オキュラーサーフェイスの臨床的評価法と外科的リハビリテーション法の開発に関する研究

文献情報

文献番号
199900515A
報告書区分
総括
研究課題名
オキュラーサーフェイスの臨床的評価法と外科的リハビリテーション法の開発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
木下 茂(京都府立医科大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 今西二郎(京都府立医科大学医学部微生物学教室)
  • 佐野洋一郎(京都府立医科大学医学部眼科)
  • 山本修士(大阪大学医学部眼科)
  • 大橋裕一(愛媛大学医学部眼科)
  • 東 範行(国立小児病院眼科)
  • 坪田一男(東京歯科大学眼科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫・アレルギー等研究事業(感覚器障害研究分野)
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
Ocular surfaceを障害させる疾患は多岐にわたるが、その有効な早期臨床評価法および治療法が確立していないために視覚障害者が国内外に数多く生じている。そこで全国に1,000万人規模で存在するとされるドライアイ患者を的確にスクリーニングすることを目的とした簡便な臨床的評価法の開発、および重症化したocular surface疾患に対する有効な外科的治療法として、新しい概念の生体組織を用いた角膜移植の開発とその臨床応用の可能性を探索する。具体的には、異種角膜移植の開発や、羊膜移植による基質移植や角膜上皮幹細胞移植、そして眼表面疾患の原因遺伝子を検索し,その病態発生のメカニズムを解明することにより、それらの遺伝子を標的とした遺伝子導入技術を確立し、拒絶されにくい角膜移植組織の開発という新しいタイプのocular surfaceの外科的リハビリテーション法の開発を目的とする。
研究方法
1) 涙液メニスカス曲率半径(R)を非侵襲性に計測できるシステム(ビデオメニスコメーター)を開発し、その臨床応用を試みた。ドライアイ患者、健常者、および涙点プラグを挿入したドライアイ患者を対象としてビデオメニスコメーターを用いてRを算出し、3群のRを比較検討した。さらにドライアイ患者と健常者におけるRとシルマーI法、綿糸法、およびFluorescein breakup time(F-BUT)との関係について検討した。2) 重症ocular surface疾患と角膜輪部機能障害を合わせ持つ患者に対して、死体から摘出された角膜上皮の幹細胞移植を実施し、角膜の透明治癒率および術後視力を検討した。ocular surface組織が破壊されている場合、上皮形成のための基質として羊膜を用いた。3) 羊膜移植を施行している4医療機関より、凍結保存された羊膜7ロットを入手し、羊膜上皮の走査型電子顕微鏡および光学顕微鏡による形態観察、タネル法によるアポトーシスの検出、EGF、HGFの免疫染色とELISAによるEGF、HGFの定量を行った。 4) マウスを用いて全層角膜移植を施行した。ドナー角膜にsoluble Fas ligandを生じないmutant Fas ligandをアデノウィルスベクターを用いて遺伝子導入し、生着率を検討した。ウィルスベクターは高濃度(108 pfu/ml)と低濃度(105 pfu/ml)の2種類で検討した。各々の濃度における遺伝子導入効率をb―ガラクトシダーゼ遺伝子を組み換えたアデノウィルスベクターを用いて確認した。5) 先天無虹彩42例においてPAX6の変異をPCR-SSCP法、塩基配列決定によって検索した。また、PAX6とプログラム細胞死の関係を生化学的検討するため、PAX6 cDNAを強制発現プラスミドとBcl-2 promoterあるいはBax promoterにつないだCATをreporterとしてCAT assayを行った。さらにPeters奇形にみられた変異体R26G、S363のCAT assayにおける変化を検討した。6) 164家系の角膜疾患患者および家族より同意を得た後,染色体DNA抽出用採血に協力いただいた。格子状角膜変性の原因遺伝子とされるケラトエピセリンをタ-ゲットにした候補遺伝子アプロ-チ法により解析した。7) ポリエチレンイミン、PAMAMデンドリマー、またはカチオニック・リポソームとEBVベクターの複合ベクター(EBV/polyplex、およびEBV/lipoplex)を作成した。ラットおよびラビットの結膜内と前房、ラット膝関節腔、ラットおよびハムスター左心室壁、SCIDマウス移植肝癌に注入し、マーカー遺伝子発現を計測した。肝癌移植マウスにTK遺伝子を導入、
GCV投与による腫瘍増殖とマウスの寿命を計測した。心筋症ハムスター心筋にb2-AR遺伝子を導入し、心機能をエコーで測定した。
結果と考察
1) 涙液メニスカス曲率半径(R)は、ドライアイ患者で有意に小さく、プラグ眼で有意に大きかった。また、Rとシルマ-I 法、綿糸法、F-BUTのいずれにおいても有意な相関を認めた。さらにRのカットオフ値を 0.24 mmとすれば、感度が92.3%、特異度が100%となり、既存の検査に比べすぐれたドライアイの診断のパラメ-タ-になると思われた。2) 角膜上皮幹細胞移植後、角膜の上皮形成が全体の51%において認められた。このうち30%には角膜組織の浮腫が認められたが、その他の眼には角膜の透明化が確認できた。平均視力が0.004から0.02に回復した。角膜の透明化が維持されていた眼については、最終的な平均視力が0.11にまで回復した。3) 7つのロットのうち形態学的に上皮がほぼ消失しているものと脱落しているものが1ロットずつ、減少しているものが2ロット、健常のものが2ロットあった。タネル法では脱落しているものでほぼ100%、減少しているもので約50%、健常のものでわずかにアポトーシス陽性細胞を認めた。また免疫染色およびELISA で、EGFは上皮の健常性と相関したが、HGFは相関を認めなかった。各ロットの臨床経過が不良であったという情報はなかった。4) アデノウィルスベクターでの角膜組織への遺伝子導入は高濃度ベクター溶液で70~90 %の、低濃度ベクター溶液で30~50 %の角膜内皮細胞においてその発現が認められた。これらのドナー角膜組織を用いて同種異系角膜移植を行ったところ、高濃度遺伝子導入では、術後早期に移植片の混濁が認められ、またこの混濁は同系ドナー角膜を用いても同様に認められた。低濃度遺伝子導入では、術後早期の混濁は認められなかったが異系移植片の生着において遺伝子非導入群と有意な差を認めなかった。5) 先天無虹彩では、3例で11番染色体短腕欠損、18例でPAX6変異がみつかった。遺伝子型と表現型に相関はなかった。PAX6とプログラム細胞死Bcl-2、Baxとの関係を生化学的に検討したところ、CAT assay では、PAX6はBcl-2を亢進し、Baxを抑制した。Peters奇形にみられたPAX6変異体では、Bcl-2においては変化がなかったが、Baxへの亢進機能が抑制された。6) 格子状角膜変性症をはじめとして164家系すべての家系で原因となる遺伝子変異を明らかにした。われわれの発見した格子状角膜変性症・型の変異(Pro501Thr)が創始者効果によるものであることを連鎖解析にて明らかになった。従来,原因不明の角膜変性とされた疾患(map-dot-finger dystrophyなど)のなかにもケラトエピセリン遺伝子変異による症例が存在することが判明した。7) 結膜線維芽細胞、虹彩角膜角部、関節滑膜、心筋、腫瘍細胞に高率にマーカー発現を認め、細胞障害や炎症像等を認めなかった.肝癌モデルでは腫瘍の増殖抑制と担癌マウスの延命を、心筋症モデルでは心収縮率、心拍出量の増大、カテコラミン感受性の増強を認めた。
結論
1) ビデオメニスコメ-タ-は、非接触性に涙液貯留を反映すると考えられる下眼瞼涙液メニスカスのRの検査値を与えるため、簡便で有用なドライアイの診断法となり、ocular surface疾患のスクリーニング法として活用できる。2) 種々のocular surface疾患での原因遺伝子の同定および角膜組織への遺伝子導入技術の確立により、難治性疾患に対する遺伝子治療の可能性が期待できる。角膜上皮幹細胞移植や羊膜基質移植、角膜組織への遺伝子導入技術の確立は、「拒絶されにくい」角膜組織の制作へ応用でき、その結果として重症ocular surface疾患に対する新しい外科的リハビリテーションを提供することができると考える。

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