原発性高脂血症に関する調査研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900559A
報告書区分
総括
研究課題名
原発性高脂血症に関する調査研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
北 徹(京都大学医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 斉藤康(千葉大学医学部)
  • 松澤佑次(大阪大学医学部)
  • 馬渕宏(金沢大学医学部)
  • 山田信博(筑波大学医学部)
  • 及川真一(日本医科大学)
  • 佐々木淳(福岡大学医学部)
  • 太田孝男(琉球大学医学部)
  • 岡田知雄(日本大学医学部)
  • 江見充(日本医科大学老人研)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
23,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高脂血症は、動脈硬化、腎症、膵炎などの発症と深く関わりがあり、その病態解明は治療法の開発につながるため、臨床的にも極めて重要である。今回私どもの班においては原発性高脂血症の実態調査と病態解析をさらに進め、特に家族性複合型高脂血症の基礎的、および臨床的病態解析を行う。遺伝因子と環境因子の相互作用の検討においては、高脂血症と合併症との関連、および合併症を増悪させる要因を解析することにより合併症である虚血性心疾患を初めとする動脈硬化性疾患の発生を低下させることを目的とする。また、小児期に発現する遺伝性素因による脂質代謝異常症の、その後の環境因子による変化の推移を小児期から成人まで追跡調査し、遺伝素因と環境因子の相互作用を検討し、高脂血症と合併症との関連及び合併症を増悪させる要因を解析していく。また、従来粥状動脈硬化症との関連が示唆されていた高リポ蛋白(a)血症と粥状動脈硬化症との関連について日本国民における実態を調査、研究することをも目的とする。
研究方法
(1)当研究班で解析を開始した家族性複合型高脂血症(FCHL)に注目し、これまで進められてきた家系調査の解析を進める。対象(高脂血症者と正脂血症者)の年齢及び性別分布の影響、年齢及び性別分布の偏り、二次性高脂血症者やFCHL以外の原発性高脂血症の除外を徹底させる。(2)原因遺伝子解析についてはFCHLに特異的なリポ蛋白リパーゼ遺伝子異常の可能性や連鎖解析可能な家系の蓄積を目標とする。(3)小児でのIIb型高脂血症とFCHLの関係を明確にし、成人の解析をあわせて動脈硬化性疾患との関連を考慮した新たな臨床指標の確立をめざす。小児期から成人期への経過観察を行うことにより高脂血症と合併症との関連及び合併症を増悪させる要因を解析していく。(4)原発性高脂血症による合併症の基礎的、および臨床的解析については、これまでの調査研究で原発性高脂血症の臨床症状との関連がかなり明確になってきた。これまでの研究は高脂血症の発症要因に偏っており、今後は合併症の防止を中心としたものになっていくべきではないかと考えられる。特に、遺伝因子と環境因子の相互作用の検討等は、今後積極的に調査されるべきであろう。この研究の延長として、これらの解析を進めていきたい。具体的には小児高脂血症患児の解析を通して環境要因の関与について調査する。(5)高リポ蛋白(a)血症と粥状動脈硬化性疾患との疫学的、基礎的研究においては、粥状動脈硬化症の独立した危険因子でありながらその病態が明らかになってない原発性の高脂血症で、これまでの原発性高脂血症班会議における研究対象となってなかった疾患に高リポ蛋白(a)血症について調査したい。本斑の発足時にはこの疾患の原因や重要性が明らかでなかったことよりその研究が遅れている。最近になりその原因となるアポ(a)の構造が明らかになり、その測定法が普及してくるなど研究の素地が出来つつある。したがって本疾患の頻度、および粥状動脈硬化性疾患との関わりを通じて病態及び治療法を研究することは次期斑の研究対象として大いに意義があると考えられる。
結果と考察
(1)原発性高脂血症の実態調査と病態解析、においては本年度は家族性複合型高脂血症(以下FCHL)の病態解析を中心に重点的に調査した。まず成人のFCHLに関しては3つの班員により研究成果が発表された。まず、千葉県安房地区の住民検診受診者を対象に、FCHLの特徴的高脂血症表現型であるIIb型高脂血症につ
いて検討した結果、過去3年間で2回以上TC220mg/dl、TG200mg/dlを呈する住民を抽出することによりFCHLの患者絞り込みに有用であるという結論に至った。この方法で抽出したIIb型高脂血症を呈する住民118名の家系調査を行い、FCHL32家系を同定した。その中で中性脂肪の分解に関与するリポ蛋白リパーゼ(LPL)活性の測定を行ったところ、FCHL患者においては正常対照群に比べ、LPL蛋白量、活性ともに有意に減少しており、FCHL発症におけるLPL遺伝子の関与が示唆された。また、北陸地方におけるFCHLの調査においても、40家系の調査が行われた。その家系における調査により、脂肪酸代謝に重要な役割を演じていると考えられているPPARα遺伝子の変異を見いだし、この変異保因者において総コレステロール、中性脂肪値いずれも高値をとる傾向が認められた。この結果より、PPARα変異体がFCHL患者の血清脂質値に影響を及ぼす可能性が示唆された。また、日本人ではないが、ユタ州におけるFCHL家系における調査においてはLDL受容体の変異による病態の修飾が示唆され、また、コレステロールエステル転送蛋白(CETP)遺伝子多型のリポ蛋白値多様性への関与も示唆された。従って、今年度においてはFCHLそのものの原因遺伝子の同定には至らなかったが、その病態を修飾しうるいくつかの遺伝子が同定された。残念ながら、本年度のFCHLの解析においては、診断基準にばらつきがみられたため、来年度以降にその診断基準を統一し、さらに病態に関与する因子の解析を進める予定である。
小児における高脂血症を調査した結果、小児おいてⅡb型高脂血症を呈する場合はFCHLである可能性が高く、小児のⅡb型高脂血症はFHと同様に注意深い観察が必要と考えられた。また、今回の調査においては小児におけるFHの頻度が0.2%と報告され、これまで成人において推定されていた値にほぼ近い頻度が世界で初めて報告された。小児と成人では同じ遺伝的背景があってもその表現型には大きな違いが認められ、何らかの環境因子が遺伝因子に加わる事で成人の表現型が完成される可能性が強いことが明らかになった。また、小児のIIb型高脂血症は殆どが家族性複合型高脂血症であった。また、学童期においても脂質調査が行われ、FCHLが疑われる症例の頻度が0.75%と報告された。このように小児期に発現する遺伝性素因による脂質代謝異常症の、その後の環境因子による変化の推移を小児期から成人まで追跡調査し、遺伝素因と環境因子の相互作用を検討し、高脂血症と合併症との関連及び合併症を増悪させる要因を解析していく予定である。また、学童期までにFCHLが疑われる症例においては家族歴を詳細に検討するとともに、今後適切に管理していくための方法を考慮する必要性が感じられた。
これまで高HDL血症と動脈硬化の関連を検討してきたが、今年度はさらにHDLを介した動脈硬化防御機構として、末梢組織に蓄積したコレステロールの引き抜き似関与する分子機構をHDL欠損症であるタンジール病をモデルに検討した。その結果低分子量G蛋白質であるCdc42の発現がタンジール病では低下しており、Cdc42が細胞骨格や小胞輸送に重要であることから、コレステロール引き抜き機構を考え得る上で興味深いと考えられる。
潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患において動脈硬化との関連が深いLp(a)が高値を示すことが示された。クローン病などにおいては炎症の程度に応じて血漿Lp(a)値が増加していた。手術施行例においてはその増加が認められたことから、Lp(a)の上昇はクローン病の予後に関係する可能性が考えられた。
新たなアポA-I、アポEの変異体を見いだし、特にアポE変異体がリポ蛋白糸球体症患者より検出されたことから、複数のアポE変異によりリポ蛋白糸球体症が発症する可能性が示唆された。
今年度においてはFCHLそのものの原因遺伝子の同定には至らなかったが、その病態を修飾しうるいくつかの遺伝子が同定された。残念ながら、本年度のFCHLの解析においては診断基準にばらつきが認められたため、来年度以降にその診断基準を統一し、さらに病態に関与する因子の解析を進める予定である。また、小児における高脂血症を調査した結果、小児と成人では同じ遺伝的背景があってもその表現型には大きな違いが認められ、何らかの環境因子が遺伝因子に加わることで成人の表現型が完成される可能性が強いことが明らかになった。今後は小児期に発症する遺伝素因による脂質代謝異常症の、その後の環境因子による変化の推移を小児期から成人まで追跡調査し、遺伝素因と環境因子の相互作用を検討し、高脂血症と合併症との関連及び合併症を増悪させる要因を解析していく予定である。また、学童期までにFCHLが疑われる症例においては家族歴を詳細に検討するとともに、今後適切に管理していくための方法を考慮する必要性が感じられた。
結論
本年度の研究を通してFCHLの病態の多様性がさらに明らかとなったが、今後はさらにその主要な合併症である虚血性心疾患との関連においてさらに検討が必要となろう。また、小児期における血清脂質のスクリーニングにより、高脂血症の早期発見とその家系調査によるFCHL、家族性高コレステロール血症の早期発見、早期治療により、血管合併症の発症を未然に防ぐ必要があると思われる。

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