ホルモン受容機構異常に関する研究

文献情報

文献番号
199900555A
報告書区分
総括
研究課題名
ホルモン受容機構異常に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
清野 佳紀(岡山大学医学部小児科学)
研究分担者(所属機関)
  • 女屋敏正(山梨医科大学医学部第三内科)
  • 小西淳二(京都大学医学研究科放射線科学核医学)
  • 紫芝良昌(虎ノ門病院内分泌代謝科)
  • 妹尾久雄(名古屋大学環境医学研究所)
  • 對馬敏夫(東京女子医科大学第二内科)
  • 網野信行(大阪大学医学部生体情報医学)
  • 松本俊夫(徳島大学医学部第一内科)
  • 加藤茂明(東京大学分子細胞生物学研究所)
  • 中村浩淑(浜松医科大学第二内科)
  • 森昌明(群馬大学医学部第一内科)
  • 安田敏行(千葉大学医学部小児科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
33,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究班の目的は副甲状腺ホルモン受容体異常を中心とするカルシウム代謝異常症全体の発症機構を解明し、その診断・予防・治療法の開発を行うためと、甲状腺ホルモン不応症、バセドウ病など甲状腺機能異常におけるホルモン受容機構異常の病態を解明し、診断・予防・治療法の開発を行うための、基礎的および臨床的知見を集積し、日常診療に有益な情報を還元する事にある。
研究方法
本研究班は副甲状腺・カルシウム代謝異常を対象とするsubgroupと甲状腺疾患を対象とするsubgroupよりなり、各々独立した形で研究を進めている。副甲状腺・カルシウム代謝異常班では アンケート方式による疫学調査によって患者の実態を調査すること、病態モデル動物(ビタミンD受容体遺伝子ノックアウトマウス、低リンマウス)の解析、PTH/PTHrP遺伝子、ビタミンD受容体遺伝子、カルシウム受容体遺伝子、ビタミンD1α水酸化酵素遺伝子の解析、疾患における変化、腎尿細管由来細胞株を用いた尿細管細胞ホルモン応答性の細胞内情報伝達の解析を行った。甲状腺subgroupでは甲状腺ホルモンの核内動態と転写制御に関わる諸因子の分子生物学的解析、甲状腺自己抗体が関与する病態機構解析のための、モデル動物の作成、免疫学的手段の開発と患者における解析、バセドウ病眼症に関与する基本病態の脂肪細胞培養などを用いた解析等を、行った。
結果と考察
1)副甲状腺・カルシウム代謝異常
本研究班における研究対象疾患の中心は特発性及び偽性副甲状腺機能低下症であるが、本疾患は稀な疾患であり、本邦における疫学像は明らかではない。そこで、1997年より特定疾患の疫学に関する研究班との共同で全国疫学調査を行い、二次調査結果を集計し次のような成果を得る事が出来た。①全国で、特発性副甲状腺機能低下症は900人、偽性副甲状腺機能低下症は430人の患者が存在すると推計された。②有病率に男女差は認めなかった。③自己免疫性疾患の合併は特発性副甲状腺機能低下症で7.6%に見られた。また、先天性疾患の合併も特発性副甲状腺機能低下症で14.7%に見られた。④特発性と偽性副甲状腺機能低下症はintact PTH 30pg/mlを境として明確に分離された⑤従来の診断基準から3例の偽性副甲状腺機能低下症II型症例が分離されたが、症例を検討した結果、独立疾患と考えるにはいくつかの問題があると考えられた。これらの成果は、副甲状腺ホルモン分泌の調節の中心であるカルシウム受容体(Casr)遺伝子異常による副甲状腺機能低下症の診断基準作成、偽性副甲状腺機能低下症亜型分類のための新しい診断基準の作成などに、利用される。
病態に対する研究はCasrを中心に進められ、①Casrは破骨細胞のみならず、破骨細胞前駆細胞にも存在し、細胞外Ca濃度上昇は少なくとも一部Casrを介し、破骨細胞の骨吸収活性のみならず、骨吸収因子による破骨細胞分化を抑制する ② Casr遺伝子プロモーター領域をクローニングし、ヒトCasr遺伝子は少なくとも二つのプロモーターを有し、副甲状腺腺腫ではこの内の一つのプロモーターにより産生されるCasrが低下することを見いだした。これらの成果は 副甲状腺ホルモン異常症における骨病変や副甲状腺の異常増殖の治療における重要な情報となる。
偽性副甲状腺機能低下症の診断には腎尿細管の副甲状腺ホルモンに対する反応性の有無の検討が重要であり、腎尿細管のホルモンに対する応答性の機構を解明することが必要である。本年度はホルモン応答性の尿中ライソゾーム酵素遊離の情報伝達がPKC およびCa2+-calmodulin kinaseに依存性であることを明らかにした。また、ヒトPTH/PTHrP受容体P3プロモ-タ-解析を行い連鎖解析に有用と考えられるAAAG 反復配列遺伝子多型を発見した。
治療においては、ビタミンDの作用を十分に理解することが必須であり、本年度は①ビタミンD作用が筋細胞分化の制御に重要な役割を果たすこと②低リン血症性ビタミンD抵抗性くる病のビタミンD抵抗性は活性型ビタミンDの異化の亢進によること③ビタミンD受容体の核への移行には154-173 のアミノ酸が重要であること④1α(OH)ase遺伝子プロモーター解析により、負のビタミンD応答領域を同定し、この領域に働く腎特異的転写因子の存在を示した などの成果が得られた。
2)甲状腺
甲状腺ホルモン不応症 (RTH)は、甲状腺ホルモンに対する反応性の低下した病態で、?型甲状腺ホルモン受容体(TR)遺伝子の点突然変異が同定されている。従って、その発症には変異TR?が正常TRの機能を抑制するドミナントネガティブ作用(DNE)を解明することが重要で、その目的のため甲状腺ホルモンの核内動態を検討し ①変異TRαがα、β両方のTR機能を抑制すること ②異常TRのDNE発現にはコレプレッサーの結合が必要要因であること ③新規に同定された転写共役因子p120は、甲状腺ホルモン受容体ばかりでなく、PPARγのコアクチベターとしても機能し、ヘテロダイマーのRXRを介して結合する。甲状腺ホルモンの作用発現に重要な各種因子が同定され、ホルモン応答性の機序がさらに明らかになった。
一方、甲状腺疾患の大半を占めるバセドウ病において、現在、診療上重要と考えられる諸問題の解決のため、これらの問題の根底にある病態機構の解明を行い以下の成果を得た。
バセドウ病においては自己抗体の産生が病態の中心であるが、①甲状腺内のリンパ球ではTh1/Th2バランスの明らかな偏りは見られずINF-γとIL-4ともに産生するtype 0のリンパ球が甲状腺内でより増加している。②高感度のTBII測定開発によってバセドウ病甲状腺中毒症は全てTSH受容体抗体によって発生している。 ③刺激型抗TSH受容体抗体産生リンパ球から免疫グロブリン遺伝子を単離し、トランスジェニツクマウス作成し、今後の機能解析に供することが可能となつた。④バセドウ病I-131治療後の甲状腺機能低下症には、阻害型TSH受容体抗体の関与は否定的である。等の成果を得た。
バセドウ病眼症は治療上最も重要な合併症である。この発症機序における①細胞外基質を形成するGlycosaminoglycan(GAG)のsulfation(S化)の異常の詳細②外眼筋と甲状腺の共通蛋白としての新たな蛋白myocilinの自己抗原としての可能性を示すとともに、③T3は脂肪細胞の分化に重要な転写因子PPARγ2を転写レベルで増加させることにより脂肪細胞の分化に関与し、ひいては球後の脂肪組織の肥大、眼症の発症に関与していることが明らかとなった。これらの成果は、バセドウ病の新しい正確な診断・新しい治療法の開発に大きく貢献するものと考えられる。
結論
副甲状腺・カルシウム代謝異常subgroupにおける本年度の成果によって、副抗甲状腺機能低下症の新しい分類とその診断基準の作成が可能となってきた。また、ビタミンD受容体、ビタミンDの代謝が明らかになったことは、より安全な治療法へのアプローチの一歩となるものと考えられる。これらは更には、本領域の新しい病態発見に繋がることが期待される。甲状腺subgroupの本年度の成果もまた、甲状腺ホルモン不応症の病態理解に大きく貢献する成果であるとともに、頻度の高いバセドウ病の病態解析・治療にも直接還元し得るものと考えられる。

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