中途視覚障害者のQuality of Life(QOL)を早期に改善する情報システムの研究

文献情報

文献番号
199900523A
報告書区分
総括
研究課題名
中途視覚障害者のQuality of Life(QOL)を早期に改善する情報システムの研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
樋田 哲夫(杏林大学)
研究分担者(所属機関)
  • 小田浩一(東京女子大学)
  • 山本晃(杏林大学)
  • 田中恵津子(杏林大学)
  • 西脇友紀(杏林大学病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫・アレルギー等研究事業(感覚器障害研究分野)
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
12,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
中途視覚障害者の低下したQOLを再度向上させるために社会には障害を補償するエイドやリハビリ訓練などが用意されているものの、かならずしも本人や家族がそのことを知っているとは限らず、利用にまで至らない場合がある。このような視覚障害の上に「情報不足」が生む二次的な障害を避けるために、受障早期に関わる病院眼科がイニシアチブをとることは大いに意義があると考えられる。
本研究では、受障直後の中途視覚障害者を対象とした情報提供システムを完成させることを目的とする.機構としては病院内のLANを利用し,病院外のリハビリ訓練やロービジョン眼鏡店などの提供するサービス資源、コストにつき総合的に情報を収集し、提示する。そして提示後の効果を患者自身のQOLの変化という点から評価する。
第一年度の平成11年度は、QOLの評価方法の具体化、提示情報の収集、電子情報管理サーバの構築、理想的な提示内容・方法の検討を開始し、実際の提示を開始する来年度に備えた。
研究方法
本研究で行う情報システムの開発にあたって、以下の段階をふむ。
1)情報収集とその組織化
視覚障害に関係した情報をできるだけ広範囲に収集する。素材収集にあたっては、エイド・社会制度・リハビリ訓練・障害者団体・民間サービス・リハビリを終えた視覚障害者へのインタビューなど、できるだけ各分野専門の方々の協力を得、確実な素材を集める。またインターネット上に既存の情報も積極的にとりいれる。情報のメディアは限定はしないが、すべて電子化し、一つのコンピュータ上で必要な情報が平易に取り出しやすい形で管理する。
2)電子情報を提示するサーバの構築
システムで保有する電子情報を一つのコンピュータで管理し、必要な情報を誰でも検索しやすい形で保存する。このサーバから設置場所の違う端末に情報が送られるネットワーク管理を行う。
3)外来情報システム提示装置の開発
中途視覚障害者本人、その家族、あるいは今後視覚障害を持つ可能性のある人など、不特定多数に対して、広い意味でのリハビリに関する啓蒙を目的とした情報提示システムを外来待合室に設置する。提示内容は、活用頻度の高いと思われる情報を選んで大型モニタに自動提示させる。このハードウェア・ソフトウェア開発は、2年度目に小田と山本が担当する。
また、エイドに関してはできる限り現物も展示する。初年度はできるだけ最新のエイドについての情報と現物を用意する。
4)ニーズにあった情報提供の実施
すでに視機能低下に伴うQOLの低下を自覚している患者に対して、個別に面談する。ニーズを把握し、必要な情報を選択して伝える。同時にQOLの状態を客観的に把握し(後述)、情報提供の前後で比較する。
3)、4)の臨床場面での情報提供の実施は2年目から開始する。
また、情報システムの内容の改良と情報提供に伴う中途視覚障害者自身のQOLの変化をみるために、システム開発と平行して対象者の生活面での変化を調査する。
5)QOL評価基準の決定
QOLの評価材料として、既存のQOL評価表(例えば、Rosenthal, 1996; 視覚障害者日常生活訓練研究 など)を比較検討し、本研究で使用する評価表を作成する。
6)QOL、得た情報の活用状況の評価
情報提供を受ける前後のQOLの比較を行う。評価材料の一つとして、5)で開発した評価表を利用する。また、個別のインタビューによって、エイドや社会資源の活用状況や心理変化についても記録する。外来情報システムが及ぼす影響については、提示開始前と提示後で、外来患者を無作為に選んでアンケートをとり、利用頻度の高い情報内容に対して知識の有無を比較する。
これらの評価は、臨床運用を本格的に始める2年度から、情報システムの改良と平行して随時、田中を中心として行う。
結果と考察
上記研究過程のうち、本年度終了した点についてまとめる。
1)情報収集とその組織化・電子情報を提示するサーバの構築
提供すべき情報については、十分な量の資料が入手できたが、印刷資料については、電子化の作業が繰り越しとなった。患者にリハビリテーションや、社会適応の方向をより具体的に提示するためには、ビデオなどの資料を用意・作成する必要があると思われたが、これを作ることはできなかった。収集した資料の構造化については、障害者のニーズを聞きながら、必要なものをすばやく提示できるようにカテゴリ分けを終了した。患者のニーズに合わせて構造化した情報を提供する試みはまだパイロット的ではあるが、一定の成果をあげたので、視能矯正学会で報告した。情報提示システムについても、当初予定した機能を満足する基本システムが完成した。
2)QOL評価基準の決定
これまでの主なQOL評価は、視力や疾患別でQOLの低下項目を比較する目的であったり(Mangione, 1998)、あるいは各場面での本人の満足状況を把握することを目的とするものであった(早川, 1996)た。それに対し、本研究の評価の目的は、対象者本人の各場面(課題)ごとのdisabilityの度合いを把握することと、それぞれの問題解決の方法を知識や技術として本人が満足する程度に獲得しているかどうかを把握することに特に重きを置いた。Mangioneらの評価表と湯沢らの評価表に、主に以下のような改変を加えた。
1)回答選択肢に「満足・不満足」という表現を使わず、「支障なくでき満足できる」「やや難しいが解決はできる」「支障はあるが解決方法はしっている」というように行動の評価とそれに対する本人のリハビリの完成度を評価できる表現を用いた。
2)当科ロービジョン外来受診者のニーズ分析と、対応する解決方法として提示する情報が網羅されることを配慮し項目を決定した。
3)結果、移動関連8項目、読み書き・他人とのコミュニケーション関連10項目、外出時の動作関連7項目、身辺整理・家の中での動作関連11項目、社会参加1項目、余暇活動関連3項目、学習・就労・子育て関連3項目、社会制度関連3項目、心理的不安度2項目という配分で試作した。
結論
中途視覚障害者のQOLを早期に改善するための情報提示システムについては、基本システムが構築できたが、情報は電子化されて蓄積されなければならない。提供するべき情報の収集と構造化、ならびに提示方法について、一定の成果を得た。また、その場合のQOLの改善を評価するための尺度のドラフトが完成した。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-