文献情報
文献番号
199900452A
報告書区分
総括
研究課題名
非A非B型肝炎の予防、疫学に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
吉澤 浩司(広島大学)
研究分担者(所属機関)
- 岡本宏明(自治医科大学)
- 佐藤俊一(岩手医科大学)
- 田中 英夫(大阪府立成人病センター)
- 三浦宣彦(埼玉県立大学)
- 宮村達男(国立感染症研究所)
- 守屋尚(広島大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
55,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
1.自覚症状がないまま、社会に潜在し続けているHCVキャリアの発見から健康管理、治療に至るまでの一連の対策指針を構築すること。2.透析医療施設におけるHCV感染の実態を把握し、感染予防対策を立てるための基礎となるデータを得ること。3.非B非C型肝炎候補ウイルス(TTV)の分子ウイルス学的、臨床病理学的研究を行ない、その臨床的意義を明らかにすること。4.非A非B型肝炎ウイルス(HCV、HEVなど)の基礎的研究を行ない、得られた成果をウイルス・血清学的調査研究に応用するとともに、治療、予防ワクチン開発の可能性を追及すること。を目ざした調査・研究を基礎医学、臨床医学、社会医学を担当する専門家の協力のもとに行ない、得られた成果を迅速に社会に還元し、保健・医療の向上に役立てることを目的とする。
研究方法
研究目的に掲げた4項目を調査・研究の柱とし、3年計画でこれを行なう。1年目は所期の調査・研究目標を軌道に乗せ、2年目は、それぞれの研究項目の規模を拡大、深化した。特に上記4項目のうちの2.透析医療施設におけるHCV感染の実態把握は2年目より新たに追加し調査・研究を開始したものである。3年目は、2年目に引き続いて調査・研究を展開すると共に、全体のまとめを行ない、得られた成果を社会に還元するための提言を行う。
結果と考察
1.「自覚症状がないまま、社会に潜在し続けているHCVキャリアの発見から健康管理、治療に至るまでの一連の対策指針の構築」関連
1)地域住民を対象としたHCV検診の推進
初年度に設けた2つのモデル地区(岩手県、広島県)に佐賀県を加えた3つの県域を対象とした。
岩手県における40歳以上の受診者総数は64,631人に達し、発見されたHCVキャリアの指定医療機関への受診率は40%以上を維持している。また、広島県における同検診実施市町村は26市町村にまで拡大し、平成10年10月からは政令指定都市である広島市においても基本健康診査受診者のうちの希望者に対してHCV検診を実施することとなり、平成11年3月までの基本健康診査受診者17,087人中10,749人がこれを受診している。一方、本年度から新たに共同研究者として参加した佐賀県では、すでに平成4年度より30歳以上の地域住民を対象としたHCV抗体検査が行われており、平成9年度までに161,307人が受診している。佐賀県では、これまでに判明しているHCV抗体陽性者のリストをもとに、これにHCV RNAの有無を決定する検査を追加して実施し、HCVキャリアと感染既往例とに分け、肝炎ウイルスキャリアであることが確定した集団を対象とした組織的な健康管理の体制作りを開始した。
2)職域集団を対象とした対策
初年度に引き続きの大都市に居住する職域集団を対象とした肝炎対策実施状況の実態把握と問題点の解明を行なっている。
3)HCVキャリアからの肝発がん
献血を契機に発見されたHCVキャリア2,035例を、大阪府のがん登録資料との対比により引き続き追跡した。その結果、6.3年の観察期におけるこの集団での肝発がん例の累積数は36例に達していることが明らかとなった。また、広島県下の病院での前向き調査では、肝発がん例の累積数は920例中6例に達した。
4)HCVキャリアの自然史
献血を契機に発見された自覚症状を伴わないHCVキャリア集団と、慢性肝疾患(慢性肝炎、肝硬変)患者集団の臨床経過をもとに、それぞれの病態(病期)の年次推移率を算出し、これをマルコフのモデルにあてはめてHCVキャリアの自然史を提示した。その結果を5年間にわたる前向き調査が完了している153例の実測値と対比したところ、モデルによって示される病態の推移は、わずかにunder estimateとなるものの、ほぼ妥当な値を示すとの成績が得られた。
5)肝炎対策実施県域における市町村別にみた肝がんの標準化死亡比の年次推移
1970年代から1990年代までの佐賀県、広島県、大阪府、岩手県における市町村別にみた肝がんの標準化死亡比(SMR)の推移を5年ごとに区切って作成、提示した。
6)より簡便なHCVキャリア発見のための検査法の提示
第一次スクリーニング検査とHCV抗体価の決定(2次検査)、およびPCR法によるHCV RNAの有無を確定し終えた広島県内の検診受診者計5,123人分の保存血清を用いて、定領域の広い2つのHCV抗体測定系により再測定し、得られた測定値を対比した。その結果、検定の対象とした定量域の広い2つの測定系は、第1次スクリーニング検査とHCV抗体価を決定するための2次検査の両者を兼ねた機能を発揮し、HCVキャリア発見のための検査に応用可能であることが明らかとなった。
2.透析施設におけるHCV感染の実態把握
B型肝炎院内感染事故調査に参画したことを契機に、HCV感染の血清疫学的調査を同時に行なった結果、当該医院における透析患者集団におけるHCV抗体陽性率は80.9%と、極めて高率であることが明らかとなった。この経験をもとに、今年度から透析医院機関におけるHCV感染の実態を把握するための調査・研究を追加、開始した。今年度は12の透析医療施設の協力のもとに合計1、665例の予備的調査を行い、このうち369例(22.2%)がHCV抗体陽性であるとの成績を得た。
3.非B非C型肝炎候補ウイルス、およびHCV、HBVに関する基礎的研究
1)TTウイルスの分子生物学的研究
a)TTウイルス(TTV)の急性感染例では、ウイルスのクローンが均一であるのに対して、慢性感染例ではウイルスDNAの超可変領域に種々の変異を有するクローンが混在し、“quasi species"の状態となっており、流血中で免疫複合体を形成していることが明らかとなった。
b)流血中のTTVのDNAは一本鎖の環状構造を示すが、増殖部位ではウイルスDNAは2本鎖環状構造を示す。この性質を利用してTTVは、肝臓および骨髄において増殖していることを確定した。
c)健常人からTTVの新しい亜型株(variant)を分離同定し、このウイルスの遺伝子長は通常のTTVより約1kb短いことを明らかにした(TTV like mini virusの同定)。
d)TTV感染と肝炎との関係を明らかにする目的で、輸血量10単位以下の受血者を中心に追跡調査を継続して行なった。
2)肝炎ウイルスの new variant に関する研究
a)旧ソ連邦の住民から、分離したHCV遺伝子の全塩基配列を決定し、このHCVがこれまでに同定されていない亜型(genotype)に属することを明らかにした。
b)チンパンジーの保存血清からgenotype EのHBV株1株、未分類のHepadnavirusを2株分離した。後者の全塩基配列を決定し、既知のウイルスのそれと比較したところ、これらはチンパンジー固有のHepadnavirusであることが明らかとなった。
c)世界各国からの検体を用いてHBVのgenotypeの解析を行ない、モンゴル、ウズベキスタン、アルタイ等の中央アジア地域にはこれまでに知られていない新しいHBVのgenotypeが存在することを示す成績を得た。
3)肝炎ウイルス構成蛋白の発現とその応用に関する研究
a)HEV遺伝子を昆虫細胞で発現させて得た蛋白は中空粒子を形成し、感染性のある真の粒子を区別できない抗原性を有していることを明らかにした。また、この中空粒子を大量に発現させ、HEV抗体検出のための測定系を確立した。
b)HCVエンベロープ蛋白のもつ融合能を利用して、細胞のレセプター探しが可能となる知見を得た。
c)HCV コア蛋白の持つ種々の機能について解析を行っている。
1)地域住民を対象としたHCV検診の推進
初年度に設けた2つのモデル地区(岩手県、広島県)に佐賀県を加えた3つの県域を対象とした。
岩手県における40歳以上の受診者総数は64,631人に達し、発見されたHCVキャリアの指定医療機関への受診率は40%以上を維持している。また、広島県における同検診実施市町村は26市町村にまで拡大し、平成10年10月からは政令指定都市である広島市においても基本健康診査受診者のうちの希望者に対してHCV検診を実施することとなり、平成11年3月までの基本健康診査受診者17,087人中10,749人がこれを受診している。一方、本年度から新たに共同研究者として参加した佐賀県では、すでに平成4年度より30歳以上の地域住民を対象としたHCV抗体検査が行われており、平成9年度までに161,307人が受診している。佐賀県では、これまでに判明しているHCV抗体陽性者のリストをもとに、これにHCV RNAの有無を決定する検査を追加して実施し、HCVキャリアと感染既往例とに分け、肝炎ウイルスキャリアであることが確定した集団を対象とした組織的な健康管理の体制作りを開始した。
2)職域集団を対象とした対策
初年度に引き続きの大都市に居住する職域集団を対象とした肝炎対策実施状況の実態把握と問題点の解明を行なっている。
3)HCVキャリアからの肝発がん
献血を契機に発見されたHCVキャリア2,035例を、大阪府のがん登録資料との対比により引き続き追跡した。その結果、6.3年の観察期におけるこの集団での肝発がん例の累積数は36例に達していることが明らかとなった。また、広島県下の病院での前向き調査では、肝発がん例の累積数は920例中6例に達した。
4)HCVキャリアの自然史
献血を契機に発見された自覚症状を伴わないHCVキャリア集団と、慢性肝疾患(慢性肝炎、肝硬変)患者集団の臨床経過をもとに、それぞれの病態(病期)の年次推移率を算出し、これをマルコフのモデルにあてはめてHCVキャリアの自然史を提示した。その結果を5年間にわたる前向き調査が完了している153例の実測値と対比したところ、モデルによって示される病態の推移は、わずかにunder estimateとなるものの、ほぼ妥当な値を示すとの成績が得られた。
5)肝炎対策実施県域における市町村別にみた肝がんの標準化死亡比の年次推移
1970年代から1990年代までの佐賀県、広島県、大阪府、岩手県における市町村別にみた肝がんの標準化死亡比(SMR)の推移を5年ごとに区切って作成、提示した。
6)より簡便なHCVキャリア発見のための検査法の提示
第一次スクリーニング検査とHCV抗体価の決定(2次検査)、およびPCR法によるHCV RNAの有無を確定し終えた広島県内の検診受診者計5,123人分の保存血清を用いて、定領域の広い2つのHCV抗体測定系により再測定し、得られた測定値を対比した。その結果、検定の対象とした定量域の広い2つの測定系は、第1次スクリーニング検査とHCV抗体価を決定するための2次検査の両者を兼ねた機能を発揮し、HCVキャリア発見のための検査に応用可能であることが明らかとなった。
2.透析施設におけるHCV感染の実態把握
B型肝炎院内感染事故調査に参画したことを契機に、HCV感染の血清疫学的調査を同時に行なった結果、当該医院における透析患者集団におけるHCV抗体陽性率は80.9%と、極めて高率であることが明らかとなった。この経験をもとに、今年度から透析医院機関におけるHCV感染の実態を把握するための調査・研究を追加、開始した。今年度は12の透析医療施設の協力のもとに合計1、665例の予備的調査を行い、このうち369例(22.2%)がHCV抗体陽性であるとの成績を得た。
3.非B非C型肝炎候補ウイルス、およびHCV、HBVに関する基礎的研究
1)TTウイルスの分子生物学的研究
a)TTウイルス(TTV)の急性感染例では、ウイルスのクローンが均一であるのに対して、慢性感染例ではウイルスDNAの超可変領域に種々の変異を有するクローンが混在し、“quasi species"の状態となっており、流血中で免疫複合体を形成していることが明らかとなった。
b)流血中のTTVのDNAは一本鎖の環状構造を示すが、増殖部位ではウイルスDNAは2本鎖環状構造を示す。この性質を利用してTTVは、肝臓および骨髄において増殖していることを確定した。
c)健常人からTTVの新しい亜型株(variant)を分離同定し、このウイルスの遺伝子長は通常のTTVより約1kb短いことを明らかにした(TTV like mini virusの同定)。
d)TTV感染と肝炎との関係を明らかにする目的で、輸血量10単位以下の受血者を中心に追跡調査を継続して行なった。
2)肝炎ウイルスの new variant に関する研究
a)旧ソ連邦の住民から、分離したHCV遺伝子の全塩基配列を決定し、このHCVがこれまでに同定されていない亜型(genotype)に属することを明らかにした。
b)チンパンジーの保存血清からgenotype EのHBV株1株、未分類のHepadnavirusを2株分離した。後者の全塩基配列を決定し、既知のウイルスのそれと比較したところ、これらはチンパンジー固有のHepadnavirusであることが明らかとなった。
c)世界各国からの検体を用いてHBVのgenotypeの解析を行ない、モンゴル、ウズベキスタン、アルタイ等の中央アジア地域にはこれまでに知られていない新しいHBVのgenotypeが存在することを示す成績を得た。
3)肝炎ウイルス構成蛋白の発現とその応用に関する研究
a)HEV遺伝子を昆虫細胞で発現させて得た蛋白は中空粒子を形成し、感染性のある真の粒子を区別できない抗原性を有していることを明らかにした。また、この中空粒子を大量に発現させ、HEV抗体検出のための測定系を確立した。
b)HCVエンベロープ蛋白のもつ融合能を利用して、細胞のレセプター探しが可能となる知見を得た。
c)HCV コア蛋白の持つ種々の機能について解析を行っている。
結論
1.様々な社会的背景の異なる3つのモデル地区(県域)において、HCV検診を推進した。また、1年目に引き続き、職域集団(企業内検診)における肝炎対策の問題点の解明を行なった。
2.献血を契機に発見されたHCVキャリア集団、慢性肝疾患患者集団を対象とした臨床的経過観察から得られた病期の年次推移をもとに、HCV感染者の自然史を数理モデルとして提示し、その妥当性を実測値と対比することにより検証した。
3.1970年から1995年までの全国都道府県の市町村別にみた肝がん標準化死亡比の5年ごとの推移を必要とする地区ごとに地図上に表示し、提示できる体制を整えた。
4.定量域の広い2種類のHCV抗体測定系を検定し、両者とも1回の測定値を得るだけで、第1次スクリーニング検査とHCV抗体価を決定するための2次検査の両者を兼ね備えた機能を発揮することを立証した。
5.複数の透析医療施設の協力のもとに、HCV感染のウイルス、血清疫学的調査・研究を開始した。
6.TTウイルス(TTV)が肝臓、骨髄で増殖することを立証した。
7.TTV、HCV、HBVの新しい亜型株(new variant)を分離、同定した。
8.HEV蛋白を大量に発現させ、HEV抗体検出のための測定系を確立した。
9.HCVエンベロープ蛋白のもつ融合能を利用して、細胞レセプター探しが可能となる知見を得た。
10.輸血後肝炎に関連する未知のウイルス探索のため、受血者の追跡・調査を継続して行なっている。
2.献血を契機に発見されたHCVキャリア集団、慢性肝疾患患者集団を対象とした臨床的経過観察から得られた病期の年次推移をもとに、HCV感染者の自然史を数理モデルとして提示し、その妥当性を実測値と対比することにより検証した。
3.1970年から1995年までの全国都道府県の市町村別にみた肝がん標準化死亡比の5年ごとの推移を必要とする地区ごとに地図上に表示し、提示できる体制を整えた。
4.定量域の広い2種類のHCV抗体測定系を検定し、両者とも1回の測定値を得るだけで、第1次スクリーニング検査とHCV抗体価を決定するための2次検査の両者を兼ね備えた機能を発揮することを立証した。
5.複数の透析医療施設の協力のもとに、HCV感染のウイルス、血清疫学的調査・研究を開始した。
6.TTウイルス(TTV)が肝臓、骨髄で増殖することを立証した。
7.TTV、HCV、HBVの新しい亜型株(new variant)を分離、同定した。
8.HEV蛋白を大量に発現させ、HEV抗体検出のための測定系を確立した。
9.HCVエンベロープ蛋白のもつ融合能を利用して、細胞レセプター探しが可能となる知見を得た。
10.輸血後肝炎に関連する未知のウイルス探索のため、受血者の追跡・調査を継続して行なっている。
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