サルモネラの診断・予防法の開発

文献情報

文献番号
199900442A
報告書区分
総括
研究課題名
サルモネラの診断・予防法の開発
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
林 英生(筑波大学)
研究分担者(所属機関)
  • 倉園久生(岡山大学)
  • 江崎孝行(岐阜大学)
  • 牧野壮一(帯広畜産大学)
  • 中山周一(国立感染症)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
サルモネラは自然環境中に広く棲息し、両生類からヒトまで広範囲の動物に寄生し、疾病を惹起する場合がある。ヒトに敗血症と胃腸炎を惹起するSalmonella属は遺伝学的には均一な属であるが鞭毛抗原と糖鎖の抗原により2000種類以上の血清型に細分されている。この中の特定の血清型のみが特異的な感染を起こすがその病原因子がまだ特定できていない。自然界に普遍的に棲息するサルモネラ属の中から、ヒトに特異的病原性を発揮する菌株を早期に検出し、食品への混入を防止するとともに、その病原因子の病理作用を解明しサルモネラ性胃腸炎の予防と有効な治療法を見だすことが本研究の目的である。
研究方法
病原細菌学の研究方法に精通した研究者が共同して研究を行う。自然界に普遍的に棲息するサルモネラ属の中から、ヒトに特異的病原性を発揮する菌株を早期に検出し、食品への混入を防止するために、次のような方法を用いる。 病原因子の遺伝子解析としてはヒト由来菌の侵入に関る因子(様々な分泌蛋白と表面抗原など)を解析するために、広く、背景の確定した菌株を収集し解析するとともに、様々な遺伝子欠損株を作成し解析する実験法を作成する。そのために可能な遺伝子操作法は基本手技とし、菌株の分離同定、蛋白化学的な病原因子の解析、病原遺伝子の解析などを行う。食細胞内での増殖に関与する遺伝子を解析するためサルモネラの遺伝子チップを作成し食細胞内でのサルモネラのmRNAの発現を解析するシステムの作成する。 診断法の開発には、既知の病原因子の特定領域を指標とした、ランダムPCR法の開発、特定因子の抗体によるELIZAの開発、感染症の迅速診断および汚染食品の迅速診断のために遺伝子を15分で増幅できるcapillaryPCR法を用いてS. enteritidis, S. typhimurium, S. dublin, S.paratyphiAの迅速同定方法の作成を目指す。 サルモネラの腸炎の病理像はなお確立した所見がない。この方面からの研究は患者材料が入手できれば進展させる。
結果と考察
C.  研究結果 サルモネラの診断・同定 サルモネラの病原因子の一つと見なされる、エンテロトキシン遺伝子(stn)を指標に、サルモネラの混入の有無を検出する方法を試行した。stn の特定の領域を指標としたPCR 法で、細菌一個を検出することが可能であり、食品中(肉類)、糞便中からの検出には増菌培養を介在させれば1g中に100個程度の菌体の混入を検出することができた。 病原因子の特定の項で作成したprimerで各Salmonellaの血清型の遺伝を特異的に増幅することを確認した。今後はCapillary法による検出系の感度の測定が残されている。InvAおよびEnterotoxinのprimerはsalmonella全体の検出に、S.enteritidisの検出にはrfbE遺伝子とfliCのgmp抗原を増幅する2つのprimerの組み合わせで検出系が作成できることが確認された。 病原因子の特定 ヒトに特異的に病原性を発揮するサルモネラの病原因子を特定するために、疫学的解析、侵入因子の分子機構、細胞内寄生機構を解析した。いか菓子を原因食とした茨城県内の食中毒事例から分離されたS. oranienburg では、分離された場所(環境中、食肉処理場、およびヒトの糞便)に関らず、PFGEパターンは同一であった。しかし、ヒトから分離された菌株は約3kbのプラスミドを共通して保有しており、そのプラスミドを保有していた菌株は培養細胞への侵入性をしめした。 Salmonellaにおいて侵入能を担うsspBCD遺伝子は赤痢菌のipaBCDに相同性を示し、赤痢菌のipaBCD遺伝子は2成分制御系であるcpxR-cpxAの支配を受けている。サルモネラはcpxR-cpxAを保有しているので、これがサルモネラの侵入性に関与している機構を変異株を
作製して解析した。 チフス菌はVi抗原の発現を環境の変化に応じて調節していることがわかった。食塩濃度が高い腸管ではViの発現を抑制していた。 Viを抑制したチフス菌は鞭毛抗原を大量に発現し活発に分泌蛋白を生産していた。この分泌蛋白は生産するチフス菌は組織侵入生が高まり、約30分のでパイエル板の構造を破壊した。上皮細胞だけでなく基底膜を破壊し出血を誘導した。分泌蛋白sipB, sipCおよびその分泌調節因子InvAを欠損させた株は全く侵入できなかったことからチフス菌の細胞侵入機構はこれらの分泌蛋白が重要な役割を果たしていることがわかった。一方これらの変異株は食細胞にどん食させると野生株以上に食細胞内でよく増殖したことから、分泌蛋白は食細胞内での増殖にはマイナスの因子であることがわかった。また食細胞内では野生株はViを大量に発現しており、分泌蛋白の生産は抑制されていた。Vi欠損株は食細胞内では増殖ができなかったことから食細胞内での増殖にはViの発現が不可欠であることがわかった。 チップに固定するDNAのprimerの作成まで研究が進展している。今後はPCR産物をチップに固定し、mRNAの発現を定量的に見る実験へと移行する計画でいる。
D.  考察 PCR法による検出法は実用化が可能である。他の遺伝子として侵入性遺伝子(invA )を指標として検出する系は既に市販されているものもあるが、stnもinvAのいずれも、サルモネラ属では亜種、血清型に関らず共通して保有しているので、起因菌として特定できるほどの特異性はまだ備えていない。今後はサルモネラの病原性は複合的な因子の協奏的な作用であることを考慮し、複合プライマーでの検出系を試行する必要があろう。 病原因子の特定法をして3kb のプラスミドと細胞侵入性との関連性が確立すれば、これを検出する方法を診断法として利用できるかもしれない。DNAチップを検出系に利用するには費用が高価すぎるが、これにより細胞内寄生性遺伝子が特定できればそれを診断に利用でき、環境・食品などのランダム検査でヒトや動物の感染を予防することができる。サルモネラは同一血清型においてもPFGEパターンは多様性を示し、しばしが感染経路の解析が困難である。各地で分離されたS. oranienburg はむしろ例外的にPGGEパターンが一致している。しかし、この菌種が食中毒を惹起したのは珍しく、何らかの病原因子を新たに獲得した可能性もある。この点に注目して解析したところ新たに3kb のプラスミドが病原因子を担っている可能性が見いだされた。
結論
E.  結論 ヒトに病原性のある特異的な遺病原因子の遺伝子および遺伝子産物を特定している。検出方法として遺伝子診断法の開発を試行している。また、遺伝子産物を免疫法にて検出する方法も試行している。

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