遅発性ウイルス感染に関する調査研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900561A
報告書区分
総括
研究課題名
遅発性ウイルス感染に関する調査研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
北本 哲之(東北大学大学院医学系研究科病態神経学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 片峰 茂(長崎大学医学部細菌学講座)
  • 品川森一(帯広畜産大学獣医公衆衛生)
  • 堂浦克美(九州大学大学院医学系研究科脳神経病研究施設病理部門)
  • 中村好一(自治医科大学疫学・地域保健部門)
  • 毛利資郎(九州大学大学院医学系研究科実験動物学講座)
  • 立石 潤(老人保健施設・春風)
  • 田中智之(和歌山県立医科大学微生物学講座)
  • 松田治男(広島大学生物生産学部免疫生物学講座)
  • 三好一郎(東北大学大学院医学系研究科附属動物実験施設)
  • 網 康至(国立感染症研究所村山分室)
  • 高須俊明(日本大学総合科学研究所)
  • 堀田 博(神戸大学医学部微生物学講座)
  • 二瓶健次(国立小児病院神経科)
  • 金子清俊(国立精神神経センター疾病研究第7部)
  • 長嶋和郎(北海道大学医学部分子細胞病理学)
  • 保井孝太郎(東京都神経科学総合研究所微生物学・免疫学研究部門)
  • 佐藤 猛(国立精神神経センター国府台病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
60,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、プリオン病、SSPE、PMLの3疾患の病態解明と発病予防である。今年度から新たに3年間の研究が厚生科学研究費によってサポートされることになった。この3年間に我々が行う研究の具体的な目標を、それぞれの疾患で以下のように掲げる。プリオン病については、日本でのCJDサーベイランスを確立する。また、積極的に基礎研究を推進し、早期診断法、予防法、治療法につなげる。SSPEについては、先の研究で指摘した予防接種がSSPEの危険因子となっている可能性について、疫学的研究と基礎研究から麻疹ワクチンとSSPEとの因果関係を明らかにする。PMLに関しては、いまだ発病機構・治療法ないのが現状であるので、特に発病機構の解明をめざした基礎研究を推進する。
研究方法
(略)
結果と考察
(略)
結論
1.プリオン病a.モデル動物 前年度までの3年間で、すでに高い感度のトランスジェニックマウスの樹立に成功しているが、この3年間でさらにヒト・プリオンにたいする感受性を亢進するモデル動物を樹立すること、また家族性プリオン病や感染性プリオン病に対するモデル動物を樹立することを目標とした。今年度は、ヒト・プリオンに最高の感受性を獲得するためにヒト・プリオン蛋白の5つの部位のみをマウス型アミノ酸に置換したHu5Mo、ヒトのFFIの遺伝子変異を導入したMoFFI、外来性のプリオンの検索に最高の感度が得られるようにマウスの野生型を導入したMoのトランスジェニックマウスを新たに作製・樹立した(三好・北本)。また、前年度に報告した高い感受性を示すヒト・マウスキメラ型の高発現マウスが必ずしも潜伏期間の短縮につながらずむしろ潜伏期間を延長させることを見出し、ほぼ野生型マウスの発現量の等量が最も短い潜伏期間であることを明らかにした(毛利)。また、同じコンストラクトでヒツジ型のキメラプリオン蛋白を発現するマウスが平均510日で発病することを示したが、このマウスはまだ野生型プリオン蛋白を有しており、現在マウス型を持っていないノックアウト・バックグランドでの感染実験を行っている(品川・三好)。また、硬膜移植の手術の際の脳への侵襲がプリオン病発病を誘発した可能性を検討するため、野生型マウスを用いて脳外傷がプリオン感染に影響を与えるかを検討したが、プリオン病の発病は一過性の脳外傷では修飾されないことが明らかとなった(堂浦)。
b.イムノアッセイ法 高感度のイムノアッセイ法の樹立には、優れたモノクローナル抗体(Mab)が多数必要である。今年度は、ニワトリ型抗体としてプロテアーゼ感受性PrPと反応する4種類のMabの作製(松田)、とマウス型抗体として#41、#71の2種類の抗体を樹立した(田中・北本)。特に、#41、#71のMabは、コドン215、219、220をヒト型アミノ酸に置換したマウスPrPと反応するヒト特異的な抗体であり、免疫染色・Western blotに使用でき、特異性および反応性は3F4に匹敵するMabであることが明らかとなった。また、今年度からは、さらに多くのエピトープを認識する抗体を作製するためにノックアウトマウスの使用や、異常PrPの構造のみを認識するMab作製のためプリオン感染・非感染培養細胞を使ったMabの作製にも取り掛かっている。
c.予防法 液化エチレンオキサイドによりプリオンの感染性を105低下させる方法を樹立してきたが、今年度はこの感染性の低下の機構がプリオン蛋白の切断であることを明らかとし、さらにその切断点の一つがコドン129Alaであることを証明した(品川)。また、従来からの膜を用いたろ過法をスクレイピーでも検討し、界面活性剤なしの状態では35nmで105感染性を低下させ、15及び10nmでは界面活性剤の有無に関らず完全に感染性を押さえることを明らかにした(立石)。これは、感染力価としては107-8低下させたことになる。
d.基礎研究 基礎的研究として、新しい報告が2つなされた。1つは、遺伝性プリオン病のGSS102のモデル動物で、自然発症を示さない低発現量の動物にPrP90-145の合成ペプチドをベータシート構造に変換したもののみ病理学的に典型的なGSS像を示した(金子)。これは、遺伝性プリオン病の1つの病気が構造変換した合成プリオン蛋白ペプチドで誘発できた世界で初めての報告である。次に、ノックアウトマウスで、小脳のプルキンエ細胞の脱落がみられるマウスで、その神経細胞死の1つの機構としてプリオン蛋白類似蛋白(PrPLPまたはDoppel)の発現亢進を証明した(片峰)。PrPLPは、正常では血管内皮細胞で生直後まで発現しているが、スプライシング部位を破壊したノックアウトマウスでは、プリオン蛋白のプロモーターを利用した遺伝子間スプライシングが起こり、神経細胞でPrPLPが強く発現するようになることがプリオン蛋白欠損とあいまってプルキンエ細胞の脱落原因となるという可能性が指摘されたわけである。興味あることに、このPrPLPはプリオン蛋白の似た蛋白構造が想定され、プリオン病における新しい研究テーマが登場したことになる。
e.臨床・疫学研究 臨床上での早期診断法として、CT画像を用いた脳萎縮率が有効であることを明らかとした(佐藤)。これは、ほとんどの施設で応用可能な方法でありCJD診断のガイドラインに是非加えるように本研究班のサーベイランス担当とさらに症例数を増やしてゆく予定である。疫学的には、現時点で硬膜移植歴のあるCJD患者は65名に至っている。このうち使用した硬膜は情報の得られない4名を除いた61症例で全てLyoduraが使用されていることが明らかとなった(中村)。また、硬膜使用例のなかには、従来日本では見られないようなflorid plaqueを多数有する症例が6例存在し(硬膜移植例の約10%)、その臨床像・病理像・動物モデルへの伝播率の低さなどから、臨床的・病理学的に孤発例CJDに良く似た硬膜例と区別して考えなければならなくなった(北本)。硬膜移植例のなかのバリアント型として今後取り扱い、サーベイランス委員会で特に重点的に従来の硬膜例とは区別して疫学調査を行う予定である。また、すでに世界で最も感受性の高いヒト化マウスをもってしても伝播率が低いことより、硬膜例のバリアント型に対して高い感受性を示す動物モデルの開発が急務となってきている。
2. SSPE 臨床疫学調査として、2つの報告がなされた。1つは、沖縄県における調査で、全国調査に比較して高率にSSPEの発病をみとめ、また麻疹ワクチン接種率が低いことが明らかとなった(二瓶)。麻疹ワクチン接種率の低さが、SSPE発病の高い要因であることが示された。一方、パプアニューギニアでは予防接種がSSPEの危険因子となっている可能性が指摘されており、今回ケースコントロールスタディを行ったところ、中間報告としては予防接種自体がSSPEの危険因子となっていないことが示された(高須)。また、同時に予防接種の有効性が低いことも示唆される結果を得ている。このように、予防接種とSSPE発病には、いまだ議論の余地があり、今後の3年間で結論を出す必要がある研究課題である。この研究課題に関しても、直接SSPEのウイルスがワクチン株なのか、野外株なのかを検討するという基礎的な研究が必要である。そこで、今年度から麻疹ワクチン接種後1-2週間して発症した3症例から直接ウイルスを分離し、遺伝子解析によりウイルス株の同定を行うことを始めた(堀田)。この3症例の結果は、分離された麻疹ウイルスは全て野外株であることが明らかとなった。今後症例を増やしてさらに検討すべき課題である。最後に、基礎的研究として麻疹ウイルスの中枢神経持続感染系を確立するために、神経病原性を有する株と有しない株を、Balbなどの野生型マウスではなく、免疫能の低下したNODscidマウスを用いて検討を始めている(網)。
3. PML 偽JCウイルスの作製の検討は、ウイルスの効果的培養系の不足しているJCウイルスの特異的増殖機構の解明にとって不可欠の課題である。本年度は、EGFP遺伝子をレポーターとして偽JCウイルス粒子を効果的に作製することに成功した(保井)。agno蛋白は、SV40などでは、自身のRNAに結合してその構造を安定させ、外殻蛋白VP1の合成に関与していることが示唆されてきているが、JCウイルスに関しては不明であった。今年度はJCウイルスのagno蛋白の局在を明らかにし、agno蛋白の結合蛋白を同定しつつある(長嶋)。

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