文献情報
文献番号
199900519A
報告書区分
総括
研究課題名
分子モーター、耳の発生からみた難聴発症機構に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
喜多村 健(東京医科歯科大学)
研究分担者(所属機関)
- 川上 潔(自治医科大学)
- 米川博通(東京都臨床研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫・アレルギー等研究事業(感覚器障害研究分野)
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
38,880,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
感音難聴の発症機構を解明する。そのために、難聴者を対象にして、難聴遺伝子である分子モーター遺伝子と耳の発生に関与するホメオボックス遺伝子の変異の有無、難聴発症前の症例においては遺伝子診断を行う。また、実験動物モデルにおいて分子モーターならびにホメオボックス遺伝子機能を解析し、分子モーター障害による難聴発症とホメオボックス遺伝子による耳の発生・形成のメカニズムを解明する。
研究方法
難聴遺伝子の同定には、原因不明の感音難聴症例、遺伝性非症候群性感音難聴家系の難聴者ならびに血縁者で協力が得られる症例を対象とする。非症候群性遺伝性感音難聴(特発性両側性感音難聴を含む)の臨床的所見、遺伝子解析を研究している全国の臨床医、研究者で設立された共同研究機構(平成9年度に発足)に登録された症例も対象とする。遺伝性難聴家系の症例では、その遺伝形式を検討する。
対象症例ならびに血縁者で本研究に協力が得られる全員から末梢血を採取し、ゲノムDNAを抽出する。抽出したゲノムDNAをPCRにより増幅する。PCR産物をポリアクリルアミドゲル電気泳動により分離し、画像解析装置によりマイクロサテライト多型を検出する。次いでDNAマーカーを用いて、連鎖検定のコンピュータープログラムを用いて、連鎖解析を行う。さらに、連鎖を認めた領域の近傍に位置する複数のマーカーを用いて、多点連鎖解析とハプロタイプ解析を行うことにより原因遺伝子座の領域を特定する。
ミトコンドリア3243変異症例であるMELASの剖検時に得られた側頭骨標本において、ミトコンドリア遺伝子変異と側頭骨病理を検討する。
遺伝子変異wriマウスを十分なネンブタール麻酔下で断頭し、脳組織を直ちに液体窒素にて冷却し、TaKaRa RNA PCR kitにて得られたpoly-A RNAよりRT-PCRを行いcDNAを得る。PMCA2の塩基配列(GenBank No. AF053471)より19種類のprimerを作製し、PCR産物を精製後、自動蛍光シーケンサにて全塩基配列を決定する。ホモ接合体、野生型の塩基配列を専用プログラムで比較し、ホモ接合体における変異部位を同定する。各接合体、他系統のマウスより得たゲノムDNAをPCR増幅し、Val Iによる制限酵素解析を行う。内耳膜迷路を実体顕微鏡下に摘出し、抗Plasma Membrane Ca-ATPase抗体(PMCA抗体)を用いた共焦点レーザー顕微鏡による免疫組織学的観察を行う。
内耳奇形マウスのジャクソンシェーカー(Jackson shaker: js)の原因遺伝子であるキネシン様タンパク質DAK(Deafness-Associated Kinesin)のcDNA、および遺伝子の一次構造情報をもとに、ヒト・マウス間で保存されているキネシンモータードメイン部分にPCRプライマーを作製し、ヒトのBACライブラリーをスクリーニングする。マウスDAKとのホモロジーサーチを行い、ヒトDAK遺伝子のエクソン部分を同定し、RT-PCR、5' raceおよび3' race法を用いて、ヒトDAKに対する完全長cDNAクローンの単離と全一時配列の決定を試みる。
マウスDAK特異的プローブによるin situハイブリダイゼーション、およびDAKペプチド抗体の作製と免疫組織学的検索により、DAK蛋白の組織特異的発現を検討する。
Six4遺伝子ノックアウトマウスの胎児および成体について、形態的観察を行う。また、 ABR法を用いて聴力検査を行う。Eya1遺伝子の保存領域Eyaドメインをベイトにマウス11.5日胚cDNAライブラリーをスクリーニングする。陽性クローンはベイトとプレイを入れ替えてその相互作用が観察されたものを、真の陽性クローンとして引き続き解析する。
対象症例ならびに血縁者で本研究に協力が得られる全員から末梢血を採取し、ゲノムDNAを抽出する。抽出したゲノムDNAをPCRにより増幅する。PCR産物をポリアクリルアミドゲル電気泳動により分離し、画像解析装置によりマイクロサテライト多型を検出する。次いでDNAマーカーを用いて、連鎖検定のコンピュータープログラムを用いて、連鎖解析を行う。さらに、連鎖を認めた領域の近傍に位置する複数のマーカーを用いて、多点連鎖解析とハプロタイプ解析を行うことにより原因遺伝子座の領域を特定する。
ミトコンドリア3243変異症例であるMELASの剖検時に得られた側頭骨標本において、ミトコンドリア遺伝子変異と側頭骨病理を検討する。
遺伝子変異wriマウスを十分なネンブタール麻酔下で断頭し、脳組織を直ちに液体窒素にて冷却し、TaKaRa RNA PCR kitにて得られたpoly-A RNAよりRT-PCRを行いcDNAを得る。PMCA2の塩基配列(GenBank No. AF053471)より19種類のprimerを作製し、PCR産物を精製後、自動蛍光シーケンサにて全塩基配列を決定する。ホモ接合体、野生型の塩基配列を専用プログラムで比較し、ホモ接合体における変異部位を同定する。各接合体、他系統のマウスより得たゲノムDNAをPCR増幅し、Val Iによる制限酵素解析を行う。内耳膜迷路を実体顕微鏡下に摘出し、抗Plasma Membrane Ca-ATPase抗体(PMCA抗体)を用いた共焦点レーザー顕微鏡による免疫組織学的観察を行う。
内耳奇形マウスのジャクソンシェーカー(Jackson shaker: js)の原因遺伝子であるキネシン様タンパク質DAK(Deafness-Associated Kinesin)のcDNA、および遺伝子の一次構造情報をもとに、ヒト・マウス間で保存されているキネシンモータードメイン部分にPCRプライマーを作製し、ヒトのBACライブラリーをスクリーニングする。マウスDAKとのホモロジーサーチを行い、ヒトDAK遺伝子のエクソン部分を同定し、RT-PCR、5' raceおよび3' race法を用いて、ヒトDAKに対する完全長cDNAクローンの単離と全一時配列の決定を試みる。
マウスDAK特異的プローブによるin situハイブリダイゼーション、およびDAKペプチド抗体の作製と免疫組織学的検索により、DAK蛋白の組織特異的発現を検討する。
Six4遺伝子ノックアウトマウスの胎児および成体について、形態的観察を行う。また、 ABR法を用いて聴力検査を行う。Eya1遺伝子の保存領域Eyaドメインをベイトにマウス11.5日胚cDNAライブラリーをスクリーニングする。陽性クローンはベイトとプレイを入れ替えてその相互作用が観察されたものを、真の陽性クローンとして引き続き解析する。
結果と考察
難聴遺伝子において変異が同定されたものは、ミトコンドリア遺伝子3243変異、ミトコンドリア遺伝子1555変異、X連鎖遺伝のDFN3でPOU3F4遺伝子の6塩基の欠失、前庭水管拡大症例において、ヨウ素と塩素輸送因子であるPDS遺伝子の変異を認めた。
MELAS症候群の側頭骨組織からミトコンドリア遺伝子変異3243を検出した。病理組織学的研究では、ミトコンドリア遺伝子変異による蝸牛血管条とラセン神経節細胞の変性を証明した。蝸牛内・外有毛細胞は比較的良好に保存されており、ミトコンドリア遺伝子変異3243変異により、主として蝸牛血管条ならびに蝸牛軸において循環障害が生じて、特異な病理形態を呈する者と想定された。
内耳奇形の実験動物モデルとして、行動異常と難聴を呈する新しい内耳奇形マウスWriggle Mouse Sagamiを検討し、行動異常は優性遺伝、難聴は劣性遺伝で内耳障害はneuroepithelial degenerationであると確認した。原因遺伝子は、Plasma Membrane Ca-ATPase type 2 (PMCA2)で、ホモ接合体においては1234位のグアニンがアデニンに置換(G1234A)されていた。G1234A変異は制限酵素解析より他系統のマウスにはみられず、遺伝子多型でないことが確認された。G1234Aによってアミノ酸は412位においてグルタミン酸からリジンに置換されていた。PMCA抗体は野生型では外有毛細胞の聴毛と内有毛細胞の細胞体に強く染色されるが、ホモ接合体では聴毛の染色性はほぼ消失し、内有毛細胞の染色性も減弱または散発的に消失していた。
内耳奇形マウスのジャクソンシェーカー(Jackson shaker: js)の原因遺伝子であるキネシン様タンパク質DAK(Deafness-Associated Kinesin)については、ヒト・マウス間のシンテニーが保存されていることが判明した。また、この領域は、ヒトでは17番染色体長腕の24-25(17q24-25)領域に存在することを明らかにした。DAKが含まれていると予想されるヒトゲノム由来のBACクローンに対し、ショットガンシークエンスを行い、約53.8kbの塩基配列を決定した。その後、マウスDAKとのホモロジー検索を行い、マウスDAKと高い相同性を示す計10個のエキソンを同定した。この情報をもとに、RT-PCR、5'RACE、3'RACEなどを行うことによりヒトDAKの完全長cDNAを単離した。ヒトのDAKは約3.5kbで、908アミノ酸をコードしており、マウスDAKより1アミノ酸残基多かった。また、ヒトDAKとマウスDAKのホモロジーは、cDNA同士で85.8%、アミノ酸では88.2%と高い値を示し、特にキネシンモータードメインでは98%と非常に高い値を示した。DAKの機能解析を行うための最初のステップとしてRNAプローブを用いたin situハイブリダイゼーション(ISH)およびDAKに対するペプチド抗体を用いた免疫染色を行った。各ステージの胚を用いてISHを行った結果、その発現は臓器非特異的であったが、そのうち特に耳胞、前肢および尾部に強い発現が認められた。また、DAKに対するペプチド抗体を用いた内耳蝸牛管切片の免疫染色の結果、jsマウスにおいて異常が認められた外有毛細胞および内有毛細胞に強い発現が認められた。この発現部位はjsマウスと同様の表現型を示すshaker-1マウスの原因遺伝子として単離されたミオシンVIIa遺伝子と同位置にあり、異なった2種のモーター蛋白質が蝸牛管の神経上皮において相互作用する可能性が示唆された。
脳神経節や耳胞の発生過程で特異的発現のみられるSix4遺伝子破壊マウスはホモ個体も生存可能であった。耳の形態や聴力については、変異がみられなかった。Eya蛋白質の保存領域であるEyaドメインに相互作用する蛋白質を酵母2-ハイブリッド法にて同定した。
MELAS症候群の側頭骨組織からミトコンドリア遺伝子変異3243を検出した。病理組織学的研究では、ミトコンドリア遺伝子変異による蝸牛血管条とラセン神経節細胞の変性を証明した。蝸牛内・外有毛細胞は比較的良好に保存されており、ミトコンドリア遺伝子変異3243変異により、主として蝸牛血管条ならびに蝸牛軸において循環障害が生じて、特異な病理形態を呈する者と想定された。
内耳奇形の実験動物モデルとして、行動異常と難聴を呈する新しい内耳奇形マウスWriggle Mouse Sagamiを検討し、行動異常は優性遺伝、難聴は劣性遺伝で内耳障害はneuroepithelial degenerationであると確認した。原因遺伝子は、Plasma Membrane Ca-ATPase type 2 (PMCA2)で、ホモ接合体においては1234位のグアニンがアデニンに置換(G1234A)されていた。G1234A変異は制限酵素解析より他系統のマウスにはみられず、遺伝子多型でないことが確認された。G1234Aによってアミノ酸は412位においてグルタミン酸からリジンに置換されていた。PMCA抗体は野生型では外有毛細胞の聴毛と内有毛細胞の細胞体に強く染色されるが、ホモ接合体では聴毛の染色性はほぼ消失し、内有毛細胞の染色性も減弱または散発的に消失していた。
内耳奇形マウスのジャクソンシェーカー(Jackson shaker: js)の原因遺伝子であるキネシン様タンパク質DAK(Deafness-Associated Kinesin)については、ヒト・マウス間のシンテニーが保存されていることが判明した。また、この領域は、ヒトでは17番染色体長腕の24-25(17q24-25)領域に存在することを明らかにした。DAKが含まれていると予想されるヒトゲノム由来のBACクローンに対し、ショットガンシークエンスを行い、約53.8kbの塩基配列を決定した。その後、マウスDAKとのホモロジー検索を行い、マウスDAKと高い相同性を示す計10個のエキソンを同定した。この情報をもとに、RT-PCR、5'RACE、3'RACEなどを行うことによりヒトDAKの完全長cDNAを単離した。ヒトのDAKは約3.5kbで、908アミノ酸をコードしており、マウスDAKより1アミノ酸残基多かった。また、ヒトDAKとマウスDAKのホモロジーは、cDNA同士で85.8%、アミノ酸では88.2%と高い値を示し、特にキネシンモータードメインでは98%と非常に高い値を示した。DAKの機能解析を行うための最初のステップとしてRNAプローブを用いたin situハイブリダイゼーション(ISH)およびDAKに対するペプチド抗体を用いた免疫染色を行った。各ステージの胚を用いてISHを行った結果、その発現は臓器非特異的であったが、そのうち特に耳胞、前肢および尾部に強い発現が認められた。また、DAKに対するペプチド抗体を用いた内耳蝸牛管切片の免疫染色の結果、jsマウスにおいて異常が認められた外有毛細胞および内有毛細胞に強い発現が認められた。この発現部位はjsマウスと同様の表現型を示すshaker-1マウスの原因遺伝子として単離されたミオシンVIIa遺伝子と同位置にあり、異なった2種のモーター蛋白質が蝸牛管の神経上皮において相互作用する可能性が示唆された。
脳神経節や耳胞の発生過程で特異的発現のみられるSix4遺伝子破壊マウスはホモ個体も生存可能であった。耳の形態や聴力については、変異がみられなかった。Eya蛋白質の保存領域であるEyaドメインに相互作用する蛋白質を酵母2-ハイブリッド法にて同定した。
結論
本研究では、難聴者を対象にして,分子モーター遺伝子をはじめとする難聴遺伝子の変異を検討し、耳の発生に関与するホメオボックス遺伝子を解析した。また、実験動物モデルにおける分子モーターならびにホメオボックス遺伝子機能を解析し、分子モーター蛋白障害による難聴発症とホメオボックス遺伝子による耳の発生・形成のメカニズムを検討し、難聴発症の複雑なメカニズムの一端を明らかにした。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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