O157等腸管出血性大腸菌感染症に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900443A
報告書区分
総括
研究課題名
O157等腸管出血性大腸菌感染症に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
佐藤 成大(岩手医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 千田勝一(岩手医科大学)
  • 品川邦汎(岩手大学)
  • 玉田清治(岩手県衛生研究所)
  • 中村義孝(岩手県盛岡保健所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
11,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
(1)細菌学的研究:ホスホマイシン、ノルフロキサシンの O157に対する影響。パルスフィールド電気泳動法による集団感染の解析。各種抗菌剤に対するO157,O26,0111の最小発育阻止濃度(MIC)の測定。(2)疫学的研究:HUS発生率の検討。(3)免疫学的研究:乳牛初乳中のO157,O26,O111抗体価の測定と授乳による子牛への抗体移行の検討。(4)感染症対策ネットワークについての検討:感染症対策ネットワークについてのアンケート調査。
研究方法
(1)細菌学的研究:O157菌株を抗生剤で処理し、生菌数の測定、Stx量の測定、電顕による形態観察を行った。パルスフィールド電気泳動法はバイオラドの試薬キットを用いた。MICの測定は微量希釈法で行った。(2)疫学的研究:岩手県における保健所管区別のSTx陽性菌の分離件数を比較した。HUSの発生率は腸管出血性大腸菌感染症患者、および疑いの患者で、腸管出血性大腸菌検出症例と非検出例について検討した。検体採取、患者情報についてはインフォームドコンセントに基づき人権を損ねないよう配慮した。(3)免疫学的研究:牛初乳および子牛血清の抗体価測定はELISA法により行った。牛糞便中のSTx遺伝子の検出はPCR法でおこなった。(4)ネットワークについて:アンケート調査は岩手県内の医療機関、保健所等46施設を対象に行った。
結果と考察
(1)抗生剤処理によるSTx放出に関しては、ノルフロキサシン処理では菌体外STx量は測定限界以下であったが、ホスホマイシン処理では増加を認めた。ホスホマイシン処理によるSTxの放出はSTx遺伝子の発現による合成の誘導ではなく、溶菌によることが示された。パルスフィールド電気泳動法による遺伝子解析を集団発生事例に応用した結果、牛の糞便由来のO157株と患者由来の株が一致した事例、食品由来のO26株と患者由来の株が一致した事例、ハエ由来のO26株と患者由来の株が一致した事例の3例について感染経路の推定が可能であった。薬剤感受性については、O157,O26,O111(STx産生菌)を含む115株のFOMに対するMIC rangeは好気性培養で0.12~512mg/ml、嫌気培養では0.12~64mg/mlと広く、株により感受性に大きな差がみられた。FOM,NFLX, KMのいずれかの薬剤にMIC128mg/ml以上の低感受性を示す菌株は115株中12株であった。(2)岩手県における保健所管区別のSTx陽性菌の分離件数は、平成9,10,11年とも盛岡管区の分離件数が最も高かった。HUSの発生は腸管出血性大腸菌検出例50例中4例(8%)、非検出例23例中2例(8,7%)であり、両群ともほぼ同様の発生率であった。(3)牛の免疫については、母牛の初乳は分娩直後に抗O157,O26,O111抗体を大量に含むこと、子牛に移行した抗体は少なくとも1ヶ月持続する事が示された。また、STx遺伝子の保有率は、母牛では分娩前後で差はみられないが、子牛は初乳摂取後は低く、経時的に上昇することが明らかになった。従って、子牛の初乳摂取が子牛の腸管出血性大腸菌感染防御に重要であると考えられた。(4)感染防止ネットワークに関するアンケート調査では、回答のあった36施設(回答率78.3%)の回答をもとに集計解析した。感染情報の共有活用についてはすべての施設が必要と考えていた。検査施設では地域における発生状況のデータを必要としていた。食中毒、伝染病、感染症等での緊急検査依頼については22施設で対応したことがあり、その検査に満足している施設は半数の11施設で、他の11施設は緊急時を考えると不安と答えていた。共有データを作成する機関の候補としては衛生研究所が最適とする回答が最も多かった。研修会に参加したいとする施設は32施設あり、研修内容の希望は技術研修が最も多かった。情報
提供の手段としては、今回の集計ではファックスが最多であったが、今後電子メールによる提供が現実的なものになる可能性が考えられた。情報公開については十分に考慮する必要があると考えられた。
結論
パルスフィールド電気泳動法は集団感染の解析に有用であった。過去3年間の腸管出血性大腸菌の薬剤感受性のパターンからFOM,NFLX, KMのいずれかの薬剤にMIC128mg/ml以上の低感受性を示す菌株は115株中12株(10.4%)でることが示された。HUSの発生は腸管出血性大腸菌検出例50例中4例(8%)、非検出例23例中2例(8,7%)であり、両群ともほぼ同様の発生率であった。母牛の初乳は分娩直後に抗O157,O26,O111抗体を大量に含み、子牛に移行した抗体は少なくとも1ヶ月持続する事が示された。子牛のSTx遺伝子の検出率は初乳摂取後低く、経時的に上昇してゆくことから、子牛の初乳摂取が子牛の腸管出血性大腸菌感染防御に重要であると考えられた。感染防止ネットワークに関するアンケート調査では、感染情報の共有活用についてはすべての施設が必要と考えていた。また、食中毒、伝染病、感染症等での緊急検査依頼については22施設で対応したことがあり、その検査に満足している施設は半数の11施設で、残りの11施設は「緊急時を考えると不安」と、答えていることが今回の調査で判明した。共有データを作成する機関の候補としては「衛生研究所が最適」とする回答が最も多かった。

公開日・更新日

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