感染症発生動向調査等に関する研究(我が国におけるポリオ根絶宣言のための小児AFPサーベイランスの体制の確立)

文献情報

文献番号
199900450A
報告書区分
総括
研究課題名
感染症発生動向調査等に関する研究(我が国におけるポリオ根絶宣言のための小児AFPサーベイランスの体制の確立)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
宮村 達男(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 植田浩司(西南女学院大学)
  • 岡部信彦(国立感染症研究所)
  • 神谷 斎(国立療養所三重病院)
  • 山本悌司(福島県立医科大学)
  • 平山宗宏(日本総合愛育研究所)
  • 鈴木 宏(新潟大学医学部)
  • 千葉峻三(札幌医科大学医学部)
  • 富樫武弘(市立札幌病院)
  • 鈴木 仁(福島県立医科大学)
  • 加藤達夫(聖マリアンナ医科)
  • 岡田伸太郎(大阪大学医学部)
  • 徳永章二(九州大学医学部)
  • 米山徹夫(国立感染症研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
38,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
WHO を中心とする世界レベルの根絶計画が着々と進み、我が国の属する西太平洋地域では 1997年3月以降、一例の野生株ポリオウイルスもマヒ患者からは分離されていない。この地域から野生株が一掃され、根絶計画が完遂されたことを証明するために、それぞれの国でサーベイランスを強化し、野生株のポリオウイルスによる患者の発生がゼロになること以外に、患者の周囲や環境中にも野生株ウイルスが存在しないこと、また万一国の外部からウイルスが持ち込まれた場合にも、その検出体制が確立していること…などの状況証拠を積み重ねて、初めてポリオゼロを確認できることになる。ポリオは急性弛緩性マヒ(AFP)を主徴とする神経疾患である。ギランバレー症候群(GBS)の一部など、他のエンテロウイルスによるものや、横断性脊髄炎など、非感染性の神経疾患との鑑別が必要である。本研究では、ポリオを含む小児のAFP患者のサーベイランスを徹底し、患者からの糞便の検査を行い、エンテロウイルスの分離を行う。得られたウイルスの解析を行い、本当に野生株ポリオウイルスがいないことを立証し、これを背景として、我が国においてポリオ根絶を宣言するための理論的な根拠とすることを主要な研究目的とするものである。
研究方法
全国の6ヶ所の病院及び衛生研究所から成る研究拠点をたちあげた。
1)札幌医科大学小児科(千葉峻三)、市立札幌病院小児科(富樫武弘)、北海道立衛生研究所(沢田春美)
2)福島県立医科大学神経内科(山本悌司)、福島県立医科大学小児科(鈴木 仁)、福島県衛生公害研究所(鈴木さよ子)
3)聖マリアンナ医科大学小児科(加藤達夫)、横浜市衛生研究所(野口有三)
4)国立療養所三重病院(神谷 齊)
5)大阪大学医学部小児科(岡田伸太郎)、大阪市立環境科学研究所(春木孝祐)
6)西南女学院大学保健福祉学部(植田浩司)、福岡県保健環境研究所(千々和勝巳)
(1)上記6地域で、地域のGBS、横断性脊髄炎など、AFPをきたす疾患の15才以下の患者の発生頻度を調べ、ポリオが含まれていないことを臨床的に、ウイルス学的に再確認する。(2)一方1999年1月より2000年3月末まで、AFPをきたした患者の調査を行うこととともにこれらの患者からの便を速やかに採取し、ウイルス学的検査を行い、患者の情報を臨床的に討論する。
結果と考察
(1)上記6地域において、県内(地域内)における小児科医を有する有床の国公私立病院を対象とし、平成11年1月1日~平成12年3月31日の1年間3ヶ月におけるAFPをきたした患者の調査を行うこととともにこれらの患者からの便を速やかに採取しウイルス学的検査を行い、患者の情報を臨床的に討論する、すなわち我が国におけるAFPの発生状況についての前方視的調査を行った。
北海道地区においては、44/94(46.8%)施設からの回答で、ポリオとの鑑別を要する症例があったのは5施設からの6例で、その内訳は、GBS 3例、その他3例(痙攣後麻痺2例、ウイルス性筋炎1例)であった。糞便からのウイルス分離は3例について行われ、いずれもポリオウイルスは陰性であった。これらの成績から、北海道地区における15歳未満人口10万人あたりのポリオと鑑別を要する疾患の頻度は0.72、その内訳としてGBSの頻度は 0.36、その他の疾患は 0.36であった。ウイルス分離の実施率は3/6(50%)であった。
福島県地区においては、34/34(100%)施設からの回答で、ポリオとの鑑別を要する症例があったのは3施設からの6例で、その内訳は、GBS 5例、その他1例(急性小脳炎1例)であった。糞便からのウイルス分離は3例について行われ、いずれもポリオウイルスは陰性であった。これらの成績から、福島県地区における15歳未満人口10万人あたりのポリオと鑑別を要する疾患の頻度は1.6、その内訳としてGBSの頻度は 1.3、その他の疾患は 0.3であった。ウイルス分離の実施率は3/6(50%)であった。
神奈川県地区においては、56/82(68.3%)施設からの回答で、ポリオとの鑑別を要する症例があったのは2施設からのGBS2例であった。この2例についてのウイルス分離は現在検索中である。神奈川県地区における15歳未満人口10万人あたりのポリオと鑑別を要する疾患 (GBS)の頻度は0.28であった。
三重県地区においては、28/28(100%)施設からの回答で、ポリオとの鑑別を要する症例があったのは1施設からのGBS 1例であった。糞便の採取はなされていなかったが、髄液からのウイルス分離ではウイルス陰性であった。これらの成績から、三重県地区における15歳未満人口10万人あたりのポリオと鑑別を要する疾患の頻度は0.34、その内訳としてGBSの頻度は 0.34、その他の疾患は 0であった。
兵庫県の一部を含む大阪府地区においては、35/36(97.2%)施設からの回答で、ポリオとの鑑別を要する症例があったの14施設からの19例で、その内訳は、GBS 5例、その他14例(急性散在性脳脊髄炎2例、Fisher症候群2例、薬剤性麻痺1例、Todd麻痺6例、多発性神系炎1例、末梢神経障害1例、脊髄炎1例)であった。19例全例の糞便についてウイルス分離が行われ、全例ポリオウイルス陰性であった。これらの成績から、大阪及び一部兵庫地区における15歳未満人口10万人あたりのポリオと鑑別を要する疾患の頻度は1.75、その内訳としてGBSの頻度は 0.51、その他の疾患は 1.23であった。ウイルス分離の実施率は19/19例(100%)であった。福岡県地区においては、54/54(100%)施設からの回答で、ポリオとの鑑別を要する症例があったのは5施設からの6例で、その内訳は、GBS 1例、その他5例(急性脳炎・筋炎1例、急性脊髄炎1例、インフルエンザ脳症1例、両下肢不全麻痺1例)であった。糞便からのウイルス分離5例について行われ、いずれもポリオウイルスは陰性であった。これらの成績から、福岡県地区における15歳未満人口10万人あたりのポリオと鑑別を要する疾患の頻度は0.78、その内訳としてGBSの頻度は 0.13、その他の疾患は0.65であった。ウイルス分離の実施率は5/6例(83.3%)であった。
結論
これらの6地域での主要小児有床医療施設327施設からのアンケート回収率は71-100%(平均87%)であり、15歳未満人口10万人あたりのポリオと鑑別を要する疾患の頻度は0.21-2.01(平均1.12)、その内訳としてGBSの頻度は 0.21-0.85(平均0.54)、その他の疾患は 00.48-1.16(平均0.69)であった。これらの施設が全国に分布し、都市及び郊外山村等を含む地域における小児医療のカバー状況、医療内容などから、AFPをきたす疾患の15才以下の患者の発生頻度を selection biasは少ないものとして推測することは可能であり、平成11年1月よりこれらのポリオと鑑別診断を要する症例のウイルス学的検査を後方視的に行うことによって、ポリオと鑑別を要する疾患を含めて我が国には野生株ポリオウイルスがいないことを立証することが可能であるとの結論に至り、今後の後方視的研究につなぐことになった。

公開日・更新日

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