難聴によるコミュニケーション障害と補聴器による改善効果の評価法に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900526A
報告書区分
総括
研究課題名
難聴によるコミュニケーション障害と補聴器による改善効果の評価法に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
岡本 牧人(北里大学)
研究分担者(所属機関)
  • 小寺一興(帝京大学)
  • 細井裕司(奈良県立医科大学)
  • 大沼直紀(筑波技術短期大学)
  • 廣田栄子(国際医療福祉大学)
  • 松平登志正(北里大学)
  • 米本 清(岩手県立大学)
  • 岩崎 聡(浜松医科大学)
  • 泰地秀信(国立病院東京医療センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫・アレルギー等研究事業(感覚器障害研究分野)
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
18,990,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では高齢者に補聴器をうまく役立たせ、それにより彼らが聴覚的コミュニケーションを改善し、QOLを向上できるようになることを目的とする。とくに、補聴器のフィッティングの評価、補聴器の機械的特性の評価(操作性、使いやすさを含めて)、自覚的装用効果の評価、社会的装用効果の評価等につき統一した評価法の作成をめざし、ガイドラインとしたい。1年目は問題点の指摘と評価法の基本案の作成を行う。
研究方法
1.老人性難聴の自己評価および補聴器の必要度の調査:質問紙の作成
2.補聴器装用下検査に関する研究
1)防音室の規格の検討:補聴器装用下検査がISO8253-2の準自由音場条件を満たしているか否かを調べるために、3種類の防音室内の測定を純音にて実施した。
2)装用下検査の普遍性と簡便性を目的としてバーチャルホン(擬似音場オージオメータ:VP)の有用性を検討した。11例の難聴者を対象に裸耳聴力をスピーカ法と擬似音場オージオメータと両者を用いて測定、ヘッドホンによる聴力レベルとの乖離の度合いを検討した。スピーカ法を行った部屋は外来の防音室である。
3.高齢者補聴器装用実態調査と補聴器活用指導、聴能訓練、聴覚リハビリテーションの適応の検討:在宅高齢者93例と、老人保健施設収容高齢者19例について補聴器を適合・指導し、使用の実態を調査した。
4.語音明瞭度検査による補聴器適合状態の評価
1)提示音圧レベルを変えた明瞭度評価(補聴器装用下の語音聴取における最適語音レベルと快適レベル):補聴器フィッティング中に音場で装用状態の評価を行った83症例を対象に、音場裸耳と補聴器装用下の語音聴取において、単音節語音明瞭度が最大となるレベル(最適語音レベル)と快適聴取レベルを測定し、聴覚閾値別に相互の関係について検討を行った。
2)話速変換語音による評価:①時間的要因を取り入れた検査法を開発した。本検査のための音声資料として4単音節を連結して5つの無意味単語を作成した。4種類の話速の音声資料をデジタル信号処理により作成した。この話速変換語音聴力検査を用いて、3種類の信号処理と2種類のAmplitude Compressionを比較評価した。36名の感音難聴者を対象として検査を実施し、採点は単音節単位の正答率によった。②対象は高齢難聴者13名に平均5文節の文章を3種の話速で聞かせた。文章はDATに録音し自由音場にて聴取させた。被検者に口頭で復唱させ、文節ごとの正解率を文章了解度とした。
3)高齢者に施行しやすい語音検査語表の試作:3種類の氏名語表を試作した。
5.補聴器によることばの聞き取りの改善に関する研究:ディジタル音声処理による子音部伸長が感音性難聴患者の会話理解能力を高めるために有効か否かを検討した。
6.補聴器の過渡特性の測定とそれを高めるための器具の開発:補聴器の有効性の有無には過渡ひずみが関与するが、過渡ひずみは測定が困難なためあまり検討がされていない。今回、過渡ひずみを持続時間・パワーレベルから検出する方法を考案し、実際に測定を行った。また過渡ひずみについて理論的に検討した。
結果と考察
1.質問紙:質問紙は3つに構成した。第一は本人の個人情報や補聴器に対する期待度の調査、第二は聞こえに関する50項目の質問、最後は、調査施設に対する質問で、聴力などの患者情報である。補聴器装用前と装用時の2種類を作成した。
2.補聴器装用下検査の条件に関する検討 1)比較的広い防音室においてもISO8253-2による検査室の条件を満足しないことが分かった。従って、臨床現場で使用される多くの防音室における聴覚検査の結果には問題があると思われた。
2)VPの有用性の検討:VPによる聴力レベルの方が、ヘッドホンによる聴力レベルと一致する傾向があり、標準偏差もスピーカ法より小さく、VPによる測定がスピーカ法と同程度あるいはそれ以上に信頼性の高いものであると裏付けられた。このことは本検査法により補聴器装用下検査が飛躍的に普及する可能性を示している。擬似音場聴力検査システムは従来の音場検査と比較して、体動の影響、検査室の無響性の影響がなく測定値の安定性が高い、検査室の広さが不要である、検査の度に校正を行う必要がない、という点で優れており、簡便に補聴効果の測定を行い、今後も広がると思われる補聴器適合に一定水準を保証する上でも信頼性の高い有用な検査と考えた。
3.高齢者補聴器装用実態調査と補聴器活用指導、聴能訓練、聴覚リハビリテーションの適応法の検討:在宅高齢者の62%、要介護高齢者の47%で、補聴器使用を認め、高齢者の補聴器装用の有効性を示した。補聴器使用に至った高齢者では、①補聴器操作・管理能力、②日常生活機能、③社会的行動、④精神機能の水準が維持されていることが明らかになった。高齢者の補聴器適応の際には、同評価法を用いて、補聴器形の選択、装着・操作・管理の指導、家族の協力などについて、総合的なリハビリテーション計画を作成することの重要性が示唆された。
4.語音明瞭度検査による補聴器適合状態の評価 1)提示音圧レベルを変えた明瞭度評価:①音場聴覚閾値が10dB上昇すると最適語音レベルの下端値は5dB上昇することがわかった。②裸耳、補聴時とも最適語音レベルは快適レベルより高い値となる傾向が見られた。③会話レベル(65dBSPL)が最適語音レベルに到達していない例が多く、補聴器適合の評価基準として「最高明瞭度が得られること」はやや厳しすぎ、「ラウドネスが適度であること」が妥当と考えられた。
2)話速変換検査:話速を遅くすると聞き取りがよくなることがわかった。補聴器への応用についての問題が指摘された。
3)3種類の語表を試作した。①親族呼称了解検査:「おじいさん」と「おじさん」のような韻律的特徴の違いや、「おじいさん」と「おにいさん」のような音韻的特徴の違いを含んだ10の単語で構成される親族呼称聴取検査である。②愛称聴取語音検査:「○○ちゃん」と呼ばれる1~2音節愛称単語を110語収集し、母音の列と子音の行に配列させた語表を構成した。③名字聴取語音検査:「○田」と呼ばれる名字単語を89語収集し、母音の列と子音の行に配列させた語表を試作した。これらの検査法は補聴効果の評価に際して被検者の動機づけを保障する上では妥当性が高いものであった。
5.補聴器によることばの聞き取りの改善に関する研究:子音部の伸長はma、na、ra、ta、saの明瞭度を改善し、明瞭度が悪化したのはka、haであった。日本語会話における単音節の出現頻度を考慮すると、子音部の伸長は難聴患者の会話理解能力改善に有効である。
6.補聴器の過渡特性の測定:①補聴器の周波数特性や歪みを理論的に予想するコンピュータプログラムを開発し、実際の測定結果と比較した。導音部の形状の変化に伴う周波数特性の変化についてはほぼ理論値と測定値が一致した。補聴器の過渡ひずみは、外耳道閉鎖により増大することが理論的に予測されたが、実際の測定結果でも外耳道閉鎖により潜時の長い過渡ひずみが生じていた。また、この閉鎖による歪みはベントでは解決できなかった。②マイクロホンの過渡ひずみもかなり大きく、現在の補聴器の限界を示唆するものと考えられた。
結論
自己評定尺度としての「きこえについての質問紙」を作成した。最終的には総数を減らした簡便版を作成し、より施行しやすいものにもっていくのがよいと考えている。
補聴器装用下検査は、厳密にやるには高価な施設が必要となるが、それでも十分ではなく、施設間の比較も困難であることがわかった。バーチャルホンはその点、簡便に行える点で優れていることがわかった。次年度は欠点を含め、実用性を検討していくべきである。
語音を用いた検査は補聴器評価に必須であるが、統一した検査を決定するのはおそらく3年間では困難であると感じた。しかし、客観的評価法としての語音検査の位置づけは明確にしていく必要があるであろう。
補聴器にはことばの聞き取りを改善する可能性もあるし、また、器械固有の問題(歪み)があることも指摘された。問題点の把握が解決につながることを期待したい。
高齢難聴者にも補聴器は有用であるが、うまくつかえるよう指導が必要で本研究班の今後の研究の発展が望まれるところである。

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