文献情報
文献番号
199900453A
報告書区分
総括
研究課題名
非A非B型肝炎の臨床的総合研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
飯野 四郎(聖マリアンナ医科大学)
研究分担者(所属機関)
- 熊田博光(虎ノ門病院)
- 清澤研道(信州大学)
- 小林健一(金沢大学)
- 各務伸一(愛知医科大学)
- 岡上武(京都府立医科大学)
- 林紀夫(大阪大学)
- 恩地森一(愛媛大学)
- 佐田通夫(久留米大学)
- 矢野右人(国立長崎中央病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
35,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
C型肝炎は高率(60-70%)に慢性化・キャリア化して、慢性肝炎から肝硬変、肝細胞癌へと進展することはよく知られている。しかし、どのような経過をたどり、どのような例が進展しやすいのか、その詳細は知られていない。現在、C型肝炎の治療はインターフェロン(IFN)を中心に不十分ながら対応策は知られている。この研究の第一の目的は自然経過をより明確にし、治療の強弱を考えた効率的な治療法を行えるかどうかを明らかにすることが第一の目標である(統一研究)。
第二の目標は班員・班友個々の研究で、地域住民の長期の疫学調査(HCV感染と死因の関係)、C型肝炎の合併症あるいは肝外症状の実体、C型肝炎でのサイトカインの挙動、HCV感染と樹状細胞機能の関係、自然経過時およびIFN投与時のHCVクローンの変化と病態の関係、HLA関連遺伝子の多型性と自然経過およびIFN効果との関連性、IFNレセプターの肝細胞による発現状態およびそれとIFN効果の関係、IFN再投与による肝発癌抑制効果、IFNとリバビリン併用療法の可能性、などを明らかにすることであった。
第三の目標は、TTVおよびHGV感染と慢性肝疾患への寄与の程度を明確にすることであった。
第二の目標は班員・班友個々の研究で、地域住民の長期の疫学調査(HCV感染と死因の関係)、C型肝炎の合併症あるいは肝外症状の実体、C型肝炎でのサイトカインの挙動、HCV感染と樹状細胞機能の関係、自然経過時およびIFN投与時のHCVクローンの変化と病態の関係、HLA関連遺伝子の多型性と自然経過およびIFN効果との関連性、IFNレセプターの肝細胞による発現状態およびそれとIFN効果の関係、IFN再投与による肝発癌抑制効果、IFNとリバビリン併用療法の可能性、などを明らかにすることであった。
第三の目標は、TTVおよびHGV感染と慢性肝疾患への寄与の程度を明確にすることであった。
研究方法
統一研究は班員・班友の各施設で長期にわたり十分な臨床観察が行われている症例に対して、アンケート方式による調査およびその解析を行った。その他の研究は個々の研究者が目的に応じて、最新の技術を駆使して、それぞれに多様な研究方法を採用した。
結果と考察
統一研究(I):複数回肝生検を行った例での肝線維化度(F)の進展と平均ALT値の関係、統一研究(II):肝生検後に肝細胞癌に至った例、の2調査から、以下のことが明らかとなった。
1)臨床的に肝生検が必要と判断された例でみると、肝生検後のF値の増加は性差がみられず、また、感染時年齢の差もほとんどない。肝硬変・肝細胞癌でみられる性差は無症候性キャリア、あるいはそれに近い状態での差と推定される。初回肝生検までの期間は若い時に感染した例ほど長い。
2)初回肝生検以降の経過では、IFNは明らかにF値の増加を抑制する。また、平均ALT値の増加に従ってF値の変化率(△F)は大きくなる。IFN投与例では非投与例に比して、同じALTであっても△Fは小さくなる。
これらの結果から、臨床的に問題とされたC型肝炎例はIFNを中心とした治療に加えて、ALTを低下させる治療を精力的に行わなければ時間と共に肝硬変・肝細胞癌へ進展することが明らかとなった。また、今後の治療マニュアル作成のために無症候性HCVキャリアの経過をもう少し詳しく知る必要性が生じた。
班員・班友による個別研究の主要の結果は以下の通りである。
1. HCV
1)HCV高度浸淫地区の10年間の死亡者調査の結果、肝硬変・肝細胞癌による死亡者がHCV感染者では非感染者のそれぞれ10.7倍、8.8倍高く、他疾患ではこの両者の差は認められなかった。HCV感染者が肝細胞癌のhigh riskグループであることが再確認された。
2)C型慢性肝炎は観察開始後の10~15年の間では年率約2%で、進展例、高年齢(50歳以上)がhigh riskグループであることも再確認された。
3)C型肝炎例ではインターフェロン(IFN)に伴う副作用として知られている疾患(糖尿病、腎炎、甲状腺炎、間質性肺炎、心筋症、唾液線炎)の多くが対照に比して高率であり、IFN副作用の準備状態にある可能性が示された。IFN投与前のこれら疾患の検査が必要である。
4)IFN投与によりC型肝炎ウイルス(HCV)は残存したが、ALTは正常値となった例でみると、超可変領域(HVR)についてはクローンの交代がみられるとともに、HCV量が増えることが示された。C型肝炎の経過と治療抵抗性にウイルス変異が関係することが示された。
5)IFN効果に関与する生体側の因子は寄与率が低いために調査が難しいが、肝炎発症に関係するものとしてHLA class 2と細胞内情報伝達物質であるTAP(transporter associated with antigen processing)の多型性が、また、IFNの効果に関連するものとしてHLA class 1と細胞内情報伝達系物質であるLMP(low molecular mass polypeptide)の多型性が統計的に有意差があるものとして示された。ウイルス側因子から宿主側因子の解析へ道が拓かれた。
6)IFNレセプターの肝細胞での発現が高いほどIFNの効果が期待できることが示された。
7)IFN投与中にHCV RNAが陰性化した例では肝細胞癌の発生が低下することが報告されている。これらの例を5年以上経過観察するとIFN投与中にHCV RNA非陰性化例と同様な割合で肝細胞癌の発生をみるようになる。このことから、数年毎にIFNを投与することによって肝発癌を抑えうる可能性がある。
8)IFNにribavirinを併用するとIFNによるHCV排除効果が増強すると外国で報告されている。併用例でHCVの経緯をみると、IFN単独時にはみられないIFN投与開始初期の非陰性化例でも、HCVが排除されることがある。また、日本でもIFN単独よりHCV排除率が向上することが示唆された。
2. TTV
TTVについては、小児では成人より感染率が低い(28% : 43%)、唾液線で増殖・分泌されている可能性、IFN感受性を持つ、肝障害との関係は見出せない、などが示された。
3. HGV
HGVについては肝障害の原因としては、何かあるとしても軽微であると考えられる。
1)臨床的に肝生検が必要と判断された例でみると、肝生検後のF値の増加は性差がみられず、また、感染時年齢の差もほとんどない。肝硬変・肝細胞癌でみられる性差は無症候性キャリア、あるいはそれに近い状態での差と推定される。初回肝生検までの期間は若い時に感染した例ほど長い。
2)初回肝生検以降の経過では、IFNは明らかにF値の増加を抑制する。また、平均ALT値の増加に従ってF値の変化率(△F)は大きくなる。IFN投与例では非投与例に比して、同じALTであっても△Fは小さくなる。
これらの結果から、臨床的に問題とされたC型肝炎例はIFNを中心とした治療に加えて、ALTを低下させる治療を精力的に行わなければ時間と共に肝硬変・肝細胞癌へ進展することが明らかとなった。また、今後の治療マニュアル作成のために無症候性HCVキャリアの経過をもう少し詳しく知る必要性が生じた。
班員・班友による個別研究の主要の結果は以下の通りである。
1. HCV
1)HCV高度浸淫地区の10年間の死亡者調査の結果、肝硬変・肝細胞癌による死亡者がHCV感染者では非感染者のそれぞれ10.7倍、8.8倍高く、他疾患ではこの両者の差は認められなかった。HCV感染者が肝細胞癌のhigh riskグループであることが再確認された。
2)C型慢性肝炎は観察開始後の10~15年の間では年率約2%で、進展例、高年齢(50歳以上)がhigh riskグループであることも再確認された。
3)C型肝炎例ではインターフェロン(IFN)に伴う副作用として知られている疾患(糖尿病、腎炎、甲状腺炎、間質性肺炎、心筋症、唾液線炎)の多くが対照に比して高率であり、IFN副作用の準備状態にある可能性が示された。IFN投与前のこれら疾患の検査が必要である。
4)IFN投与によりC型肝炎ウイルス(HCV)は残存したが、ALTは正常値となった例でみると、超可変領域(HVR)についてはクローンの交代がみられるとともに、HCV量が増えることが示された。C型肝炎の経過と治療抵抗性にウイルス変異が関係することが示された。
5)IFN効果に関与する生体側の因子は寄与率が低いために調査が難しいが、肝炎発症に関係するものとしてHLA class 2と細胞内情報伝達物質であるTAP(transporter associated with antigen processing)の多型性が、また、IFNの効果に関連するものとしてHLA class 1と細胞内情報伝達系物質であるLMP(low molecular mass polypeptide)の多型性が統計的に有意差があるものとして示された。ウイルス側因子から宿主側因子の解析へ道が拓かれた。
6)IFNレセプターの肝細胞での発現が高いほどIFNの効果が期待できることが示された。
7)IFN投与中にHCV RNAが陰性化した例では肝細胞癌の発生が低下することが報告されている。これらの例を5年以上経過観察するとIFN投与中にHCV RNA非陰性化例と同様な割合で肝細胞癌の発生をみるようになる。このことから、数年毎にIFNを投与することによって肝発癌を抑えうる可能性がある。
8)IFNにribavirinを併用するとIFNによるHCV排除効果が増強すると外国で報告されている。併用例でHCVの経緯をみると、IFN単独時にはみられないIFN投与開始初期の非陰性化例でも、HCVが排除されることがある。また、日本でもIFN単独よりHCV排除率が向上することが示唆された。
2. TTV
TTVについては、小児では成人より感染率が低い(28% : 43%)、唾液線で増殖・分泌されている可能性、IFN感受性を持つ、肝障害との関係は見出せない、などが示された。
3. HGV
HGVについては肝障害の原因としては、何かあるとしても軽微であると考えられる。
結論
C型肝炎ウイルス感染で肝炎がみられる例に対しては、積極的な治療を行わなければ肝硬変・肝細胞癌に進展する可能性が高いことが明らかとなった。この進展を確実に抑制するものはIFNである。
TTV、HGVが慢性肝疾患の促進因子となる可能性はほとんどないと考えられた。
TTV、HGVが慢性肝疾患の促進因子となる可能性はほとんどないと考えられた。
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-
更新日
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