再興感染症としての結核対策のあり方に関する総合的研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900466A
報告書区分
総括
研究課題名
再興感染症としての結核対策のあり方に関する総合的研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
森 亨(財団法人結核予防会結核研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 青柳昭雄(国立療養所東埼玉病院)
  • 山岸文雄(国立療養所千葉東病院)
  • 高鳥毛敏雄(大阪大学医学部)
  • 宍戸真司(国立療養所松江病院)
  • 山下武子(財団法人結核予防会結核研究所)
  • 近藤有好(日本結核病学会理事長)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
22,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
質的にも従来と異なる様相を露わにしてきている日本の結核問題を以下のような点に集約し、その対策を検討する。①免疫抑制宿主における結核発病の防止、②大都市特定地域の結核問題への対応、③老人等施設内での結核感染防止、④今後の対策制度のあり方、⑤長期入院結核患者に関する観察、⑥医学生・看護学生のための結核教育の向上。
研究方法
各分担課題について方法は以下の通り。
① 免疫抑制宿主:国療入院患者について、糖尿病合併結核患者中の治療成績、さらに治療終了後の再発について観察を行った。
② 大都市問題:東京(都、台東区、新宿区)、横浜、川崎、名古屋、大阪、神戸の保健所等の行政サービス担当者を研究協力者として主として登録患者情報を中心に分析を行った。大阪、神戸については患者菌株に対するRFLP分析による分子疫学的検討を行った。
③ 老人等施設:全国の施設に対する質問紙法による実態調査を行った。
④ 対策制度のあり方:法律学専門家を交えて法制度に関する日本および米国等との比較検討を行った。
⑤ 長期入院患者:結核療法研究協議会参加施設に1993年次点で1年以上入院していた患者の6年後の追跡を施設(主治医)に対する質問紙調査で行った。
⑥ 結核教育:結核病学会の有識者を研究協力者としてワークショップを行い、医学教育上の問題点を検討し、対応する教材を制作する。
結果と考察
各分担課題の結果・考察については以下の通りである。
① 免疫抑制宿主:一部に糖尿病合併結核患者ではPZAを含む治療は、通常の患者よりも成績が悪いとされるが、本研究の結果から見ると治療開始後2ヶ月後までの菌陰性化率、治療終了後2年間の再発率のいずれからみてもそのようなことは見られなかった。今後更に検討する必要がある。
② 大都市問題:「感染・発病」に関しては健康管理の機会に恵まれない職業・社会階層としての特定階層の問題が大きいこと、また「治療・患者管理」については結核病床の配置を含め医療供給体制が弱体化していることが特定階層患者の治療中断や自己退院などの問題への対応を困難にしていることが明らかになった。研究協力者のいくつかの地域ではDOTSが導入されはじめたが、DOTSは日本の都市でも可能であり、有効であることが確認された。これにもとづいて「日本版21世紀型DOTS戦略」の要綱が提案された。分子疫学的検討からみると暫定的ながら特定地域で患者のクラスター形成(集団感染など最近の感染による発病を反映するとされる)は低蔓延地域と比して決して高くない。これから特定地域の高蔓延の原因は感染よりも発病・再発が高頻度、治療の不成功であることによる可能性が大きい。
③ 老人施設:全国607施設から質問紙への回答を得た。主な所見は、結核予防のためのマニュアル整備28%、1部屋以上独立空調の部屋をもっている46%、職員採用時のツベルクリン反応問診12%、検査実施7%、入居者入居時X線検診94%等であった。一般に入所時日本の施設での結核発生への対応・予防体制はおくれており、早急な改善が望まれる。
④ 新たな対策制度:現行結核予防法は、結核の医療・予防のみならず福祉的な面、普及啓発までを包括するかなり整備された体系をもっているといえる。しかしすでに50年以前に成立した法制度として結核予防の新たな理念に照らして再検討することが必要である。とくに人権への配慮や対策の実効性確保の両面から制度の確立を重点的に検討すべきである。
⑤ 長期入院患者:1年以上入院していた患者355人中、24施設204人(68%)の6年間の状況が明らかになった。このうち10%が入院継続、60%が死亡(うち78%が結核死)していた。前回調査時に排菌していた者では71%が死亡しており予後は極めて不良である。
⑥ 結核教育:効果的と思われる媒体(ビデオ)が完成した。
結論
日本の今後の結核対策は、免疫抑制宿主に対する化学予防のような個別的な対応、大都市の社会経済弱者に対するDOTSのような包括的な接近とより明確な行政関与がますます必要になろう。その中で医療や福祉サービス供給体制、医学教育も検討されるべきである。新しい予防制度はそのような効果的な対策実施を保証すべきものであるべきである。

公開日・更新日

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更新日
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