調理施設と食品製造における衛生管理に関する研究

文献情報

文献番号
199900470A
報告書区分
総括
研究課題名
調理施設と食品製造における衛生管理に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
小沼 博隆(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 品川邦汎(岩手大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
23,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究事業は、給食施設の衛生管理の徹底を図るために、HACCPによる衛生管理システムを実際の調理加工施設および食品製造業に導入し、本システムがこれらの施設の衛生管理方法として優れた効果を発揮することができるかどうかを試行するためのものである。特に今年度は、亜熱帯地域である沖縄県名護市で開催される先進8カ国によるサミット会議に向けて、ホテル調理施設の衛生管理の徹底を図ることを目的に実施した。さらに、今年度は前年度からの懸案事項であった「効果的な手洗いの方法の検討」ならびに加熱調理器(オ-ブン)の性能試験を含めた「ハンバ-グの加熱試験に関する研究」を実施した。一方、安全な食肉を生産するため、新しい試験法を用いて調査し、汚染源および感染経路を明らかにして農場における腸管出血性大腸菌の防除方法を検討した。
研究方法
調理施設と食品製造における衛生管理に関する研究では、調査施設をサミット会議が行われる施設を選び、調査方法は原材料の受け入れから喫食までのすべての段階について、それぞれの食材や食品が取り扱われる様々な条件を考慮に入れた微生物汚染実態を調査し、汚染源と汚染要因および増殖・拡散要因の明確化を含めた危害分析を行い、その結果を基にHACCPプランを作成した。
ハンバ-グの加熱試験では、スチームコンベクションオーブンを用いてオ-ブン庫内温度のバラツキ試験、ハンバーグの室温放置試験、ハンバーグの焼成(加熱)試験及び庫内温度のバラツキ試験等を行った。
効果的な手洗い方法の検討では、調理施設にビデオカメラ5台を設置し、調理中の手洗い時間の実態調査を行った。また、主な手洗い方法9通りを選択し、手指の洗浄消毒効果を比較検討した。
と畜場および食肉のHACCPに関する研究では、牛のSTEC保菌状況をPCR法および免疫磁気ビ-ズ法により調べた。
結果と考察
今回、平成12年7月21日から沖縄県名護市で開催されるサミットに向けて、各国首脳の方々が食事の際に利用するホテル食を調理する調理施設の衛生管理の万全を期する目的で、前年度と同様にHACCPによる衛生管理の導入を試みた。また、前年度より懸案になっていたハンバ-グの加熱試験ならびに効果的な手洗い方法を検討した。
調理施設の衛生管理に関する調査研究では、以下の結果を得た。
1)当該施設は、HACCPチ-ムをつくり危害分析に係わる調査を実施し、その調査結果を基に危害分析し、その分析結果を基に危害リストを作成し、そのリストに基づいて衛生管理に最も重要な管理ポイント(CCP)を設定し、設定されたCCPには、適切な衛生管理基準(CL)とモニタリング方法の設定、防止措置、検証および記録方法を設定した。
2)これら衛生管理の基礎となる衛生管理マニュアル(A.調理従事者衛生管理マニュアル、B.施設・設備衛生管理マニュアル、C.洗浄消毒マニュアル、D.原材料の受け入れ・保管管理マニュアル、E.盛り付けマニュアル及び事故発生時対応マニュアルなど)を作成し、併せて調理加工・製造施設におけるHACCP プランを作成した。)
ハンバ-グの加熱試験に関する研究では、以下の結果を得た。
1)スチームコンベクションオーブン内温度のバラツキを調べたところ、場所によっては15~20℃の違いが見られた。
2)ハンバーグ加熱所用時間の長短は、重量と保存状態が冷凍であるか、冷蔵であるかに左右され、脂肪分量には大きく影響されないことが明らかになった。
4)ハンバーグの加熱所用時間は、重量に正比例することが示唆され、重量に対して冷蔵の場合は0.1、冷凍の場合は0.15を乗じることで、所用時間の目安を算出することが出来ると考えられた。
効果的な手洗い方法に関する研究では、以下の結果を得た。
1) 調理中の手洗いの実態を調べたところ、その平均時間は、洗浄剤でのもみ洗い:6.1~8.0秒間、すすぎ:6.8~7.3秒間と、厚生省で策定した大量調理施設衛生管理マニュアル(洗浄剤でのもみ洗い:30秒間、すすぎ:20秒間)を大幅に逸脱していた。
2) 手洗い方法を比較した結果、薬用石鹸A洗浄と非薬用石鹸洗浄間で危険率0.05で有意差が認められた。
3) 洗浄後のアルコ-ル使用は、洗浄剤単独使用時に比べ菌数低減効果を増大させた。しかし、アルコ-ルは使用する洗浄剤の除菌効果を反映し、非薬用石鹸使用に比較し薬用石鹸Aと併用した場合が効果的であった。
4) 洗浄後の塩化ベンザルコニウム使用は、0.1%濃度で使用した場合はほとんど殺菌効果はないが、10%濃度を使用した場合は、著しい殺菌効果が認められた。しかしながら、10%塩化ベンザルコニウムの使用は、通常販売されている原液でもあり極めて高濃度であるため、皮膚への影響や調理施設での使用の良否については今後十分検討する必要があると思われる。
腸管出血性大腸菌の汚染源および感染経路の追求に関する研究では、以下の結果を得た。
1)成牛血清のIgG抗体価(ELISA平均値)はO157:0.5、O111:0.39、O26:0.68と、O26抗体保有を示すものが最も多かった。
2)出産前の母牛血清の抗体価が高くない(ELISA値≦0.5)牛でも、初乳抗体価が高い(≧1.5)ものが多く認められた。
3)出産子牛ではいづれの型のO抗体価も保有しないが、抗体保有の初乳を飲用することにより急速(飲用8~24時間以内)に血清抗体(IgG)価は上昇することが明になった。
4)母牛糞便のSTx遺伝子保有率は18.5~23.3%であったが、出産直後の子牛では1/26頭(3.8%)が陽性で、7~10日後では11%、30~40日後では33.3%と増加を示した。
結論
平成12年7月21日から沖縄県名護市で開催されるサミットに向けて、ホテル調理施設の衛生管理の徹底を図るために、前述のHACCPによる衛生管理の導入を試みた。また、前年度より懸案になっていたハンバ-グの加熱試験ならびに効果的な手洗い方法を検討し、以下の結論を得た。
1)サミット開催ホテル調理施設を危害分析し、その分析結果に基づいて衛生管理に最も重要な管理ポイント(CCP)を設定し、設定されたCCPには、適切な衛生管理基準(CL)とモニタリング方法の設定、防止措置、検証および記録方法を設定し、HACCPプランを作成した。
2)オーブン内温度のバラツキを調べたところ、場所によっては15~20℃の違いが見られた。
3)ハンバーグ加熱所用時間の長短は、重量と保存状態が冷凍であるか、冷蔵冷蔵であるかに左右され、脂肪分量には大きく影響されないことが明らかになった。また、ハンバーグの加熱所用時間は、重量に正比例することが示唆され、重量に対して冷蔵の場合は0.1、冷凍の場合は0.15を乗じることで、所用時間の目安を算出することが出来ると考えられた。
5) 調理中の手洗いの実態を調べたところ、その平均手洗い時間は短く、厚生省で策定した大量調理施設衛生管理マニュアルを大幅に逸脱していた。
6) 手洗い方法を比較した結果、薬用石鹸洗浄は非薬用石鹸洗浄より効果的であった。また、薬用石鹸に10%塩化ベンザルコニウムを適用した方法が最も効果的であった。しかし、10%塩化ベンザルコニウムの使用は、高濃度であるため、皮膚への影響や調理施設での使用の良否については今後十分検討する必要があると思われる。
7)STEC O157、O111およびO26等のと畜場での食肉への汚染防除のための生産とチェック方法を検討した結果、血中抗体の高い牛はSTEC汚染(保有)している可能性を示唆できた。また、それらを最初に調べ診断し、区別することに加え、従来通りの衛生的取り扱いを行うことによって食肉への汚染を効率よく防ぐことができると考える。

公開日・更新日

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