遺伝子治療用DNA製剤の開発と癌治療への応用に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900360A
報告書区分
総括
研究課題名
遺伝子治療用DNA製剤の開発と癌治療への応用に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
吉田 純(名古屋大学)
研究分担者(所属機関)
  • 萩原正敏(東京医科歯科大学)
  • 高橋利忠(愛知県がんセンター研究所)
  • 妹尾久雄(名古屋大学)
  • 小林 猛(名古屋大学)
  • 寺川 進(浜松医科大学)
  • 舛本 寛(名古屋大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・遺伝子治療研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究事業は以下に示す3つの課題を中心に研究を進め、癌治療の分野で遺伝子治療の実現を目指すことを目的とした。
課題1:安全で効率の良いベクター(DNA製剤)の開発と、その導入・発現機構の解明
①人工染色体(MAC)を用いた遺伝子治療:ヒト培養細胞でMACの安定保持に必須な配列の解明を行った後、MAC内に任意の遺伝子を組込みヒト細胞を形質転換する技術を開発する。
②発現調節可能なベクターの開発:gaddプロモータと温熱療法との相加または相乗効果の有無を検討する。
③遺伝子発現機構の解明:(1)インターフェロンの細胞内伝達経路で重要な意義をもつと考えられている蛋白メチル化反応について検討を加える。(2)インターフェロン遺伝子がアポトーシスを誘導するメカニズムについて詳細に検討する。(3)NF-kBの研究は昨年樹立したドミナントネガティブNF-kBを発現する細胞株を用いてサイトカイン抵抗性のメカニズムを検討する。
④リポソーム製剤の保存:昨年度はリポソーム製剤の乾燥保存方法を確立した。本年度はこの凍結乾燥製剤の薬効薬理を検討する。
課題2:ベクターを標的組織あるいは標的細胞に選択的かつ効率よく輸送するシステム(DDS)の開発
癌特異的単鎖抗体の作成:昨年作成した変異EGFRに対するscFvの反応性や安定性を、元の抗体と比較する。更にこの抗体のイムノリポソームへの応用についても検討する。
課題3:これらの研究に基づいた遺伝子治療の臨床研究の実現を目指す               
本年度は遺伝子治療製剤調製室で調製された製剤を用いた臨床研究のスタートをめざす。
研究方法
課題1:①人工染色体を用いた遺伝子治療の開発:(1)ヒト培養細胞中で人工染色体を効率よく形成するa21-IアルフォイドDNA、ヒトテロメア配列、選択マーカーを組みこんだ酵母人工染色体(YAC)へ、さらにウイルス由来複製開始点を組み込みヒト培養細胞へ導入し、人工染色体がより効率よく形成され、安定に維持されるかどうか調べた。(2)MACをベクターとして利用するためMAC前駆体YACへ酵母や細胞内での組換えを利用してマーカーとなる遺伝子を導入し、薬剤選択のない条件でも導入遺伝子からの発現が起こるかどうか解析した。②発現調節可能なベクターの開発:GADDプロモータと温熱療法との相乗効果について検討した。③遺伝子発現機構の解明:(1)インターフェロンの細胞内伝達経路で重要な意義をもつと考えられている蛋白メチル化反応について検討を加えた。(2)インターフェロン遺伝子がアポトーシスを誘導するメカニズムについてcaspase活性を測定し、典型的なアポトーシスと考えられているTNF-aで誘導されるマウスL細胞でのアポトーシスと比較した。(3)NF-kBの研究は昨年樹立したドミナントネガティブNF-kBを発現する細胞株を用いてサイトカイン抵抗性のメカニズムを検討した。④リポソーム製剤の保存:昨年度調製された凍結乾燥製剤の薬効・薬理を培養細胞及び担癌マウス(メラノーマモデル)を用いて検討した。
課題2:癌特異的単鎖抗体の作成と応用:inclusion bodyよりrefoldして得られたscFvについて元のモノクローナル抗体と反応特異性、アフィニティー等を比較検討した。
課題3:悪性脳腫瘍に対する遺伝子治療臨床研究を開始する。
結果と考察
課題1①人工染色体を用いた遺伝子治療の開発:(1)YACにクローン化したヒト染色体セントロメアに由来するアルフォイドDNA(a21-I)の欠失シリーズ(80、50、30、10kb)をそれぞれヒト培養細胞に導入したところ、50kb以上のa21-I配列を含むクローンでは効率よく人工染色体を形成し、30kbのクローンでは効率の低下が観察され、10kbのクローンで人工染色体が殆ど形成されなかった。効率のよい人工染色体形成には50kb以上の連続したa21-I配列が必要であることが判明した。(2)MAC前駆体YACへ酵母細胞内での相同組換えを利用して、レポーター遺伝子やウイルス複製開始点(oriP)を挿入することに成功し、人工染色体上へ外来遺伝子を簡便に挿入できる可能性が開けた。②gadd153プロモーターが温熱により誘導されるか実験を行った。ルシフェラーゼレポーター遺伝子を使った実験において、温熱処理が遺伝子発現を数十倍に高めることを見出した。そこで、同プロモーター下流にTNF-a遺伝子を組み込み、ヒトグリオーマ細胞株 U251-SPにカチオニックリポソーム法で遺伝子導入して誘導実験を行った。その結果、温熱を加えない場合、同遺伝子はまったく殺細胞効果を示さなかったのに対し、43℃1時間の加温処理、あるいは45℃1時間の加温処理を行った場合、TNF-a の発現誘導が認められ、その発現量は温熱を加えない場合より有意に高くなった。③(1)two-hybrid 法の結果、HMT1破壊株において特異的にNPL3とのinteractionが変化する蛋白をコードする遺伝子が数種類スクリーニングされた。我々はこの中でHMT1破壊株特異的に生育が遅延するものに注目し、その遺伝子をクローニングしAIR1と名付け全塩基配列を決定した。その結果この蛋白はring fingerドメインと呼ばれる蛋白質間相互作用に必要な領域を持っていることが明らかとなった。Data base検索によりyeastにはAIR1と相同性の高い遺伝子がもう一つ存在することが判明し、あわせてクローニングしAIR2と名付けた。AIR1、2それぞれの単独破壊株では生育に変化が見られなかったが、二重破壊株では生育が遅延した。これはAIR1、2がお互いの機能を相補しているためと考えられる。二重破壊株において生育に遅延が見られたことから、AIR1、2が細胞の増殖に関与する可能性があることが示唆された。(2)インターフェロン遺伝子で誘導されるヒトグリオーマ細胞のアポトーシスではTNF-aで誘導されるマウスL細胞のアポトーシスと比較し、アポトーシスの誘導される時間が極めて遅いこと、caspaseの多くが活性化されない点で違いが見られた。またannexin VとPIとの二重染色では細胞死の後半でアポトーシスともネクローシスとも判断しがたい、中間型が存在することがわかった。(3)サイトカインのうちTNF-aの抵抗性についてヒトグリオーマ細胞株を用いて検討した。TNF-a抵抗性株ではTNF-a添加により活性型NF-kB であるp50-p65ヘテロダイマーが誘導されるのに対し、感受性株ではp50ホモダイマーがTNF-aの有無に関わらず認められた。またヒトグリオーマ細胞株U251MGにドミナントネガティブp65遺伝子を導入したU-251MG-pINDは、その親株であるU-251MGと同様TNF-aに抵抗性を示したが、エクダイソンを添加しp65の発現を誘導すると、TNF-aに感受性を示すようになった。④リポソーム製剤の保存:凍結乾燥製剤の調製に成功した。またこの凍結乾燥製剤は従来用いていた液剤との同等性がメラノーマ細胞を移植した担癌マウスのモデルで確認された。この技術はリポソーム製剤の汎用性を高める重要な技術と考えられた。
課題2:単鎖抗体の作製方法を確立するために、尿素処理後に単鎖抗体の(His)6Tagを利用して精製を行い、更にrapid dilution法によるrefoldingを行うことにより、検査に使用できる抗体の精製が可能となった。得られた抗体により、ELISA法、MHA法、免役染色により単鎖抗体の反応性を元抗体と比較したところ、ほぼ同様の反応特異性が観察された。
課題3:悪性脳腫瘍に対する遺伝子治療臨床研究を開始するため、昨年4月に臨床研究プロトコールを文部省及び厚生省に申請し、平成12年1月に両省庁から実施計画の承認を得た。これを受けて遺伝子治療臨床研究の本格実施に向け、学内施設及び体制作りを開始し、平成12年4月3日実施した。
結論
以上のことから本研究事業で開発された遺伝子治療用DNA製剤(プラスミド包埋リポソーム製剤)は臨床研究に十分耐えうるものと考えられた。また凍結乾燥製剤はリポソーム製剤の汎用性を高める技術と考えられた。またリコンビナントsFv抗体や発現調節機構を組込んだプラスミドあるいは人工染色体を利用することで汎用性が高まることが証明された。平成12年4月3日、悪性脳腫瘍に対する遺伝子治療臨床研究をスタートした。

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