HIV感染者発症予防・治療に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900504A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV感染者発症予防・治療に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
福武 勝幸(東京医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 白幡聡(産業医科大学)
  • 瀧正志(聖マリアンナ医科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 エイズ対策研究事業
研究開始年度
-
研究終了予定年度
-
研究費
100,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1980年代前半、血液凝固因子製剤がヒト免疫不全ウイルス(HIV)の汚染を受けたことにより、血液凝固因子製剤による治療を受けていた血友病を中心とした血液凝固異常症の患者に、多数のHIV感染者が発生した。この事件は行政、研究者、医療機関、製薬会社に多くの反省と教訓をもたらしたが、この研究は血液凝固因子製剤によるHIV感染者の気持ちに配慮し、これらの人々の要望と専門医の意見を取り入れた臨床研究として、HIV感染者の治療の向上と生活の質の向上に寄与し、その結果として医学の発展に貢献するすることを目的として実施した。
研究方法
従来の研究班により組織された全国部会を改変する形で、地域毎の研究協力者の人選と依頼を行い、全国調査を行うための組織を形成した。各地域のブロック代表は北海道は宮崎保(札幌逓信病院)、東北は三浦亮(秋田大学医学部)、関東甲信越は福武勝幸(東京医科大学)、北陸は河崎則之(国立福井病院)、中部は高松純樹(名古屋大学医学部)、近畿は垣下榮三(兵庫医科大学)、中国は上田一博(広島大学医学部)、四国は内田立身(高松赤十字病院)、九州は白幡聡(産業医科大学)の各氏とした。調査票の送付先は、従来の研究班の班員・班友、ならびに凝固因子製剤購入医療機関とし、1,446医療施設に調査用紙を郵送した。
結果と考察
血液凝固異常症全国調査は平成10年5月31日現在の患者数の最終集計であるが、凝固因子製剤によるHIV感染者数は、死亡者数502人を含め1,432人となった。そのうちエイズ累積患者数は640人であった。また、HIVに感染していない血友病および類縁疾患の患者数(非加熱製剤未使用の患者も含む)は、血友病A 2,745人、血友病B 525人、その他の類縁疾患739人を含め4,009人となった。今後とも、年に1回の調査を続け、より正確な数を把握するとともに血中HIV-RNA量、CD4陽性リンパ球数、日和見感染、抗HIV薬の投与状況などの医学的な解析、さらに救済事業の普及状況の把握を、また、HIVに感染していない血友病および類縁疾患の患者に対しては、肝炎の有無やその病期、インヒビターの状況などについて解析し、包括的医療を実施することがHIV感染者に重要であると考えられた。長期未発症者(LTNP)の研究において、末梢血単球のサイトカイン産生能はLTNPではIFN-γとIL-2の産生が亢進、進行例ではIL-4の産生が亢進していた。HLAハプロタイプの検索ではLTNPとHLA-B座との関係が推測された。PND MN抗体を用いてLTNPの41例を分類し、大きくGroup1B 16例(39%)とGroup4 19例(46%)に分かれCD8細胞数とHIV-RNA量は1Bは4に比べて有意に低値を示した。CCR-5遺伝子では687がTである例が84.6%(対照24.5%)と高率であった。凝固因子製剤による肝炎の研究においては、血友病患者にはHCVによる慢性肝炎の合併が多いが、重複感染症の調査として、TT virusの感染状況の調査を実施した。199例の検査を行い、TTV-DNAが131例(66%)に検出されたが、ウイルス不活化製剤のみ投与された患者でも、23例中10例(43%)にTTV-DNAが陽性で、対照の23%に比し高率であった。HCV-RNA陰性者でTTV-DNAの陽性と陰性の間には血清ALTの有意差はなかった。 プロテアーゼインヒビターによる出血傾向の増悪の機序については臨床検査成績から推定することは困難であつたが、プロテアーゼインヒビター使用患者の血液製剤使用量の変化を調査したところ、服用開始以前に比べて血液製剤の使用量が明らかに増加していた。現在のところ出血傾向の増悪の原因は不明であるが、臨床症状への注意と早期の凝固因子製剤投与による重症化の防止が重要であると考えられた。包括医療(総合診療)の研究では、血友病患者において包括医療として行われてきた医療形態の中で、血液凝固異常を
伴うHIV感染者の治療と経過観察を行う重要性を検討した。73施設を対象に調査し、52施設から回答を得て集計した。19施設が専門外来をもち、その5施設が包括外来システムを導入していた。また、慢性疾患のケアにナースコーディネーターが必要と答えた施設が43施設あり、現場のニーズが非常に高いことが示された。HIV感染症を伴う血液凝固異常症の治療形態として、ナースコーディネーターを中心とした各種専門家の協力関係を構築した包括医療体制は多数の診療科に渡る複雑な合併症を有する血液凝固異常症の患者にとって必要とされ、効率的で効果的な医療を提供する上でも有用であると考えられた。日和見感染症・死因調査においては、死因の回答欄(多重選択可)の集計結果、提出された調査用紙の累積結果では、カリニ肺炎、ついでサイトメガロウイルス感染症、カンジダ症、HIV脳症の順であった。肝疾患が死因と報告された症例は83症例(19.9%)であった。報告された死亡年月日の分布では、平成3年1月1日以後の死亡年月日が50%以上であった。その後、年ごとの死亡数は次第に増加傾向を示し、平成6年から8年がピークであった。調査の開始後、日和見感染症による死亡は激減したが、出血や肝機能障害などによる死亡数は変化せず、HIV感染者の主要な死亡原因が血友病の合併症へと移行しており、HIV感染と治療の合併症への悪影響が懸念された。多剤併用療法の研究においては、1997年と1998年の両年の成績がある737症例では、1998年の治療として3剤併用が301例と最も多く、d4T+3TC+NFVが69例、AZT+3TC+IDVが61例であつた。1998年には単剤、2剤投与が減り3剤4剤併用増加した。1年間の変化からHIV-RNAが400c/ml未満の症例は未治療、1剤治療群で減少し、3剤4剤治療群で増加しており、長期間の治療歴のある患者が多い血液凝固因子異常症の症例においても、3剤併用などの強力な治療が必要であると考えられた。
検査法の検討では超高感度HIV-RNA測定法とアドインプライマー法を検討した。LTNPの中に無治療でHIV-RNA50c/ml未満の症例が存在することを確認した。400c/ml未満の例で単剤、2剤治療下では3剤治療群より50c/ml未満の例の割合が少なく、治療の強化が必要と考えられた。非血友病症例ではサブタイプEによると考えられるアドインプライマー法と従来法の乖離症例が約3割存在することが分かったが、血友病症例ではアドイン法と原法の乖離は無かった。
結論
年に1回の定期調査を続け、正確な患者数を把握するとともに血中HIV-RNA量、CD4陽性リンパ球数、日和見感染、抗HIV薬の投与状況などの医学的な解析、救済事業の普及状況、HIV非感染の血友病および類縁疾患の患者と比較、肝炎の有無やその病期などについての解析等を通じて病態やQOLの把握することがHIV感染者の治療の向上と生活の質の向上に重要である。

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