文献情報
文献番号
199900550A
報告書区分
総括
研究課題名
血液凝固異常症に関する調査研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
中川 雅夫(京都府立医大学)
研究分担者(所属機関)
- 朝倉英策(金沢大学)
- 池田康夫(慶応義塾大学)
- 岡嶋研二(熊本大学)
- 岡村 孝(九州大学)
- 垣下栄三(兵庫医科大学)
- 川崎富夫(大阪大学)
- 小嶋哲人(名古屋大学)
- 坂田洋一(自治医科大学)
- 辻 肇(京都府立医大学)
- 広沢信作(東京医科歯科大学)
- 藤村欣吾(広島大学)
- 藤村吉博(奈良県立医科大学)
- 丸山征郎(鹿児島大学)
- 宮田敏行(国立循環器病センター)
- 和田英夫(三重大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)および特発性血栓症を対象疾患とし、基礎的ならびに臨床的研究を行うことを目的とする。
研究方法
略
結果と考察
略
結論
1)ITP、TTP:ITPにおける抗血小板抗体の産生には血小板膜蛋白GPIIb-IIIaを認識するCD4陽性T細胞が重要な役割を果たすことが明らかにされてきている。池田らは、GPIIb、GPIIIaの部分断片を発現する7つのリコンビナント融合蛋白を用いて、23例のITP患者末梢血中のGPIIb-IIIa反応性T細胞が認識するGPIIb-IIIa上のエピトープ領域を検討した。7つのGPIIb、GPIIIa融合蛋白はITP患者末梢血T細胞により様々な組み合わせで認識され、特にGPIIb、GPIIIaともにN末端側をコードする融合蛋白がそれぞれ48%、57%のITP患者末梢血T細胞により認識された。さらに、ITP患者5例から樹立したGPIIb-IIIa反応性CD4陽性T細胞株のうち、単一のGPIIb、GPIIIa融合蛋白と反応する8株についてはいずれもHLA-DR拘束性で、おもにGPIIb、GPIIIaのN末端側を認識した。これらGPIIb-IIIa反応性T細胞株は自己末梢血または脾臓B細胞から抗GPIIb-IIIa抗体産生を誘導した。以上より、抗血小板抗体産生を誘導するGPIIb-IIIa反応性T細胞が認識する主要なエピトープはGPIIb、GPIIIaのN末端側の細胞外ドメインに存在することが明らかにされた。一方、ITPにおける主要な血小板減少機序は、網内系細胞によるFcRを介する血小板抗体結合血小板の貪食反応によると考えられ、摘脾が有効であることの根拠とされる。しかし摘脾の有効性は60%に留まり、その有効性を術前に予測する手段はないのが現状である。藤村(欣)らは、Fc(Rの遺伝子多型の解析結果において、Fc(RIIAの遺伝子多型は摘脾や薬物療法の有効性には関係を認めないが、Fc(RIIIAの158番目がVal/Val(V/V)タイプはPhe/Val(F/V)、Phe/Phe(F/F)タイプに比し摘脾奏効率が低く、むしろ薬物療法の有効例が多い傾向にあり、F/V、F/Fタイプは摘脾の奏効率が高い傾向にあることを示した。このことは、Fc(RIIIA遺伝子多型の解析が治療法の選択における有用性を示唆すると考えられた。ITPとの鑑別について問題となるMay-Hegglin 血小板異常症(巨大血小板、血小板減少症および顆粒球Dohle様封入体を3主徴とする)の生化学的異常は同定されておらず、異常蛋白の同定から異常遺伝子の同定へと解析を進めることができないのが現状である。小嶋らは、同症の原因遺伝子同定のために連鎖解析を行い、その責任遺伝子座を22q12.3-13.2(D22S280からD22S272)の13.6cMの領域と同定した。近年、動脈血栓形成にフォンビルブランド 因子(vWF)の機能を規定するマルチマー構造の調節物質の異常が関与することが推察され、 そのひとつとしてvWFを特異的に切断する血漿中の酵素(vWFプロテアーゼ) が注目される。藤村(吉)らは、先天性慢性反復性血栓性血小板減少症として知られ、少量の血漿輸注で血小板減少が改善するUpshaw-Shulman症候群(USS) 2家系において、vWFプロテアーゼ活性を検討した。USS患者はvWFプロテアーゼ遺伝子のホモ接合体欠損症、両親はヘテロ接合体欠損症と考えられ、新鮮凍結血漿(FFP)の輸注によりvWFプロテアーゼ活性のわずかな上昇と、血小板数の増加を認め、TTPの病態並びに治療法を考察するうえで有用な成績と考えられた。一方、垣下らは骨髄移植後のTTPの
発症における免疫抑制剤のcyclosporin A (CsA)ならびにtacrolimus (Tc) の血小板凝集に及ぼす影響を検討し、これらが要因になることを示唆する成績を報告した。
2)血液凝固異常症の成因・治療:血管内皮細胞が血栓形成の制御に重要な役割を果たしていることが知られる。岡嶋らは、アンチトロンビン(AT)が血管内皮細胞表面上のグリコサミノグリカンと相互作用することで、血管内皮細胞からのプロスタサイクリン産生を促進し、臓器障害発生を抑制すること、またTNF-alphaやIL-1beta、LPSなどの刺激による血管内皮細胞表面上の白血球接着因子の発現増加を濃度依存的に有意に抑制することを報告した。一方、丸山はエンドトキシン(LPS)による低血圧性ショックを惹起する際の原因メディエ-タ-として、内因性カンナビノイド(内因性マリファナ様物質)のアナンダマイドと2-AG が初期メディエ-タ-として重要であることを報告した。また、坂田らは、未解明な点の多い白血球エラスターゼなどの細胞由来プロテアーゼを介する線溶機構の役割について検討し、白血球エラスターゼによる線溶機構は、プラスミノゲンアクチベータ-プラスミン系の線溶機構を代償する反応系となる可能性を示すとともに、両反応系にプラスミノゲン関連因子を介する密接な連関が存在することを示唆した。一方、ビタミンA誘導体(レチノイド)が白血病細胞における組織因子(TF)の発現低下及びthrombomodulin(TM)の発現増加をもたらし、抗凝固効果を発揮することが報告されている。広沢らは、活性型ビタミンD3 [1,25(OH)2D3](以下D3)においても、レチノイドと同様の抗凝固作用を認め、D3の新規誘導体である22R-Me-20-epi-1,25(OH)2D3(KY3)とoxacalcitriol(OCT)が、単球系細胞においてTFの発現低下及びTMの発現上昇を遺伝子転写レベルでもたらし、抗凝固作用を発揮することを明らかにした。また、D3及びD3誘導体は、腫瘍壊死因子や酸化低比重リポ蛋白による凝固促進活性をも抑制することが報告された。
3)特発性血栓症など:特発性血栓症に関する研究において、凝固制御因子であるプロテインC(PC)およびアンチトロンビン(AT)の先天性欠損が静脈血栓症の素因となることが明らかにされるが、動脈閉塞症への関与は明確ではない。宮田らは、先天性PCならびにAT欠損症患者の臨床背景を検討し、PC欠損症ではAT欠損症に比べ、動脈閉塞症への関与が大きいこと、さらにその発症に高血圧や高脂血症などの要因が寄与していることも明らかにした。一方これらの疾患の治療に関連し、辻らはHuH-7細胞においてRNA/DNAオリゴヌクレオチド(RDO)による遺伝子変異導入を試み、本法が点突然変異を原因とするような各種特発性血栓症の治療にも有用である可能性を示唆した。さらに、血液凝固第V・VIII因子合併欠損症家系におけるERGIC-53遺伝子の解析結果より、本疾患の原因となる他の蛋白の存在を岡村らは示唆した。深部静脈血栓症(DVT)の簡易診断法の開発と評価が、川崎らによりCTを用いて行われた。CTで大腿筋束断面積比1.2以上では中枢型DVTを認め、容易に急性期DVTの診断が可能と考えられた。一方,DICの病態解析において動物DICモデルが用いられるが、組織因子(TF)およびlipopolysaccharide(LPS)により誘発される病像は異なると考えられる。朝倉らは両モデルを検討し、TFモデルは線溶優位型DICに、 LPSモデルは凝固優位型DICに類似したモデルであることを示した。さらに、.両モデルに対してエンドセリン受容体拮抗薬を投与したところ、LPSモデルに対してのみ臓器障害の改善がみられ、薬効評価にあたってモデルの相違が留意点として重要であることを報告した。一方、中川らはエンドセリンのDICの病態の成立における役割を検討し、エンドセリンは培養ラット血管内皮細胞においてAおよびB レセプターを介して、血管内皮細胞を血栓形成方向に導くことを示し、DICの多臓器不全の成立、進展に関与すると推測した。和田らは、多施設共同研究によるGlobal Testの評価を行い、松田試案と厚生省のDIC診断基準の一致率が、造血器腫瘍79.3%、非造血器腫瘍69.7%と報告した。Fibrinogenは特異度は高いが、感度は低く、特に非造血器腫瘍では有用性が低かった。PT比はCut off値を下げることにより、感度・特異度とも増加した。FDPはCut off値を下げることにより、感度ならびに特異度を改善させた。PT比のCut off値を下げ、非造血器腫瘍のFibrinogenを除いた修正案は、ほぼ厚生省のDIC診断基準と一致し、非造血器腫瘍Pre-DICの36.8%をDICと早期診断し得ると報告した。
発症における免疫抑制剤のcyclosporin A (CsA)ならびにtacrolimus (Tc) の血小板凝集に及ぼす影響を検討し、これらが要因になることを示唆する成績を報告した。
2)血液凝固異常症の成因・治療:血管内皮細胞が血栓形成の制御に重要な役割を果たしていることが知られる。岡嶋らは、アンチトロンビン(AT)が血管内皮細胞表面上のグリコサミノグリカンと相互作用することで、血管内皮細胞からのプロスタサイクリン産生を促進し、臓器障害発生を抑制すること、またTNF-alphaやIL-1beta、LPSなどの刺激による血管内皮細胞表面上の白血球接着因子の発現増加を濃度依存的に有意に抑制することを報告した。一方、丸山はエンドトキシン(LPS)による低血圧性ショックを惹起する際の原因メディエ-タ-として、内因性カンナビノイド(内因性マリファナ様物質)のアナンダマイドと2-AG が初期メディエ-タ-として重要であることを報告した。また、坂田らは、未解明な点の多い白血球エラスターゼなどの細胞由来プロテアーゼを介する線溶機構の役割について検討し、白血球エラスターゼによる線溶機構は、プラスミノゲンアクチベータ-プラスミン系の線溶機構を代償する反応系となる可能性を示すとともに、両反応系にプラスミノゲン関連因子を介する密接な連関が存在することを示唆した。一方、ビタミンA誘導体(レチノイド)が白血病細胞における組織因子(TF)の発現低下及びthrombomodulin(TM)の発現増加をもたらし、抗凝固効果を発揮することが報告されている。広沢らは、活性型ビタミンD3 [1,25(OH)2D3](以下D3)においても、レチノイドと同様の抗凝固作用を認め、D3の新規誘導体である22R-Me-20-epi-1,25(OH)2D3(KY3)とoxacalcitriol(OCT)が、単球系細胞においてTFの発現低下及びTMの発現上昇を遺伝子転写レベルでもたらし、抗凝固作用を発揮することを明らかにした。また、D3及びD3誘導体は、腫瘍壊死因子や酸化低比重リポ蛋白による凝固促進活性をも抑制することが報告された。
3)特発性血栓症など:特発性血栓症に関する研究において、凝固制御因子であるプロテインC(PC)およびアンチトロンビン(AT)の先天性欠損が静脈血栓症の素因となることが明らかにされるが、動脈閉塞症への関与は明確ではない。宮田らは、先天性PCならびにAT欠損症患者の臨床背景を検討し、PC欠損症ではAT欠損症に比べ、動脈閉塞症への関与が大きいこと、さらにその発症に高血圧や高脂血症などの要因が寄与していることも明らかにした。一方これらの疾患の治療に関連し、辻らはHuH-7細胞においてRNA/DNAオリゴヌクレオチド(RDO)による遺伝子変異導入を試み、本法が点突然変異を原因とするような各種特発性血栓症の治療にも有用である可能性を示唆した。さらに、血液凝固第V・VIII因子合併欠損症家系におけるERGIC-53遺伝子の解析結果より、本疾患の原因となる他の蛋白の存在を岡村らは示唆した。深部静脈血栓症(DVT)の簡易診断法の開発と評価が、川崎らによりCTを用いて行われた。CTで大腿筋束断面積比1.2以上では中枢型DVTを認め、容易に急性期DVTの診断が可能と考えられた。一方,DICの病態解析において動物DICモデルが用いられるが、組織因子(TF)およびlipopolysaccharide(LPS)により誘発される病像は異なると考えられる。朝倉らは両モデルを検討し、TFモデルは線溶優位型DICに、 LPSモデルは凝固優位型DICに類似したモデルであることを示した。さらに、.両モデルに対してエンドセリン受容体拮抗薬を投与したところ、LPSモデルに対してのみ臓器障害の改善がみられ、薬効評価にあたってモデルの相違が留意点として重要であることを報告した。一方、中川らはエンドセリンのDICの病態の成立における役割を検討し、エンドセリンは培養ラット血管内皮細胞においてAおよびB レセプターを介して、血管内皮細胞を血栓形成方向に導くことを示し、DICの多臓器不全の成立、進展に関与すると推測した。和田らは、多施設共同研究によるGlobal Testの評価を行い、松田試案と厚生省のDIC診断基準の一致率が、造血器腫瘍79.3%、非造血器腫瘍69.7%と報告した。Fibrinogenは特異度は高いが、感度は低く、特に非造血器腫瘍では有用性が低かった。PT比はCut off値を下げることにより、感度・特異度とも増加した。FDPはCut off値を下げることにより、感度ならびに特異度を改善させた。PT比のCut off値を下げ、非造血器腫瘍のFibrinogenを除いた修正案は、ほぼ厚生省のDIC診断基準と一致し、非造血器腫瘍Pre-DICの36.8%をDICと早期診断し得ると報告した。
公開日・更新日
公開日
-
更新日
-