文献情報
文献番号
199900434A
報告書区分
総括
研究課題名
抗酸化能を有する組換えアルブミンの創剤設計(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
小田切 優樹(熊本大学薬学部)
研究分担者(所属機関)
- 棚瀬純男(熊本大学医学部)
- 山口一成(熊本大学医学部附属病院)
- 庄司省三(熊本大学薬学部)
- 福澤健治(徳島大学薬学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 高度先端医療研究事業(人工血液開発研究分野)
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
17,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
近年、輸液や血液製剤によるHIV感染者や肝炎感染者等が増加しており、社会的にも大きな衝撃を与えている。血液製剤のなかでも、ヒト血清アルブミン(HSA)は出血性及び外傷性ショック時の循環血流量の是正、また熱傷やネフローゼ症候群などのアルブミン漏失亢進及び肝硬変などのアルブミン合成能低下に伴う低アルブミン血症時の膠質浸透圧の改善等、種々の疾患に汎用されており、近代医療にとって欠かせない医薬品となっている。しかしながら、アルブミン製剤は血液を原料とするため、HIV、肝炎及びクロイツフェルトヤコブ病原物質をはじめとする未知の有害なウイルスや夾雑蛋白質の混入する危険性がつきまとう。加えて、投与されたアルブミンは生体内で酸化を受け、その消失が促進されるため、頻繁な投与を必要とする。このことは、ラジカル酸化を受けにくいアルブミンを遺伝子組換え法で作製することができれば、投与回数を減らすことができ、臨床効果だけでなく、ファーマコエコノミクスな観点からも重要な効果をもたらすことが予想される。そこで本研究では、安全性ならびに有効性に優れた抗酸化能アルブミンの創製を最終目標に、実用レベルへの外挿が可能な組換えアルブミンの効率的な精製法の確立を試み、さらに抗酸化能アルブミン分子設計上の基礎をなす、酸化アルブミンの構造と機能について検討を加えた。
研究方法
本研究は、主任研究者の小田切と、それぞれの分担研究者が直接討議あるいはメール等で情報交換しながら、遂行された。すなわち、組換えアルブミン(rHSA)の大量調製法は棚瀬により確立された。また、酸化アルブミンは庄司により調製され、各種スペクトル法、熱分析法及び生物学的試験により、これらアルブミンの純度検定、構造特性が評価された。加えて、山口によりrHSAの薬物結合能、エステラーゼ様活性、生体内挙動などが調べられ、血漿由来のアルブミン(pHSA)と比較検討された。また、福澤により酸化アルブミンの動態特性や抗酸化能が評価され、未処理アルブミンと比較検討された。
結果と考察
【組換えアルブミンの構造特性と機能評価】Pichia pastorisを用いたHSAの大量調製法を確立した。得られたrHSAについて、遠紫外領域CDスペクトル、1H-NMRスペクトル、抗HSAポリクローナル抗体を用いて検討した結果、二次構造、三次構造及び抗体の認識性にrHSAとpHSAの間で有意な差は観察されなかった。化学的安定性、熱安定性についての各パラメータはrHSA、pHSAともに同様の値を示し、両者に有意な差は認められなかった。また、熱変性時の転移過程においても両者間に差異はないものと思われた。さらに、カプリル酸(Capr)やN-アセチル-L-トリプトファン(N-Ac-L-Trp)添加時において、化学的安定性、熱安定性の増大が観察された。また、いずれのHSAも低温殺菌により安定性を大きく失うことが確認されたが、この安定性の低下は両HSAともにCapr、N-Ac-L-Trp添加により改善された。したがって、立体構造を形成する分子内相互作用やドメイン間相互作用等においても、両HSAの同等性を示すものと考えられた。
次に、rHSAの薬物結合特性について検討した結果、rHSA分子上の薬物結合サイトの存在様式はpHSAとほぼ同様である可能性が示唆された。また、両HSAは同程度のエステラーゼ類似作用を示し、その活性残基と言われている411位のTyr残基周辺の環境は両者の間で差異はないものと推察された。125I-rHSA及び125I-pHSAのラットでの体内動態について検討した結果、血漿中濃度推移は二相性を示し、消失相(β相)から算出した半減期(t1/2)は約30時間であった。また、投与96時間後の各組織への分布や尿及び糞中への放射能の累積排泄率より、両HSAはいずれの臓器にもほとんど蓄積せず、血中から速やかに尿中へ排泄されることが明らかとなった。このように、rHSAの生体内挙動はpHSAとの間に差異は認められず、rHSAの安全性が裏付けられた。
【酸化アルブミンの構造特性と機能評価】HSAを金属触媒酸化(MCO-HSA)に加え、クロラミンーT(CT-HSA)及び過酸化水素(H2O2-HSA)処理により調製した三種の酸化HSAの構造及び機能特性を未処理HSAと比較検討した。その結果、MCO-及びCT-HSAでは遠紫外領域におけるコットン効果は、未変化体に比べわずかに減少していた。一方、近紫外領域の負のコットン効果は、著しく減弱化していた。H2O2-HSAでは、これらの酸化HSAとは対照的に、コットン効果に大きな変化が生じていないことから、酸化に伴う立体構造変化はほとんど生じていないものと推察された。未処理及び酸化HSAのDSC測定を行い、両者の熱変性の違いを調べた結果、未処理HSAやH2O2-HSAの熱変性は単一ピークにより特徴づけられ、協同的な熱変性パターンを示した。しかし、MCO-及びCT-HSAの場合、熱変性に伴う吸熱ピークはブロード化し、転移エンタルピーの減少が観察された。先のCD結果と合わせ、MCO-及びCT-HSAに大きな立体構造変化が引き起こされていることが強く示唆された。さらに、酸化修飾に伴うHSA分子表面の疎水性変化を評価した結果、MCO-及びCT-HSAでは、native構造で内部に埋もれていた疎水領域が分子表面に露出している可能性が示唆された。
次に、酸化反応に伴うHSAの機能変化を評価した。サイトIへのリガンド結合性は、いずれの酸化HSAにおいても影響を受けなかった。しかし、サイトIIに関しては、MCO-HSA及びCT-HSAにおいて著しい結合性の低下が観察された。一方、H2O2-HSAでは薬物結合性及びエステラーゼ様活性に低下は認められなかった。HSAの生体内挙動に及ぼす酸化の影響を検討するために、125Iでラベル化した酸化HSAをラットに投与したところ、MCO-HSA及びCT-HSAの消失半減期は、未処理HSAに比べ約半分に短縮された。一方、H2O2-HSAの場合は未処理HSAと類似した挙動を示し、生体内挙動に影響を及ぼさないことが明らかとなった。今回調製した酸化HSAの修飾特性や構造特性と関連づけて、アルブミンにおいてMet残基は抗酸化剤として、機能と構造を維持する役割を果たしている可能性が示唆された。
次に、rHSAの薬物結合特性について検討した結果、rHSA分子上の薬物結合サイトの存在様式はpHSAとほぼ同様である可能性が示唆された。また、両HSAは同程度のエステラーゼ類似作用を示し、その活性残基と言われている411位のTyr残基周辺の環境は両者の間で差異はないものと推察された。125I-rHSA及び125I-pHSAのラットでの体内動態について検討した結果、血漿中濃度推移は二相性を示し、消失相(β相)から算出した半減期(t1/2)は約30時間であった。また、投与96時間後の各組織への分布や尿及び糞中への放射能の累積排泄率より、両HSAはいずれの臓器にもほとんど蓄積せず、血中から速やかに尿中へ排泄されることが明らかとなった。このように、rHSAの生体内挙動はpHSAとの間に差異は認められず、rHSAの安全性が裏付けられた。
【酸化アルブミンの構造特性と機能評価】HSAを金属触媒酸化(MCO-HSA)に加え、クロラミンーT(CT-HSA)及び過酸化水素(H2O2-HSA)処理により調製した三種の酸化HSAの構造及び機能特性を未処理HSAと比較検討した。その結果、MCO-及びCT-HSAでは遠紫外領域におけるコットン効果は、未変化体に比べわずかに減少していた。一方、近紫外領域の負のコットン効果は、著しく減弱化していた。H2O2-HSAでは、これらの酸化HSAとは対照的に、コットン効果に大きな変化が生じていないことから、酸化に伴う立体構造変化はほとんど生じていないものと推察された。未処理及び酸化HSAのDSC測定を行い、両者の熱変性の違いを調べた結果、未処理HSAやH2O2-HSAの熱変性は単一ピークにより特徴づけられ、協同的な熱変性パターンを示した。しかし、MCO-及びCT-HSAの場合、熱変性に伴う吸熱ピークはブロード化し、転移エンタルピーの減少が観察された。先のCD結果と合わせ、MCO-及びCT-HSAに大きな立体構造変化が引き起こされていることが強く示唆された。さらに、酸化修飾に伴うHSA分子表面の疎水性変化を評価した結果、MCO-及びCT-HSAでは、native構造で内部に埋もれていた疎水領域が分子表面に露出している可能性が示唆された。
次に、酸化反応に伴うHSAの機能変化を評価した。サイトIへのリガンド結合性は、いずれの酸化HSAにおいても影響を受けなかった。しかし、サイトIIに関しては、MCO-HSA及びCT-HSAにおいて著しい結合性の低下が観察された。一方、H2O2-HSAでは薬物結合性及びエステラーゼ様活性に低下は認められなかった。HSAの生体内挙動に及ぼす酸化の影響を検討するために、125Iでラベル化した酸化HSAをラットに投与したところ、MCO-HSA及びCT-HSAの消失半減期は、未処理HSAに比べ約半分に短縮された。一方、H2O2-HSAの場合は未処理HSAと類似した挙動を示し、生体内挙動に影響を及ぼさないことが明らかとなった。今回調製した酸化HSAの修飾特性や構造特性と関連づけて、アルブミンにおいてMet残基は抗酸化剤として、機能と構造を維持する役割を果たしている可能性が示唆された。
結論
本研究では、三年計画のスタートとして、遺伝子工学的手法により組換えアルブミンの効率的な精製法を試みたところ、Pichia pastoris を用いて大量調製法の確立に成功するとともに、組換えアルブミンが未処理アルブミンと全く同等の機能性を保持していることを確認した。また、三種類の酸化アルブミンを調製し、その構造特性と機能性を調べた結果、過酸化水素による酸化は、動態特性に全く影響を与えず、Met残基が抗酸化剤として重要な役割を演じていることが示唆された。また、予備的知見ながら、アルブミンの分子表面に存在する322-Ala及び528-AlaをMet残基に置換した変異体が、変異に伴う構造変化を惹起せず、抗酸化作用の増強傾向を示した。次年度は、これらの知見を基に、最終目標の抗酸化能を有するアルブミン製剤開発への端緒を開く成果を挙げるべく鋭意努力する所存である。
公開日・更新日
公開日
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