遺伝子導入とサイトカインによる巨核球系白血病の分化による血小板の生成の研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900431A
報告書区分
総括
研究課題名
遺伝子導入とサイトカインによる巨核球系白血病の分化による血小板の生成の研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
畠 清彦(財団法人癌研究会癌化学療法センター臨床部)
研究分担者(所属機関)
  • 照井康仁(自治医科大学)
  • 大月哲也(自治医科大学)
  • 冨塚 浩(自治医科大学)
  • 上井雅哉(自治医科大学)
  • 森 政樹(自治医科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 高度先端医療研究事業(人工血液開発研究分野)
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
18,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
血小板は現在健康保険制度上、2万/mm3以下であるか、または出血傾向を呈している状態に輸血することが認められている。血小板産生を刺激するサイトカインの同定及び解析の結果、インターロイキン6、11、マクロファージコロニー刺激因子、トロンボポエチンがある。本研究では血小板の分化、機能を刺激する至適なサイトカインと巨核球への分化を誘導する遺伝子、転写因子GATAを用いて巨核球系白血病を分化させ、血小板の生成を計画する研究を行う。これにより緊急時や災害時に血小板製剤の要求に答えられる可能性を作る。
研究方法
本研究では血小板の分化、機能を刺激する至適なサイトカインと巨核球への分化を誘導する遺伝子、転写因子GATAを用いて巨核球系白血病を分化させ、血小板の生成を計画する研究を行う。緊急に出血傾向を伴う患者さんの手術に対して出血の防止に作用できるものを開発する。凝固を補助できれば緊急時に血小板が入手できなくても出血傾向に対応できる可能性がある。HLA型は血小板輸血の際に抗体出現を促進し、反復して輸血する際の最も大きな弊害の一つである。そこでHLA分子の発現していない白血病細胞株K562細胞を標的細胞とし、トロンボポエチン受容体遺伝子c-mplを導入した。トロンボポエチンに反応する細胞株を樹立した(論文投稿中)。血小板は出現していないが、アポトーシス、細胞の周期や分化、核数を制御する遺伝子やサイトカインを解析する。転写因子GATAとbcl-XL,mpl遺伝子を用いて巨核球系に分化することを制御し、分化した白血病株細胞または正常細胞から血小板様物質が最も多く出現する条件を検討した。特にmpl遺伝子を導入して、いくつかの株細胞の形態変化を検討した。mpl導入株細胞は細胞表面の突起に富んでおり、興味深い。またHLAに関係なく白血病細胞のアポトーシスを誘導する因子としてβ2-ミクログロブリンを同定し、作用機序を検討した。試験管内での細胞死の誘導に有用である。最近さらに神経細胞の突起を延長させるサイトカインが発見されたので、ヒトではK562,TF-1細胞を標的として、血小板の構造物の産生、抗原性の有無について検討する。
結果と考察
血小板輸血は、できるだけ節約し、輸血による副作用の発現を最小限におさえ、成分輸血のドナーの見つからないまれな血液型やHLAタイプの患者さんにも投与できるものが必要である。血小板輸血は癌化学療法後の血小板減少や再生不良性貧血での血小板減少時には必須のものである事は言うまでもないが、HLA型に対する血小板抗体の出現や高価である事を考えると、節約をし、ヒト由来の血小板製剤の使用を最低限に抑制すべきである。そのためは基礎的研究としてまず現在入手可能なサイトカインや種々の薬剤により血小板機能が亢進する事や受容体の存在する事の意義と作用機序を理解した上で、止血機能を保持した血小板、巨核球系白血病から遺伝子導入とサイトカインにより血小板又は血小板に近いものが分化、機能できれば緊急の出血状態に対処できるものとなる。血小板減少と言っても、血小板ではなくても機能を有するものが一時的に機能が保持されれば危険は脱することができる。そのために血小板に近いものを株細胞から遺伝子導入の操作により分化させて作成することを目的とする。
(期待される成果)特に緊急災害時や出血をもたらす感染性疾患の流行時に対処する血小板製剤の代替物として期待できる。最近適応が拡大されたために対象患者の増加している末梢血幹細胞移植や臍帯血幹細胞移植では血小板数の回復に日数を要するため、この回復を促進するためにもこの研究は応用可能である。また一般薬として販売されているH2ブロッカー(消化性潰瘍剤)の副作用や、抗腫瘍剤として用いられているプラチナ製剤の副作用としても血小板減少が重篤であり、これらの副作用による出血などの対策も可能となる。
平成11年度は、 細胞の分化と多核化する遺伝子のひとつとして、ヒトHumanImmunodeficiency Virus由来蛋白の遺伝子Vprによる制御を研究した。白血病細胞は遺伝子導入により分化し、多核化したが、血小板は出現しなかった。骨髄系への分化は促進するものの、巨核球系への分化や細胞の多核化したあとの変化は認められなかった。また白血病細胞を分化させたものをヒトに投与したり、遺伝子導入した細胞を移植、投与することを考えると、移植または投与後の白血病細胞や遺伝子導入した細胞の細胞死を制御することが重要であり、アポトーシスの制御する機構を研究した。内皮細胞由来インターロイキン8の構造のうち、N末端アミノ酸配列の5ペプチドにより白血病細胞の細胞死を誘導できることがわかり、応用性が高いと考えられる。ヒトHLA遺伝子の制御機構を検討するために、HLA抗原に対する抗体を用いて細胞増殖に対する研究を行い、β2-ミクログロブリンが新しい細胞死を誘導する因子のひとつとして、同定し、報告した。また体外で白血病細胞を細胞死誘導する生理的蛋白として、補体ファクターBbが精製され、報告した(印刷中)。また投稿中であるが、トロンボポエチンに反応し、巨核球系マーカーも有する株細胞を樹立したので、活性化された時の電顕像を試みた。G-CSFにより活性化される遺伝子についても報告した(投稿中)。calmodulin-dependent kinase IVが分化によってdown-regulationされることがわかった。mpl遺伝子を導入して、いくつかの株細胞の形態変化を検討した。mpl導入株細胞は突起に富んでおり、興味深い。またHLAに関係なく白血病細胞のアポトーシスを誘導する因子としてβ2-ミクログロブリンを同定し、作用機序を検討した。細胞死の誘導に有用である。
結論
これまでの遺伝子導入またはサイトカインだけでは血小板または血小板構造物は出現できていない。最近神経細胞の突起を延長させるサイトカインが発見されたので、ヒトではK562, TF-1細胞のうちmpl遺伝子導入株細胞を標的として、抗原性の有無について検討する必要がある。細胞死の制御については多くの知見が得られた。

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