難治性血管炎に関する調査研究

文献情報

文献番号
199900552A
報告書区分
総括
研究課題名
難治性血管炎に関する調査研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
橋本 博史(順天堂大学医学部膠原病内科)
研究分担者(所属機関)
  • 小林茂人(順天堂大学医学部)
  • 居石克夫(九州大学大学院医学研究科)
  • 鈴木和男(国立感染症研究所)
  • 津坂憲政(埼玉医科大学総合医療センター)
  • 中島伸之(千葉大学医学部)
  • 沼野藤夫(東京医科歯科大学医学部)
  • 安田慶秀(北海道大学医学部)
  • 由谷親夫(国立循環奇病センター)
  • 吉木敬(北海道大学医学部)
  • 吉田雅治(東京医科大学八王子医療センター)
  • 中林公正(杏林大学医学部)
  • 尾崎承一(京都大学医学部)
  • 金井芳之(東京大学医科学研究所)
  • 濱野慶朋(順天堂大学医学部)
  • 鈴木登(聖マリアンナ医科大学難病治療センター)
  • 松岡康夫(川崎市立川崎病院)
  • 吉田俊治(藤田保健衛生大学医学部)
  • 川崎富夫(大阪大学医学部)
  • 松尾汎(国立循環奇病センター)
  • 有村義宏(杏林大学医学部)
  • 徳永勝士(東京大学大学院医学系研究科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
45,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
これまでの難治性血管炎に関する研究成果をふまえ、難治性血管炎の成因と病態発症機序の解明を図り、その成果を臨床的診断と治療に還元し、さらなる患者の予後の改善とQOLの向上を目指すことを目的とする。対象とする疾患は多岐にわたるが、特に大型血管炎では高安動脈炎(TA)を、中小型血管炎では抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎{顕微鏡的多発血管炎(MPA)、ウェゲナー肉芽腫症(WG)、アレルギー性肉芽腫性血管炎(AGA)}に関する研究を重点課題とした。
研究方法
以下の小委員会を設置し研究を進めた。
1、病因・病態に関する小委員会;確立された血管炎モデル動物と難治性血管炎症例を用いて、血管炎感受性候補遺伝子の解析、病態発症に関わる免疫異常、副シグナル、細胞内シグナル伝達異常などの検討を行った。2、ANCAに関する小委員会;モデル動物におけるMPO-ANCA産生関連遺伝子の解析を行うと共に真菌誘発性血管炎モデルマウスにおけるMPO欠損遺伝子導入の実験を行った。責任抗体を明らかにするためにANCAの反応するエピトープの解析を行った。ANCA関連血管炎の治療に関するEBMの解析を行った。3、臨床に関する小委員会;高安動脈炎の予後と重症度分類の妥当性を検討した。中・小型血管炎における免疫抑制薬の有用性について解析すると共にQOL評価票の有用性を検討した。
4、他研究班からの研究協力者の参画;病因・病態に関する研究では、横断的基盤研究班より、QOL評価票作成では特定疾患に関する疫学研究班および特定疾患患者のQOLの判定手法の開発に関する研究班より研究協力者の参画を得た。5、倫理面への配慮;1)動物実験に際しては、あらかじめ実験計画書をしかるべき部署へ提出し審査を受け、その許可のもとで行った。2)疫学調査への協力ならびに検体の提供を受ける患者さんにはあらかじめその目的と方法を説明し同意を得た。
結果と考察
1、病因病態に関する研究結果
MRL/lprマウスの糸球体腎炎の候補遺伝子の一つにオステオポンチン(OPN)の関与が見出されているが、OPNの蛋白多型による機能を解析した結果、MRL型OPNは脾細胞にIgG3の産生を誘導すると共にサイトカイン発現の亢進をもたらし病態発症への関与を示唆した。HTLV-1 env-pXトランスジェニックラットにおける血管炎の発症にはT細胞の成熟過程におけるenv-pX遺伝子の関与が重視されるが、免疫抑制的に働くCD25CD4陽性T細胞を経時的に観察した結果、正常ラット脾細胞で増加がみられたのに対してenv-pXラットでは認められず、病態形成への関与を示唆した。抗リン脂質抗体症候群患者のβ2グリコプロテイン I(β2GPI)反応性CD4陽性T細胞株を解析した結果、主にβ2GPIのp244-264を認識したが、拘束クラスII分子はDR9に限らず多様であった。患者T細胞株はTh0-Th2型細胞を示した。血管炎ないし抗リン脂質抗体陽性SLEではTCRζ鎖の低下発現を認め、これはζ蛋白のpost-transcriptional regulationが影響を受けていることによると考えられた。MRL/lprマウスからCa+/DNA結合蛋白質を欠失させたNuc-KOマウスでは血管代謝に重要なアルギノサクシネート合成酵素(ASS)が腎由来免疫複合体中に認められ、またDNase Iと異なるDNase Kが著しく高いことを認めた。低酸素負荷にて誘導される小胞体局在の蛋白であるORP150に対する抗体は動脈硬化症以外の血管病変においても認められた。74kDaの血管内皮細胞に対する抗体は高安動脈炎で特異的に検出され、その抗体価は疾患活動性と相関することが示唆された。
2、ANCAに関する研究結果
(NZBxNZW)F1xNZW退交配マウスを用いてMPO-ANCA産生関連遺伝子の同定を試み、マウス第7染色体のセントロメア側に抗体産生関連領域の存在を認めた。Candida albicans extract(CAE)誘導血管炎発症マウスではMPO欠損遺伝子を導入すると血管炎の発症は低下するもMPO-ANCAは陽性を示し、対応抗原としてCAEないしこれにより誘発された分子が考えられた。ANCAの反応エピトープを解析した結果、PR3-ANCAが反応する主要エピトープはPR3のc端側1/2から3/4の部分に存在し、抗HMG1/HMG2抗体の反応エピトープはLinker領域を含むその周辺部にあることを示唆した。ANCA関連血管炎の治療に関するEBMによる解析を行い、免疫抑制薬の有用性とシクロフォスファミドのパルス療法が経口投与に比べ副作用が少ないことを確認した。また、予後規定因子の検討結果から早期の病態診断と適切な免疫抑制療法が重要であると考えられた。。
3、臨床に関する研究結果
高安動脈炎に関する全国調査により長期生存例の増加を認め、重症度分類でI度、II度の症例が約3分の2を占めた。病型分類の中ではIIb型,IV型, V型が予後不良であった。腹部大動脈瘤におけるVEGFの局在を検索し、瘤壁に浸潤した単球、マクロファージなどの炎症性細胞に発現を認め血管新生への関与を示唆した。血管炎や動脈硬化における核内受容体PPARの局在を検索し、PPARαは主に中膜平滑筋、特に新生血管の中膜で強く発現しており、PPARγは泡沫化マクロファージの核に発現していることを認めた。高安動脈炎では瘤の組織性状と超音波検査所見が関連し、超音波検査の有用性を示した。バージャー病の累積再発回避率は10年で80%、20年で58%であった。中・小型血管炎における免疫抑制薬の有用性に関する調査結果では、顕微鏡的多発血管炎、ウェゲナー肉芽腫症、悪性関節リウマチで生存率の向上がみられた。中・小型血管炎患者のQOL評価票に関して、結節性多発動脈炎、ウェゲナー肉芽腫症、アレルギー性肉芽腫性血管炎、悪性関節リウマチなど73例の中間報告では、寛解・非活動性が約半数を占め、重症は6%であった。ウェゲナー肉芽腫症では、血管炎の分布、活動性指標として鼻腔、頭部、肺の白血球シンチの取り込みとLDHの経時的な測定が有用であることを明らかにした。
結論
血管炎発症モデル動物におけるいくつかの疾患感受性候補遺伝子およびANCA産生関連遺伝子を見いだした。分子生物学的手法により病態形成に関わる免疫異常について進展をみた。PR3-ANCAおよび抗HMG1/HMG2抗体の反応エピトープを明らかにした。ANCA関連血管炎では、免疫抑制薬、特にシクロフォスファミドのパルス療法が副作用少なく有用であることを認めると共に予後不良因子を明らかにした。高安動脈炎では長期生存例の増加を認めたが、病型分類ではIIb型,IV型,V型が予後不良であることを明らかにした。また、超音波による診断が有用であることを認めた。中・小型血管炎のQOL評価票の検討を行い妥当性のあることを認めた。これらに加え、今年度はANCA関連血管炎患者の遺伝的解析と各種ANCA測定法の感度、特異度、再現性の検討を開始した。

公開日・更新日

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