副腎ホルモン産生異常に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900557A
報告書区分
総括
研究課題名
副腎ホルモン産生異常に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
宮地 幸隆(東邦大学医学部第一内科)
研究分担者(所属機関)
  • 名和田新(九州大学医学部第三内科)
  • 岡本光弘(大阪大学医学部生化学・分子生物学)
  • 猿田享男(慶應義塾大学医学部内科)
  • 諸橋憲一郎(岡崎国立共同研究機構基礎生物学研究所)
  • 加藤茂明(東京大学分子細胞生物学研究所分子系統分野)
  • 藤枝憲二(北海道大学医学部小児科)
  • 田中廣壽(東京大学医科学研究所ウイルス疾患診療部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
31,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
(1)副腎腫瘍の自律的ホルモン産生機序と診断・治療に関して、分子生物学的手法を駆使して明らかにし、それに基ずく新しい診断法と治療法の開発を目指す。一方副腎偶発腫瘍のlongitudinalな疫学的長期予後調査を行う。(2)先天性副腎低形成の原因として副腎の発生・分化に関するAd4BP、DAX-1などの転写調節因子の異常およびそれらの制御についての研究を行う。(3)副腎性血圧異常による高血圧症は内分泌性高血圧の中で重要である。ミネラルコルチコイド作用過剰による高血圧、特発性アルドステロン症、偽性低アルドステロン症の病態の解明と診断法の確立を検討する。11β-hydroxysteroid dehydrogenase(11βHSD)2の測定法、各組織内分布を研究する。(4)ステロイドホルモン不応を来す病因としてグルココルチコイドレセプターの転写調節共役因子の異常や酸化還元状態を検討する。以上本研究で対象とした疾患の病因の解明、診断法や治療法の発展、副腎ホルモンの合成および作用について分子生物学的研究などを目的とする。
研究方法
(1)副腎腫瘍の自律的ホルモン産生機序と診断・治療:副腎腫瘍でのCYP17の発現調節因子としてCOUP-TFおよびN-CoRの関与、ヒトHDL受容体遺伝子CLA-1の発現を検討した。原発性アルドステロン症の新しい診断法としてACTHまたはACTHおよびAT1拮抗薬負荷副腎静脈採血法の有用性、治療法として副腎腺腫の腹腔鏡手術について検討した。一方副腎偶発腫瘍のlongitudinalな疫学的長期予後調査も開始した。(2)先天性副腎低形成(先天性アジソン病)におけるDAX-1遺伝子異常:副腎の発生・分化に関与するAd4BP、DAX-1などの転写調節因子の異常とそれらの制御について研究した。(3)副腎性血圧異常症の成因と機序:ミネラルコルチコイド作用過剰による高血圧時の組織障害とLOX-1との関連、塩誘導性キナーゼ(SIK)の活性化、特発性アルドステロン症でのCYP11B1、CYP11B2遺伝子並びにキメラ遺伝子の発現、ミネラルコルチコイドレセプターAB領域の2つの転写活性化領域、偽性低アルドステロン症I型の家系でミネラルコルチコイドレセプター遺伝子の変異などを分析した。11β-hydroxysteroid dehydrogenase(11βHSD)2の測定法、胎盤やヒト胎児肺組織での遺伝子発現、11βHSD1の下垂体での存在ならびにアルドステロンと心筋の線維化などについて研究した。(4)ステロイドホルモン不応症:病因としてグルココルチコイドレセプターの転写調節共役因子の異常や酸化還元状態を検討した。
結果と考察
(1)副腎腫瘍の自律的ホルモン産生機序と診断・治療:17α-hydroxylase(CYP17)は、F-1及びCOUP-TFが相互拮抗的に結合することにより正または負に転写が調節されるが、副腎腫瘍ではCOUP-TFおよびN-CoR及びこれらに動員結合するcoactivatorまたはcorepressorの比率が転写の方向を規定する。Cushing症候群および原発性アルドステロン症の副腎皮質腺腫では、HDL受容体遺伝子CLA-1の発現が増加し、HDL cholesterol esterを取り込み、ステロイドホルモンの自律的産生機序に重要な役割を担っている。原発性アルドステロン症は、ACTH負荷副腎静脈採血法でアルドステロンが1400ng/dl以上の場合、アルドステロン過剰分泌を確認でき治療を正しく行うことができ、またACTH連続負荷ならびにAT1受容体拮抗薬投与下の副腎静脈サンプリングによるアルドステロン測定も有用であることも示された。原発性
アルドステロン症を呈する副腎腺腫の腹腔鏡手術は患者回復のパラメータに関して開腹手術より優れており、腹腔鏡手術の最も良い適応症である。このように副腎腫瘍について腫瘍化や自律的ホルモン産生獲得機序の一部の解明ならびに臨床的に診断法と治療法の改善が成果として得られた。
(2)先天性副腎低形成(先天性アジソン病)におけるDAX-1遺伝子異常:DAX-1はX-染色体連鎖型先天性副腎皮質低形成の原因遺伝子であるが、DAX-1異常症に見いだされたC368Y変異ではDAX-1のサイレンシング機能を失っていた。DAX-1の副腎皮質での発現はテストステロンにより制御を受け、DAX-1発現の性差の原因となることが明らかにされた。先天性副腎皮質低形成の原因の一つとして副腎の発生・分化に関わるDAX-1遺伝子異常が明らかにされた。
(3)副腎性血圧異常症の成因と機序:DOCAおよび食塩投与高血圧ラットの大動脈および腎臓に内皮型新規酸化LDL受容体LOX-1の遺伝子発現が著明に増強し、LOX-1の発現と組織障害の関連が明らかにされた。高塩食で飼育したラットの副腎皮質で特異的に塩誘導性キナーゼ(SIK)の転写が活性化され、ステロイドホルモン合成酵素の遺伝子発現の調節に密接に関連することが示された。特発性アルドステロン症でCYP11B2遺伝子の発現が増強しており、CYP11B2遺伝子5'-上流領域のC463Tホモ変異の症例で、転写活性が亢進していた。ミネラルコルチコイドレセプター(MR)ではAB領域に2つの転写活性化領域(AF1)があり、TIF2,p300のみがAF1の転写を活性化するがその間に直接の結合はなく未知の因子が存在することが示唆された。偽性低アルドステロン症I型の家系でミネラルコルチコイドレセプター遺伝子に機能喪失L924P変異がヘテロで認められた。尿中遊離コルチゾールとコルチゾンの比から腎11βHSD2活性を検討し、11βHSD2がアルドステロンからは独立したミネラルコルチコイド作用の調節因子であることを明らかにした。11βHSD2は胎盤においては胎児を過剰なグルココルチコイドから防御する役目を持っており、11βHSD2活性が低下すると、出生時の体重低下や成熟後の耐糖能の低下が示された。11βHSD2はミネラルコルチコイドレセプターと同時にヒト胎児肺組織に広く存在しており、グルココルチコイド療法時の治療効果の修飾やlung liquidの制御に関与していることが示唆された。11βHSD1は下垂体のcorticotrophには発現していないが、ACTH産生下垂体腫瘍には発現しており、Cushing病でのグルココルチコイドによるネガティブフィードバック異常との関連が示された。アルドステロンによる心筋の線維化をDHEAが抑制し、心機能の低下を改善する可能性が示された。
(4)ステロイドホルモン不応症:AP-1を結合出来る55KDの蛋白因子を同定し、これがクロマチンのremodelingに関与しグルココルチコイド生理作用の相互排他的な抑制作用を担うkey分子である可能性が示された。遺伝子導入系として優れたVSV-Gシュードタイプレトロウィルスベクターも開発した。細胞質内の酸化還元状態がGRの細胞内局在の制御を通じてグルココルチコイド作用を修飾しグルココルチコイド抵抗性と関連することが明らかにされた。
副腎偶発腫瘍全国調査の概要:全国の200床以上の1014病院に、初回の副腎偶発腫瘍全国調査票を送付した。平成12年1月31日現在367医療機関(36.2%)より2032例の副腎偶発腫瘍の報告があった。また一般人口における副腎偶発腫瘍の頻度を算出するため平成11年の1年間に人間ドックでの腹部超音波検査で発見される副腎偶発腫瘍は26344人中6人で、約4500人に1人であった(東京、新赤坂クリニック 松木隆央先生)。
結論
以上のように本研究で対象とした疾患の病因の解明、診断法や治療法の発展、副腎ホルモンの合成および作用について分子生物学的研究など多くの成果があげられた。

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