流行域が拡大しつつあるエキノコックス症の監視・防遏に関する研究

文献情報

文献番号
199900481A
報告書区分
総括
研究課題名
流行域が拡大しつつあるエキノコックス症の監視・防遏に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
金澤 保(産業医科大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 伊藤 亮(旭川医科大学医学部)
  • 小山田 隆(北里大学獣医畜産学部)
  • 神谷正男(北海道大学大学院獣医学研究科)
  • 神谷晴夫(弘前大学医学部)
  • 木村浩男(北海道立衛生研究所、1999年4月-1999年6月)
  • 高橋健一(北海道立衛生研究所)
  • 田村正秀(北海道立衛生研究所、1999年7月-2000年3月)
  • 土井陸雄(横浜市立大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
-
研究終了予定年度
-
研究費
18,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
次の3項目の研究を行う。1.本州におけるエキノコックス症に関する疫学調査。2.終宿主の感染状況に関する基礎的研究及びエキノコックス症感染源対策の試み。3.エキノコックス症診断に関する研究及び薬剤治療の基礎的研究。
以上の項目の中にさらに小項目をたて、最終的に国内のエキノコックス症を監視する上で基礎となる情報を収集し、かつ防遏対策に資する新たな方法や技術開発を行うことを目的とする。
研究方法
1.本州におけるエキノコックス症の疫学調査。A)動物調査:青森県内において エキノコックスの終宿主となりうる野生動物を捕獲し、剖検により感染状況調査を行った。同様の調査を関東地方においても行った。食肉検査場で処理されるブタやウシなどの肝臓についても検査を行った。B)患者調査:国内で北海道以外に居住している人のエキノコックス症報告例を収集し疫学的な解析を行った。2.終宿主の感染状況に関する基礎的研 究及びエキノコックス症感染源対策の試み。A)終宿主動物糞便からの多包条虫DNA検出の試み:イヌ糞便に原頭節抗原を添加し多包条虫種特異的DNA検出を試みた。B)感染源対策の試行:道東の小清水町において駆虫薬入りベイトをキツネ巣穴周辺に散布し糞便内抗原 検出法と虫卵検査法を併用し感染率の推移を経時的に観察した。根室市内においてもベイトを道路沿いに散布する方法を試みた。C)農村地帯と都市部におけるキツネの感染状況 の比較:道東と札幌市街化区域に生息するキツネの感染率を糞便内抗原検出法と虫卵検査 法によって検討した。D)飼いイヌ及び飼いネコの感染状況調査:糞便内抗原検出法を用い、一般から検査依頼のあった検体を対象に検査を実施した。併せて飼い主に対しエキノコックスに関する知識や関心の程度に関しアンケ-ト調査を行った。E)生活環境中のエキ ノコックス虫卵検出法の開発と応用:ナイロンメッシュと比重差を利用しエキノコックス 虫卵を室内塵、あるいは水中から検出する方法を開発し、フイ-ルドから虫卵の検出を試みた。F)スナネズミのエキノコックス症代替動物としての有用性の検討:スナネズミの 免疫担当細胞に対するモノクロ-ナル抗体産生ハイブリド-マを作成しスナネズミの終宿主、中間宿主動物モデルとしての可能性を検討した。3.エキノコックス症診断に関する研究及び薬剤治療の基礎的研究。A)Em-18抗原を用いたヒト多包虫症特異的血清診断法の開発と、これを応用した単包虫症及び有鉤嚢虫症との鑑別診断法の検討:Em-18抗原を用いたウエスタンブロット法とELISA法を開発し特異性、感度を検討した。単包虫包虫液と有鉤 嚢虫嚢虫液より診断用抗原を精製し、鑑別診断法を検討した。B)ヒト肝多包虫症抗体応 答モデル動物の確立: 4系統のマウスを用い多包虫感染後の抗体応答をELISA法とウエス タンブロット法で検討した。C)遺伝子診断法の開発と改良:北海道株多包条虫のミトコ ンドリア12SrRNA遺伝子塩基配列を決定し遺伝子診断法としての可能性を検討した。
結果と考察
1.本州におけるエキノコックス症の疫学調査:青森県及び関東地方で捕獲し た野生動物からエキノコックスを見出すことはできなかった。しかしながら、青森県東部のある養豚場で肥育された3頭のブタの肝臓に多包虫の感染を確認した。この事実から直 ちにエキノコックスの汚染が本州に拡大したと結論することはできないものの、その可能性が高くなったと考える。本州以南から76症例の多包虫症患者の報告があり、そのうち19症例は感染地が不明であった。その多くは青森県に集中していた。エキノコックスが本州に存在する事を証明するには感染している野生動物の発見が必須である。そのため今後とも調査の継続が望まれる。2.終宿主の感染状況に関する基礎的調査研究及びエキノコックス症感染源対策の試み:糞便内抗原検出法の開発により従来は剖検によって確認していた感染の有無を動物を殺す事なく調査する事が可能となった。一連の調査から本法を用いて少数ではあるがエキノコックスに感染したイヌが見出された。飼いイヌの人への感染源としての危険性は高い。そのため北海道の飼いイヌの感染状況調査は緊急に行われる必要があると考える。北海道から本州その他へ移動するイヌについては検査を義務づける等の対策を検討する必要がある。北海道ではキツネの感染率が上昇していることが報告されているが、人口の集中している市街地及び都市近郊のキツネの感染率も高い
ことが明らかとなり、エキノコックスが人へ感染する危険性が以前にも増して高まっている。このような状況にあってキツネの感染率を低下させる感染源対策は緊急の課題である。駆虫薬を入れたベイトをキツネ巣穴周辺あるいは道路端に散布する方法を試みたところ、駆虫薬入りのベイトを散布した地域のキツネの感染率が有意に低下する事が観察された。エキノコックス症の感染源を絶つ一つの方法として期待できる。3.エキノコックス症診断に関する研究及び薬剤治療に関する基礎的研究:多包虫原頭節から精製したEm-18抗原と単包虫包虫液か ら生したantigen B SU、有鉤嚢虫嚢虫液から精製した糖蛋白を用いると多包虫症と近縁疾患であるこれらの疾患とを血清学的に鑑別診断することが可能となった。また治療後の経過観察にも利用できる。今回開発した遺伝子診断法の応用価値は高い。
結論
1:今年度も青森県及び関東地方の野生動物からエキノコックスを見出すことはでき なかった。2:青森県で多包虫に感染したブタ 3頭を発見した。3:本州においてエキノコックス症の流行を監視するシステムとして食肉検査所のブタを調査する方法が有力である。4:多包条虫に感染した飼いイヌが発見された。5:駆虫薬入りのベイトを野外散布する方法は感染源対策として有力である。6:環境中の虫卵汚染を調査する方法を検討した。7:Em-18抗原に対する血清抗体価は治療後低下する。そのため治療後の経過観察に利用で きる。8:遺伝子診断法が検討された。9:多包(条)虫症の終宿主、中間宿主動物モデルを検討した。

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