文献情報
文献番号
199900473A
報告書区分
総括
研究課題名
本邦における性感染症に関するセンチナル・サーベイランス施行の基礎的検討
研究課題名(英字)
-
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
熊本 悦明(札幌医科大学)
研究分担者(所属機関)
- 塚本泰司(札幌医科大学)
- 西谷 巌(盛岡赤十字病院)
- 赤座英之(筑波大学)
- 簔輪眞澄(国立公衆衛生院)
- 野口昌良(愛知医科大学)
- 守殿貞夫(神戸大学)
- 碓井 亞(広島大学)
- 香川 征(徳島大学)
- 柏木征三郎(九州大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
37,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
1998年度の調査研究に引き続き本年度も調査を行ったが、次の3つのテーマを中心に検討した。① 〔国立感染症情報センターのSTD動向調査との比較〕厚生省・国立感染症研究所情報センターが行っている定点報告集計による性感染症動向調査と我々の昨年報告した本研究班報告〔日本性感染症学会誌10巻(1号)40~60頁、1999年〕と、STD症例数の男女比や年齢分布に大きな開きがあることが明らかになった。その差の根本的な問題点は、現在選ばれているSTD報告定点が、かなり泌尿器科診察機関に偏っていることによる。今までのSTDに関する常識が、歓楽街を中心に存在し、そこで感染した男性を調査すればよい、という社会的医学的通念から、定点選択を行っている保健所や委託を受けた医師会が、そのように選択を行っていたためといえる。最近、その点を修正すべく定点を600から900に増やす際、ある程度産婦人科診察施設を加える方針が出されているが、それがどの程度女性症例をカバーし、より真実に近い調査ができるようになったか否か、我が国のSTD疫学調査上の大きな問題点と言える。その点を検討するため、我々のセンチネル・サーベイランス成績と国立感染症研究所情報センターの動向調査との比較を行い、我が国におけるSTD調査方法の今後のあり方の検討に資するdataを作ることが、本年度のわが研究班の第一目的である。②〔1998年と1999年とのSTD罹患率増加度の検討〕1998年度に引き続き調査を行い、現在増加傾向を示している各種STD群がどのようなペースで増えているかを検討し、ピル解禁によるコンドーム使用率低下による影響を検討する基礎data作りをするのが第二の目的である。ことに若い女性群を中心に急増している性器クラミジア感染症がピル解禁と関連なくしてもどの程度増加を示すかの分析検討する。③〔淋菌感染症急増の裏にある淋菌薬剤耐性化の現状調査〕現在の我が国のSTD流行の特徴的な問題は②項で述べた全STD群の増加、ことに無症候傾向の強いSTD群(クラミジア・ヘルペスウイルス、ヒト乳頭腫ウイルス及びHIVなどの感染将群)の著しい急増傾向と同時に、世界的に有症状のため最も管理し易いとされている旧来の性病の代表である淋菌感染症が医療先進国で唯一と言ってよい程の特異な急増傾向を示していることである。それは性感染症に対する危機感の消失による低いコンドーム使用率のみによらず、臨床分離淋菌の治療薬剤に対する耐性化が著しいことも注目されている。そこで今年度は追加研究費を戴いて、その点の調査検討も行った。
研究方法
(1)我々の調査は昨年度報告にも述べたように全国8モデル県の県下産婦人科・泌尿器科・皮膚科・性病科の全医療施設の協力により、1999年6月及び11月の2ヶ月に受診診療した全STD症例群につき、報告を集め、推計学的検討を行っている。そのdataと国立感染症研究所情報センターによる定点報告集計によるSTD動向調査との比較を行い、その定点数が900になった以後における成績が、どの程度女性症例、ことに若い女性例をチェックするようになったか、また現行の定点調査が今後どこまで罹患率調査としての意味をもつか、の2点の検討を行った。(2)前年度同様に、①軟性下疳、②梅毒、③淋菌感染症、④尖型コンジローム、⑤性器ヘルペス、⑥性器クラミジア感染症、⑦非淋菌、非クラミジア性性器炎に加えて、本年度は⑧トリコモーナス感染症も加え、8種のSTDの10万人・年対罹患率及び罹患症例数を男女別に推計し、19
98年度の成績と比較し、増加率を検討した。(3)札幌・関東及び福岡地区から、1999~2000年にかけ、男子尿道炎から分離培養し得た臨床分離579株の抗菌剤に対するMIC分布を検討すると共に、それぞれの菌の栄養型別及び耐性菌の遺伝子変異(gys A及びpar C上の遺伝子変異)の検討を行い、薬剤耐性機序の分析を行った。
98年度の成績と比較し、増加率を検討した。(3)札幌・関東及び福岡地区から、1999~2000年にかけ、男子尿道炎から分離培養し得た臨床分離579株の抗菌剤に対するMIC分布を検討すると共に、それぞれの菌の栄養型別及び耐性菌の遺伝子変異(gys A及びpar C上の遺伝子変異)の検討を行い、薬剤耐性機序の分析を行った。
結果と考察
①〔定点調査によるSTD動向調査との比較〕国立感染症研究所情報センターによる定点調査報告も、定点を600から900に増数したことで、STD症例群の女/男比が大分高くなって来てはいるが、現在も産婦人科定点の割合(定点の6割は必要)が低いためか(正確な実態は不明)、女性症例がいまだ充分集積をされているとは考えられない。女/男比を定点600時の調査、定点900になってからの調査、及び我々のセンチネル・サーベイランス調査での値を、疾患別に列記すると、淋菌感染症ではそれぞれ0.14、0.17、0.23、尖型コンジロームでは0.50、0.70、1.17、性器ヘルペスでは0.82、1.28、2.20、、性器クラミジア感染症では、0.82、1.40、2.29と定点900でやや改善は認められるも、まだかなり女性症例報告が不十分であり、さらに産婦人科定点を重点的に増加させなければ、国立感染症研究所情報センターの定点調査によるSTD動向調査は我が国のSTD流行に対する誤解を生み、公衆衛生学的保健学的対応を正しい方向に持っていくための資料にはなり得ないといえる。今後如何にSTD症例報告定点に産婦人科系を増やしていくべきか、根本的な検討が強く求められるところと考える。②〔1999年度の1998年度との罹患率比較〕1999年9月にピル解禁になったとはいえ、1999年の11月期ではそれがSTD流行度にさして影響は与えていないと考えられるので、1999年の調査成績の1998年に比しての増数は、自然増と一応解釈して検討した。主な疾患で男女別に増加率(1999/1998)を検討したところを述べると、全STDで男1.17、女1.10、淋菌感染症で男1.31、女1.68、性器ヘルペスで男0.97、女0.99、性器クラミジア感染症で男1.22、女1.21、尖型コンジロームで男1.04、女1.10となっており、ヘルペスを除き他のSTDは1年だけでそれぞれかなり増加を示し、ことに注目されるのはクラミジアが男女共2割なのに比して、淋菌感染症が男性3割、女性で7割も増えている。淋菌感染症がことに女性で男性に比して罹患率は低いとはいえ、その増加傾向の著しいことは特記すべきことと考える。③〔臨床分離淋菌の薬剤耐性〕New QuinoloneのCiprofloxacin (CPFX)及びOfloxacin (OFLN)の淋菌に対する抗菌耐性は感受性㈱、中等度耐性株、耐性株がそれぞれ39.6%、30.8%、29.6%及び44.6%、31.4%、24.0%となっており、感受性株が今や4割前後となっている。またCefiximeの感受性株96.5%、Doxycyclinの感受性株96.5%、Amoxillinの感受性株79.9%となっていた。Penicillinに関してはかつて1985年頃は20%台まで高かったβ-lactamase産生株は僅か1.7%となっていた。これらのdataにみられるように、現在分離される淋菌はNew Quinolone耐性度が著しいことがわかる。New Quinoloneが最も良く用いられる臨床薬剤であることから、これが淋菌感染症の難治性につながる一因となっていると考えられる。
結論
以上、3つの項目についてそれぞれ検討したところを述べたが、それぞれ注目するに値する成績を得ている。今後のこの調査研究を続けつつ、我が国のSTD流行の動向をしっかりと把握し、適切な公衆衛生学的、医学的対応に用いられるべきものと考えている。
公開日・更新日
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