幼児等に対するインフルエンザワクチンの有効性・安全性に関する基礎的研究

文献情報

文献番号
199900491A
報告書区分
総括
研究課題名
幼児等に対するインフルエンザワクチンの有効性・安全性に関する基礎的研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
廣田 良夫
研究分担者(所属機関)
  • 神谷 斎(国立療養所三重病院長)
  • 小池 麒一郎((社)日本医師会)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
-
研究費
14,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
乳幼児を対象とした予防接種導入の妥当性を判断する基礎資料整備を可能とするため、乳幼児においてワクチンの発病防止効果を検証する手法を確立する。
研究方法
1)対象【調査対象者】小児科診療所の受診患者で6歳未満の者(72ヶ月に満たない者)。【接種群】接種希望者に随時接種することとし、1回目の接種時に接種群にエントリーする(今年度は1回目または2回目の接種時に、接種群にエントリーする)。【非接種群】接種者1名毎に、以降の連続した受診患児1~2名を非接種群にエントリーする。【目標対象者数】1施設当たり、接種群・非接種群を合わせて100名程度。2)ワクチン接種 インフルエンザHAワクチン(化血研、Lot 195C)を使用した。用法、用量は既定通りに行った。3)情報収集【個人情報】保護者記入用調査票により、在胎期間、生下時体重、授乳状況、通園状況、家族数、兄弟姉妹数、住居面積、に関する情報を得た。また医療施設記入用調査票により、体重、基礎疾患(心疾患、腎疾患、糖尿病、貧血、気管支喘息など)、ステロイド長期投与、アスピリン長期投与、過去6ヶ月以内の受診状況、に関する情報を得た。これに加えて、昨シーズンのインフルエンザワクチン接種の有無、およびインフルエンザ様疾患罹患の有無についても聴き取り調査した。【副反応】接種後48時間以内の、発熱、発疹、発赤、腫脹、硬結、疼痛、医師受診について、返信用ハガキにより情報を得た。【発病調査】平成11年12月19日から平成12年4月1日まで、毎週返信用ハガキにより1週間のかぜ症状を調査した。調査項目は、 発熱、鼻閉、咽頭痛、咳、頭痛、筋肉痛・関節痛、悪寒、の7項目である。【書式】上記の情報収集や調査説明は、統一のフォームあるいは文書を用いた。4)その他の特別調査 ワクチン有効性の調査とは別に、特定の施設において特別調査を行った。【ワクチンに対する抗体応答】3歳未満の乳幼児においてワクチンに対する抗体応答を調べるため、接種前、1回目接種後、2回目接種後のtriplet血清を採取した。【基礎疾患を有する者への接種】循環器疾患、呼吸器疾患、アレルギーなど基礎疾患を有する小児では、予防接種が躊躇される傾向にある。このような小児への接種例についての知見を大学病院の予防接種外来から収集した。【倫理面への配慮】接種群は総て説明の上、接種を口頭で希望した者である。また接種群・非接種群を問わず参加者全員に本調査の意義を説明し同意を得た。なお、特別調査におけるワクチン接種と抗体価測定のための血清採取に当たっては、保護者またはその代理人より同意を得た。
結果と考察
発病観察期間が4月1日まで継続したため、未だ調査票収集の途中である。ここでは研究協力者より予備的に収集した情報をもとに、研究方法を確立するという観点から途中経過を報告する。1)調査参加の応諾 研究協力者14人により、946人がエントリーされた(接種群426人、非接種群520人)。エントリー期間はほとんどが12月~1月である。その他の報告は以下のとおりである。・接種希望者が多く、また協力の度合も良好であった。むしろ非接種群において参加者のエントリーが困難でありまた協力に関しても消極的であった。・非接種群を保育園の園児から収集した例があった。・接種児の兄弟あるいは姉妹を非接種群にエントリーする例があった。2)ワクチン接種と副反応・ワクチンおよび注射針の供給が遅い。11月1日開始くらいが適切である。・インスリン用シリンジ(注射針29G)の使用により薬液のロスが少なく、また痛みの度合も少なかった。・接種後副反応に関するハガキの回収不能例は報告されなかった。・注意が必要な副反応の報告は426人の
接種者中、下肢に蕁麻疹が出現した1例のみであった。3)個人調査・住居面積をタタミ数で答える質問様式が判りにくいようであった。・インフルエンザワクチン接種歴、家族の既住歴についても情報を得た方がよい。4)発病調査・発病調査項目中、症状の判断が母親にとって困難な項目がある。・ハガキの回収状況は極めて良好であるが、シーズン終了に近づくと、ハガキを紛失する例やまとめて投函する例が増えてくる。・ハガキの回収ができない少数例についても、電話連絡によりほぼ全数の情報が得られた。5)血清採取 6ヶ月から2歳8ヶ月(中央値1歳5ヶ月)の乳幼児42名にワクチンを2回接種し、そのうち41人についてtriplet血清を採取した。今後これらの血清につき抗体価測定を行いワクチンに対する抗体応答を検討する。6)基礎疾患を有する小児への接種 基礎疾患を有する小児55人に計100回の接種を行った。基礎疾患別接種回収は、神経疾患51回、呼吸器アレルギー17回、循環器疾患13回、感染症13回、などである。このうち1歳未満の小児に計11回の接種を行ったが、副反応は認めなかった。全体としては2歳男児1名で局部の強い発赤・腫脹を認めたのみである。本研究の目的は乳児等におけるワクチン有効性評価に関わる調査手法の確立である。これまでに研究協力者から、予想外に良好な参加協力が得られたこと、調査自体が一応円滑に進行したことが中間的に報告されている。従って今回設定したデザインに沿って今後大規模調査を行うことが可能と考えられる。今後の改善の主要項目は以下のとおりである。1)11月1日には調査を開始する必要がある。今年度は研究班の設置自体が遅れたし、研究協力施設の設定段階で混乱が生じたため、開始が遅れた。2)参加者に配布する図書券、副反応調査や発病調査のハガキといった有価物を大量に準備する必要がある。調査規模が拡大すると、研究費到着前に主任研究者に多大な負担が生ずることになる。3)シリンジは、インスリン用(29G針)に統一した方がよい。4)非接種群を保育園の園児から収集した例がある。Study baseが異なることになるので、あくまで診療所受診患者から選択すべきであり、それが可能な診療所を協力施設とすべきである。5)接種児の同胞を非接種群にエントリーする例が生じた。接種児がワクチンによってprotectされると、非接種の同胞の感染機会も減少し、ワクチン有効性の検出において陰性のバイアスが生ずることになる。同胞の接種・非接種についての情報を調査票に加える必要がある。6)住居面積の質問方法を工夫する。また前シーズンのワクチン接種とインフルエンザ様疾患罹患状況を質問項目に加える。7)発病調査項目は、発熱、鼻汁、咽頭痛、咳の4項目に絞る。8)調査票にコーディングボックスを記す。調査規模が拡大すると円滑なデータ処理のため必要である。
結論
幼児等に対するインフルエンザワクチンの有効性・安全性に関する研究手法を確立するため、小児科診療所の協力を得てワクチン接種を行うとともに、郵送法(ハガキ方式)によって副反応調査、発病調査を行った。その結果参加者から良好な協力を得られ、同様の手法によれば大規模調査が可能、との結論に到った。 ワクチン副反応としては、蕁麻疹が1例報告された。基礎疾患を有する乳幼児において、特記すべき副反応は認めなかった。今後研究協力者より調査票が送付され次第、抗体価測定結果とも併せて、総合解析に取りかかる予定である。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-