間脳下垂体機能障害に関する調査研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900556A
報告書区分
総括
研究課題名
間脳下垂体機能障害に関する調査研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
加藤 譲(島根医科大学医学部内科学第一)
研究分担者(所属機関)
  • 斉藤 寿一(自治医科大学内分泌代謝科)
  • 寺本 明(日本医科大学脳神経外科学)
  • 青野 敏博(徳島大学医学部産科婦人科学)
  • 大磯 ユタカ(名古屋大学医学部内科学)
  • 橋本 浩三(高知医科大学内科学)
  • 木村 時久(古川市立病院)
  • 田中 敏章(国立小児病院小児医療センター)
  • 長村 義之(東海大学医学部病態系病理学)
  • 島津 章(京都大学医学研究科臨床病態検査学)
  • 巽 圭太(大阪大学医学部臨床検査診断学)
  • 千原 和夫(神戸大学医学部内科学)
  • 宮崎 康二(島根医科大学医学部産科婦人科学)
  • 村上 宜男(島根医科大学医学部内科学)
  • 横山 徹(東京医科歯科大学難治疾患研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
21,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
間脳下垂体機能障害は、多彩な病変に基づくホルモン分泌異常症であり、生命予後と生活の質(QOL)の両面において治療の不可欠な病態である。本研究においてはプロラクチン(PRL)、ゴナドトロピン、抗利尿ホルモン (ADH) の3種類の下垂体ホルモン分泌異常症、ならびに上記以外の下垂体ホルモン分泌異常を伴った複合性下垂体ホルモン分泌異常症を調査研究の対象とする。平成11年度以後においては、これまでの研究過程でとくに重要と考えられる1) 難治性高PRL血症、2) Kallmann 症候群、3) 家族性中枢性尿崩症、4) 自己免疫性視床下部下垂体炎、5) 複合性遺伝性下垂体ホルモン障害、6) 成人下垂体前機能低下症を中心として、これらの疾患の病態解明に基づく新しい診断法や治療法の開発を目的とする。
研究方法
以下のように分担して研究を行い、総括した。加藤 譲(間能下垂体機能障害の疫学、病態、診断、治療について), 斉藤 寿一(中枢性尿崩症の病態と新しい診断法の確立), 寺本 明(難治性プロラクチン産生下垂体腺腫の発生、増殖における受容体、転写因子の意義), 青野 敏博(ゴナドトロピン分泌異常症の病態), 大磯 ユタカ(家族性中枢性尿崩症の分子生物学的解析と疫学的調査), 橋本 浩三(下垂体自己免疫異常と抗下垂体抗体), 木村 時久(中枢性尿崩症の病態と鑑別診断), 田中 敏章(ゴナドトロピン分泌異常症の診断), 長村 義之(下垂体腫瘍の転写因子について), 島津 章(下垂体腫瘍における受容体の発現と機能解析および血管免疫異常について), 巽 圭太(下垂体ホルモン欠損症の病因遺伝子と病態に関する研究), 千原 和夫(プロラクチン遺伝子発現機構と病態), 宮崎 康二(プロラクチン産生細胞における細胞内情報伝達系の解析), 村上 宜男(成人下垂体前機能低下症の疫学と病態), 横山徹(間脳下垂体機能障害の疫学的解析)
結果と考察
1)プロラクチン(PRL)分泌異常症。PRL産生腫瘍細胞GH3においてブロモクリプチンによるアポトーシス誘導機構にp38MAPキナーゼが関与することを見い出した。新転写因子mPOUによるPRL遺伝子発現増幅作用機序を解明した。下垂体前葉細胞のNO産生はE2、GRHおよびLHRHの調整を受け、NO合成酵素の補酵素テトラヒドロビオプテリンはNO産生を介してPRL分泌に抑制的に作用することを見出した。
2)ゴナドトロピン分泌異常症。Kallmann症候群の家族例および弧発例を対象に、本邦におけるKAL遺伝子の変異の頻度を検討した。小児期の中枢性性腺機能低下症の診断におけるHCGテストとLHRHテストの有用性について比較検討した。摂食促進物質オレキシンが性機能を障害する可能性が示唆した。新しいFSH-GnRHパルス療法は、ゴナドトロピン療法の副作用を軽減する投与法として有用であることを明らかにした。偶発性下垂体腺腫 pituitary incidentaloma は、非機能性腺腫と同様に潜在的にゴナドトロピン分泌能を有する腫瘍であることを明らかにした。非機能性下垂体腺腫における転写因子Ptx1およびNeuroD1の局在について検討し、Ptxはゴナドトロピン産生腺腫の機能発現に、NeuroD1はゴナドトロピン産生腺腫の機能分化に各々関与する可能性を示唆した。
3)抗利尿ホルモン (ADH)分泌異常症。家族性中枢性尿崩症2家系において新しい遺伝子異常を見出した。これらの変異遺伝子の発現実験から、家族性中枢性尿崩症の発症には変異ADH前駆体蛋白の小胞体内貯留に基づく細胞壊死が関与することが示唆された。ADHの抗利尿作用部位である腎集合尿細管のAVP感受性の水チャネル、アクアポリン(AQP)2について臨床的ならびに実験的に検討し、副腎皮質機能低下状態における水利尿不全は、AQP2産生系の賦活化亢進に由来することを明らかにした。尿中AQP2測定は腎のAQP2反応性の指標として臨床的に有用度が高いことを明らかにした。SIADHでは血漿 AVP濃度に比較して抗尿反応は低下しAVP escape現象を来す。動物実験において、escape現象はAVPのV2受容体の抑制で生じること、体液量増大や血漿浸透圧低下などの要因が関与することが示された。129mEq/l以下の低ナトリウム血症のうちSIADHは60%、高齢者は80%を占め、炎症性サイトカイン誘発によるAVP分泌亢進があると考えられた。
4)下垂体ホルモン複合欠損症。自己免疫性視床下部下垂体炎における自己抗体について検討した。下垂体サイトゾール抗原(22kDa)に対する抗体は、リンパ球性下垂体炎で高い陽性率を示したが疾患特異性は低かった。ヒト下垂体膜分画抗原(68、49、43kDa)に対する抗体は頻度は低いがリンパ球性下垂体炎に特異性が高く、発病初期に陽性となり治療経過とともに抗体価が低下する可能性が示された。家族性複合性下垂体ホルモン欠損症の原因となるヒト Prop-1 cDNAのクローニングを行い、転写活性化能と正常下垂体での発現について検討した。 Prop-1 遺伝子の発現はACTH産生腺腫や非機能腺腫で認められた。Prop-1はPit-1遺伝子のエンハンサーとして機能する以外に、直接または他の転写因子を介してACTH、LH、FSH遺伝子の発現調節に関与する可能性が示唆された。国際的な小児GHDの診断と治療のコンセンサスガイドラインに基づいて、わが国の成長ホルモン分泌不全性低身長症の診断の手引きを改訂する案が示された。
5)疫学実態調査。疫学研究班と協同で施行した第一段階調査で得られた自己免疫性視床下部下垂体炎、Kallmann症候群および家族性中枢性尿崩症の3疾患を対象として、個々の患者の血清ヒト下垂体抗体、遺伝子検査を施行して病態解析を進展させた。第二段階としてPRL、ゴナドトロピン、ADH分泌異常症の患者数調査を施行した。得られた推定患者数は、各々、13,360例、13,800例、6,400例であった。第三段階として、次年度以後に成人下垂体機能低下症を対象とした疫学調査を施行する準備を進めた。
結論
PRL、ゴナドトロピン、ADH分泌異常症の診断や病態の解明において飛躍的な成果を得た。しかし生命予後とQOLの改善を目的にした治療に関して残された領域は果てしなく大きい。難治性高PRL血症はドパミン作動薬が無効で手術による根治の不可能な病態であり、新しい治療薬の開発が必要である。Kallmann 症候群や家族性中枢性尿崩症における遺伝子異常の検索は、これらの異常と発症樹序との関係を解明することによって、初めて治療に結びつくと考えられる。ADH生物活性の新しい指標である尿中アクアポリン2の測定系(RIA)はADH分泌異常症の新しい解析法として有用と考えられる。診断に応用するためには、測定系の確立と一般化に向けてさらに努力する必要がある。ゴナドトロピン産生下垂体腫瘍の分子機能的新分類を確立して新しい治療の指針を作成する必要がある。自己免疫性視床下部下垂体機能低下症の診断に不可欠な自己免疫異常評価法を確立する必要がある。器質的疾患による成人下垂体機能障害は高脂血症、骨粗鬆症、動脈硬化を伴い、これまでのホルモンに加えてゴナドトロピンやGH 補償によりQ.O.L.が改善する可能性が高く正確な診断と新しい治療法を早急に確立する必要がある。いずれにおいても国際的な医療レベルを考慮してさらに研究を継続することが不可欠である。

公開日・更新日

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