盲聾者を主対象にした任意の触読パターンが作成可能な三次元レーザ・プリンタに関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900522A
報告書区分
総括
研究課題名
盲聾者を主対象にした任意の触読パターンが作成可能な三次元レーザ・プリンタに関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
数藤 康雄(国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 小田浩一(東京女子大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫・アレルギー等研究事業(感覚器障害研究分野)
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
40,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
盲聾者と呼ばれる重複障害者は一般に視覚や聴覚からの情報入力が困難で、触覚が唯一の入力経路になる。このため点字に代表される触読法は彼らにとって極めて重要なコミュニケーション手段となっているが、点字の最大の欠点は、いかに訓練を行なっても後天的な盲聾者などの中には点字の読み書きを修得できない人も多い、ということである。したがって本研究の目的は、3年計画で、①点字の読めない盲聾者などの視覚障害者のために容易に触読可能な浮き出し文字を普通紙に出力できる小型の個人用三次元レーザ・プリンタを開発し、②そのプリンタを用いて触読に最適な浮き出し文字パターンを考案し(例えば英国ではAの浮き出し文字はΛというパターンに対応させている)、③浮き出し文字修得のための効果的な訓練方法を開発することである。
研究方法
研究1年目となる昨年度は、まず半導体レーザ光を照射することによって普通紙に浮き出し文字を印刷できる熱発泡性インクリボンの開発とそのようなインクリボンを用いて普通紙に連続して任意の浮き出し文字を印刷可能とする印刷機構の開発を行なった。その結果、5層からなるインクリボンを開発するとともに、機構が単純になるうえに製品価格を安くできる可能性の高いファイバ方式(半導体レーザは移動台に置かずに集光レンズのみを移動台に載せ、半導体レーザと集光レンズとは光ファイバで接続する機構)を試作した。2年目の今年度は、昨年度開発したインクリボンの欠点(例えば浮き出しパターンの印刷が遅い問題など)を改善することと、光ファイバ方式を用いた三次元レーザ・プリンタの一次試作を行なう。また触読に最適な浮き出し文字フォント・パターンを検討することにする。なお浮き出し文字の評価では晴眼者を被験者としているが、十分な説明と了解を得た上で実施する予定であり(そのうえ被験者は触読動作しか行なわないため)、倫理面の問題はまったくないと考えている。
結果と考察
熱発泡性インクリボンは、レーザ光線を受ける側から順に、耐熱滑性層、基材フィルム、剥離層、熱膨張性インク層、感熱接着層の5層から成り立っている。このうち感熱接着層はレーザ光線の熱によって普通紙に接着し、熱膨張性インク層は同じくレーザ光線で発泡する。発泡状態をレーザ形状計測装置で計ったところ、高さは約200μmで、通常の点字などの高さに比べると低いものの、発泡が急峻であり(つまり空間微分値が大きく)、十分に触読可能であることがわかった。しかしある程度レーザ光線を照射し続けないと発泡層が普通紙に接着しないため、印刷に時間がかかるという問題が発生した。その問題を解決するためには①剥離層がより小さな力で剥離すること、②接着層がより短時間のレーザ光照射で接着すること、のどちらかの改良が必要であるが、今回は主として接着層の改良を行ない(つまり従来のものより接着層の転移開始温度を低くし、転移熱量を下げて)、短時間で発泡層が普通紙に接着できるようにした。なお視覚障害者が一人で取り替えることのできるよう、インクリボンはカセット式の構造とした(リボンの長さは30m、幅は2.5cmである)。
次に三次元レーザ・プリンタ本体の試作(第一次)については、前年度の研究結果より、まず印刷機構部は、機構は単純で安価になる可能性が高い光ファイバ方式とし、その機構を実現するためのX軸・Y軸の移動には、音の静かなリニアモータを用いた。そして光スポットサイズはφ100μmとし、熱源用レーザは出力2Wの半導体レーザを使用した。また安全対策としてレーザ光が外部に漏れない構造とした。試作したプリンタの印字速度は、出力文字パターンの大きさ・寸法によっても変化するが、一例として2cm角の丸ドット文字("ア"文字)をA4一枚(8文字/1行で10行)に出力すると、約9分ほどかかった。これは改良前のインクリボンを用いたときより25%高速になったが、制御アルゴリズムの改良やレンズを移動させるリニアモータの性能改善などで、より一層の高速化が期待できると思われる。
一次試作のもう一つの問題点は、プリンタ本体と制御部の重量が合計で50Kgを越えたことである。しかしそのような結果になった理由は、プリンタ本体の開発を優先し、プリンタを制御する制御部には、制御アルゴリズムの変更が簡単にできるように一般のパソコンを流用したからである。制御部を専用のボード一枚に収めることは、制御アルゴリズムが決まれば技術的にはそう難しいことではないので、目標である大人一人が持ち運びできる程度の寸法・重量にすることは十分に可能である。
給紙部については、50枚程度の普通紙を自動で供給できる方式を用いることにした。またパソコンとの接続部は、本来なら一般的なパラレル接続が望ましいが、今回の一次試作では設計通りの性能が実現できたかの確認を主な目的としたため、プログラム開発が容易なRS232C接続とした。
浮き出し文字作成用ソフトウェアとしては、任意のカタカナ文字を、離散丸パターンまたは連続パターンで作成できるものを開発した。なお浮き出し文字作成ソフトと印刷ソフトは、いずれも世界標準のOSといってよいWindows95/98上で動作する。本プリンタの特徴である三次元パターンの作成については、4-5層程度なら技術的には可能であることがわかった。むしろ任意の立体パターンを作成するためのソフトウェアの方が、どのようなユーザ・インターフェースを持つべきかなど、まだ解決すべき問題点が多いが、ハードウェア開発には大きな問題のないことが確認された。
盲聾者が触読しやすい浮き出し文字パターンの検討は、晴眼者が被験者となって、まずは種々の連続文字パターンを評価した。この結果20代の被験者では、1.5~2.0cm高のカタカナ文字の読み取り率はほぼ100%であった。また文字フォントでは、飾りのないsan-serif系のカタカナが一番触読しやすいことがわかった。ただし読みの速度は、被験者による個人差が大きいこともわかった。今回の検討は、主として連続パターンの文字を対象としたが、今後は離散丸文字ドットパターンとの比較なども行ないたいと考えている。
結論
点字の読めない盲聾者などの視覚障害者のために容易に触読可能な浮き出し文字を普通紙に出力できる個人用三次元レーザ・プリンタの開発を目的として研究を行なった。その結果、浮き出し文字パターンを早く印字できるカセット方式のインクリボンを開発した。また光ファイバ方式のプリンタ本体を試作し、ほぼ満足すべき性能が確認できたが、重量や印字速度などの改善は今後も必要であることがわかった。それらの改善は、来年度の第二次試作において実施していきたい。

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