神経変性疾患に関する研究(総括研究報告)

文献情報

文献番号
199900563A
報告書区分
総括
研究課題名
神経変性疾患に関する研究(総括研究報告)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
田代 邦雄(北海道大学)
研究分担者(所属機関)
  • 水野美邦(順天堂大学)
  • 中村重信(広島大学)
  • 葛原茂樹(三重大学)
  • 中野今治(自治医科大学)
  • 祖父江 元(名古屋大学)
  • 川井 充(国立精神・神経センター武蔵病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
47,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、本研究班の筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脊髄性進行性筋萎縮症、球脊髄性筋萎縮症(Kennedy-Alter-Sung病)、脊髄空洞症、パーキンソン病(PD)、ハンチントン病、進行性核上性麻痺、線条体黒質変性症、ペルオキシソーム病、ライソゾーム病の10対象疾患の基礎的ならびに臨床的研究を発展させ、これら難病の治療法の開発も視野に入れた調査研究を行うことを目的としている。
研究方法
厚生省特定疾患神経変性疾患調査研究班の研究体制は、班長1名、班員6名、研究協力者18名、特別研究員1名の25名の研究体制であったが、今回の厚生科学研究費補助金特定疾患対策研究事業では主任研究者1名、分担研究者6名に研究協力者22名、計29名の体制を構築した。
主任研究者、分担研究者は、筋萎縮性側索硬化症、パーキンソン病およびそれらの関連疾患に重点をおき、これらについて各個研究及びプロジェクト研究を分子遺伝学、神経病理、神経薬理、神経化学、神経生理、神経疫学、神経治療などの多方面から展開した。また、今回の目的達成のため主任研究者は研究協力者を指名し、全国レベルでのデータの集積と研究協力のもとにこれらの神経変性疾患の研究、治療法、予防法の開発も目指し研究総括を行った。対象10疾患に対しては研究のみならず、社会的ニードへの対応も可能な体制を目指した。平成11年度はプロジェクトリーダーを決定し、研究体制の構築と研究に着手に重点をおき、平成12年度、13年度は研究を継続、充実をはかり、平成13年度に研究の総括と研究成果の普及に努める。
結果と考察
平成12年2月4日~5日に平成11年度研究班の班会議・研究報告会を開催した。研究報告会では54題の各個研究が発表された。
筋萎縮性側索硬化症(ALS)に関しては、その基礎的研究として、ALSにおける受容体型チロシンキナーゼEphA4の発現に関する研究、ヒト脳脊髄単一ニューロンにおけるグルタミン酸受容体mRNA発現量の検討、ALSの遺伝子発現プロファイリングによる病態関連分子の検索とALSの運動ニューロンの遺伝子発現プロファイリング:レーザーマイクロダイセクションとcDNAマイクロアレイによる研究を行なった。遺伝子関連では、日本人家族性ALSにみられたCu/Zn SOD遺伝子変異とそれらを導入したトランスジェニックマウスの作製、変異Cu/Zn SODトランスジェニックマウスにおける生存シグナル関連蛋白の変化および家族性ALS関連変異Cu/Zn SODのアデノウイルスベクターを用いた発現による神経細胞障害機構の解析を行なった。神経病理の面からは、ALS脊髄の前側索の錐体路以外にびまん性にみられるmacrophageの出現、多数のBasophilic inclusionを有するALS脊髄前角細胞の免疫組織学的検討、孤発性筋萎縮性側索硬化症の線条体におけるユビキチン陽性神経細胞内封入体の出現を検討した。
ALSに対する治療に関しては、成体ラット顔面神経核運動ニューロン損傷に対するGDNF組換えアデノウイルス・ベクターの治療効果、大量メチルコバラミンが実験的アクリルアミドニューロパチーにおけるDNAフラグメンテーションを阻害すること、大量メチルコバラミンのALS患者における筋力におよぼす影響(二重盲検クロスオーバー法による検討)、 FGF-9の培養ラット脊髄前角細胞に対する効果、Wobbler mouse motor neuron disease に対するcreatine monohydrate療法の効果とALS患者に対するCreatine monohydrateの投与成績と安全性を研究した。
臨床・生理の面からは、神経変性疾患の心理的検討、 microstimulationによる運動単位推定数(MUNE)を算出するためのコンピュータープログラムの開発とその臨床応用とALSの運動単位発火様式を検討した。
球脊髄性筋萎縮症の臨床・病理では、四肢遠位の筋力低下、痴呆を主徴とする家族性運動ニューロン病、球脊髄性筋萎縮症のtransgenic mouse modelの作成と臨床病理学的検索、女性化乳房を伴った常染色体優性遺伝型球脊髄性筋萎縮症の一家系と近位筋優位の筋萎縮を示す遺伝性運動感覚ニューロパチーの臨床的、病理学的、遺伝学的検討を行なった。
パーキンソン病(PD)の基礎・病因に関しては、MPTPマウスパーキンソニズムにおけるnucleosomal DNA fragmentation、 MPTPマウスパーキンソニズムにおけるL-DOPAの急性毒性、 ARJPにおける酸化的ストレスを検討した。遺伝子関連では、パーキン遺伝子の変異解析、偽優性遺伝性を呈した若年性パーキンソニズム家系におけるparkin遺伝子変異解析、パーキンソン病とドーパミントランスポーター遺伝子多型および相模原パーキンソニズムの遺伝子を研究した。
臨床・薬理では、 L-DOPA/DCIコンビネーションと投与量の違いによる脳内生化学的変化、ドーパミンアゴニストapomorphineの培養グリア細胞における神経栄養因子産生作用に関する研究、パーキンソン病の診断におけるアポモルフィンテストの有用性に関する検討、悪性症候群とMAO-B遺伝子GTリピート多型との関連を研究した。また、パーキンソン病患者の123I-MIBG心筋シンチグラフィーの検討、パーキンソン病と高次神経機能(算数問題と脳血流SPECT所見)、パーキンソン病の脳血流変化に関する検討(運動機能障害、認知機能障害との関連)とパーキンソン病の疫学調査を行なった。
パーキンソン病に対する治療では、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いたパーキンソン病の遺伝子治療の研究、 LacZ遺伝子組み込みアデノウイルス脳内注入時の遺伝子発現の経時変化、および内因性MAO活性阻害物質イサチンの実験的パーキンソン病モデルラットに及ぼす影響を調べた。
臨床面では、多系統萎縮症初期例のPET所見、大脳皮質基底核変性症のMRI、SPECT、磁気共鳴画像による拡散テンソル解析を用いた神経変性疾患における非侵襲的軸索機能解析(定量解析)、多系統萎縮症における左右差、多系統萎縮症における自律神経機構を解析し、臨床病理からは全経過19年の多系統萎縮症の1剖検例、レビー小体病と多系統萎縮症脳におけるα-synuclein associated protein (Synphilin-1)の局在を研究した。
関連疾患では、Niemann-Pick病C型モデルマウス(spm)由来培養シュワン細胞株の樹立、進行性核上性麻痺と皮質基底核変性症における髄液中総タウ蛋白およびリン酸化タウ蛋白の検討とP301L変異を認めたFTDP-17の2症例における臨床像およびタウ遺伝子型を解析した。
紀伊半島のALS/PDCでは、紀伊半島多発地域のALSとパーキンソン痴呆複合の臨床像、紀伊半島の筋萎縮性側索硬化症・パーキンソン痴呆複合(ALS/PDC)の臨床病理学的検討とタウ蛋白解析とArgrophilic grain dementiaとamyotrophic lateral sclerosis with dementiaとの関連性に関する臨床病理学的検討を行なった。
本研究班の研究対象疾患は、筋萎縮性側索硬化症、パーキンソン病などの10疾患であり、これらおよびその関連疾患に重点を置いて、各個研究及びプロジェクト研究で分子遺伝学、神経病理、神経薬理、神経化学、神経生理、神経疫学、神経治療などの多方面から研究を推進することが必要である。また、今回の目的達成のため多数の研究協力者を指名し、全国レベルでのデータの集積と研究協力のもとに、これらの神経変性疾患の研究、治療法、予防法の開発も目指していく臨床研究を基盤にした研究を開始しているといえる。また、対象10疾患に対する臨床研究のみならず、社会的ニードへ対応できるような体制を目指した。
結論
筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脊髄性進行性筋萎縮症、球脊髄性筋萎縮症(Kennedy-Alter-Sung病)、脊髄空洞症、パーキンソン病(PD)、ハンチントン病、進行性核上性麻痺、線条体黒質変性症、ペルオキシソーム病、ライソゾーム病の10疾患を対象疾患とした本研究班は、これらの疾患の基礎的ならびに臨床的研究を推進させ、治療法の開発も視野に入れた調査研究を行うことを目的としている。主任研究者1名、分担研究者6名に研究協力者22名、計29名の研究体制で、 分子遺伝学、神経病理、神経薬理、神経化学、神経生理、神経疫学、神経治療などの多方面から各個研究を展開し、今後のプロジェクト研究を計画した。

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