アミロイドーシスに関する研究

文献情報

文献番号
199900560A
報告書区分
総括
研究課題名
アミロイドーシスに関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
池田 修一(信州大学)
研究分担者(所属機関)
  • 今井浩三(札幌医科大学)
  • 東海林幹夫(群馬大学)
  • 下条文武(新潟大学)
  • 樋口京一(信州大学医学部加齢適応研究センター)
  • 前田秀一郎(山梨医科大学)
  • 石原得博(山口大学)
  • 中里雅光(宮崎医科大学)
  • 馬場聡(浜松医科大学)
  • 森啓(大阪市立大学)
  • 玉岡晃(筑波大学)
  • 山田正仁(金沢大学)
  • 原茂子(虎の門病院分院腎センター)
  • 麻奥秀毅(広島赤十字原爆病院)
  • 河野道生(山口大学)
  • 安東由喜雄(熊本大学)
  • 内木宏延(福井医科大学)
  • 吉崎和幸(大阪大学)
  • 由谷親夫(国立循環器病センター)
  • 高杉潔(道後温泉病院リウマチセンター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
34,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アミロイドーシスは臨床症状が多様であり、かつ特徴的な症状に乏しいため一般に早期診断が困難である。また治療の多くは、対症療法のみである。本研究では種々なアミロイドーシスの発生機序を分子レベルから解明し、有効な治療法を確立することを目的とする。
研究方法
1)ALアミロイドーシス:アミロイド惹起性の免疫グロブリンを産生する骨髄腫細胞の細胞生物学特性を知るために、免疫不全マウスSCIDマウスに遺伝的基盤の異なるヒト骨髄腫細胞株を移植してALアミロイドーシスの発生の有無を検索する(河野)。日本人患者に対するメルファラン+プレドニン(MP)療法の標準的投与量を設定するために、本年度は研究グループの施設で出来るだけ多くの患者に本治療法を繰り返し試みてその効果、副作用の評価を行う(麻奥、今井、安東、池田、中里、山田)。本疾患の確定診断には生検組織の免疫組織化学的検討が不可欠であるが、 ALアミロイドを特異的に認識する抗体は少なく、また入手困難である。精製したALアミロイドに対する種々な抗体を作成し、特異性の高い抗体を得て一般の施設で容易に入手出来るようにする(石原、由谷)。2) AAアミロイドーシス:慢性関節リウマチ患者を対象に内視鏡下の胃十二指腸生検を定期的に行い、早期の本症患者を見い出す。これらの患者に対し抗IL-6抗体を一定の方式で投与することで、本疾患の進展が阻止可能であるかを検討する(高杉、吉崎)。慢性関節リウマチ患者の発病からAAアミロイドーシス発症までの期間とSAA1遺伝子多型との関連を検索し、日本人におけるAAアミロイドーシス感受性を分子レベルから明らかにする(馬場)。また実験的AAアミロイドーシスのマウス系を使用してアミロイドの吸収促進作用のある薬剤を見い出す(石原)。3) FAP:国内・国外で肝移植を受けたFAP患者を一定のプロトコールに沿って定期的に評価する(安東、池田)。変異型のみでなく野性型transthyretinのアミロイド惹起性を検索する目的で、心障害が顕著な30Val→Met、30Val→Leu、38 Asp→Ala transthyretin変異を有する患者の剖検心からアミロイド細線維を抽出可溶化し、これらをmass spectrometryで分析することでアミロイド形成に関与する変異型と野性型transthyretinの役割を明らかに出来る(池田)。FAP患者ではtransthyretinの代謝が低下しており、その意義を明らかにするために本症患者およびtransgenic miceの肝臓からtransthyretin受容体を精製してその構造を決定する。また本受容体の機能を正常者と比較検討する(中里、前田)。4)透析アミロイドーシス:骨嚢胞の進展抑制を目的にEtidoronate disodiumを長期投与して、その効果を判定する(原)。分光蛍光定量法によりin vitroでβ2 microglobulinがアミロイド線維伸長反応を引き起こす蛋白濃度を決定する。またβ2 microglobulinが過剰発現するtransgenic miceを作成し、実験的透析アミロイドーシスモデルを作成する(内木、下条)。4)脳アミロイドーシス:ヒトの脳組織、髄液、血液を用いてAβの加齢による生理的変動を測定し、 Aβの生成・代謝過程に対する加齢の影響を明らかにする。最終的には弧発性Alzheimer病の成因解明を目指す(東海林)。
脳実質へAβアミロイドが沈着するtransgenic mice系列を用いて二次的に生じるtauの異常を検索し、髄液中のtau濃度の測定系を確立する(東海林、森、玉岡)。剖検例、生検例の脳標本を用いて、 Aβアミロイドの沈着が高度な血管壁への炎症細胞浸潤の程度を細胞病理学的に検索し、脳血管アミロイドーシスの血管破綻機序に対する血管炎の関与を検討する(池田、山田、玉岡)。5)マウス老化アミロイドーシス:本疾患マウスを用いて、アミロイド惹起性のapoA-IIの細胞内移動と分泌過程を免疫組織化学的に検索する。またapoA-IIの構造変換を招く因子として、 apoA-II結合蛋白、HDLの酸化とそのレセプター、カルバミル化などに注目して検討を続ける(樋口)。
結果と考察
a) ALアミロイドーシス 河野らはヒト骨髄腫細胞をSCID-hIL6 transgenic miceへ高率よく移植する条件を明らかにした。麻奥らは多発性骨髄腫患者の血清中に存在する遊離L鎖の測定を行い、λ型遊離L鎖の濃度が高い患者ほど本アミロイドーシスを発症しやすいことを見い出した。また今井らはアミロイド原性L鎖のDNAの一次構造を決定し、そのアンチセンス鎖を利用することで本疾患の新たな治療法の開発を検討している。山田らは3例のALアミロイドーシス患者に大量デキサメサゾンとα?インターフェロンの併用療法を行い、通常の治療法に抵抗を示す患者では試みる価値があることを報告した。石原らは本疾患アミロイドを免疫組織化学的に診断しうる抗免疫グロブリンL鎖抗体の作成を行い、組織切片への適応を検討中である。 
b) AAアミロイドーシス 高杉らはRAに合併したAAアミロイドーシスに対する消化管生検の部位別陽性頻度を検討した。その結果、十二指腸第二部(92.1%)、十二指腸球部(92.1%)、S状結腸(81.6%)、胃前庭部(78.9%)、直腸(65.8%)の順でアミロイド沈着を認め、本疾患の早期診断目的では十二指腸の生検が有用であることを報告した。また馬場はSAA1遺伝子多型と本疾患との関連を検索し、新たなSAA1遺伝子多型を見い出した。吉崎らはIL-6シグナル伝達阻害によるSAAの細胞内伝達機構の開明の一段として、SAA1、SSA2、SSA4遺伝子に特異的なmRNAの解析法をRT-PCRで確立した。
c) 家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP) 池田らはFAP患者の剖検心から抽出したアミロイドを化学的に分析して、変異TTRの種類に係わらず野生型TTRと変異型TTRがほぼ等量含まれていることを明らかにした。中里は末梢神経障害が軽微なTTR型FAP患者2例を、安東らは本邦初のFAPのcompound heterozygote1例を報告した。肝移植に関しては池田らが遺伝カウンセリングで発見されたFAP発病早期2例の肝移植の適応について、安東らは肝移植を受けた17名の本症患者の経過観察の中で3名に新たな眼病変が出現したことを報告し、術後の眼科検診の重要性を指摘した。なお今年度は本邦初の脳屍体からの肝移植がFAP患者に行われ、それに続いて生体肝移植に際しFAP患者から摘出された肝臓のドミノ移植が2例に行われた。本研究班では小委員会を設けてFAP患者から摘出された肝臓を利用したドミノ肝移植の指針を作成し、厚生省、日本移植学会を含む関係部署へ報告した。
d) 透析アミロイドーシス 下条らは透析アミロイドーシスのアミロイド沈着病変の周囲に存在する線維芽細胞、軟骨細胞、血管内皮細胞などが種々のサイトカインを産生していることを見い出し、これらが局所の炎症伸展に関与している可能性を指摘した。また本疾患のモデル動物としてβ2microglobulinを過剰産生するトランスジェニックマウスの作成にも成功したことを報告した。内木らは試験管内アミロイイド線維伸長反応系を用いて、酸性領域で重合したβ2microglobulin由来のアミロイイド線維が中性領域では脱重合を起すこと、またこの反応はアポリポ蛋白Eの付加で抑制されることを報告した。原らは本症患者にβ2microglobulinを選択的に吸着するカラムを長期に使用した結果、骨嚢胞の増大化が防止されることを報告し、また同時に破骨細胞の活性化を押さえるetidronate disodiumの投与により本症患者の骨病変の伸展が阻止できることも付け加えた。
e) 脳アミロイドーシス 森らはPC12D培養細胞を用いてPS1変異とAPPの発現量の関連を検討し、PS1の発現量が多いものほどAPPC末断片量が増加することを見い出し、両者の代謝が相互関連があるとした。内木らは試験管内アミロイイド線維伸長反応系を用いてAβ1-40とAβ1-42の相互作用を検討した結果、Aβ1-42が核を形成を行い、これを基にAβ(1-40)が重合反応を起していることを確認した。東海林らはアルツハイマー病脳におけるアミロイド沈着に際してリポ蛋白フリーの可溶性Aβが重要であることを指摘した。玉岡らはアルツハイマー病患者脳の検討からAβ1-42が神経細胞内に蓄積していることを示唆する所見を得た。一方、血小板内に含まれるAβ1-40とAβ1-42は健常対照者とアルツハイマー病患者で差がないことを示した。池田らは脳アミロイドアンギオパチーに起因する脳出血の再発予防に副腎皮質ステロイドホルモンが有用である可能性を提唱した。
f) マウス老化アミロイドーシス 樋口らはマウス老化アミロイドーシスのアミロイド前駆蛋白であるapoA-IIの産生部位をin situ hybridization法で検索した結果、本蛋白が肝臓に加えて胃、小腸、皮膚の特異細胞でも産生されていることが確認され、これらの組織における早期からのアミロイド沈着と関連があることが示唆された。またnon-amyloidogenic B type apoA-IIもamyloidogenic C type apoA-IIの存在下でアミロイド細線維を形成することを明らかにした。
g) その他のアミロイドーシス 前田らは無SAPマウスではインターフェロンで誘導される核蛋白質遺伝子の発現が増強しており、血清中の抗核抗体が非常に高値を示すことを報告した。由谷らはSAPが動脈硬化巣内に存在し、本病変の伸展に伴って増加していることを示した。石原らは手術時に得られた53例の前立腺材料を検索し、13例に精嚢アミロイドーシスの存在を見い出した。これらのアミロイドは免疫組織化学的に精嚢で産生されるlactoferrin由来であることが確認された。
中川らは1998年度1年間のアミロイドーシス疫学像を明らかにするためにALアミロイドーシス、AAアミロイドーシス、透析アミロイドーシスの3型を対象に全国疫学調査を行った。その結果全国推計患者数は、ALアミロイドーシスが510人、AAアミロイドーシス1800人、透析アミロイドーシス4500人と推計された。特に透析アミロイドーシスは過去の疫学調査に比べて大幅に増加していた。                                                                                 
h)今後の問題点としては以下の点が考えられた。
1. アミロイドーシス全体の疫学調査は未だ不完全であり、種々なアミロイドーシスの診断基準を確立して全国の患者動向をより正確に把握すべきである。
2. ALアミロイドーシスでは未だ早期診断が困難であり、相当進行した患者が治療の対象となっているため、その予後が不良である。本疾患の早期診断法の開発が必要である。
3. AAアミロイドーシスの基礎疾患としてはわが国では圧倒的に慢性関節リウマチであるが、SAA遺伝子多型との関連を含めてAAアミロイドーシスを発症しやすい成因を開明し、可能ならば予防的措置を取れるようにする。
4. FAPではMet30TTR型以外の病型の病態を検索し、肝移植の適応基準の作成を行う。また心病変が前景に立つ病型では循環器専門医にその存在を十分認識してもらい、早期診断の実施に努める。
5. 透析アミロイドーシスでは現在行われている治療法をさらに確固なものとしていく。
6. 脳アミロイドーシスではAβアミロイドの沈着機序の詳細をさらに開明する。また脳アミロイドアンギオパチーに関連する脳血管障害については脳生検の適応、手技などの検討も行う。
結論
平成11年度は ALアミロイドーシス患者にDexamethazone大量投与+αinterferon療法、AAアミロイドーシス患者に対するcyclosporin療法の有用性が示された。またFAPでは本邦初の脳屍体からの肝移植が本症患者に行われ、それに続いて生体肝移植に際しFAP患者から摘出された肝臓のドミノ移植が2例に行われた。本研究班では小委員会を設けてFAP患者から摘出された肝臓を利用したドミノ肝移植の指針を作成し、厚生省、日本移植学会を含む関係部署へ報告した。さらに脳アミロイドーシスでは患者血中にリポ蛋白から遊離したAβ分子種があり、この前駆蛋白が脳アミロイド形成に重要であること、透析アミロイドーシスでは破骨細胞の活性化を押さえるetidronate disodiumの投与により本症患者の骨病変の伸展が阻止できることなどの研究成果があがった。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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