疾病解析・治療にむけた遺伝子研究資源基盤整備に関する総合的研究

文献情報

文献番号
199900367A
報告書区分
総括
研究課題名
疾病解析・治療にむけた遺伝子研究資源基盤整備に関する総合的研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
橋本 雄之(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 平井百樹(東京大学大学院新領域創成科学研究科)
  • 奥田晶彦(埼玉医科大学)
  • 菅野純夫(東京大学医科学研究所)
  • 押村光雄(鳥取大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・遺伝子治療研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
50,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ヒトゲノム解析プロジェクトの進展でヒト全塩基配列決定は2003年には完了することが計画されている。しかし、遺伝子機能解明は並行して進められたとしても、全体としては残された課題となる。したがって、遺伝子発現部分、すなわち、cDNAクローンを収集し、保存・供給することはゲノムの遺伝子部分の確定とその機能解明のために必要である。そこで新たに完全長cDNAクローンの分離を行うとともに、それらを細胞で発現できる形として、遺伝子機能、発現制御等の研究の資源とする。また、個体レベルで機能を探るために必要な遺伝子を選択し、129SV系統のマウスES 細胞のゲノムDNAをクローン化して、供給できるようにする。さらに、遺伝子群が連関して発現することにより、その機能が発揮されるような染色体領域について、マウスES細胞へも染色体断片を移入するための材料を開発する。これによって疾病関連遺伝子の同定から機能解明、さらにその疾病の成因解明そして診断、治療に結び付く研究の発展に資することを目的とする。
研究方法
1)各種cDNAライブラリー からの多数 クローンを増幅・保管し、必要なものは部分塩基配列を決定する。シークエンスのホモロジーサーチを自動的に行えるプログラムを利用して、その結果をデータベースに登録し、バンクから供給可能とする。2)ヒト消化管粘膜、サル脳 各部などの組織について、オリゴキャップ法により完全長cDNAライブラリーの作製を行う。そのcDNAクローンの1パス塩基配列決定を行い、得られた完全長cDNAクローンの 登録をめざす。3)染色体上の位置の未確定なヒト及びマウスクローンについて蛍光 in situ ハイブリダイゼーション(FISH) により、その位置を決定する、また、霊長類cDNAのマッピ ングを行ない、ヒトでの相同遺伝子のポジショナル・クローニングの基盤とする。 4)マウス129SV系統のゲノムDNAライブラリーを作製し、転写関連因子やDNA の複製に関与している多くの遺伝子のゲノムDNAクローンを分離する。5)効率良く染色体を細胞移入するために,微小核細胞融合法によりヒト単一染色体保持細胞を作製し,これまでにヒト単一染色体を含む1500マウスA9細胞クローンを得た。それぞれからDNAを抽出するとともに,FISH法により染色体種を確認し,導入可能な染色体を選択する。
(倫理面への配慮)
cDNAライブラリー原材料は医療機関に属する医師により、本人または遺族の書面による許諾を得て、採取されたもので、コード化され個人識別情報は研究申請者に開示されない。さらに、作製には複数の材料を使用するなどの手段で保護を行う形を取っている。
結果と考察
1) 5'側部分配列決定をしたヒト小腸粘膜由来cDNAクローン3,253を収集し、完全長cDNAとして569クローンおよびヒト大腸粘膜由来完全長cDNAクローン3,505からの510をあわせてバンクに登録し、供給可能とした。2)マウスについて脳cDNAライブラリーからの約6,000コロニーの寄託を受け、5'側シークエンシングを行い、計5323クローンを公共DNAデータベースに登録した。そのうち、新規のものを中心に全長シークエンシングを行い、約50クローンについて完了している。このマウス脳cDNAクローンはここ1年で100 人以上の国内外の研究者に200クローンを分与した。さらに、米国でシークエンスされている菅野マウス腎臓、肝臓、胚cDNAクローン約24,000を収集し、マイクロアレイ用にクラスター分類を行った。3)オリゴキャップ法により作製したヒト骨格筋cDNAライブラリー由来のクローンを中心に約4,700クローンの5'側部分配列決定を行った。4)カニクイザル脳を材料として、以下の11種類の完全長cDNAライブラリーを作製 した。すなわち、全脳、大脳皮質、頭頂葉、側頭葉1,2、前頭葉、中脳、脳幹、小脳皮質、 延髄、下垂体である。各ライブラリーよりクローンを分離し、現在までに約6,000部分配列決定を行い、約100の新規遺伝子候補を見いだした。 さらに、三和化学研究所保有のチンパンジー1個体 の背部の皮膚組織を健康に影響ないように注意して切除し、オリゴキャップ法によりcDNAライブラリーを作製した。5)FISH法により、ヒト心臓、小腸由来の完全長cDNA約80をマップした。カニクイザルの脳の部位特異的完全長cDNA のうち、 ヒトゲノムデータベースにある相同遺伝子 66について非翻訳領域(5' UTR)と翻訳領域のうちの5'側塩基配列を比較した。また、未知の約100 クローンを選び、 FISH 法によりカニクイザルとヒト染色体上にマップ した。6)129SV系統のマウスのゲノムDNAライブラリーを作製した(2x106 primary pfu)。ライブラリーから転写因子EFP及びUTF1など4マウス遺伝子を分離し、EFPとUTF1についてはターゲティングベクターを作製した。さらに、ノックアウトマウスを作製した国内の59研究グループに寄託依頼をし、IL6, Stat6, XP, VDR, CAFA1など8クローンを入手した。7)マウスES細胞で強い発現を示すプロモーターを有するneoあるいはbsr遺 伝子をヒト繊維芽細胞にトランスフェクションし、微小核融合法によりヒト染色体を マウスA9細胞へ導入し、ヒト染色体を含むマウスA9細胞を作製した。このヒト染色体 ライブラリーが従来のライブラリーと異なる点は、マウスES細胞への導入可能であり、ヒト染色体の親起源を明らかにすることができることにある。作製したライブラリーより染色体特異的STSマーカー及び染色体FISHを用いて1、2、4、5、 6、7、8、10、11,14、15、18、19、20、21番およびX染色体を含む A9細胞を同定した。さらに、これらのライブラリーから6、7、11及び21番染色体及びその種々の断片を導入したES細胞を樹立した。
本研究ではポストシーケンス時代に向けて、重要な研究資材を提供する基盤をつくりつつある。特に、完全長 cDNAクローンを整備して、機能を探ることは疾患の成立を研究するうえで有効であり、ESTのクラスター数が遺伝子数に匹敵するようになった現段階でも世界的に注目されているものである。さらに、個体レベルの機能解析に向けて、マウスのDNAクローン、ES細胞にも導入しうるヒト染色体材料を作製しつつあることは細胞レベルの解析の限界を越える研究資材を提供する点で重要である。
結論
1)ヒト完全長cDNAとして新たに1,079クローンをバンクに登録し、供給可能とした。また、マウス脳cDNAライブラリーからの5,323クローンのシークエンスをDNAデータベースに登録し、供給可能とした。2)カニクイザル脳ライブラリーから約6,000クローンの5'側部分配列決定を行い、完全長のものをバンクから供給可能としつつある。3)カニクイザル脳cDNAクローン約100について染色体上にマップし、ヒトとのシンテニー関係を確定した。4)129SVマウスのゲノムDNAライブラリーから転写因子EFP及びUTF1など4遺伝子のゲノムDNAをクローン化した。5)微小核細胞融合法によりES細胞へも移入できる形にしたヒト単一染色体保持雑種細胞として1500マウスA9細胞クローンを分離し,16種類の染色体の含むクローンを同定した。
また、4種については各々を導入したマウスES細胞を樹立した。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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