HIVの感染発症阻止方法開発の為のウイルス増殖と細胞反応の分子機構に関する基礎研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900509A
報告書区分
総括
研究課題名
HIVの感染発症阻止方法開発の為のウイルス増殖と細胞反応の分子機構に関する基礎研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
武部 豊(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 田代直人(国立感染症研究所)
  • 木戸博(徳島大学)
  • 原田信志(熊本大学)
  • 松田道行(国立国際医療センター)
  • 岡本尚(名古屋市立大学)
  • 志田壽利(北海道大学)
  • 星野洪郎(群馬大学)
  • 小林信之(長崎大学)
  • 牧野正彦(鹿児島大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 エイズ対策研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
65,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究班は,HIVの感染および発症を阻止する薬剤や治療法の開発を目的として,これらの開発に必須と考えられる(I)HIVの感染成立機構(II)複製増殖機構および(III)感染に対する細胞反応などエイズ発症機序の分子レベルにおける解明を行い,これらの基礎研究に基づき,ウイルス感染防御・発症阻止に関する新規の技術の開発などエイズに対する具体的な保健医療への貢献を目標に研究を進める。また(IV)世界の流行全体の中で日増しにその重要性が高まりつつあるアジア型HIV-1ヴァリアントの構造と機能に関する研究を進め,アジアにおける特色ある研究の展開を目指す。
研究方法
HIVの感染成立およびウイルス増殖機構について分子ウイルス学的手法を用いて解明する。更にこれらに要求される宿主因子群の同定とその機能およびHIV特異的因子との相互作用について,コレセプタ-,情報伝達,プロテア-ゼ等から検討する。またHIV感染細胞に起こる細胞死の分子機構及び非感染細胞死の分子機序を解明する。さらに,HIV-1サブタイプ EやCなどアジアにおける急激な流行に関わるウイルス株の構造的・機能的特性を明らかにする。また感染性分子クローンの構築や各種HIV蛋白質の大量発現を通じて、単クローン抗体の作出などサブタイプ特異的試薬の整備や血清学的サブタイピング法の開発への応用など,アジアにおけるエイズ制圧に向けた基礎研究を進める。
結果と考察
(I)HIV感染成立機構とHIVコレセプターに関する研究  義江らはリンパ節で構成的に発現するケモカインのHIV 感染における役割について解析し,2次リンパ組織で構成的に発現するCCケモカインであるSLCとELC がHIV-1増殖促進作用をもつこと。またその作用がCCR7を介した細胞内シグナルによることを明らかにし,これらケモカインがin vivoで観察されている一日当たり109-10に及ぶウイルスの急速な代謝回転に関与している可能性を示唆した(Virol. 1999, J. Virol.1999, Blood 2000)。この発見は,抗HIV剤開発の新たな標的を同定するものでありその意義は大きいと考えられる。星野らは,様々なケモカイン受容体を導入した細胞株を樹立し,それらを用いた実験の結果,CXCR5/BCR1がHIV-2のコレセプターとして働くことを示した(BBRC 1998, JV 1999)。また腎メサンギウム細胞がGPR1/CD4を発現していることを示し,これがHIV-1-associated nephropathyと関連する可能性を示した。 (II)HIVの複製増殖とその制御機構に関する研究  渡辺らは,HIV transgenic mouseでの各臓器におけるウイルス遺伝子発現レベルとLTR U3領域のCpGメチル化レベルが相関すること。in vitroでCpGメチル化されたHIV LTRは基礎転写活性のみならず,TNF-a, tatによる活性化に対して反応性が低下することを示し,HIVの潜在感染と再活性化におけるメチル化の意義を示唆した(投稿準備中)。志田らは、Rev/Rex作用に関与する細胞内コファクターの解析を行い,Rev/RexがRNAを搬出するためには,多量体化することが必要であるが,その過程にhCRM1が関与していることを明らかにした(J. Virol 1999)。また,木村は,F-actin重合阻害剤(Latrunculin B)を用いた実験などによって,イントロン
を含むRev依存性RRE RNAは単純拡散によらず,核内F-actinを介した能動輸送によることを示した(Acta Histochemica, 1999)。岡本らはHIV転写制御に関る宿主因子NF-kBを抑制する新たな宿主因子RAI(RelA- associated inhibitor)を同定し,その抑制機序がSp1のLTRへの結合阻害によることを明らかにした(投稿中)。RAIを用いた新たなHIV感染発症阻止戦略の開発が期待される。増田らは,HIV integrase(IN)の様々な変異体を作製し,その性質を解析した結果,IN がウイルス遺伝子組み込み以外に,逆転,核移行にも関与していることを明らかにした(J. Virol. 2000)。また変異体の中にtransdominant negative効果を示すものを同定した。松田はSrc型チロキシナーゼがHIVの標的 細胞への侵入を阻害すること。ウイルス株による 細胞侵入効率のnef 依存性の差異が,env 領域によって規定されることを示した(J. Virol 1999)。また,同様に,足立らはnefが感染初期のウイルス侵入およびウイルスDNA合成に関与することを示した(Int. J. Mol. Med. 1999, Virol. 1999)。 (III)感染に対する細胞反応などエイズ発症機序の分子レベルにおける解明  保富らは,CD8陽性CTLが極めて特異性の高い殺細胞効果をもつのに対し、CD4陽性CTLがより広範な標的に対して効果を示すこと。またBCGに見られる強力なTヘルパー・エピトープとHIV-1のCTLエピトープとのリンケージ・ペプチドをワクチンとして用いることによって、BCGに感作されたマウスにHIV-1のあるエピトープに対する強力なCTLが誘導できることを示し,CD4+ヘルパーT細胞の活性化による新たな免疫療法の可能性を示した(投稿・特許出願準備中)。田代(照沼)らは日本のHIV感染長期未発症者(LTNP)でのCCR5遺伝子多型と末梢血単核球のサイトカイン産生能の検討を行い,CCR5調節領域の59653番目の塩基がホモあるいはヘテロでthymidine (T) である割合がLNTPで高い割合で見られること。また細胞性免疫能を高めると考えられるIL-12やIFN-gの産生能が高いことを見い出し,これらがエイズ発症遅延に関わっている可能性を示唆した(投稿準備中)。 森内らはHTLV感染細胞から分泌される液性因子,また同様にHSV感染マクロファージが分泌する液性因子によってプロウイルスHIVの活性化が起こることを示し,他の微生物感染がHIV活性化さらにエイズ発症の引き金となりうることを示唆した(Blood 1999) (IV)アジア型HIV-1サブタイプに関する研究  武部らは,センダイウイルスベクターを用いHIV-1サブタイヒプE R5型ウイルスのエンベロープgp120蛋白質の大量発現を行い,それを用いたEIA系がサブタイプE とBとの血清学判別に役立つことを証明し,新たなサブタイピング技術の開発の可能性を示した(ARHR 1999)。またタイに次ぐ東南アジア第2のHIV流行地であるミャンマー中部に分布する流行ウイルス株の構造解析を行い,その結果,この地域にサブタイプE, B', Cの3種のサブタイプがco-circulate しており,それらサブタイプ間の組換え体が存在することを初めて明らかにした(投稿中)。
結論
本研究班では,HIVの感染成立機構,複製増殖機構や感染に対する細胞反応などエイズ発症機序の分子レベルにおける解析またアジア型サブタイプに関する多面的研究が行われ,HIV感染・エイズ発症機序の分子機構の解明や新規の診断・治療技術の開発に向けた様々な基礎研究が進展した。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-