遺伝子工学的手法による病態モデル培養細胞系作出と育成維持に関する研究

文献情報

文献番号
199900366A
報告書区分
総括
研究課題名
遺伝子工学的手法による病態モデル培養細胞系作出と育成維持に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
田中 憲穂(財団法人 食品薬品安全センター 秦野研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 久郷裕之(鳥取大学 医学部)
  • 加藤 秀樹(浜松医科大学医学部)
  • 黒澤 努(大阪大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・遺伝子治療研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
病態モデル研究の為の研究法の開発と整備を目的とし細胞系の作出と細胞の品質管理手法の開発を行う。(1)薬剤耐性遺伝子で標識された外来染色体を有する雑種細胞株は、ヒトゲノム解析の資材として極めて重要である。これまで、ヒト単一染色体を有するマウス細胞株の作成及び品質管理を行い、JCRB細胞バンクを通じて配布を行ってきた。昨年度より、げっ歯類単一染色体ライブラリーの作成を開始した。本研究では、げっ歯類の単一染色体雑種細胞の作製および性状解析を行い、研究資源として広く研究者に利用できるように整備することを目的とする。(2)ニワトリDT40細胞は高頻度に相同組み換えを起こすことから、このDT40細胞中でヒト染色体を改変することが可能である。本研究は、ヒト単一染色体を保持するDT40雑種細胞ライブラリーを作製し、遺伝子マッピングや機能解析などの資材とする。(3)株化細胞や、動物胚の凍結保存バンクは、遺伝資源を保存する上で重要な役割を果たしているが、運用面で定期的な品質管理が必要である。これまでに、PCR法やFISHを用いて細胞の遺伝的性状を検査する手法を開発してきた。本年度は、rDNAのPCR産物の遺伝的多型性を解析することを目的にSMXA RIを対象として、Ag-NORバンド検出法ならびにFISH法を適用する基礎的研究を行なった。(4)遺伝子改変動物に由来する培養細胞株は、疾患関連遺伝子等の細胞レベルでの機能解析に極めて有用である。昨年度より、新たに遺伝子改変動物に由来する培養細胞株の開発、収集を開始した。その一環として、Cx43遺伝子ノックアウトマウスより繊維芽細胞を単離し、その性状解析を行い、研究資源として利用するための基礎データを得た。本年度は更に多くの細胞株の収集と性状解析を行い、研究資源として利用できるようにする。
研究方法
結果と考察
(1)昨年度に引き続き、マウス単一染色体雑種細胞の作製を実施した。得られたクローンでは完全長のマウス染色体を確認することができなかった。また、染色体標本上に多数の小核が存在し、導入染色体の脱落が生じているものと考えられた。そこで、マウスについで遺伝的性状が明らかにされているラットを材料とすることにした。染色体供与細胞には、SDラットの繊維芽細胞にneoおよびEGFP遺伝子を標識し、マウスA9細胞と融合したものを用いた。染色体受容細胞には、ヒトHT-1080細胞を用いることにしたが、まず、ヒト単一染色体雑種細胞のホストとして実績のある、マウスA9細胞に染色体導入を行い、クローンの性状解析を行った。得られたクローンでは、いずれもGFP産物の蛍光を呈し、染色体が正常に導入されていることが示された。このことから、今回作製した染色体供与細胞により、ラット単一細胞ライブラリの作製が可能であることが示された。一部のクローンについては、核型解析によって、核型レベルで完全長のラット染色体の存在が確認できた。今後、染色体供与細胞から、HT-1080細胞への直接の染色体導入も実施する。(2)レシピエントのDT40を、ポリ-L-リジンでコーティングした6穴プレートに播き、細胞をプレート底部に張り付けるために遠心した。ヒト染色体を含むマウスA9細胞より微小核細胞を精製し、フィトヘムアグルチニンを含む無血清培養液2mlに懸濁した液をプレートに加え、3分間遠心した。微小核細胞融合し、24穴プレートに播種して3週間選択培養した。得られた細胞クローンは、 Alu-PCRおよび染色体解析により導入染色体の状態を確認した。本年度は、8番、18番、19番及び父母由来の明らかな11番染色体を各々を完全に保持する細胞クローンを作製し、これまでに作製したものと合わせて12種類の染色体を各々保持するDT40細胞を作製した。また、これらのヒト染色体を保持するDT40細胞に、相同遺伝子配列を導入し、染色体改変を行った。1kbからなるヒトテロメア配列及び選択マーカーを含むベクターに相同配列を挿入した。相同配列は目的の染色体部位に相当するコスミドから切り出した断片を用いた。これを目的とするヒト単一染色体を保持するDT40雑種細胞に導入した。その結果、頻度は異なるものの得られたクローン中5%~20%の確立で目的とする領域にテロメアを付加し、それより末端の染色体を欠失させることができることが示された。さらに、ヒト染色体中のノックアウトに関しては、ベクターの両端に2~5kbの相同領域をもつコンストラクトによって、30~50%のターゲティング・ノックアウトを行うことができた。(3)マウスA/J系統とSM/J系統を親系統として作出されたリコンビナント近交系を材料として使用し、各系統の脾臓細胞から染色体標本を作製した。仁形成体を検出するためにスライド上の染色体標本に対して銀染色を施し、光学顕微鏡下でAg-NORバンドとして検出した。Ag-NORバンドの検出法としての銀染色法を第5染色体の染色体異常を持つマウス、IST系統の染色体標本を用いて検討した。その結果、一部の染色体の動原体部分が黒色に染色された。また、IST系統の染色体標本について、rDNAをプローブに用いたFISH法を行った。その結果、銀染色法で黒色のバンドが認められた染色体の動原体部分にFITCシグナルを観察した。(4) 遺伝子改変動物の開発・研究を行っている研究者にアンケートを行い、細胞株を作製した場合にJCRB細胞バンクからの配布が可能な遺伝子改変動物を調査した。回答が得られたアンケートについて、遺伝子改変動物の性状の文献調査を行い、情報を収集した。本年度は、すでに作製が完了している2株に加えて、6系統の遺伝子改変動物について細胞配布が可能であることが確定した。遺伝子改変動物は、論文発表、特許との関係や、樹立者の異動等によって承認が得られない場合が多く、通常の細胞株の収集よりも困難が伴った。今回、確定した遺伝子改変動物は、特定臓器に改変遺伝子を発現したり、lox Pシステムによって臓器や発生ステージに特異的なゲノム操作が可能なものなど、様々な分野に利用可能と考えられる。実際の細
胞株作製にあたっては、動物の輸送、改変遺伝子が発現する特定臓器からの細胞分離法など、なお検討すべき事項が残されているが、今後、これらの問題解決とともに、さらなる収集作業を続けていきたい。
結論
(1)単一染色体雑種細胞は、微小核融合法による染色体導入の供与細胞として、劣性遺伝病やがんの原因遺伝子のクローニングや、染色体特異的DNAマーカー作製の資材としても利用されており、ヒトゲノム解析の資材として極めて重要である本年度は、ヒトゲノム解析の資材として有用なげっ歯類単一染色体雑種細胞の作製を試みた。その結果、マウス染色体の不安定性のため、完全長のマウス染色体を有する雑種細胞クローンは得られなかった。一方、ラット単一染色体雑種細胞については、基礎的な検討を行い、本年度に作製した染色体供与細胞によって、ライブラリの作製が可能であることが示された。(2) 外来遺伝子と相同組み替えが高頻度に生じるニワトリPre-B細胞株DT40細胞に単一ヒト染色体を高頻度に導入する手法の改良技術を確立した。この手法を用い、前年度に作製した9株のDT細胞に加え、8番、18番、19番染色体を各々保持する細胞クローンを作製した。さらに、父及び母由来の明らかなヒト11番染色体もDT細胞へ導入した。加えて、DT細胞中のヒト染色体改変技術の確立を行い、ヒト染色体を含むDT細胞がヒト遺伝子の制御機構の解析やヒト人工染色体の作製に有用な資材であることを示した。(3) 実験動物に由来する培養細胞株は、医学・生物学の実験に広く用いられている。培養細胞株は、長期にわたる継続培養や、人為的なミスによるクロスコンタミネーションなどにより、性状が変化し、実験結果に大きな影響を与えることがあるため、常にその性状を確認しつつ実験を行わねばならない。本研究では、遺伝的性状を調べるための簡便な検査法の開発を目的とした。本年度は、rDNAのFISH法および仁形成体の銀染色による、マウス系統の識別法の開発を行った。(4) トランスジェニックマウスなどの遺伝子改変動物に由来する培養細胞株の多くは、個体レベルでの改変遺伝子の作用等がすでに解明されており、細胞レベルでの実験に有用な情報が容易に得られることから、実験資材として有用と考えられる。これまでに、Cx43遺伝子ノックアウトマウスに由来する繊維芽細胞株の作製を行い、個体レベルでの病態と細胞レベルでのコネクシン遺伝子欠損による機能変化について検討を行い、in vitroでの実験に有用であることが示された。本年度から、遺伝子改変動物の開発・研究を行っている研究者に依頼し、遺伝子改変動物の収集および細胞株作製を開始した。

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