文献情報
文献番号
199900375A
報告書区分
総括
研究課題名
アルツハイマー病の神経変性マーカー蛋白質に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
吉川 和明(大阪大学蛋白質研究所)
研究分担者(所属機関)
- 新延道夫(大阪大学蛋白質研究所)
- 植月太一(大阪大学蛋白質研究所)
- 谷浦秀夫(大阪大学蛋白質研究所)
- 林要喜知(旭川医科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 脳科学研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
12,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
アルツハイマー病は大脳新皮質(連合野)や海馬などのニューロンが大量に変性することによって起こる疾患であるが、その原因についてはほとんど明らかにはなっていない。したがって、アルツハイマー病の予防や治療の根拠となる病因の分子機構の解明が急務となっている。現在、アルツハイマー病の確定診断には死後脳の病理像、すなわちニューロン脱落、神経原線維変化、老人斑などがそのマーカーとなっている。しかし、これらの変化はアルツハイマー病の終末像である可能性が高い。したがって、アルツハイマー病脳で変性脱落するニューロン内部で起こっている病的変化を反映するマーカーがあれば、アルツハイマー病の病因解明に有効である。APPは大脳新皮質(連合野)や海馬の錐体細胞などのアルツハイマー病で侵される大型ニューロンに豊富に存在すること、また、アルツハイマー病脳における変性ニューロン内にAPP断片が蓄積されていることが報告されている。さらに、APPはニューロンの種々の病態で発現が上昇し、ニューロン内に蓄積することが知られている。一方、細胞死の遂行にはプロテアーゼであるカスパーゼ群が重要な役割を果たすことが知られているが、アルツハイマー病の脳でもカスパーゼ3陽性の変性ニューロンが見られることが報告されている。そこで本研究では、アルツハイマー病におけるAPPの蓄積やカスパーゼによる中間代謝産物がニューロン死のマーカーとなる可能性を検討する。また、APPによるニューロンのアポトーシスの際に誘導される遺伝子(蛋白質)を同定し、アルツハイマー病の本質であるニューロン変性死のマーカーとなるかを検討する。
研究方法
APPによってニューロンのアポトーシスを起こす培養細胞系を開発するため、研究材料として全長型APP695を発現するアデノウイルスベクターを作製した。アルツハイマー病はヒトニューロンの変性疾患であるため、培養系細胞としてヒト分化ニューロンに極めて近い性質を持つ胚性ガンNT2細胞由来のニューロンを研究に用いた。レチノイン酸処理により分化した分裂終了NT2ニューロンにAPP発現アデノウイルスベクターを感染させ、APPを強制発現した。さらに、このヒトニューロンのAPPによる変性系を用いて、カスパーゼ3活性を指標として、APPの過剰発現による細胞変性の機構を解析した。NT2ニューロンを分化させた後に、種々のカルシウムチャンネルのブロッカーや細胞内カルシウム阻害剤で細胞を処理し、その後、APPによるカスパーゼ3活性と細胞内カルシウム濃度の変化を調べた。Necdinとp53の結合は 酵母two-hybrid法による方法、および大腸菌で発現させたp53 欠失変異体はマルトース結合蛋白質との融合蛋白質とバキュロウイルス系を用いて発現させた組換えNecdin融合蛋白質のin vitro結合反応をしらべた。また、p21遺伝子プロモーターを用いてp53依存性転写活性への影響を調べた。 ラット胎児海馬ニューロンの初代培養系やヒトアストロサイトーマ細胞にAPP発現アデノウイルス感染実験を行った。培養細胞は固定後、形態学的指標により良好な生存状態のニューロンと変性死滅しつつあるニューロンの割合を求め、各実験における生存率を算出した。活性酸素種とインターロイキン8の定量化は蛍光分光測定法と酵素免疫法によって行った。
結果と考察
APPによるニューロンの変性がどのような経路でもたらされるのかを培養系で詳細に検討したところ、核の凝集、分断化が観察された。さらにDNAの断片化が起きていることをTUNEL法により確認した。以上の結果からAPP強制発現によって引き起こされるニ
ューロン死はアポトーシスの経過を辿ることが示された。この神経変性に先立ってカスパーゼ3の急速な活性の上昇と活性型カスパーゼ3分子のニューロン内での蓄積が認められた。以上の結果から、APPがニューロン内で多量に蓄積すると、カスパーゼの活性化を引き起こすシグナルが発生し、変性細胞死が誘導されるものと考えられる。次に、種々のカルシウムチャンネルのブロッカーや細胞内カルシウム阻害剤がAPP695誘発性カスパーゼ3の 活性化に及ぼす影響を調べた。細胞内カルシウムキレーター BAPTA-AMや小胞体のカルシウム放出チャンネルを阻害する Dantrolene で、カスパーゼ3 活性が濃度依存的に抑制された。さらに、カフェイン 添加による小胞体からのカルシウム放出を測定したところ、APP発現アデノウイルス感染ニューロン群で顕著な細胞内カルシウム濃度の上昇が観察された。このことから、APP のニューロン内蓄積による カスパーゼ3 の活性化は小胞体カルシウムチャンネル を介したサイトゾルへのカルシウム放出増加が関わるものと考えられる。ニューロンの発生分化に伴って発現誘導されるニューロン特異的蛋白質Necdinはニューロンのアポトーシスに関与するp53の転写活性化領域に結合し、p53依存性の転写活性化とアポトーシスを抑制した。Necdinはp53やE2F1などニューロンのアポトーシスに関連する因子を抑制するため、アルツハイマー病におけるニューロン死の際に上昇する可能性も考えられる。次に、初代培養ラット海馬ニューロンを1~2ヶ月の長期間培養し、APP発現アデノウイルスベクターを添加すると、数日間のうちに変性死滅した。添加後に培養ニューロンにペプチド性カスパーゼ阻害剤を作用させたところカスパーゼ3の阻害剤は、APPによるニューロン死の遅延をもたらした。次に、APPによって細胞変性を示す株化細胞を探索したところ、ヒトアストロサイトーマの一種が初代培養海馬ニューロンと同じ時間経過と様式でAPPによって死滅することを見出した。この細胞では変性が現われ始める初期には、活性酸素種の増大やインターロイキン8産生が増大することが観察された。これらの分子はAPPによるニューロン死や炎症などの二次的に起こる細胞反応に関与している可能性がある。
ューロン死はアポトーシスの経過を辿ることが示された。この神経変性に先立ってカスパーゼ3の急速な活性の上昇と活性型カスパーゼ3分子のニューロン内での蓄積が認められた。以上の結果から、APPがニューロン内で多量に蓄積すると、カスパーゼの活性化を引き起こすシグナルが発生し、変性細胞死が誘導されるものと考えられる。次に、種々のカルシウムチャンネルのブロッカーや細胞内カルシウム阻害剤がAPP695誘発性カスパーゼ3の 活性化に及ぼす影響を調べた。細胞内カルシウムキレーター BAPTA-AMや小胞体のカルシウム放出チャンネルを阻害する Dantrolene で、カスパーゼ3 活性が濃度依存的に抑制された。さらに、カフェイン 添加による小胞体からのカルシウム放出を測定したところ、APP発現アデノウイルス感染ニューロン群で顕著な細胞内カルシウム濃度の上昇が観察された。このことから、APP のニューロン内蓄積による カスパーゼ3 の活性化は小胞体カルシウムチャンネル を介したサイトゾルへのカルシウム放出増加が関わるものと考えられる。ニューロンの発生分化に伴って発現誘導されるニューロン特異的蛋白質Necdinはニューロンのアポトーシスに関与するp53の転写活性化領域に結合し、p53依存性の転写活性化とアポトーシスを抑制した。Necdinはp53やE2F1などニューロンのアポトーシスに関連する因子を抑制するため、アルツハイマー病におけるニューロン死の際に上昇する可能性も考えられる。次に、初代培養ラット海馬ニューロンを1~2ヶ月の長期間培養し、APP発現アデノウイルスベクターを添加すると、数日間のうちに変性死滅した。添加後に培養ニューロンにペプチド性カスパーゼ阻害剤を作用させたところカスパーゼ3の阻害剤は、APPによるニューロン死の遅延をもたらした。次に、APPによって細胞変性を示す株化細胞を探索したところ、ヒトアストロサイトーマの一種が初代培養海馬ニューロンと同じ時間経過と様式でAPPによって死滅することを見出した。この細胞では変性が現われ始める初期には、活性酸素種の増大やインターロイキン8産生が増大することが観察された。これらの分子はAPPによるニューロン死や炎症などの二次的に起こる細胞反応に関与している可能性がある。
結論
ヒト分裂終了ニューロン培養系としてヒト胚性ガン細胞由来のニューロンを用いてAPPを高発現させカスパーゼ3によるアポトーシスを引き起こす細胞系を確立した。APPによる変性はカスパーゼ3阻害剤で抑制された。また、APPによるカスパーゼ活性化は小胞体から遊離された細胞内カルシウム濃度の上昇が原因である可能性が示された。分化したニューロンに特異的に発現しているnecdinはアポトーシス誘導能をもつ転写因子p53と結合してアポトーシスを抑制した。初代培養ラット海馬ニューロンでも長期培養後にアデノウイルスベクターを添加すると変性死滅した。また、ヒトアストロサイトーマの一種が海馬ニューロンと同じようにAPPにより死滅し、細胞内の活性酸素とインターロイキン8産生が増大することが観察された。以上の結果から、アデノウイルスを用いたAPP遺伝子強制発現システムは、アルツハイマー病の病因に関わる分子機構やニューロン死のマーカーとなる分子群を探索する上で、優れた病態細胞モデル系であると考えられる。
公開日・更新日
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