エイズ治療の地方ブロック拠点病院と拠点病院間の連携に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900506A
報告書区分
総括
研究課題名
エイズ治療の地方ブロック拠点病院と拠点病院間の連携に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
吉崎 和幸(大阪大学健康体育部)
研究分担者(所属機関)
  • 小池隆夫(北海道大学医学部)
  • 佐藤 功(国立仙台病院臨床研究部)
  • 荒川正昭(新潟大学学長)
  • 河村洋一(石川県立中央病院血液免疫内科)
  • 内海 眞(国立名古屋病院第五内科)
  • 白阪琢磨(国立大阪病院総合内科)
  • 高田 昇(広島大学医学部附属病院輸血部)
  • 山本政弘(国立病院九州医療センター内科)
  • 小西加保留(桃山学院大学社会学部)
  • 宇野賀津子(ルイパストゥール医学研究センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 エイズ対策研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
120,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
HIV感染症患者が全国どこでも高度な医療が受けられるようにするため、現状を認識し、問題点を把握し、問題点を解析した後問題解決の方策をとりつつ行政へ改善案を提言し、その結果ブロック拠点病院の医療技術水準の向上と医療施設の整備をめざし、これらの核病院が地域内拠点病院に対して指導的役割を果たせるようにすることを目的とする。さらにブロック拠点病院が地域内拠点病院と連携し、地域HIV医療水準の向上と地域格差の是正を目指すため一昨年、昨年に続いて以下の研究を行った。
研究方法
1)HIV診療の現状及び問題点の把握:院内情況、拠点病院情況、ブロック内医療体制の問題把握をアンケート調査、訪問調査で行った。回答率は76%と過去3回とほぼ同じであった。他に班長の下、HIV医療実態調査実行委員会による全国調査、班内自己評価委員による訪問、アンケート調査を行った。また98年に続いて南谷班との合同でシンポジウムを開催し広く問題点を把握した。本シンポジウムは更に、HIV診療従事者の知識・意識を高め、多大な啓発効果があった。
2)研究遂行のための基礎資料(試料)の作成:本研究を行うにあたって、試料がほとんどないため我々班員が基礎資料を作成した。
3)HIV診療向上のための実践的活動:本年度もブロック拠点病院はブロックの中核病院として積極的に実践的啓発活動を行った。
4)ブロック共通問題に対する研究及び解決へのアプローチ:地方ブロックから出た問題ではあるが地方のみでは解決できず、また全国レベルで検討すべき問題が派生した。これらは班長下において昨年に続いて研究協力者を得て全国レベルで検討した。・患者及び病院要請のカウンセラー対応の不備問題、・外国人患者診療支援の不備、・遠隔地医療体制確立の問題、・守秘義務不備、・エイズ医療専門職不足の問題、・医療体制確立のための評価の問題
結果と考察
研究結果及び考察=1)ブロック拠点病院を中心とした医療体制の確立度
ブロック拠点病院の自己評価により、ブロック拠点病院における人的体制、ブロック拠点病院における施設、設備、ブロック拠点病院における診療、ブロック拠点病院における研修、教育、情報等拠点病院ブロック内諸施設との連携については、年々確立度は増しており、2000年3月にはブロック拠点病院の設備、診療、活動はほぼ確立されているように思われる。しかし専門職不足で、拠点病院及びブロック内診療レベルはまだまだである。
2)拠点病院全体の確立度
自己評価委員及びHIV診療実態調査委員会によるアンケート調査においてブロック拠点病院の意義はほぼ認められ、1999年末には活動も80%達成されていると評価されている。
概ね拠点病院構想は全国的に知れ、ブロック拠点病院の努力によって医療体制の大枠が形成されたと考えられる。しかしながら最終年度に至って以下の問題が達成されていないばかりか、新たな問題も出現してきた。
・HIV医療の高度化、HIV患者の増加と地方への拡大に伴う専門医療従事者の不足
1999年にはHIV診療は3者療法も70%と概ね施行されているが、従来血液、呼吸器、免疫を専門としていた多くの医師が片手間でHIV診療にたずさわっていたが、HIV治療の高度化によって今後はよりHIVに専門的知識を要求され専門の人的確保が重要になってきた。専門看護婦、カウンセラー、情報員、通訳等の医療従事者の増員、質的向上も望まれる。
・ブロック拠点病院と拠点病院格差の拡大
ブロック拠点病院の充実にともない、ブロック拠点病院への集中化が生じつつあり、拠点病院との格差が広がった。拠点病院の診療レベルを低下させないようにしなければならない。
・拠点病院の見直し
今後HIV患者が増加することを見越して、現在の364拠点病院はあっても良いが、患者数等からして他の疾患に比べて多すぎることは否めない。全く患者がないのにHIVの知識や意識を高めておくことは極めて困難である。逆に拠点病院でもないのに多くの患者を診ている病院は拠点病院指定をすべきと考える。
・首都圏問題
首都圏を含む関東甲信越のブロック拠点病院を首都圏の病院から選べられなかったことのために拠点病院構想立ち上げに大きな支障が生じた。正確な結果が得られず問題が生じた。首都圏病院の拠点病院構想へのスムーズな参加を要す。
3)研究遂行のための基礎資料の作成
・ブロック拠点病院の診療体制確立記載資料、・ブロック拠点病院による院内感染防止のための資料、・ブロック拠点病院による診療のための資料、・HIV感染症全般の情報誌、・ホームページの立ち上げ、・外国人のための診療対訳指導書
これらの資料作成は、研究遂行に必須であった。
4)HIV診療診療のための実践的活動
・ACC研修への参加、・ブロック拠点病院での診療活動の向上(患者数の向上、治療内容の向上、診療がスムーズに行えるよう院内体制の確立)、・ブロック拠点病院による諸研究活動、・ブロック拠点病院指導による研究会、勉強会の開催、・地域内NGO活動の立ち上げと支援、・情報の提供、・臨床研究。以上継続的に活動した。
5)遠隔地医療システムの構築
患者は可能なかぎり地元で診療を受けたい要望がある。それらの物理的問題を解決する方法として、1998年から本年にかけてテレビ電話を利用した遠隔地医療システムの構築を試みた。遠隔地あるいは離島という物理的難問をこのシステムによって解消することが可能である。
6)守秘問題に対する検討
本疾患の場合、残念ながら今だにあってはならないことであるが、患者差別が大きな問題の1つである。HIV患者であることを知られることは可能な限り避けるべきであろう。第1は診療時、第2は保険、第3は身障者手帳等の手続のための配慮である。受診手続き、診察等においては病院職員の意識の向上において概ね守秘は守られるようになった。保険の問題であるが、大企業の場合は概ね守秘は守られているが、中小企業の場合に雇用主に知れる場合がある。諸手当等の申請であるが、これは守秘がきわめて困難である。手続きが単純化されず多くの人手を経ること、係の人が知人であること、特に北陸、東北等農村部にその傾向が強い。
7)カウンセリング関連問題の改善
カウンセリングの必要性は年々増加しているが、カウンセラー不足は否めない。前年度の小西らの調査によってHIV感染症に対するカウンセラーは基本的に4つの職種の者から成り立っている。医療職(主に精神科)、看護職、心理職そして福祉職である。それも患者のニーズが多様であるため、カウンセリングもその基本となっている職種によって専門が分かれている。カウンセラーの数は徐々に増加しているものの、不足、利用の困難性はいなめない。カウンセラーの増加及び組織構築を検討した。
8)外国人患者支援の向上
1998年通訳不足と外国人対応の外国語による診察を要することが明らかになったため、通訳養成セミナーと対訳服薬指導書の発行が決定された。1999年我国におけるHIV患者の実態は全国の拠点病院等を対象とする調査によってはじめて明らかとなった。全患者の70~80%は関東甲信越で、多くは首都圏に集中している。言語ではタイ語、ポルトガル語が多い。病院数もほぼ比例している。地方では長野、愛知、静岡、京都、大阪、愛媛、福島がつづいている。言語問題以外に、不法滞在、保険非所有問題もあり、その結果、帰国、転院に加えて行方不明も多く見られる。これらの問題は、端緒についたばかりである。
結論
1)達成度について
1996年には拠点病院構想はほとんど外側の箱だけで内容が皆無であったところから考えると、各研究協力者の多大な努力で3年間で急速に確立が成されたと思われる。
ブロック拠点病院における質的向上は目をみはるものがある。HIVに専門でない医師が多いにもかかわらず、HIV治療を世界レベルにほぼ達することが出来たと思われる。対照的に拠点病院、一般病院はまだまだ不充分で、その意識のみならず知識すら低いままである。ブロック全体の立ち上げにおいて治療以外の診療の分野ではブロック拠点病院ですら十分ではない。専門医師不足、専門看護婦不足、カウンセラー不足、通訳不足、情報官不足は明らかである。狭義の治療以外の診療分野、遠隔地医療、カウンセラー、通訳、外国人患者に対する諸支援、守秘等の問題については問題を掘り起こしたばかりで達成度評価は出来ない。ただ、ピクチャーテルの実験的使用、カウンセラーの組織化、通訳養成とその組織化、外国語対訳服薬指導書の作成、守秘教育の必要性などわずかに方向性も示唆された。また研究試料として作成された諸資料を今後は、患者がまた医療従事者が利用することによって、我々の研究の達成度を客観的に把握したいと考えている。
2)今後の展望
我々の3年間の研究活動によって拠点病院構想による急速なHIV医療体制が確立されつつある。しかしすでに述べたように数多くの未解決な問題も山積している。従って、本研究班のような新たな班の構築は今後も必須であろう。しかしながら時限的な厚生科学研究の中で本研究の特種な目的の達成は極めて困難である。なぜならば研究要素以上に拠点病院の連携教育、情報の発信、出版物の改訂発行、治療指針の改訂、研究会の開催、カウンセラー・通訳派遣組織の運営等行政事業的要素が多大であるからであり、しかも継続維持がなければ、いとも簡単に崩壊する可能性を秘めている。
従って人的保障が認められた、継続的研究事業維持が可能な組織を構築することによってHIV医療体制の確立が実現化するのではないかと思われる。

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