プリオン病の高感度診断技術の開発(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900483A
報告書区分
総括
研究課題名
プリオン病の高感度診断技術の開発(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
品川 森一(帯広畜産大学)
研究分担者(所属機関)
  • 高橋秀宗(国立感染症研究所)
  • 神山恒夫(国立感染症研究所)
  • 澤田純一(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 岡田義昭(国立感染症研究所)
  • 北本哲之(東北大学)
  • 小野寺節(東京大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
22,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
汚染脳硬膜移植によるクロイツフェルト・ヤコブ病の発生、牛屑肉を介した牛海綿状脳症の人への伝播等、伝達性海綿状脳症の感染による発生が現実のものとなっていることから、該疾病の感染因子をバイオアッセイにより高感度にしかも短時日で検出できる実験動物の開発と、その構成蛋白であるPrPScを高感度で迅速に検出する試料調整法及び検出法を開発し、人への伝播を未然に防止することを目的とする。
研究方法
1)PrPScの免疫生化学的検出-プリオン材料は主としてプリオン感染マウス組織を用い、各種正常動物組織材料にスパイクしたものあるいは正常組織を出発材料とした。緩衝液に各種界面活性剤、酵素等を加えて組織乳剤・抽出物を作成した。研究目的に合わせて各種処理・操作を加えた。各種PrPSc・PrPC検出法を用いても、最終的にウエスタンブロットで確認した。
2)バイオアッセイ-ヒトCJD脳乳剤あるいは羊スクレイピ-脳乳剤を20-30μlづつ、被験マウスに脳内接種した。発症マウスの脳は組織学的、免疫組織学的、免疫生化学的に解析した。動物実験は必要最小限に止め、各研究組織の実験動物委員会あるいは相当委員会の動物の指針に従い動物実験を行った。動物に苦痛を与えないために。接種あるいは淘汰は麻酔下に行った。
結果と考察
1)プリオン蛋白、PrPScの高感度検出(1)PrPSc検出用試料の調整とPrPScの検出系-微量プリオンのPrPScを検出するため、選択的に効率良くPrPScを濃縮する試料調整が最も重要となる。一段階で濃縮するために、11種の金属塩による沈殿を調べたが、非特異的に蛋白沈殿が起きるため実用的なものはなかった。抗体結合磁気ビ-ズによる方法PrPScの捕捉とビオチン化抗体による検出系を開発した。部分精製した試料では有効であったが、目的とする組織溶解物では界面活性剤、使用酵素による反応阻害が認められ、改善が必要であった。PrPScを含む粗沈殿を一旦変性剤で変性させ、アルコ-ル沈殿後にリン脂質存在下で0.2%サルコシル溶解を行うと免疫沈降にも有効であった。従来のウエスタンブロット法によりスクレイピ-感染マウスの抹消白血球からPrPScが検出された。重要な知見のため、追試・再確認が必要である。
2)バイオアッセイ系の開発(1)ヒト・プリオンに対する高感受性マウス-ヒト・マウスキメラPrP発現PrPのノックアウトマウスはヒト・プリオンに対して高感受性であった。このマウスをさらに解析した結果、キメラ遺伝子を高発現するものはかえって潜伏期が長くなり、野生型と同程度に発現するものが一番潜伏期が短く、高感受性マウスであることが判った。
(2)羊型のトランスジェニック・マウス-羊・マウスキメラPrPおよび牛・マウスキメラPrPの発現が確認されたトランスジェニック・マウスの羊スクレピ-プリオンに対する感受性を感染試験を行った。ヒト型と違い、残念ながら、羊型は野生型とほぼ同じの400日台の潜伏期、牛型はさらに潜伏期が延長した。羊型マウスの発症個体に蓄積したPrPScの極く一部が導入遺伝子由来のPrPScであった。この結果これらのマウスは有用なバイオアッセイ系として使用できないことが判った。ノックアウトマウスに発現させたものの感受性を調べている。オリックス型トランスジェニックマウス及びノックアウトマウスに導入したものが、交配出来る段階までに用意された。感染実験を準備している。
PrPSc検出のための試料調整法は、対象が多様なため個々に対応する必要があり、さらに対象に合った改良を絶えず持続する必要がある。プリオンの選択的濃縮のために重金属塩による沈殿法を11種の塩について検討したが、前年度報告した食塩存在下のポリエチレングリコ-ル沈殿に勝るものは無かった。プリオンは緩衝液には難溶性のため、グアニジン塩やSDSが溶解に用いられる。これらの存在下では抗原抗体反応が阻害される。今回このように溶解したPrPScを沈殿させると、リン脂質存在下で低濃度のサルコシルで再溶解可能で、さらに免疫沈降が実施できた。この方法は、免疫学的な濃縮及び直接検出法に応用可能である。抗体結合磁気ビ-ズを用いてPrPScを捕捉し、ビオチン化抗体で検出する、遠心操作を省いた方法も、試料調整が完全には完成していない。低速遠心の操作を加える必要があるかもしれない。動物組織からの試料調整法に比べ、血液、血清製剤を対象とした試料調整法が進まず、多いに反省すべき点である。
14-3-3蛋白検出用のモノクロ-ナル抗体が用意できた。本抗体によりCDJと他の疾患の類症鑑別がどこまで可能か、今後の課題である。
ノックアウトマウスにヒト・マウスキメラPrPを導入した実験動物が完成したため、ヒト型バイオアッセイ系は完成したと言える。しかし、それでも発症まで100日台の期間を必要とするため、バイオアッセイによる診断を迅速化するために、潜伏期の動物の細網リンパ系組織から免疫組織化学あるいは免疫生化学的なPrPSc検出を組み合わせることを検討することが今後の課題であろう。
ヒト型と同様は手法で作成した動物型トランスジェニックマウスは、実用的でなかった。ノックアウトマウスに導入したマウスの成績がまたれる。また、未だ試験されていない、オリックス型の感染試験も早急に実施する必要がある。
結論
金属塩をプリオンの選択沈殿に使用するためには更なる条件の検討が必要である。開発された磁気ビ-ズ法は試料調整の改良が必要であり、完成したとは言い難い。プリオンを含む沈殿の抗原抗体反応可能な溶解法が開発された。14-3-3蛋白のサブタイプを認識できるモノクロ-ナル抗体が作成された。作成されたヒト型マウスはバイオアッセイ系として有用であった。しかし、動物型は有用ではなかった。オリックス型のマウスが完成した。

公開日・更新日

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