ポジトロン断層法による錐体外路系疾患におけるカテコールアミン作動性 神経活性に関する研究

文献情報

文献番号
199900382A
報告書区分
総括
研究課題名
ポジトロン断層法による錐体外路系疾患におけるカテコールアミン作動性 神経活性に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
伊藤 健吾(国立療養所中部病院長寿医療研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 籏野健太郎(国立療養所中部病院長寿医療研究センター)
  • 加知輝彦(国立療養所中部病院)
  • 丸山哲弘(鹿教湯病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 脳科学研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
-
研究費
39,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的はポジトロン断層法(PET)より錐体外路系疾患とくにパーキンソン病におけるカテコールアミン作動性神経活性の画像解析を行い、その機能障害を明らかにするとともに、疾患に伴って生じる運動機能障害、脳高次機能障害との関連を脳内メカニズムの観点から検討することである。この様な検討により、錐体外路系疾患の病態を詳細に明らかにして診断精度の向上、治療法の選択、治療効果の判定に寄与することを目的としている。
研究方法
各分担研究者が以下のような項目を検討した。
1)パーキンソン病におけるドーパミン神経系の障害と大脳皮質機能障害の関連に関する検討(伊藤)
F-18-FDOPA PETとF-18-FDG PETをほぼ同時期に実施したパーキンソン病34例(mean age 65±8; Hoehn-Yahr scale I~V)を対象とした。知的機能の指標として実施されたMMSE の得点は 17~30点(平均±SD;25.0±4.9点)であった。
FDOPA PETはFDOPA取り込み率(Ki値)を全脳にわたりvoxel by voxelで算出し、Ki画像を得た。MRIとの重ねあわせ画像上において解剖学的位置を正確に求め、円形関心領域(ROI)を被殻、尾状核、前部帯状回に設定した。一方、FDG PET画像はSPM96を用いて基準脳と同一形態に解剖学的標準化を実施した。FDOPA PETより得られた被殻、尾状核、前部帯状回の3領域の左右平均値をcovariateとしてSPM96を用いてFDG PETとの相関部位を検討した。
別にFDOPA PETによる中脳領域でのドーパミン神経機能の画像化に行った。前記患者群から痴呆を伴わないパーキンソン病(PD)10例と痴呆を伴ったパーキンソン病(PDD)10例を抽出し、年齢の一致した正常群10例とともに対象とした。Multiple-volume projection (MVP)法という画像表示/処理法を考案し、解剖学的に標準化されたFDOPA PET Ki画像を大脳、小脳、基底核、脳幹などの各構造毎に投影した画像を作成した。
2)パーキンソン病における画像解析と神経学的評価の相関に関する研究(加知)
FDOPA PET により、パーキンソン病患者28名(mean age 64±9.8)の線条体におけるFDOPA 取込み率(Ki値)を測定し、運動機能障害度(UPDRS motor examination score)、各種認知機能検査成績(Mini Mental State Examination、レーブン色彩マトリックステスト、コース立方体組合せテスト、Wechsler Adult Intelligence Scale - Revised、ベントン視覚記銘検査)との関連性につき検討した。また、123I-IMP SPECT によりパーキンソン病患者44例(mean age 65±8.2; Hoehn-Yahr scale I~V)の脳血流をautoradiography(ARG)法により測定した。 得られた脳血流定量画像上で関心領域を設定し、各部位の局所脳血流量を算出した。そして局所脳血流変化と密接に関連する因子について、重回帰分析とステップワイズ回帰分析を用い検討した。
3)パーキンソン病における知覚ー運動スキル学習に関する研究(丸山)
対象は、DSM-IVの痴呆診断基準で痴呆と診断されないパーキンソン病患者群20例(mean age 68。3±8。4)と年齢、教育年数をマッチさせた正常対照群10例である。パーキンソン病患者群は早期群(Hoehn-Yahr scale I期とII期)10例、進行期群( III期とIV期)10例の2群に分けた。実験手順は知覚-運動スキル学習課題として追跡回転板学習課題を行い、関連検査として全般的知能検査(MMSE)、短期記憶課題(聴覚スパン、視覚スパン)、セット変換機能検査(Wisconsin card sorting test)、推論検査(Raven colored progressive matrices)、問題解決課題(Tower of London task)、注意課題(simple reaction time )、抑うつ評価検査(Zung Selfrating depression scale)を施行した。統計学的処理は、3群間の比較にはノンパラメトリック検定であるKruskal-Wallis検定、2群間の比較にはノンパラメトリック検定であるMann-Whitney検定、相関分析にはノンパラメトリック検定であるSpearmanの順位相関を用いた。
4)脳内ノルアドレナリン(NA)作動性神経活性測定のための新規放射性薬剤の開発(籏野)
α1-受容体結合能を有する1-N-[3-(4-fluorobenzoyl)propyl]-4-(2-pyrimidinyl)-1、2、3、6-tetrahydropyridine (FPPT)と、1-N-[3-(4-fluorobenzoyl)propyl]-4-(2-pyridinyl)piperidine (FPPP)およびD4-ドーパミン結合能を有する(R)-(+)-2-amino-4-(4-fluorophenyl)-5-[1-[4-(4-fluorophenyl)-4-oxobutyl]pyrrolidin-3-yl]thiazole (NRA0045) F-18標識を間接法により検討した。
結果と考察
1)パーキンソン病におけるドーパミン神経系の障害と大脳皮質機能障害の関連に関する検討
尾状核のKi値低下は、頭頂ー側頭連合野の低下に関連している可能性が示唆された。これは、臨床的には、種々の失行、失認、構成能力障害などの高次脳機能の障害に関連している可能性が類推される。また、前部帯状回のKi値の低下は黒質内側および腹側被蓋野を起始とする中脳-辺縁・皮質投射系ドーパミン神経の障害を反映するものと考えられるが、これは、前部帯状回、前頭葉の機能低下に関連している可能性が示唆された。前部帯状回が障害を受けた場合の臨床症状として、社会的行動異常、注意力の散漫、認知機能の変動、記憶障害、自律神経機能障害等が生じやすいといわれている。新たに試みたFDOPA PETによる中脳領域のドーパミン神経機能の病態の画像化の所見も上記を裏付けるように認知機能障害の強いPDDではKi値の低下の範囲がPDに比べより広く黒質の内側に広がっていた。
2)パーキンソン病における画像解析と神経学的評価の相関に関する研究
RCPM、Kohs 立方体テスト、WAIS-R (PIQのみ) は尾状核のKi値と相関関係を認めた。尾状核へ投射するドーパミン神経線維は運動機能だけでなく、認知機能とも密接な関連があるとされているが、今回の結果はこの仮説を裏付けするものと考えられる。また、SPECTによる血流の評価では、側頭葉、頭頂葉、後頭葉、後帯状回の血流低下は認知機能障害とより強い関連のあることが示された。以上の結果は上述のパーキンソン病におけるドーパミン神経系の障害と大脳皮質機能障害の関連に関する検討の結果を補強するものと考えられる。
3)パーキンソン病における知覚ー運動スキル学習に関する研究
神経心理学的な手法によりパーキンソン病における脳高次機能障害を検討した。パーキンソン病群において学習効率と前頭葉機能検査であるWCST、TOLT、Raven CPMとの相関を認めたことから、パーキンソン病におけるスキル学習に前頭前野が関与していることが推察された。この部位はPETによる解析で大脳皮質機能の低下が指摘されている部位に一致しており、興味深い。
4)脳内ノルアドレナリン(NA)作動性神経活性測定のための新規放射性薬剤の開発
合成を試みた3種の薬剤の内α1-ノルアドレナリン受容体結合能を有する [F-18]FPPTおよびD4-ドーパミン結合能を有する [F-18]NRA-0045は実用的な放射化学的収率で合成できた。現在、動物実験により体内分布を検討中である。
結論
パーキンソン病に特徴的な脳高次機能障害の脳内機序をドーパミン神経機能評価(FDOPA PET)、大脳皮質機能評価(FDG PET/IMP SPECT)、認知機能検査を駆使することにより検討した。その結果、パーキンソン病においてはドーパミン系の機能障害部位と大脳皮質機能障害部位に密接な関係が存在する可能性とともに、認知機能障害の発現に黒質内側部から腹側被蓋野にかけてのドーパミン神経の機能障害が関与していることが強く示唆された。また、脳内ノルアドレナリン(NA)作動性神経活性測定のための新規放射性薬剤の開発では、α1-ノルアドレナリン受容体結合能を有する[F-18]FPPTの実用的な合成法の開発に成功した。

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