HIV病原性の分子基盤の解明に関する研究

文献情報

文献番号
199900502A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV病原性の分子基盤の解明に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
山田 章雄(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 小島朝人(国立感染症研究所)
  • 佐藤裕徳(国立感染症研究所)
  • 塩田達雄(東京大学医科学研究所)
  • 巽 正志(国立感染症研究所)
  • 仲宗根 正(国立感染症研究所)
  • 松田善衛(国立感染症研究所)
  • 服部俊夫(東北大学医学部)
  • 森 一泰(国立感染症研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 エイズ対策研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
55,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
HIVはウイルス感染者体内で著しい多様性を示し、感染初期には比較的病原性の低いNSIタイプのウイルスがドミナントであるが、永い潜伏期の後、病原性の高いSIタイプへ変化することが発症と深く関わっていると考えられている。またエイズの爆発的流行地では母子感染の防止がエイズ対策において極めて重要であるが、特定のウイルス集団が母子感染に関わっていることが示唆されている。グローバルに見た場合には様々なサブタイプのウイルスが流行しており、各ウイルスの病原性も含め世界に流行するウイルスはダイナミックな変化をしているものと考えられる。本研究ではHIVの個体レベル並びに集団レベルでのダイナミズムを特に病原性の側面から明らかにすることを目的とする。一方、エイズ制圧の有効な手段としてのワクチン開発は未だに成功していない。本研究では有効かつ安全なワクチン開発への道を拓くことを可能にすることをも念頭に置きつつ、HIV並びにSIVの病原性の分子的な基盤を明らかにする。
研究方法
今年度は昨年度に構築した技術基盤を踏まえ、昨年度までの研究を更に発展させた。即ち、subtype Cウイルスから樹立した感染性クローンの全塩基配列を決定し、Bのクローンと比較解析した。また同様の手法を用いて他のsubtypeの感染性クローンを樹立した。HIVの分子疫学に関しては日本人の親子間感染者からgp120のV3領域及び逆転写酵素の塩基配列から感染者個体内でのウイルスの変異を解析した。また、感染者集団では矢張り日本人感染者から得られたウイルスのV3領域の遺伝子解析から国内に存在するウイルスについて解析した。母子間並びに同一個体内でのウイルスのダイナミズムを知るために、複数の母子及び同一患者の各感染ステージにおいて分離されたウイルスのgp120の塩基配列を解析した。一方、gp41の機能解析は融合コア部分を構成する合成ペプチド並びにタンパクの細胞質内部分を発現させることにより行った。HIV-1感染症の病態進行に関わる宿主側の因子の解析については遺伝的多型に着目して解析を進めた。特に今年度はIL-4プロモーターの遺伝的多型を検索し、HIV感染の病態との関連を検討した。マカカ属サルを用いた感染系では、envの糖鎖並びにnefの病原性への関与を欠失変異株を用いて解析した。
結果と考察
昨年度までに本研究を推進する上で不可欠な技術的基盤の確立を目指し、世界に先駆けサブタイプCの感染性クローンの作成に成功し、この技術を更にA,Eのサブタイプにも応用し、両者の感染性クローンを樹立した。特にAはGとの組換え体であることが判明した。サブタイプCの感染性クローンについて全塩基配列を決定したところ、本ウイルスがインドで分離されたサブタイプCとクラスターを形成することが確認できた。Bタイプのウイルスと比較するとrev遺伝子に新たな欠損が認められるなど生物学的な新知見が得られた。また感染の成立に重要な働きをすると考えられるgp41の構造と機能を解析するために、大腸菌における大量発現並びに精製までの方法論を確立した。具体的にはマルトース結合蛋白との融合蛋白として大腸菌で発現させ、アミロースレジンカラムを用いて精製した。一方Subtype E型ウイルスCM235由来可溶性oligomeric gp140を抗原としてモノクローナル抗体の作成を試み、9種類のクローンを回収した。現在その性状を解析中である。更にHIV侵入機構における新たな因子を探索するため、無細胞系でのHIV侵入解析系の確立を試み、CD4/CXCR4陽性細胞
から調整した膜画分にビリオン添加後、吸着/融合/脱核に由来すると思われるコア蛋白p24の遊離を指標とする検出系を確立した。 
こういった技術基盤の確立とともにgp41の融合殻構造の解析を行い、特にgp41由来の複数の合成ペプチドがX4ウイルスの標的細胞への感染をR5ウイルスよりも高率に阻害することを明らかにした。またgp41細胞質内部分を発現した細胞では、この部位がウイルス複製に対し、トランスドミナントネガティヴに作用することが明らかになった。これはこの部位に存在するamphipathic helicesに依存しており、エンベロープ蛋白のウイルス粒子への取り込みを阻害するためと考えられた。
日本におけるHIVの動的傾向を知るために、垂直感染集団に重点を絞って解析した結果、母親由来並びに児由来HIV-1集団には、様々なサブタイプが混在するが、母親個体内のHIV-1はquasispeciesが強いのに対して、児体内のHIV-1は、ほぼ単一クローン傾向であることが明らかになった。一方、HIVの感染者体内でのダイナミズムに関しては、V3領域の解析からCCR5をコレセプターとするウイルスは感染者体内での選択圧に比較的低感受性であり、感染初期から後期にかけて持続的に存在するのに対し、CXCR4をコレセプターとするウイルスは選択圧に感受性で、感染後期に優位となることが明らかになった。また、多剤併用療法を受けていた患者体内のウイルス逆転写酵素の解析から、新たな33塩基の挿入変異を見いだした。
HIV病態に関わる宿主因子に関しては、昨年度にケモカインRANTESのプロモーター領域の多型性がHIV感染の病態を修飾することを明らかにしたが、今年度はIL-4の多型性について同様に解析した結果、IL-4のプロモ-タ-領域の遺伝的多型(C-589T)がHIV-1の感染個体内進化に影響することが明かになった。
一方、env並びにnef領域の病原性との関わりをin vivoで明らかにするためにアカゲザルでの感染実験を行った結果、envの糖鎖を欠失させると病原性が著しく低下することが明らかになった。この病原性の低下にウイルス中和抗体への感受性の上昇が疑われたが、中和抗体の関与は否定された。また、感染者体内におけるgag蛋白由来CTLエピトープの解析を行い、CTL活性とエピトープを構成するペプチドの一次構造とにある程度の相関は認められるものの、CTLエピトープには変化がないにも関わらず、CTL活性の検出できない場合があることが明らかになった。
結論
昨年度に引き続きHIV病原性を分子レベルで理解することを目的として研究を行い、複数のサブタイプに対する感染性クローンの樹立、IL4遺伝子の多様性がエイズ病態に関わることなどを中心に、新しい知見を得ることができた。

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