HIV感染症に関する臨床研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900503A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV感染症に関する臨床研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
木村 哲(東京大学医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 岡慎一(国立国際医療センター)
  • 河野茂(長崎大学医学部)
  • 斎藤厚(琉球大学医学部)
  • 下山孝(兵庫医科大学)
  • 竹内勤(慶應義塾大学医学部)
  • 満屋裕明(熊本大学医学部)
  • 箕浦茂樹(国立国際医療センター)
  • 森亨(結核研究所)
  • 安岡彰(国立国際医療センター)
  • 吉崎和幸(大阪大学健康体育部)
  • 米山彰子(東京大学医学部附属病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 エイズ対策研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
216,426,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
HIV感染症の長期的制御を目指し、本研究では薬剤耐性の出来にくい新しい抗HIV薬の開発を進めると共に、耐性発現の起こりにくい併用療法を見い出すことを第一の目的とする。また、HIV感染症進行の病態を解析し、そこから新しい進行抑制法、治療法を考案することを第二の目的とする。一方、エイズに好発する日和見感染症対する予知法、予防法、早期診断法および治療法の開発に第三の焦点をあてた。更に、HIV診療現場の職員の安全を守るためHIV汚染事故の実態を調査し、防止対策を充実させ、安全な職場を実現すること、あるいは夫婦間感染を生じない安全な人工授精法を開発することを第四の目的とする。
研究方法
新規の抗HIV薬候補品をin vitroにおいて検討する。併用療法を受けているHIV患者に初めてhighly active antiretroviral therapy(HAART)を導入した場合の臨床成績について全国の拠点病院において症例を蓄積してきたので、その結果を集計し解析する。HAART無効例に対し、アダカラムを用いHIV感染CD4陽性リンパ球を除去する方法を試み、その臨床的意義を検討する。CD8陽性リンパ球からの soluble HIV inhibitory factor(SHIF)の特性を検討する。Th1/Th2のスイッチがHIV感染症の病態の進展に大きな影響力を持っているので、その調節機構を解析する。日本のエイズに見られる合併症の実態を知り対策を考え、発症予防の開始時期を日本に合ったものとする。PCRやモノクローナル抗体を用いて各種日和見感染症の早期診断系、鑑別診断系を確立し、臨床応用する。日和見病原体診断技術向上のために検査技師を対象とした講習会を行う。 針刺し事故の実態を調査・解析し、事故防止対策を策定する。従来の精子分離法でどの程度HIVが除去できるか検討する。
結果と考察
新規の逆転写酵素阻害薬としてQYL-685につき検討した。この薬剤に対する耐性変異はM184Iであることが確かめられた。またケモカインレセプターの結合部位を塞ぐモチーフの検討を行い新規の抗HIV薬開発の糸口がつかめた。強力な多剤併用療法(HAART)を初めて開始した症例での臨床効果については、822例が集められ、その内573例につき解析が可能であった。解析の結果3剤によるHAARTではそれまで抗HIV薬の投与歴が全くない初回治療の場合が抗HIV薬の投与歴のある場合より有効であること、また、投与歴のある患者間では新規薬3剤によるHAARTの方が新規薬2剤と継続薬1剤によるHAARTより優ることが示された。AZT+3TC+IDVの効果とAZT+3TC+NFVの効果は同等でいずれも2年間は有効であることが示唆された。HAART無効例5例に対し、体外循環により酢酸セルロースより成るアダカラムでHIV感染CD4陽性リンパ球を吸着除去する方法を試みた結果、HIVプロウイルスDNAの減少やCD4陽性リンパ球の増加が4例で観察された。次いで新しい治療法を見出す目的でHIV感染症の病態を検討した。その過程においてCD8陽性リンパ球が抗HIV活性を示す可溶性因子を産生することを見出し、現在その因子の遺伝子を検索中である。HIV-1 TatがIL-12の産生を抑えることを見出した。IL-12が低下するとTh1/Th2スイッチが生じHIV感染症の病態が進行するのでTatを抑制することが治療上も大切であることが示された。日和見合併症に対する対策を考えるために日和見合併症の現状を調査した。カリニ肺炎が最も多く全体の約30%、次いでカンジダ症、CMV感染症、結核の順であった。
1998年には日和見合併症が全体的に減少していたが、結核は相対的に増加しており注意が必要である。いくつかの日和見合併症については発症予防投与の開始時期の見直しも必要であることが示された。Real-time PCRによるCMVの血中濃度測定が、CMV感染症の発症予測および早期診断に有用であることを見出した。これにより真に予防投与を必要とする症例を厳選でき、無駄のない予防投与ができるようになった。カポジ肉腫の原因と考えられるHHV-8の有するvIL-6がHIVの複製およびhIL-6の産生を促進することを見出した。vIL-6を抑える必要がある。エイズ脳症患者脳脊髄液の14-3-3蛋白のアイソマーを測定したところCJDとは異なるパターンを示した。また、赤痢アメ-バE. histolytica とdispar を区別できる検査系を確立した。赤痢アメ-バにはヒトには存在しないシステイン合成酵素が存在し、抗酸素効果を発揮することをつきとめた。新しい治療薬開発のタ-ゲットとなる発見である。トキソプラズマについても特異的酵素(NTPase)の基質結合部位の解析を行い、治療薬開発の糸口を作った。真菌の薬剤耐性機序について検討し、薬剤の汲み出し亢進以外の機序も関与していることを証明した。クリプトコックス症の治療にNKT細胞の活性化、IFN-γ、IL-12が有用であることを立証した。全国のエイズ拠点病院における約15,000例の針刺し事故を解析した結果、リキャップ禁止を徹底すること、安全装置付きの翼状針を使用する必要があることが明確となった。使いやすく安全な廃棄容器A-Boxを考案した。妊娠に際し夫婦間感染を避けるため精液からHIVを除去する方法を検討したが、従来の精子分離方法では不完全であることが判明した。
結論
新規の抗HIV薬QYL-685およびケモカインレセプター結合阻害薬につき基礎的検討を行った。HAARTの治療成績が822例につき報告され、573例につき解析可能であった。抗HIV薬naive群に対する成績が最も良く、experienced群では新規3剤による治療が新規2剤+既使用薬1剤によるものより良いように思われた。AZT+3TC+INDとAZT+3TC+NFVは同等と思われた。日本における日和見合併症の実態が明らかにされた。その成績から発症予防の開始時期につき検討した。特にCMV感染症につき発症の予測が可能となったことから無駄のない予防投与ができるようになった。結核が相対的に増加している点が注目された。多くの日和見合併症の診断・治療の方法が検討され多くの進展が見られた。臨床検査技師を対象に日和見病原微生物検出法の講習会を開催し、拠点病院における希少日和見感染症の診断能力を高めることができた。全国のエイズ拠点病院における針刺し事故を解析した結果、日本ではリキャップによる事故が著しく多いことと、翼状針による事故の多いことが明確となり、今後、リキャップ禁止を徹底することと、安全装置付きの翼状針を使用することが必要と思われた。以上、臨床的に有意義な知見が多数得られた。

公開日・更新日

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