プレセニリン1,2異常によるアルツハイマー病の発症機序の解明(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900387A
報告書区分
総括
研究課題名
プレセニリン1,2異常によるアルツハイマー病の発症機序の解明(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
田平 武(国立精神・神経センター神経研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 橋本 保(京都府立医大血管老化研究センター)
  • 巻淵隆夫(国立療養所犀潟病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 脳科学研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
31,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
プレセニリン1,2の変異によりアルツハイマー病(AD)が早期発症する機序を明らかにする。昨年度プレセニリン変異トランスジェニックマウスを解析し、加齢とともに神経細胞死が促進されていることを明らかにした。本年度はヒト脳での解析を免疫電顕を含めて行う。また、これまでにPS1, PS2ともに1ヶ所で限定分解されること、変異特異的にAβ42の産生増強が起きることが分かっている。本年度は限定分解の機序とAβ42との関連を明らかにする。更にPS1, PS2と結合する蛋白質を同定し、Aβ42産生増強機序、AD発症促進機序との関連を明らかにする。カエルのプレセニリンα、βはそれぞれPS1, PS2に対応し、卵細胞での発現解析からアポトーシスに絡んでいると推定される。そこで本年度はホルモンによるリン酸化とアポトーシスの関係を明かにする。またAD脳で発現増強しPSと発現部位が類似するKF-1についてゲノム解析を行い、FADの原因遺伝子である可能性を追求する。
研究方法
ホルマリン固定AD患者脳の組織小片を切り出し20%蔗糖浸透後凍結切片を作製し、浮遊法により免疫組織染色を行った。用いた抗体は断端特異的Aβ40、Aβ42抗体(Checler)であり、アポトーシスのマーカーとしてはTUNELとHoechst 33342を用いた。免疫染色した切片をオリンパス共焦点レーザー顕微鏡で観察し、イメージアナライザーで解析した。PS2遺伝子に変異を導入し、切断部位のアミノ酸が置換ないし欠失するよう工夫した。この遺伝子安定的に発現するSH-SY5Y細胞を樹立し、ウェスターンブロット法によるPSの分解パターンと培養液中のAβ40,Aβ42をELISAで測定した。PS1, PS2, APPと結合する蛋白の同定はyeast two hybrid systemを用いた。LacZでblue spotを示すものから遺伝子をクローニングし、PSないしAPPとの結合を確認、全身臓器での発現解析を行った。カエルのPSα、PSβの発現を卵母細胞及び卵で解析し、アポトーシスとリン酸化、プロゲステロンとの関連を明らかにする。同様のことをPS1をトランスフェクトしたSH-SY5Yで解析する。KF-1遺伝子のゲノム構造を解析し、exonにおける遺伝子変異の有無を家族性アルツハイマー病について調べる。
結果と考察
AD患者脳を免疫組織染色し対照と比較した。その結果、AD脳では細胞内Aβ42陽性の神経細胞が有意に高値を示した。細胞内Aβ40陽性神経細胞数は少なかった。Aβ42陽性かつアポトーシス(TUNEL及びHoechst 33342)陽性細胞はADで有意に高値であった。NFT陽性かつアポトーシス陽性細胞は少なかった。以上より、AD脳では老人斑とは無関係に細胞内Aβ42の蓄積がアポトーシスの原因となる。プレセニリン2の切断は306K-307Lの間で起こることを本研究者らが明らかにした。その切断酵素の特徴及び切断のAβ42産生に及ぼす影響を見る為にK306A, K306E, 306K・307L→306A・307P(KL/AP), 304M・305A・306K→304A・305A・306A(MAK/3A)変異及び304から6アミノ酸欠失(Del 1)、300より13アミノ酸欠失(Del 2)、297から20アミノ酸欠失(Del 3)を示す遺伝子を構築し、SH-SY5Y細胞に導入、安定的発現細胞株を樹立した。これらのPS2はDel 3を除いてほぼ同部位で切断され、変異特異的にAβ42分泌増強を示した。以上からPS2の限定分解酵素はアミノ酸配列非特異的である。限定分解はAβ42分泌増強に必須ではない。Fe65L2にFAD特異的変異を見出さなかった。プレセニリン1,2, APPと結合する蛋白質をyeast two hybrid法でスクリーニングし、遺伝子をクローニングした。プレセニリン1と結合すδ-catenin、プレセニリン2と結合する新しいLIM蛋白、APP C末端と結合する新しいFe65L2, X11L2を
クローニングした。δ-cateninは脳特異的に、他は全身臓器で発現していた。カエルの卵発生過程でPSαはリン酸化を受け、アポトーシスを抑制していると考えられた。プロゲステロン処理でリン酸化は増強した。しかし、ヒトSH-SY5Y細胞ではプロゲステロンによるリン酸化増強は見られなかった。KF-1は種差が殆どない保存された遺伝子であった。エクソン部分にFAD特異的変異は見出されなかった。
結論
Aβ42は神経細胞内に蓄積し細胞死をひき起こす。Aβ42増強にプレセニリンの切断は不要である。PS1, PS2, APPと結合する既知及び新規物質δ-catenin, LIM蛋白、Fe65L2, X11L2をクローニングした。カエルPSαは黄体ホルモンでリン酸化を受けアポトーシスを抑制すると考えられる。しかし、ヒト細胞では確認できなかった。Fe65L2, KF-1に変異を示すFADは見出さなかった。

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