文献情報
文献番号
199900449A
報告書区分
総括
研究課題名
Q熱による呼吸器感染症の国内での発症状況および病像に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
渡辺 彰(東北大学加齢医学研究所)
研究分担者(所属機関)
- 高橋 洋(東北大学加齢医学研究所)
- 菊地 暢(東北大学加齢医学研究所)
- 白石 廣行(宮城県保健環境センター)
- 平井克哉(岐阜大学農学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
12,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
Q熱とはCoxiella burnetiiの感染に起因する人畜共通感染症の総称であり、種々の家畜やペット、野生動物の排泄物や分泌物のエアゾル吸入を介した経気道伝播がヒトへの主要な感染ルートとなる。急性Q熱は肝炎や不明熱など多彩な病像を呈しうるが、患者の多くは上気道炎や気管支炎、あるいは肺炎など呼吸器感染症として発症する。急性Q熱の予後は基本的に良好であるが、脳炎や髄膜炎等の合併症も報告されており、また急性Q熱に罹患した患者のうちの一部は心内膜炎などの病像をとる予後不良な慢性Q熱に移行するとされており注意が必要である。Coxiellaは欧米においては市中肺炎の数%程度を占める一般的な起炎菌としてよく認識されているが、本疾患の国内におけるひろがりや病像に関しては未だ不明の点が多い。本研究の目的は、市中発症型の呼吸器感染症としての急性Q熱の日本国内における発症頻度およびその病像を解析することにある。
研究方法
日常的な市中感染症としての急性Q熱症例を把握することが本検討の目的であるため、我々は宮城県内各地域の市中病院や診療所などと連携して呼吸器感染症の患者検体をprospective studyとしてひろく収集し、血清抗体価とPCR法を中心とした急性Q熱症例の検索を試みている。初年度は冬期を中心とした検討を施行したが、第二年度となる本年度は、冬期と夏期の季節間比較も試みるために登録期間は夏期中心(6-11月)とした。対象施設は都市部から郊外まで、そして一次医療機関から三次医療機関まで、そして県北部から南部までが含まれるように設定して宮城県内各地域の19臨床施設とした(加齢研付属病院を含む)。検討期間中に来院した市中発症型の呼吸器感染症患者に対して、各施設の担当医が患者同意を得たうえで症例を登録、また同時に血清、咽頭拭い液、喀痰など各種患者検体を収集した。回復期血清に関しては再診可能な症例からの採取とした。これら検体を用いた急性Q熱症例の検索は、間接蛍光抗体法によるコクシエラII相菌IgMおよびIgG抗体価の測定、咽頭拭い液と喀痰および血清を検体としたPCR法により行い、さらに一部の症例に関しては、凍結保存血清からのコクシエラの分離培養を試みた。全体のデザインは、登録期間(夏期中心)および参加施設(初年度比で1施設が減、2施設が追加)以外は検体処理法などを含め初年度のサーベイランスとまったく同一とした。
結果と考察
本年度の検討では163症例が登録された。急性期血清および咽頭拭い液は全例から採取したが、その他に回復期血清が69件、喀痰採取も69件、さらに胸水が2件、BALFが5件収集された。登録症例の内訳は肺炎が69例、上気道炎が52例、気管支炎が42例であった。また動物との接触歴を有する症例は約半数であった。内訳はイヌ(54例)およびネコ(30例)が上位を占めた。その他登録症例の基本的な背景因子に関しては、初年度(冬期)と本年度(夏期)では明らかな差は認められなかった。急性期の血清IgG抗体価は、40倍以上を陽性と評価すれば24例(全体の14.7%)から検出された。陽性例の内訳は2560倍が1例、1280倍が1例、320倍が4例、160倍が5例、80倍が5例、40倍が8例であり、今回も急性期がIgG抗体価が非常に高値の症例が数例含まれていた。一方のIgM抗体価に関しては、今回の検討では急性期ないし回復期に陽性(20倍以上を陽性とした)となった症例が3例(20-80倍)見いだされた。さらに今回の検討においては、回復期血清がペアで採取できた69例中の3症例において回復期のIgG抗体価が有意の上昇を示し、急性Q熱確診例と判断された
。今回の確診症例3例はいずれも肺炎例であったが、その発症背景は飼育しているネコが発症前に出産したなど急性Q熱として矛盾がないものだった。またPCRに関しては、咽頭拭い液中の5件、血清中の1件、喀痰中の2件が陽性と判定された。これらはいずれも初回の検討と同様に2ND PCRレベルでの陽性例だった。胸水あるいはBALFからの陽性例は見いだされなかった。初回(冬期)の成績と今回(夏期)の解析結果を全体として比較してみると、同じデザインで検体を採取したにもかかわらず、Q熱確診例、急性期IgG抗体価高値例、IgM抗体価検出例、咽頭、血清、喀痰からのPCR陽性例はいずれも夏期においてより高率に検出された。一般的には、急性Q熱は動物の出産やヒトと動物の接触機会が多い夏期において冬期よりも発症が多いことが報告されており、本邦における発症状況も同様であるものと考えられる。急性Q熱はインフルエンザと類似した高熱や関節痛、倦怠感など全身症状を呈する場合が多いため、夏場において季節はずれのインフルエンザ類似症例に接した場合には、本症の可能性も考慮して積極的な病歴聴取や検体採取を試みる価値があるものと思われる。なお初年度の検討で見いだされた急性Q熱疑い症例に関して、一部症例でその後の追跡調査および背景調査を試みたところ、初年度にPCRのみが陽性であった3例は全てその後にIgG抗体価が有意に上昇していることが明らかになった。また一部症例飼育しているペットからもPCR法によりコクシエラのDNAが検出された。すなわち確診例以外の症例のなかにも急性Q熱症例が含まれている可能性は非常に高く、本年度の症例に関しても今後は追跡調査および背景調査を積極的に試みていく予定とした。
。今回の確診症例3例はいずれも肺炎例であったが、その発症背景は飼育しているネコが発症前に出産したなど急性Q熱として矛盾がないものだった。またPCRに関しては、咽頭拭い液中の5件、血清中の1件、喀痰中の2件が陽性と判定された。これらはいずれも初回の検討と同様に2ND PCRレベルでの陽性例だった。胸水あるいはBALFからの陽性例は見いだされなかった。初回(冬期)の成績と今回(夏期)の解析結果を全体として比較してみると、同じデザインで検体を採取したにもかかわらず、Q熱確診例、急性期IgG抗体価高値例、IgM抗体価検出例、咽頭、血清、喀痰からのPCR陽性例はいずれも夏期においてより高率に検出された。一般的には、急性Q熱は動物の出産やヒトと動物の接触機会が多い夏期において冬期よりも発症が多いことが報告されており、本邦における発症状況も同様であるものと考えられる。急性Q熱はインフルエンザと類似した高熱や関節痛、倦怠感など全身症状を呈する場合が多いため、夏場において季節はずれのインフルエンザ類似症例に接した場合には、本症の可能性も考慮して積極的な病歴聴取や検体採取を試みる価値があるものと思われる。なお初年度の検討で見いだされた急性Q熱疑い症例に関して、一部症例でその後の追跡調査および背景調査を試みたところ、初年度にPCRのみが陽性であった3例は全てその後にIgG抗体価が有意に上昇していることが明らかになった。また一部症例飼育しているペットからもPCR法によりコクシエラのDNAが検出された。すなわち確診例以外の症例のなかにも急性Q熱症例が含まれている可能性は非常に高く、本年度の症例に関しても今後は追跡調査および背景調査を積極的に試みていく予定とした。
結論
今回のサーベイランスにより登録された市中発症型呼吸器感染症163例のなかで3症例が急性Q熱確診例と判断された。その頻度はペア検体採取例中でみれば夏期で4.34%、冬期と通算でも1.91%を占めており、さらに肺炎症例に限定した場合には夏期で7.0%、冬期と通算して3.9%となった。これは欧米における種々の疫学調査と同レベルの成績であり、日本国内におけるQ熱の発症状況も欧米と大きな差はないものと予想される。ただし急性Q熱の発症状況や病像にはかなりの地域差が存在する可能性も高く、さらに本症では局地的な集団発症などもしばしば認められることから、本邦における急性Q熱の病像をより的確に把握するためには、今後は全国的な調査も展開していく必要があるものと考えられる。
公開日・更新日
公開日
-
更新日
-