ヒトB細胞由来の抗体作製に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900433A
報告書区分
総括
研究課題名
ヒトB細胞由来の抗体作製に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
垣生 園子(東海大學医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 猪子英俊(東海大學医学部)
  • 橘祐司(東海大學医学部)
  • 佐藤健人(東海大學医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 高度先端医療研究事業(人工血液開発研究分野)
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
24,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ヒト型抗体は、有効な治療方法がないウイルス感染、自己免疫病あるいは移殖に新しい治療方法を提供できると期待されている。しかし、現存するヒト・キメラ抗体や大部分の配列をヒト型化した人工抗体では、マウスのアミノ酸配列やマウス型糖鎖を含むため、有効性や安全性の面から臨床応用には問題がある。これら問題点の解消を目指して、本研究ではヒトB細胞由来のモノクロナール抗体を大量に作製する方法を2つの側面から開発する。具体的には、遺伝子工学的手法を駆使して、種々の病原体や自己抗原に対する抗体を産生している末梢ヒトB細胞から抗体遺伝子を得て抗体を大量に作製する。又一方では、希望する抗原特異的抗体を産生するB細胞を抗原免疫によって得られるように、ヒト免疫系を再構築したモデルマウスを作製する。
研究方法
1. 遺伝子工学的手法による抗体作製:基本的には末梢ヒトB細胞から目的の抗体遺伝子ライブラリーを作製し、それら産物の特異性と活性を検索した後、特異抗体を大量作製する。1)抗体遺伝子ライブラリー作製:B細胞からRT-PCRにより増幅した遺伝子をファージミドベクターに組み込んで大腸菌(JM109)に導入して作製する。2) 目的抗体への集約:次の2方法でおこなう。①ライブラリー作製以前にEBウイルストランスフォーム細胞からオリゴクローンを選択する方法と、②ライブラリーから得た遺伝子産物レベルで、抗原および患者血清中の抗体によるコロニーウエスタンブロットにより取捨選択する。 3) 活性の強化:得られた各クローンのFab抗体のH鎖とL鎖遺伝子の組み替えにより、活性の異なる抗体を作製し高活性の抗体をスクリーニングする。4)抗体の特異性は、ELISA法、免疫染色特法あるいは中和活性によって検討する。
2.免疫不全マウス(NOD-SCDIマウス)内でのヒト免疫系再構築:1)T細胞の分化誘導:臍帯血由来のヒトCD34+幹細胞をマウス胎仔胸腺から得たストローマ細胞と凝集共培養し、さらにNOD-SCIDマウス腎被膜下に移植する。2)B細胞の場合は、照射NOD-SCIDマウスにヒトCD34+細胞を移植する。その際、移植細胞は分離直後群と、マウス骨髄ストローマ細胞株上で培養する群に分ける。これらマウスに出現するヒトBおよびT細胞を、各細胞に特異的細胞表面マーカを指標に経時的にflowcytometerにて解析する。また、血清中の抗体およびin vitroにおける刺激に対するT細胞のサイトカイン産生能はELISA法で解析する。
結果と考察
1.目的とする抗体の遺伝子或いはその産物をライブラリーの中から選択するために2つの方法を独立に施行し、中和活性を含む高活性の抗体をヒトB細胞から作製することに成功した。
(1)EBVでトランスフォームしたヒト末梢B細胞から目的の抗体産生クローンを選択し、そのオリゴクローンから遺伝子を増幅しファージミドベクターにより大腸菌に導入して、ライブラリーを作製した。このライブラリー遺伝子産物はほとんどが抗原特異性をもっていたが、活性およびエピトープに関して多様であった。
(2)血清中で高力価の抗体が検出される場合、B細胞レベルでの選択無しでライブラリーを作製し、その産物を患者血清抗体を用いたコロニーウエスタンブロット法にて選択・同定した。その結果、赤痢アメーバに対する中和抗体、HBsに対する高活性の抗体が得られた。特に赤痢アメーバ表面のGal/GalNAcレクチンに対する抗体は虫体とヒト赤血球の付着を阻止することから、治療用として期待される。また、各抗体のクローンから得たH鎖とL鎖を組み替えることにより、抗体活性を亢進できることを示した。この結果は、現在までにクローニングされた低活性のヒト抗体(HBウイルス、TNF-a、CD4に対する抗体)を、遺伝子操作して臨床応用可能な抗体に変換可能であることを示唆している。
2. ヒト免疫系の再構築は、本年度はヘルパー機能を持つT細胞の分化誘導に主力を注いだ。臍帯血より分離したヒトCD34+幹細胞をマウス胸腺のストローマ細胞と凝集共培養した後、NOD-SCIDマウスの腎被膜下に移植すると、6-8週間後局所で増殖分化し、in vitroの刺激に対して末梢成熟T細胞と同程度にIL-2の産生と増殖を示した。ヒト生体外で幹細胞から機能的T細胞を分化させたのは世界で最初である。本結果は、ヒト免疫系の再構築という観点からのみならず、生体外で分化誘導した機能的T細胞を、分化能の低下した生体に補充変換する治療面からも興味深い。一方、B細胞の分化誘導に関しては、昨年度の成果で、NOD-SCIDマウス内で可能であることを示したが、今回は移植前の培養やサイトカインの投与を省き、より簡易な方法でも可能であることを示した。これらNOD-SCID内のT、B細胞の分化誘導系の組み合わせにより、本研究の目的であるヒトB細胞に希望する抗体を作製させる可能性がでてきた。しかし、腎被膜下で分化したT細胞のリンパ系組織へ分布は充分でないので、次年度の課題として残された。
結論
遺伝子工学的手法と免疫学的手法の組み合わせを工夫することにより、外来病原体に対する抗原特異的で中和活性のあるヒトB細胞由来のモノクロナール抗体を大腸菌で作製することに成功した。また、得られた抗体クローンの各H鎖およびL鎖遺伝子を組み替えることによって、より強い活性を得ることができた。一方、臍帯血から分離したCD34+幹細胞はin vitroとin vivoの系を組み合わせることにより、マウス胸腺ストローマ環境内でヘルパー機能をもつに成熟T細胞に分化誘導可能なことを、世界で初めて明らかにした。昨年度確立したB細胞分化誘導系と組み合わせることによって、ヒト免疫系の再構築が期待される。以上の結果は、臨床応用可能なヒトB細胞由来の抗体作製の可能性が高いことを示唆する。

公開日・更新日

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