培養細胞研究資源の高度化及び研究資源基盤整備に関する研究

文献情報

文献番号
199900365A
報告書区分
総括
研究課題名
培養細胞研究資源の高度化及び研究資源基盤整備に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
水沢 博
研究分担者(所属機関)
  • 佐々木正夫
  • 木村成道
  • 加治和彦
  • 安本茂
  • 竹内昌男
  • 原沢亮
  • 阿部武丸
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・遺伝子治療研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
50,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国における研究体制の整備の一環として培養細胞研究資源の保存・管理・分譲システムを整備することを目的に研究を実施した。
研究方法
細胞バンク基盤整備を目的とした研究のの実施にあたり課題内容は多岐にわたり、研究方法も多彩である。代表的な手法は主な研究課題に対応して、代表・分担研究者を含め、①細胞の樹立ならびに品質管理手法の開発を目的とした実験に依存した研究方法、②細胞バンク運営方法の問題点を改善することを目的とした運営システムの調査、集計、分析を中心とした研究方法、③細胞バンクの透明性を確保するための情報提供システムを構築するためのコンピュータシステムの開発を中心とした研究方法を活用した。
結果と考察
今年度の結果は主に次の8点である。
①細胞の樹立:ウイルスで不死化したテロメラーゼ活性を有するヒトケラチノサイト, PDH7/6, PSVK1及びテロメラーゼ活性を持たないHFb16の正常性を維持しているヒト細胞株3種とラット前駆脂肪細胞株, REC-A16,を樹立し登録準備を始めた(安本)。また、培養に利用されるウシ血清に含まれると考えられるウイルスの感染性を確認するために必要なウイルスフリーのウシ血管内皮性細胞株を新たに樹立した(阿部)。特に昨年度において細胞バンクに寄託されている複数のヒト細胞株からウシ下痢症ウイルスに汚染されている事態をPCR法によって確認したため、その感染性を確認するために、ウイルスフリーウシ細胞株を樹立する必要性があった。
②神経系細胞の樹立に関連する研究:ヒト神経系由来細胞株は重要な細胞系であるが、樹立が困難なものの一つである。そのため、こうした細胞株の樹立を検討するため、米国Biowhittaker社から購入したヒト胎児脳細胞から、神経系前駆細胞を選択的に増殖させるための培地、培養基質、継代方法について検討した(竹内)。培養開始後1週間後、90%以上の細胞は死滅したが、生存した細胞を各種の細胞マーカーに対する抗体で蛍光染色したところ、98%以上の細胞において神経系前駆細胞のマーカーであるネスチンが陽性であり、ニューロン、アストロサイトおよびオリゴデンドロサイトのマーカーであるクラスⅢチューブリン、GFAP、GalC が陽性の細胞はいずれも2%以下であった。O1EF 培地ではネスチン陽性細胞は、倍加時間が約1週間で増殖した。マウスの系では、胎児脳細胞から、O1EF 培地で神経系前駆細胞を選択的に増殖させる技術が確立されているが、今回、ヒト胎児脳細胞においても、EGF、FGF-2 を含む無血清培地が神経系前駆細胞の選択的培養に有効であることが明らかになった。こうした技術開発は、今後神経系細胞の樹立を試みる際に役立つものと思われる。
③細胞の個別識別に関する研究:細胞が他の細胞と混同をきたして混乱する事故は培養細胞を用いた研究では意外に多発している。細胞バンクとして、このような事態をいかに避けるか検討を重ねてきたが、分子生物学研究の発展の結果最近になってSTR-PCR法が実用的に利用できるようになり、細胞バンクの日常的な管理業務に取り入れることが可能となってきた。その結果、わが国で樹立され細胞バンクに寄託された細胞のうち、あらたにPSV811,ECV304,KOSC3の3種が別のヒト細胞であることを明らかにした。PSV811はヒト早老症患者から樹立された細胞株とされていたが、正常細胞株として著名なWI38であった、ECV304は日本人由来のヒト血管内皮系細胞とされたが、膀胱ガン由来EJ/1細胞でった、また日本人の口腔ガン患者の患部から樹立された細胞株であるとされたが、過去に樹立されていたヒト口腔内由来細胞株Ca-22細胞株であった(水沢)。
④コンピュータによる細胞識別のための検索システム:コンピュータを利用することによって迅速に細胞識別の結果を得ることが出来ることが本研究を通じて明らかになった。そのため、WWWのインターフェースを利用して作成した検索システムを細胞バンクホームページ上に公開した(水沢)。
⑤ウイルス検査法のルーチン化を目指した研究:わが国においては、これまでいずれの細胞バンクにおいても、ウイルス汚染に対処するための検査を日常的に実施してきていない。細胞の産業利用等が考えられる現在、早期にこの問題を解決することを目指して、主にPCR法を利用した混入ウイルスの検査法を確立するための研究を実施した。昨年に引き続き、特にウシ血清に由来すると思われる細胞の検出法の検討、家畜系細胞株に含まれている可能性のあるぺスティウイルスの検出法などを検討している。これについては、他の細胞バンクならびにICHのガイドラインを参考にさらに検討を進めどのようなウイルスを日常業務の中で検査するか、日本組織培養学会細胞バンク委員会とも連携して今後実施に移す計画である。
⑥ヒト遺伝性疾患細胞ならびに正常細胞の分譲:ヒト正常細胞は培養ならびに分譲が複雑で困難を伴い、ヒューマンサイエンス振興財団が担当している細胞分譲の窓口を通じての分譲が不可能である。そのため、これらは、JCRB細胞バンクとして分譲のシステムを継続して維持することが必須で、その維持と管理を実施した。年間でおよそ60件の依頼に対応して細胞を分譲した。ヒト遺伝性疾患由来細胞株、正常細胞株の2系統の細胞についてこの分譲をおこなってきた(佐々木、木村)。
⑦細胞バンクコンピュータシステムの改良:細胞バンクにおいては保存細胞の管理や分譲業務にコンピュータを利用している。現在まで利用してきたシステムは細胞バンク設立当時(1984年)作成したものであり、コンピュータ環境の急激な変化に合わなくなってきた。そこで、今年度においてはこれまでの検討を踏まえてパスカルを基本言語としたDelphiを採用して、実行型ファイルとして新たに作成した。本システムの改良にあたって留意した点は、大掛かりな改修作業においては外注によって専門家に依頼するが、細かな不備や新たな要求事項については、自ら対応できるように旧システムとの連続性が維持されていることと使いやすいコンピュータ言語を利用することを重視した点である。また、現在不可欠となっているWWWサーバに置いた細胞バンク情報公開システムに情報を迅速に転送できるシステムとして、情報の管理を効率良く実施できるようにすることを重視した。
⑧新規細胞の寄託:本年度においては、新規細胞として研究班内で樹立した細胞株はヒト細胞が3種、動物細胞が1種(マウス)であったが、それ以外に、26種の細胞株の寄託を受け、22種の細胞を新たに分譲可能とした。その結果、1999年度末において536種類となった(うちヒト細胞株は298種)。
結論
細胞バンクは細胞の収集、保存管理、分譲を通じて生物・医学・薬学系研究を支援する基盤組織である。その維持においては、新たな細胞を積極的に推進することに加え、細胞の品質を高める研究を実施するとともに、様々な情報提供を実施することが求められる。こうした要求にこたえることを目的に、細胞の混入を防止する細胞識別システムの確立、汚染検査システムの確立、情報サーバの構築と維持を継続的に実施したきた。
今後とも、収集した細胞株の陳腐化を招かないよう、常に新しい研究手法を取り入れてシステムの維持に努めなければならない。

公開日・更新日

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