおける抗ガングリオシド抗体の役割がさらに深く明らかにされ、動物実験による裏付けが進んだこと、が上げられるが、この他にも多くの大きな成果が得られた。多発性硬化症(MS)=班をあげてのプロジェクト研究によりアジア型MSではDPB1*0501と相関することが一層確実となった。吉良班員は、アトピー性脊髄炎という新しい疾患概念を提唱したが、今回、2症例の病理学的検討を行い、好酸球浸潤を主とする血管炎あるいは血管周囲炎の所見を示した。糸山班員はMS再発時の髄液細胞に表出されるケモカイン受容体を解析した結果CXCR3及びCCR5陽性CD4陽性細胞の増加を見出した。また、吉良班員は視神経脊髄型MS患者から多数のミエリン抗原反応性T細胞株を樹立し解析し、視神経脊髄型MSではミエリン・オリゴデンドロサイト糖蛋白(MOG)に反応するT細胞を全例で見出した。山村班員はMS患者ではmRNAレベルでCD3陽性細胞中のKIR3DL1、KIR2DL2の発現低下をみたことよりNK細胞の調節細胞としての機能低下がMSの発症に関与している可能性を示唆し
た。またMSにおいてはNKT細胞が特異的に減少することも明らかにした。錫村班員はMSの治療法としてフォスフォジエステラーゼ阻害薬の実用化に向けての道筋を模索していることを報告した。祖父江班員は、Theilerウイルスによるマウスの脱髄炎モデルに、ヒトIgMを投与し、in vivoで髄鞘再生が促進されることを見い出した。高班員は、MOG peptide 35-55でNODマウスを感作することにより誘導した慢性再発寛解型のEAEモデルで、抗IL-12抗体を投与し、EAE症状が抑制されることを報告した。田平班員は、primingに用いた抗原非存在下ではCpG-ODNは、B細胞を直接刺激し、活性化させること、IL-10を誘導しTh1型の免疫応答が抑えられる可能性があることを指摘した。HAM=納班員はfast axonal transportの障害を反映するβAPPの免疫組織化学染色にて、HAM剖検脊髄組織を検索し、βAPP陽性線維は活動性の炎症病変部位にクラスターをなして認められることを見出した。宇宿班員はHAM患者ではHLA-A*02を保有する比率が健常キャリアーより有意に低く、HLA-A*02を保有することでHAMの発症を28%抑制していることを示した。ギランバレー、慢性炎症性脱髄性多発神経炎=楠班員は後根神経節の一次感覚ニューロンに局在するGD1bを兎に免役して作成した実験的感覚性失調性ニューロパチーが抗GD1b抗体により規定されたことを明らかにした。結城らは軸索型GBSのモデル動物を樹立し、免疫原としても、標的抗原としてもGM1が重要な分子であることを明らかにした。斎藤班員はGBSについての全国疫学調査の第二次アンケート調査の結果を報告し、わが国におけるGBSの実態を明らかにした。大野班員はP2細胞の出現にダニに対する免疫反応の関与を示唆した。服部班員は、MFSの運動失調は固有感覚入力の特異な形の障害によると考えられる所見を得た。水澤班員は、GBS急性期患者血清がBNBモデルの透過性を亢進させることを報告した。梶班員は各種神経疾患患者末梢血中のCD16+CD57-NK細胞サブセットの比率を検討し、MMNの病態において同NK細胞サブセットの関与の可能性があることを指摘した。重症筋無力症(MG)=服部班員は、胸腺摘出を行った131例中10.7%に人工呼吸の必要性があったと述べ、その予防には術前の重症筋無力症の重症度管理が特に重要であることを指摘した。藤井班員は、人の正常小児胸腺細胞を刺激したところ、CD4+T細胞ではなくCD8+T細胞の分化が起こったことを報告した。松尾班員はヒトのAchRα-subunitの残基番号128~142により感作されたT細胞ラインのみが外来抗原の添加なしにラットの胸腺細胞と増殖反応を起こすことを示した。吉川班員は、MG胸腺細胞はヒトAchRα1-subunitの残基番号1~210の抗原刺激によってのみヒトのAchR抗原に反応する抗体を作成することを示した。Paraneoplastic syndrome=渋谷班員は、LEMS患者の抗VGCC抗体陽性率は低頻度連続神経刺激筋電図検査で漸減減少を示す例で高く、漸減パターンは二相性の重症筋無力症と異なり単相で単一指数関数曲線に当てはまることを明らかにした。中村班員は、LEMS患者小脳ではVGCC量が約54~65fmol/mgと正常対照の平均約298fmol/mgに比して著明に減少していることを明らかにした。後天性ニューロミオトニア症候群(Isaacs症候群)=有村班員は、後天性ニューロミオトニア症候群における自己抗体が電位依存性Kチャネル(VGKC)を障害する機序について研究を進め、チャンネルの分解促進などの機序を介して作用しているという仮説を提唱した。田中班員は、HLA A*2402遺伝子を組み込んだトランスフェクタントを用いて抗Yo抗体陽性傍腫瘍性小脳変性症3例中2例にてペプチド“AYRARALEL"に対する細胞障害性T細胞(CTL)活性を見出した。酒井班員は、Yo抗体が認識する傍腫瘍性神経症候群関連抗原であるPCD-17蛋白について転写調節機能の検討を行い、PCD-17蛋白はtranscriptional activatorであると同時に転写抑制作用を有するtransrepressorであることを明らかにした。サイトカイン、その他=糸山班員は免疫性神経疾患、患者血清、髄液中のケモカインとその受容体陽性細胞について検討し、MSがTh1優位の病態であることを再確認した。有
村班員はCrow-Fukase症候群におけるVEGFの関与についてさらなる検討を加え、臨床的確診例では全例血清VEGFが高値であること、しかもその血清VEGFの由来は血小板にstoreされたもので、血小板の活性化(凝集など)により局所で放出されることを示した。田中班員は、MHCクラスI拘束性の細胞障害性T細胞を誘導するマウスの筋炎モデルの作成を試みこれに成功した。栗山班員は橋本脳症の2例を呈示し、この2例にヒトの脳ホモジネートの48Kd、60Kd、79Kdに結合する抗体があることを示した。このうち一部の標的抗原の候補としてNa-K ATP Pumpがあげられた。

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