人工免疫グロブリン等の開発に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900429A
報告書区分
総括
研究課題名
人工免疫グロブリン等の開発に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
松浦 善治(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木哲朗(国立感染症研究所)
  • 井原征二(東海大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 高度先端医療研究事業(人工血液開発研究分野)
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
28,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
C型肝炎ウイルス(HCV)は輸血後感染症の最も大きな問題であったが、高感度抗体検出系の開発によりその感染者は激減した。しかしながら、我が国には二百万人以上ものHCVのキャリヤーが存在すると推定され、HCV感染と肝癌発症の相関も血清学的に証明されている。HCVを増殖できる細胞培養系が存在しないため、これまでのウイルス感染症で用いられてきた感染の中和やウイルスの排除を担う液性及び細胞性免疫反応の解析は進んでいない。我々はこれまでに慢性C型肝炎からの自然治癒例にHCVの二つのエンベロープ蛋白(E1とE2)のうちのE2蛋白が細胞表面のCD81分子に結合するのを阻止できる抗体(NOB抗体)が高率に出現することを見出した。この成績を基にしてファージディスプレー法を用いてNOB活性を示す一本鎖ヒト抗体の作製を試みた。また、HCVの細胞へ吸着以降のスッテップ(細胞融合とウイルス核酸の侵入)を解析できる系を構築し、さらに、ヒト型抗体を産生できるトランスジェニックマウスを組換えエンベロープ蛋白で免役し、HCVのエンベロープ蛋白の細胞融合活性を阻害できるヒト型抗体を取得することを目的とした。
研究方法
高い結合阻止抗体価を示し、慢性C型肝炎の自然治癒例の末梢リンパ球からcDNAを作製し、ファージディスプレイ系を用いて組換え抗体のライブラリーを作製した。その中から高い結合阻止活性を示す単鎖抗体を選別した。また、一方の細胞にHCVにエンベロープ蛋白とT7ポリメラーゼを発現させ、もう一方の細胞にはリポーターとしてT7プロモーターの下流にルシフェラーゼ遺伝子を組み込んだプラスミドを導入し、もし両細胞間で融合が生じれば、T7ポリメラーゼによってルシフェラーゼ遺伝子が発現され、肉眼で観察するよりもかなり高感度に細胞融合を検出できる系を構築した。さらに、水疱性口内炎ウイルス(VSV)の粒子表面に本来のエンベロープ蛋白の代わりに、HCVの組換えエンベロープ蛋白を被ったシュードタイプウイルスを作製した。細胞融合阻止活性とシュードタイプウイルスの感染中和を指標にして、ヒト型抗体の活性を調べた。
結果と考察
高いNOB抗体価を持ち、慢性C型肝炎から自然に治癒された方の末梢リンパ球からcDNAライブライリーを作製し、NOB活性を持ったヒト型単鎖抗体を数クローン選別した。HCVが細胞に吸着後、エンベロープ蛋白と細胞膜が融合し、ウイルス遺伝子が細胞質内へ侵入するステップを阻害できる抗体をスクリーニングするため、以下の二つのアッセイ系を構築した。まず、HCVのエンベロープ蛋白を細胞表面に発現する細胞株を樹立し、この細胞にT7RNAポリメラーゼを発現させ、予めT7プロモーターの下流にリポーター遺伝子を組み込んだプラスミドを導入したターゲット細胞と混合培養し、リポーター遺伝子活性化を指標にして、HCVエンベロープ蛋白の細胞融合活性を定量的にアッセイできる系を構築した。また、HCVのエンベロープ蛋白を粒子表面に被った組換えVSVを作製し、HCVのエンベロープ蛋白による侵入機構を解析した。その結果、HCVのエンベロープ蛋白による細胞融合・侵入にはE1とE2蛋白の両者が必要であり、ヒトCD81の発現は必ずしも必要なかった。このことは、E2蛋白の結合にはヒトCD81が必須であるが、それ以降の細胞融合や侵入には他の分子が必要なのか、NOBアッセイで使用している精製E2蛋白と細胞膜表面に発現させたE2蛋白の構造がかなり違っているためなのか、あるいは、ヒトCD81非依存的な感染機構が存在することを示しているのかも知れない。両アッセイで最も高い感受性を示したヒト肝癌由来細胞の細胞膜表面分子の解析から、HCVのリセプターは蛋白分子であ
り、さらに細胞表面の硫酸多糖類が感染に重要な役割を演じていることが示された。さらに、ヒト抗体を作るトランスジェニックマウスをHCVのエンベロープ蛋白を発現させた細胞膜画分を抗原として免疫し、中和活性を保持したHCVのエンベロープ蛋白に対するヒト型抗体の作製を試みた。その結果、E1に対する抗体が6種、E2に対する抗体が3種得られた。いずれの抗体もNOB活性およびシュードタイプウイルスの中和活性を示さなかったが、いくつかの抗体はHCVのエンベロープ蛋白による細胞融合を中和した。HCVの細胞へ吸着以降の細胞融合やウイルス核酸の侵入のステップを解析できる系を構築できたことは、HCVの感染機構の解明、特にリセプターの同定に極めて重要な進展であると思われる。今後、これまでに得られたヒト型抗体の生体からのウイルス排除活性を、HCVに持続感染しているチンパンジーを用いて検討することが重要と思われる。
結論
1) 慢性C型肝炎から自然治癒し、かつ高いNOB抗体価を持ったヒトの末梢リンパ球から組換え抗体のcDNAライブラリーを作製し、NOB活性を示す一本鎖抗体2クローンを得た。2) 高感度な細胞融合アッセイ系とHCVの組換えエンベロープ蛋白を被ったシュードタイプウイルスを作製し、CD81非依存的な感染機構が存在することが明らかにした。3) ヒトの抗体遺伝子を組み込んだトランスジェニックマウスをHCVのエンベロープ蛋白で免役し、HCVのエンベロープ蛋白を認識するヒト型抗体10クローンを得た。これらの抗体はNOB活性やシュードタイプウイルスの中和活性を示さなかったものの、HCVのエンベロープ蛋白による細胞融合を中和した。

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